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第三章 千隼とグランドマスター

理不尽

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「はあ!?あんた何、それでのこのこと帰ってきたわけ?それでも男なの!」

「いやお前、そうは言うけどな?あれで揉めたりしたら、俺ら以外の自由同盟のギルドメンバーに迷惑掛かるかもしれんだろうが」

 俺たちが深淵しんえんの森で、シャイニングナイトの奴らから不快な気持ちにさせられたその日の夜、俺は大学から帰ってきた姉貴に一部始終を話した。

 俺の話を聞いたうちのお姉様は怒り心頭で、その矛先はシャイニングナイトの奴らに何の抗議もしなかった俺にも向けられていた。

「じゃあ、大人しく引っ込んでたら、そいつら何もしてこないって言えるの?」

「いや、それは断言はできないけどさ・・・」

「そういう時にビシッ!と言わないから調子に乗るんじゃない!そこの所わかってんの?」

 ビシッと俺に指をさしながら、里奈は俺にそう迫ってくる。

 ダメだ。口では勝てそうにねえ。どう考えても俺の方が正論だとは思うんだが、なんかだんだん、里奈の言う事の方に理があるような気がしてくる。

 大体、波風立てない方向で行くって決めたのは千隼ちはやさんなんだ!って言ったら、

「千隼はいいのよ。ちゃんと考えがあるんだろうから!」

 とか言いやがった。

 俺だって色々考えとるわ!とか反論すると、また話が長くなりそうなので、それは心の中にしまっとく事にした。くそー理不尽だぜ。

「まあ、それはともかくだ」

 俺は形成が完全に不利な状況を立て直すために、あえて今後の対処について話題をすり替えることにした。

 このままだとゲーム内での俺のレベルの低さとか、挙句の果てには、私生活に対するあいつの小言が始まりかねない。

「今日か明日にでも、シャイニングナイトのマスターとグラマンに、千隼さんが抗議しとくって言ってたから」

「それでどうにかなればいいけどね」

 里奈の奴、団長と同じよう事言い出しやがった。

「どういう意味だよ?」

「どうもこうも、そのままの意味よ」

 そう言って、里奈は話は終わったとばかりに、俺に部屋を出て行けと手をしっしと振る。

 むう、里奈に話すことによってちっとはすっきりするかと思ったが、結局余計にフラストレーションが貯まってしまった。こんな事なら無理して話さなきゃよかった。


 そして次の日、ゲームにログインした俺は,、グランドマスターこと「グラマン」に呼び出されていた。たぶん、昨日の同じギルドの奴らの事について話すためだと思う。

 指定された場所に行くとグラマンが腕組みのポーズを決めて、誰も居ない森の真ん中に突っ立っていた。こいつ、人が居なくてもこんな事やってんの?ある意味尊敬するわ。

「よ、グラマン」

「来たか、黒を征する者よ!」

「お前、それを言うなって言ってるだろうが!」

「なぜだ?とても良い名前の由来ではないか」

 ああもういいや。とっとと本題に入ろう・・・とか思ってたら、

「昨日はすまなかった!」

 と、グラマンの方から先に謝ってきた。たぶん千隼さんから聞いたんだろう。

「実は昨日、千隼殿からメッセージが届いて、それで今日こうしてお前を呼び出したのだ」

「ああ、まあでも、グラマンがやったわけじゃないからな。」

「しかし、同じギルドに居る者として、恥ずかしい限りだ・・・」

 そう言うと、再び申し訳ないとグラマンは謝ってくる。

「まあ、あれだろ?ギルドマスターとかにも伝わってるんだろ?団長も抗議するって言ってたしな」

 さっきギルドメンバーに話を聞いたら、昨日のうちに向こうの幹部に正式に抗議したらしいよって話も聞いたしな。

「いや、たぶんマスターまでその話は通って無いと思う」

「へ?なんで?」

「うちのような巨大なギルドになると、マスターでは無く幹部が色んなトラブルを含む事案に対処する事になっている」

 つまりどういう事かって言うと、あまりにギルドメンバーの人数が多いので、ギルドマスターでなければ対処出来ない問題以外は、マスターに指名された複数の幹部が問題解決に臨むらしい。

「じゃあ、その幹部の人が対処してくれるんじゃねーの?」

「いや、恐らく、何の対処もしないだろう」

「はあ?」

「シャイニングナイトのマスターは、強ければ素行に多少の問題があっても構わないというスタイルだ。だから、問題を起こした奴が戦力として重要、または将来性があると判断されれば、何のペナルティーも課せられない可能性が高い」

「いやいや、ありえないだろそんなの」

「うちではありえる話なのだ」

 なんだよそれ・・・。そんな非常識かつ理不尽なことがまかり通っていいのかよ。

「とりあえず、もうあの狩場には近寄らない方が良いだろう。余計なトラブルに巻き込まれるだけだからな」

 俺は、グラマンが極めて真面目にそう語るのを見ながら、パソコンの前でため息をついていた。
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