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元婚約者は幸せそう
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「やぁ、君がアマリル嬢だね? はじめまして。フランからいつも聞いているよ。噂に違わぬ美しさだね」
「もったいなきお言葉をありがとうございます、ステファン王子。こちらこそ、フラン様ととても親しくしてくださっていると伺っておりますわ。今後とも、よろしくお願いいたします」
“わざわざマップを作ってくれたアマリルにお礼を言いたい”と言うステファンを連れて、お祭りの時期に帰国した。毎年、お祭りの日には、アマリルに花を贈っていたが、この年は何も贈らなかった。
ステファンとの挨拶を終え、アマリルと二人きりになった時、アマリルは話題に困ったのかステファンのことを話してきた。
「ふふっ、フラン様とステファン様は、とても仲良しでいらっしゃるのですね。ステファン様もとても美しいお顔立ちでいらっしゃるから、お二人とも女性に追いかけられていらっしゃいそうですわ」
「うるさい! アマリルは俺の婚約者だろ! ステファンをそんなに褒めるな」
「大変申し訳ございません。フラン様」
きちんと聞けば、モテない俺までも心配していてくれていたとわかる、アマリルの言葉だ。しかし、自分の婚約者から発せられるステファンへの褒め言葉と感じてしまった。自分はリーシャと親しくしているのに。また、俺とリーシャの関係の釘差しのように感じて、イライラしてしまった。
そこから、アマリルは今まで以上に、一歩引いて過ごすようになっていった。その姿をリーシャと比較して、またイライラしてしまった。アマリルは、俺の婚約者として相応しく振る舞っていてくれただけだったのに。
「アマリルももっと、活発に動け。スカートくらい捲ったって構わないだろう」
「しかし、フラン様」
「俺の言うことが聞けぬか?」
「フラン様の名誉を守るためでございます」
「この国は遅れている。カルスターのように女性も堂々と過ごせば良いのに」
実際、我が国の女性の立場は低すぎた。そんな低い状態でアマリルが突然女性らしさを捨てたら、ただ批判されるだけであっただろう。アマリルはそれも俺の主張も理解していて、時間をかけてでも、女性の立場回復を目指すべきという立場をとっていたが、俺は全てを無視して行動させようとしていた。それほどカルスターに魅了されていた。いや、リーシャに魅了されていたのかもしれない。
「そうだ、我が国に来たお土産として、リーシャにこれを贈ろう」
「フラン! 婚約者でもない女性に対して、そんな高価なアクセサリーは良くないだろう? そもそも、婚約者であるアマリル嬢に贈るべきだろう?」
「おい、アマリル。俺の友人関係に文句があるか?」
「いいえ、フラン様の大切なご友人に、我が国の自慢の宝飾品を贈ることは私も賛成ですわ。私は今までフラン様がたくさん贈ってくださった花々がありますから、問題ありませんわ」
俺は、微笑むアマリルの顔をよく見ていただろうか? アマリルの言葉を聞いて、目を瞑って頭を抱えたステファンの言葉は、どれだけ正しかっただろうか。
そして、ついに、あの日を迎えた。
あのときの俺の唯一のよかったところは、公衆の面前でなく、自室で実行に移したところだろうか。
「アマリル。君との婚約を破棄する。君のような内気で趣味も暗く、つまらない女性との結婚生活は想像するだけで耐えられない。カルーラ子爵家と養子縁組して、我が国の子爵令嬢となるリーシャと婚約を結び直す」
「……かしこまりました、フラン様」
「こんなときまで素直でつまらない女だな」
「私が何を言ったところで、フラン様のお心には届きませんわ。アマリルは、フラン様のお幸せを祈っております」
そう言って笑ったアマリルの目から涙が一筋溢れるのを、俺は初めて見た。
思わず目を見開いた俺に、リーシャが腕を絡ませながら、話しかけてきた。
「ねぇ、フラン。私、早くフランのお嫁さんになりたーい!」
「あぁ、リーシャ。リーシャも無事に子爵令嬢となった。早く婚約を結ぼう」
涙を流したアマリルの目の前で、俺はリーシャといちゃついていた。一粒の涙をこぼした後のアマリルは、一切泣くことなく、微笑みを浮かべて退出していった。
「大馬鹿者! アマリル嬢のご実家、フラ公爵家がどれだけ支援してくれていたのか理解していないのか?」
「しかし、父上! 俺はリーシャと結婚したいんです!」
「全く……どうしてこうなってしまったのかしら」
「母上!」
「仕方ない、カルーラ子爵夫人を拘束せよ。処罰する」
「なにをするのですか、父上! リーシャの養母でいらっしゃるんですよ!」
「あぁ、そして、アマリル嬢を貶め、リーシャという少女をお前にけしかけて、無事婚約破棄させた。そして、リーシャという少女の叔母の立場を利用して、国を乗っ取ろうとした者だな」
「え?」
「はぁ。お前は何もわかっていなかったのか」
「ねぇ、フラン! 私、あのカバンとネックレスが欲しい! あと、ドレスも!」
「すまない。俺の財産ではそこまでは買えないのだ」
「えー! せっかく王子と結婚したのに!」
「いや、婚約だが……」
「一緒でしょ? あ、見て! あの人すっごくイケメンじゃない?」
「あ、あぁ……」
婚約してからのリーシャは、今まで以上にわがままになった。しかし、あの頃の俺はそんなリーシャも愛らしく感じていた。他の者を褒めることで、俺を妬かせようとしていると考え、余裕すらあった。本当は、リーシャは俺になんて興味はなかったのだ。
あの頃、リーシャの本性を見抜けていなかった俺は、アマリルの微笑みを思い出して過ごしている。
アマリルが涙をこぼした後、浮かべ続けていた微笑みを、俺は今日から、頑張って浮かべよう。
「本当、フランって、つまんない。もっと王子様らしくすればいいのに」
「フランって王子なのにケチだよね。それくらい買ってよ」
「フランの顔って華やかさに欠けるよね」
「このマナー、無駄じゃない? なんでこんなこと覚えないといけないの?」
「フラン様、こんな素敵なお花をありがとうございます」
「フラン様は素敵ですから、アマリルは心配ですわ」
「フラン様に負けないように、アマリルも頑張ってお勉強いたしますわ」
「国民のためにお金は使ってくださいませ。私のためには、たくさん贈ってくださったお花があるではないですか」
「ステファン王子とアマリル嬢の結婚式にご出席くださり、誠にありがとうございます」
わぁ! と上がる歓声に、俺も微笑みを浮かべて拍手する。アマリルはこんな気持ちだったのかな、とアマリルの気持ちを想像する。
あれから、俺に傷つけられたアマリルをステファンは必死に支えたようだ。
ステファンが根回ししたおかげで、アマリルの社交界での評判は取り戻された。
何もしなかった俺と違って、ステファンは完璧にアマリルのフォローもしている。
花咲いたように笑う彼女は、俺が一番好きな姿だ。
俺は、ステファンの友人としてこの式に出席している。俺が出席しても気にならないほど、アマリルは俺への想いを忘れ去ったのだろう。
「その、アマリル。すまなかった。おめでとう」
「まぁ、フラン王子。ありがとうございます。フラン王子こそ、来月はリーシャ様と結婚式を挙げられるそうで、おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
俺を愛すことなく、王子と結婚したいと言う夢を叶えるために動いたリーシャと、俺は結婚する。
リーシャが早く結婚したいと言うから、籍はもう入っている。王族としては異例のことだが、あのときは、リーシャの俺への想いが嬉しかったのだ。
“王子と結婚する”というリーシャの夢は叶うが、アマリルとの話を知っている全国民や父上母上のいる、我が国に嫁ぐことは、リーシャにとってどれだけ大変なことか、彼女もまた、わかっていないのだろう。
俺が、アマリルとリーシャを比較しアマリルを傷つけたように、リーシャも前婚約者のアマリルと比較されるのだろう。
もちろん、俺も全国民から冷たい目で見られている。アマリルを捨て、リーシャのような、国民にとっては、迷惑な女性と結婚するのだ。リーシャを抑えきれなければ、一瞬で王子の座は奪われるだろう。今はまだ王子でいることができるのは、俺以外の王位継承者がいないからだ。母上にもうすぐ子供が生まれる。そうなると、俺はきっと廃嫡になるのだろう。
廃嫡されても、外交の際に、アマリルとステファン夫婦に会うことがあるだろう。そのとき、俺はずっとアマリルへの想いを抱えたまま、微笑みを浮かべ続けなければならない。
幸せそうに笑うアマリルの姿に嬉しく思いながらも、胸が痛む。
ステファンと口付けを交わし、照れたように笑い合うアマリルの姿を目に焼き付け、俺は国民の信頼を取り戻すために、全身全霊をかけて、我が国の様々な制度改革に取り組もう。
いつか、アマリルが“すごい”と言ってくれるような日が来るために。
「もったいなきお言葉をありがとうございます、ステファン王子。こちらこそ、フラン様ととても親しくしてくださっていると伺っておりますわ。今後とも、よろしくお願いいたします」
“わざわざマップを作ってくれたアマリルにお礼を言いたい”と言うステファンを連れて、お祭りの時期に帰国した。毎年、お祭りの日には、アマリルに花を贈っていたが、この年は何も贈らなかった。
ステファンとの挨拶を終え、アマリルと二人きりになった時、アマリルは話題に困ったのかステファンのことを話してきた。
「ふふっ、フラン様とステファン様は、とても仲良しでいらっしゃるのですね。ステファン様もとても美しいお顔立ちでいらっしゃるから、お二人とも女性に追いかけられていらっしゃいそうですわ」
「うるさい! アマリルは俺の婚約者だろ! ステファンをそんなに褒めるな」
「大変申し訳ございません。フラン様」
きちんと聞けば、モテない俺までも心配していてくれていたとわかる、アマリルの言葉だ。しかし、自分の婚約者から発せられるステファンへの褒め言葉と感じてしまった。自分はリーシャと親しくしているのに。また、俺とリーシャの関係の釘差しのように感じて、イライラしてしまった。
そこから、アマリルは今まで以上に、一歩引いて過ごすようになっていった。その姿をリーシャと比較して、またイライラしてしまった。アマリルは、俺の婚約者として相応しく振る舞っていてくれただけだったのに。
「アマリルももっと、活発に動け。スカートくらい捲ったって構わないだろう」
「しかし、フラン様」
「俺の言うことが聞けぬか?」
「フラン様の名誉を守るためでございます」
「この国は遅れている。カルスターのように女性も堂々と過ごせば良いのに」
実際、我が国の女性の立場は低すぎた。そんな低い状態でアマリルが突然女性らしさを捨てたら、ただ批判されるだけであっただろう。アマリルはそれも俺の主張も理解していて、時間をかけてでも、女性の立場回復を目指すべきという立場をとっていたが、俺は全てを無視して行動させようとしていた。それほどカルスターに魅了されていた。いや、リーシャに魅了されていたのかもしれない。
「そうだ、我が国に来たお土産として、リーシャにこれを贈ろう」
「フラン! 婚約者でもない女性に対して、そんな高価なアクセサリーは良くないだろう? そもそも、婚約者であるアマリル嬢に贈るべきだろう?」
「おい、アマリル。俺の友人関係に文句があるか?」
「いいえ、フラン様の大切なご友人に、我が国の自慢の宝飾品を贈ることは私も賛成ですわ。私は今までフラン様がたくさん贈ってくださった花々がありますから、問題ありませんわ」
俺は、微笑むアマリルの顔をよく見ていただろうか? アマリルの言葉を聞いて、目を瞑って頭を抱えたステファンの言葉は、どれだけ正しかっただろうか。
そして、ついに、あの日を迎えた。
あのときの俺の唯一のよかったところは、公衆の面前でなく、自室で実行に移したところだろうか。
「アマリル。君との婚約を破棄する。君のような内気で趣味も暗く、つまらない女性との結婚生活は想像するだけで耐えられない。カルーラ子爵家と養子縁組して、我が国の子爵令嬢となるリーシャと婚約を結び直す」
「……かしこまりました、フラン様」
「こんなときまで素直でつまらない女だな」
「私が何を言ったところで、フラン様のお心には届きませんわ。アマリルは、フラン様のお幸せを祈っております」
そう言って笑ったアマリルの目から涙が一筋溢れるのを、俺は初めて見た。
思わず目を見開いた俺に、リーシャが腕を絡ませながら、話しかけてきた。
「ねぇ、フラン。私、早くフランのお嫁さんになりたーい!」
「あぁ、リーシャ。リーシャも無事に子爵令嬢となった。早く婚約を結ぼう」
涙を流したアマリルの目の前で、俺はリーシャといちゃついていた。一粒の涙をこぼした後のアマリルは、一切泣くことなく、微笑みを浮かべて退出していった。
「大馬鹿者! アマリル嬢のご実家、フラ公爵家がどれだけ支援してくれていたのか理解していないのか?」
「しかし、父上! 俺はリーシャと結婚したいんです!」
「全く……どうしてこうなってしまったのかしら」
「母上!」
「仕方ない、カルーラ子爵夫人を拘束せよ。処罰する」
「なにをするのですか、父上! リーシャの養母でいらっしゃるんですよ!」
「あぁ、そして、アマリル嬢を貶め、リーシャという少女をお前にけしかけて、無事婚約破棄させた。そして、リーシャという少女の叔母の立場を利用して、国を乗っ取ろうとした者だな」
「え?」
「はぁ。お前は何もわかっていなかったのか」
「ねぇ、フラン! 私、あのカバンとネックレスが欲しい! あと、ドレスも!」
「すまない。俺の財産ではそこまでは買えないのだ」
「えー! せっかく王子と結婚したのに!」
「いや、婚約だが……」
「一緒でしょ? あ、見て! あの人すっごくイケメンじゃない?」
「あ、あぁ……」
婚約してからのリーシャは、今まで以上にわがままになった。しかし、あの頃の俺はそんなリーシャも愛らしく感じていた。他の者を褒めることで、俺を妬かせようとしていると考え、余裕すらあった。本当は、リーシャは俺になんて興味はなかったのだ。
あの頃、リーシャの本性を見抜けていなかった俺は、アマリルの微笑みを思い出して過ごしている。
アマリルが涙をこぼした後、浮かべ続けていた微笑みを、俺は今日から、頑張って浮かべよう。
「本当、フランって、つまんない。もっと王子様らしくすればいいのに」
「フランって王子なのにケチだよね。それくらい買ってよ」
「フランの顔って華やかさに欠けるよね」
「このマナー、無駄じゃない? なんでこんなこと覚えないといけないの?」
「フラン様、こんな素敵なお花をありがとうございます」
「フラン様は素敵ですから、アマリルは心配ですわ」
「フラン様に負けないように、アマリルも頑張ってお勉強いたしますわ」
「国民のためにお金は使ってくださいませ。私のためには、たくさん贈ってくださったお花があるではないですか」
「ステファン王子とアマリル嬢の結婚式にご出席くださり、誠にありがとうございます」
わぁ! と上がる歓声に、俺も微笑みを浮かべて拍手する。アマリルはこんな気持ちだったのかな、とアマリルの気持ちを想像する。
あれから、俺に傷つけられたアマリルをステファンは必死に支えたようだ。
ステファンが根回ししたおかげで、アマリルの社交界での評判は取り戻された。
何もしなかった俺と違って、ステファンは完璧にアマリルのフォローもしている。
花咲いたように笑う彼女は、俺が一番好きな姿だ。
俺は、ステファンの友人としてこの式に出席している。俺が出席しても気にならないほど、アマリルは俺への想いを忘れ去ったのだろう。
「その、アマリル。すまなかった。おめでとう」
「まぁ、フラン王子。ありがとうございます。フラン王子こそ、来月はリーシャ様と結婚式を挙げられるそうで、おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう」
俺を愛すことなく、王子と結婚したいと言う夢を叶えるために動いたリーシャと、俺は結婚する。
リーシャが早く結婚したいと言うから、籍はもう入っている。王族としては異例のことだが、あのときは、リーシャの俺への想いが嬉しかったのだ。
“王子と結婚する”というリーシャの夢は叶うが、アマリルとの話を知っている全国民や父上母上のいる、我が国に嫁ぐことは、リーシャにとってどれだけ大変なことか、彼女もまた、わかっていないのだろう。
俺が、アマリルとリーシャを比較しアマリルを傷つけたように、リーシャも前婚約者のアマリルと比較されるのだろう。
もちろん、俺も全国民から冷たい目で見られている。アマリルを捨て、リーシャのような、国民にとっては、迷惑な女性と結婚するのだ。リーシャを抑えきれなければ、一瞬で王子の座は奪われるだろう。今はまだ王子でいることができるのは、俺以外の王位継承者がいないからだ。母上にもうすぐ子供が生まれる。そうなると、俺はきっと廃嫡になるのだろう。
廃嫡されても、外交の際に、アマリルとステファン夫婦に会うことがあるだろう。そのとき、俺はずっとアマリルへの想いを抱えたまま、微笑みを浮かべ続けなければならない。
幸せそうに笑うアマリルの姿に嬉しく思いながらも、胸が痛む。
ステファンと口付けを交わし、照れたように笑い合うアマリルの姿を目に焼き付け、俺は国民の信頼を取り戻すために、全身全霊をかけて、我が国の様々な制度改革に取り組もう。
いつか、アマリルが“すごい”と言ってくれるような日が来るために。
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