天の龍 地の女神

常盤 舞子

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第38話 ソロモンの金環

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王都リーネリアにあるリーネ王族の王宮。
リーネ王の寝室の地下に3種の神器の保管庫として宝物庫がある。
リーザとブランドンは宝物庫の中に立っていた。

「・・・ありませんよね・・・」
「確かに・・・」
二人は部屋の中をぐるっと回って見渡した。
バルムンクの剣と宇宙龍の環の影も形も見えない。

「・・・ブランドン、リーデイルは混血児で私の異母兄だった」
「何ですって!?」
「父王や、母、私をかなり恨んでいたよ。そして、戦闘集団アルカナの「魔術師」。奴は様々な能力を持っていた。
我々のように、瞬間移動や念動力、エネルギー弾を撃つこともできるし、次元を変えたり、幻影を見せたり独特の能力を持っているようだ。
どうやらリーネ族と魔族の混血児は、そういうものらしい」

「あの赤子たちも、そういうことですよね?」
「・・・そういうことだ。私の子供たちをアルカナとして利用しようとした。だから逃げてきた」
「・・・」
「魔族との融合政策など端から無理だったのだ。奴らは地上の覇権を奪いたいがために、我々リーネ族の3種の神器を狙っている。
宇宙龍の環はあらゆる願いを叶える。私が願うのを拒絶すれば、私の子に宇宙龍の環を使わせる気だ。そんなことはさせない!」

「宇宙龍の環の使用は危険です。結界をはるなど何度も使われた用途なら安全性の確認ができているから良いのですが」
「そうだ。宇宙龍の環はおいそれと使えない。
・・・全ての願いを叶えるというが、もし神々の意思に背く願いであれば、願いと引き換えに所有者の命を奪う。魔族を地上に上げる願いは神々の意思に添うものだと思うか」
「思いませんよ。神々の戦いに敗れ地下に追いやられた魔族を地上に上げるという願いは無理です」

「仮に私が命がけで宇宙龍の環に願いをかけるとして、魔族をどういう形で地上に上げるかが問題になる。
魔族の王族は神々の後胤だから、我々と変わらないと思う。
だが、多種多様な他の魔族の住人たちをそのまま地上に上げれば大混乱だ。
成熟していない人間たちは悪の道に誘われ堕落し、ソドムとゴモラの町のように滅ぼさねばならなくなる 」
「あるいは、大洪水を起こして全ての汚濁を水に流す・・・か」

過去に何度かリーネ族の監視の目をすり抜けて地上にちょっかいを出していた魔族がいた。
魔族の中でも知性が劣り本能のままに行動する種族であった彼らは、人間たちを唆し、地上を大混乱に陥れたので、堕落した人間たち共々、宇宙龍の環で滅ぼされた。
背徳の町、ソドムとゴモラは、天の火で焼かれたし、地上の全てが大洪水で洗い流された時もあった。

リーネ族は神々の地上代行者である。
人間を頂点とした生態系の管理を行っており、鋭い牙も爪も持たない最弱の人間を導き守ることを使命としていた。
力を持たぬ人間がやがて科学を発展させ、夢のような快適な生活を営むことになることをリーザとブランドンはこの時まだ知りようもなかった。

リーザはソロモンの指輪に触った。
金のリングの真ん中を四角形の様々な模様が浮き彫り状の輪になっており、指でくるくると動かすことができる。
指輪の正面に合わせた四角形によって、ソロモンの指輪は様々な力を発揮する。
どんな種族とも話せる力、気配を消せる力、指輪の複製を作る力、そして次元を変える力。

リーザは浮き彫りを指で押し下げ、目当ての四角形を正面に合わせた。
宝物庫の中央が一瞬、ぐにゃりと揺らいだかと思うと、ソロモンの金環に覆われ、台座に置かれたバルムンクの剣と宇宙龍の環が現れた。
「リーザ様・・・!これは・・・」

「リーデイルはこの部屋の次元を変えて、あたかも神器が盗まれたかのように装った。しかし、神器はずっこここにあったのだ。まったく人を食った話だ」
リーザはソロモンの指輪でソロモンの金環をはじき、バルムンクの剣を手に取った。

「ブランドンはバルムンクを見るのは初めてか?」
「初めてです。柄の青い宝石は見事なくらい真っ青ですね。刀身が丸出しですが、剣のさやは?」
「バルムンクの剣は我が体が鞘」
リーザは剣を刀身から左手のひらに沈めていった。

「リーネ族なら誰でも使える。ブランドン、おまえも使えるぞ。体を鞘にするのは王族以外は無理だが」
リーザは宇宙龍の環を手に取った。

「宇宙龍の環の所有者になるには、北の島にある神殿でリーネ王として戴冠式を行う必要がある。リーネ族の今の王は?」
「リージェント様の甥でリーガロン様がたっておられます」
「北の大地の集落に戻ろう」
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