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7 一発屋の従魔に嫉妬します。

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 傭兵団の探索となりますと従魔達には不向きです。
 魔法で変装して傭兵ギルドに白黒傭兵団に指名依頼交渉を依頼しますが、聞いた事のない名前と言われました。他のお勧め営業を断って一応探してもらいます。
 違う変装して冒険者ギルドにも同様に依頼します。
 個人やパーティー規模までならともかく、移動コスト等の関係で傭兵ギルドは冒険者ギルドより地域性が高いのです。
 単にギルドと言えば冒険者ギルドを指すくらい国際規模組織なのです。組織としては中立を謳い各国政体とは影響力がないどころか煙たがり合う関係が多いようですが。
 でも妙です。ゲーム知識ではモブではない程度に「いましたね、そんな名前の傭兵団」くらいには憶えているのです。
 時期か地方の問題でしょうか?


 試にストレージに最初からあったアレの内、M1126ストライカー装甲車というのを1両出してユーシアに見せてみます。
 米軍の8輪の兵員輸送車両のようです。『誰か』はどうやって20両も調達したのでしょうか?20両もどう使えと?
 ユーシアは興味津々で興奮気味です。
「魔導文明の遺産に似た物はあるし、今でも趣味の範囲で制作された模倣複製した劣化物デッドコピーは見かけたら『話に聞いてたけど初めて見た』が普通の反応ですね」との事です。
「使っても大丈夫そうですね」
「研究解析用に1つ売ってくれない?」
「売れませんが研究解析用なら、弾抜きでよければ貸し出すのはいいですよ」
 驚いたのは少し分解したりしたりして復活魔法のリヴァイヴを試したら復活しました。
 …燃料も弾薬も。欠損か消耗と判定されるのでしょうか? 
 この事実はわたし一人の胸の中に仕舞っておきます。
 キュアやヒール系は効果がありませんでした。
 わたしも無機物に使えるとは思っていませんでしたが、装甲車を見て気紛れに試しただけなのです。

 リヴァイヴはほんの一握りの魔法使いしか使えない、ハイヒューマンでもみんなが使える魔法ではありません。
 MP負担も3回連続使えるヒューマンはいないくらい負担の大きい魔法なので、気紛れに試せるのはチートなわたし達くらなのです。
 なので最悪、壊されても大丈夫ですから、わたしが後始末できる範囲内の勢力に貸し出して技術を吸収してもらうのは、わたしにも意味があるのです。


 冒険者ギルドから未確認ではあるとの前提での情報が入りました。
 ストライカー装甲車も使ってみましょうかと呟いてしまいました。
「私も付いて行きたい」と目を輝かせるユーシア。
「…仕方がありませんね。私がラーグスリーグに残りましょうか」
 その場にいたエイプリルが苦笑しました。


 ガエリオス王国からダイスビル帝国を抜けてヴァンムジン帝国へ。
 ダイスビル帝国とガエリオス王国は国交がありましたがレイブギンがガエリオスを落してからも「検討しましょう。お互い宣戦布告は控えましょう」の状態だそうです。
 なにせレイブギンは未だ政体すら確定していない「レイブギン勢力」の状態です。
 イリーシャもセレナも頑張っているようですが、本職の政治家ではありませんし身を引きたがるので、貴族の大半が粛清された暫定議会は紛糾に次ぐ紛糾。
 暫定国王はどんどん痩せ細り体調を崩して倒れる事もあるので暫定国王代理・副代理まで用意して暫定次席も用意しましょうか?という状態です。
 連勝しているので軍閥が強いかといえば、実働戦力2トップが消極的でむしろ抑えに回ります。
 事実上の軍事国家なのですから、当面は取り繕うのはやめて軍事政権で良いのでは?とも思いますが。
「せっかく国内が明るい空気なのだから、根本的に変わるチャンスを逃したくない」
 議会や運営はソコだけは口を揃えるそうです。みんな真面目ですね。
 民主主義の概念はありますが、選挙を実現する為の教育水準と公示放送能力がガースギースでは話にならない水準なのです。
 過去に民主主義を謳った国は、議員という名の貴族が私利私欲の限りを尽くして、外国に経済的に食い荒らされて自滅したそうです。
 あれなら誇りを多少でも持っている血統貴族の方がマシ、と平民ですら噂されたくらい酷い末路だったそうです。
 対してダイスビル帝国は強大なヴァンムジン帝国と広範囲隣接して常にどこかしらで突き合う交戦状態の為、格下のガエリオス王国や他に隣接する4国とまでは多面戦争までする余裕もメリットもありません。内南のガルム連合国とは静的交戦状態ですが。
 ガエリオス王国も代替わりして若い国王の権力が貴族に削られている最中で,「城内で武器を使わない内乱」が忙しくて、多少不利でも国交・交易してくれるなら権力の為の手札になる、くらいにしか思っていない状態だったそうです。

 そんな事情なのでヴァンムジン帝国への国境まではギルドカードで普通に来ることができました。
 不正ではないですが、交戦国への国境越えなので先行させた従魔達視界での空間接続での侵入で冒険者ギルド近くへ。
 ユーシアと二人して魔法で変装して、またわたしのギルドカードを偽名で作ります。
 2枚目を作るのは不正ではないのです。
 平兵士の年棒くらいの担保金が余計に必要なだけで。
 仮カードなら一日の生活費程度ですが、発行した街周辺でしか役に立ちませんし、3日間だけ討伐記録を残すだけのかなり劣ったものになります。
 犯罪などでギルドカードが汚れても担保金を諦めて2枚目を作るのは偶にあることなのだそうです。
 次に傭兵ギルドで白黒傭兵団と指名依頼の交渉がしたい旨と伝えます。
 知らないとは言われませんでしたが、返事を待つだけで最低2日から2ヶ月は覚悟しろとの事。
 現在の位置や距離も依頼主の軍事機密になるので、曖昧にしか答えられないのです。
「傭兵団は事務方を街に残したりしないのですか?」
「うーん、残した所で結局、曖昧にしか答えられないんじゃない?どれだけ損耗して帰って来るかも分からないし、通信できても結局それも機密でしょ?」
「それもそうですね。
 後は地道に従魔達に調査してもらうしかありませんね」
「それは地道とは言えません。ズルです。
 どれだけ魔力をダダ漏れ使いしてるの?あたしでも常時雀3羽使ったら1日も保ないよ?あ…今ならもう少しいけるかな…?
 あと冒険者ギルドの方で情報を買うのはどう?」
 従魔達と使い魔は暇なら狩りをしたり自前で飲食しますが、基本はわたしの魔力だけで生きていくのです。なのでチート魔力はズルです。
「ギルドは軍事機密を売ったりするのですか?」
「傭兵ギルドは行方を斡旋したら確定で知っているし、知っているかどうかも傭兵と国や依頼主との契約で守秘義務とか義理で話せないでしょう?
 冒険者ギルドが傭兵を斡旋した場合は別でしょうけど、冒険者ギルドは基本は知らないし誰某がどこかで見かけた、くらいの情報は売るでしょ」
「なるほどです」

「じゃあ、探していた者がいる事の口止め料込みでいくら?」
「そこは込みでいいよ」
 冒険者ギルドで、またしても未確認ではあるとの前提での目撃情報を入手しました。
 従魔達を先行させる、もはや基本の布陣で国境にストライカー装甲車M-1126を向けます。

「甲魔獣を発見しましたオーガ種でしょうか…乗従甲魔獣です!メニュースクリーンにシンクロさせますね」
 運転にチャレンジしていましたユーシアが装甲車の巨体695㎝×272㎝を森に乗り入れて木を躱して目立たない所でエンジンを切ります。
「どう?もうジュライより上手くなってない?」
「わたしも無免許の初心者ですよ?」
「私は透視スキル使わないと難しいけどね。
 それにしても魔力探知されないのは便利よね」
「わたしはできますね。魔法探知ですが」
「うそ、小動物より探知しにくいわよ?」
「それにうるさいのでサイレントの魔法のおかげでもあります。
 …動きませんね。本隊を見失って孤立して動けないのでしょうか?」
「先刻迂回して追い抜いたのが多分本隊でしょうから、すぐ追付かれるね。
 行ってみようか?」
 監視に貼り付けた雀従魔達によると何か探しているのは間違いありません。
「そうですね」
 車外に出て隠密セットのスキルを使いつつ忍び寄ります。

「これは…」
 5m近い、オーガ種とも呼べないでしょう。
「…中の人、死んでない? 
 乗従甲魔獣は麻痺状態でHPは分かるけど、中からHPが感じられませんよ?」
 乗従甲魔獣自体は自律して立っていますが動きません。
「そうですね。死体の気配もします。
 色んな意味で貴重なサンプルです。鹵獲です。持って帰りましょう」
「本隊はいいの?」。
「空間接続はわたしが開くのでユーシアは持って帰って下さい。
 わたしは盗聴・監視を続けま続けます」
「空間接続は今なら自力で往復できますよ」
「じゃあ御願いします」
「すぐ戻りますから[空間接続]」
 ユーシアが大きめに開いた穴に乗従甲魔獣を担いで飛び込みます。
「焦らずゆっくりでいいですよ」
 …さて。
 勇者さんだか主人公さんだか分かりませんが、ゲーム・・・を進めてくれている様です。


「何で一番まずいのが孤立したんだ?暴走か?」
「いえ、随伴4体の方が敵ハイヒューマンと相打ちになったらしいです」
 へえ、ハイヒューマンと戦えるまでになったのですね.。
 わたしは隠密セットのスキル、インジビリティ・気配カット・探知スキルカット・サイレントを使って、槍を背負った隊長格らしい人の傍で同行しています。
 百人くらいの捜索隊ですが、ハイヒューマンもこの隊長格らしい人と同じような槍を背負ったもう一人います。
 Lv132と121。ちょっとした国の侵攻軍並みかもしれません。
「クライアントが背後にいる事は絶対に知られるな、が最優先オーダーですから我々が捕まるわけにもいきません」
 このガースギースには口を割らせる方法は、いくらでもありますものね。
 その後も益体もない話か同じ愚痴ぼやきを繰り返します。
 …諜報・偵察って根気なのですね。
 サビ、雀さん達今までこんな苦行と知らずこき使ってごめんね。今からも御願いします。
 わたしはそっと離れて、濃くした魔力を振舞って労いました。
 従魔さん達だって隠密セットくらい使うのです。
 雀でもずっと付いて来たら怪しいですから。


「おい、偵察に行く。クライアントん所だ。
 帰りは俺が開くから行はお前が開け」
 日が暮れてもう無駄と、引き揚げ始めた時です。
 通信で報告したらしい直後、興味深い発言をしました。
「何か言われました?」
「いいや、いつも通りと言えばいつも通りだったがな。
 俺ならそろそろ切り時と考える。杞憂ならいいが行っておこう」
「…了解。[空間接続]」
 わたしも慌ててサビと雀さん達を飛び込ませます。


 視界には豪邸…宮殿?
 マップを確認しますと、まだほとんど塗り潰せていない場所です。
 ガエリオスとラーシアシス教国に東西を広く挟まれ、南北をエトファムとダイスビル帝国に挟まれた場所。
 …ディムディス王国でしたっけ?
 おや、他所様のツバメの使い魔もいますね。
 ツバメのターゲットは白黒の様です。空間接続を魔力感知されたのでしょうか?
 隠密セットのおかげで向こうが気付かないで一方的に有利なので放置です。
「ダイスビルのハイヒューマンを撃破したそうですが、オーガ種試験乗従甲魔獣4体全てを殺され、最新の試験乗従甲魔獣が行方不明だそうです」
「…殺されたならともかく、行方不明か…」
「どうされます?」
「…まだまだ、ハイヒューマンを撃破できる事が実証できたのだ、もう少し使い出がある」
「ですが、彼等は切られ時を弁えているはずです」
「それならそれでまだ少しは稼げるのを分かっているだろうさ。
 追加を送ってやれ」


「その少しは安全と引き換えにできないよな」
 隠密セットで部屋の外に潜んで隊長格が相方に小声で相談します
 何で声に出すのですか?わたしとツバメさんに聞えますよ?
「どうします?今ヤりますか?追加をいただいてからとんずらしますか?」
「んー、正直、俺個人的にはアレ要らないがな。どう思う」
「無理してまで欲しくはないですが…」

 あれあれあれ、ちょっと予想外過ぎる急展開ですよ?
 わたし的にどうでしょうか?
 乗従甲魔獣の技術は育って欲しいですが、こいつらと白黒の決裂は時間の問題です。
 白黒に追加を渡してもリターンはないのですよね?
 今ある乗従甲魔獣が欲しいわけではなく、技術は育って欲しいのです。
 白黒に渡す線はなくなりました。
 ですが、わたしの癇に障るこの感覚は貴族です。こいつらクズ貴族の臭いがします。
 この臭いがする貴族が研究者であるはずがありません。
 資金提供者か、宮殿?を見る限り王族か王様で、国家プロジェクトの可能性もあります。
 傭兵にテスターをさせる意図なんて身内に敵がいるとか、根本的に後ろ暗いからいざという時、全部消すつもりとかくらいしか思い付きません。
 この臭いの下で技術が育ったら、方向性がわたしの思うモノと離れて行く気もします。
 白黒が今手を出すなら黙って見ていましょう。
 研究組織がまともなら、わたしが資金提供する方向もアリでしょう。
 いえ、むしろそうした方がわたしに都合がいいかもしれません。
 ああでも…ツバメさん。

 ギインッ!
 唐突に突進系スキルで突っ込んできた剣を不意を突かれた隊長格が槍で受け切れず肩を負傷。
 一緒に潜んでいた槍使いが槍を振いますが剣使い…二刀流使いは小太刀で受け流します。
 二刀流使いは想定内なのでしょう、自分の呼吸で飛び退き仕切り直します。
「何をしているのです?何者ですか?」
 女性の声が詰問します。
「いきなり斬りかかる奴のセリフか?」
 隊長格が再生させながら油断なく軽口です。
「誰だ!」「何事!」
 推定貴族2人が窓に寄って来ます。
「そこにスキルで潜んでいた推定ハイヒューマンを見かけましたので。
 応援も呼びました、間もなく2名到着します」
 女性…エルフです!…が落ち着いた佇まいで答えます。
 エルフがハイヒューマン2人にマトモに勝てるわけがありません。
 ハイエルフはガースギースに居ないのですから。エイプリルは除きます。
 …二刀流使いの女性エルフってだけで応援したくなります。エイプリルは除きます。
 でも推定クズ貴族側ですか…。
 ハイヒューマン2人が瞬殺かなと?思えばLv81エルフの言葉通りハイヒューマン2名がマップ表示されます。
 隊長格が慎重に再生を待っていたのが。裏目に出たのかもしれません。
「余計な事を!」
 推定クズ貴族が叫びますが…?
 エルフです。エルフですから、この国出身ではないでしょう。
 エルフが人間のクズ貴族の権威を尊重して従僕するかと言えばNOでしょう。
 そしてのこのこ顔をだした間抜け貴族を白黒ハイヒューマンが見逃すかと言えば。
 キィン!
 何か金属にでも当たったのでしょうか、軽やかな音を立てた隊長格の槍の一振りで間抜け貴族2人が瞬殺されました。
 離れたエルフは無表情でピクリとも動かず見送ります。
「やっちまった、こっちは2分ぐらいだ」
「…10分です。俺ですね」
 白黒は念話ができないのでしょうか?不明瞭な会話をします。
 多分、空間接続可能までの時間の話でしょう。
 エルフにとって致命的な時間でしょうが、白黒にとっても致命的な時間でしょう。
 応援が到着まで1分でという所でしょうか?
 …わたし的に微妙です。
 エルフさんはクズ貴族側ではなさそうですが、ここのハイヒューマンを二人も呼べる立場ですし、ハイヒューマン二人と知りながら不審者二人相手に時間稼ぎを敢行しました。
 白黒は加害者ですが、クライアントとのトラブルの被害者とも言えなくもないでしょう。 
 ですが契約とはいえ多分部下を騙して危険が分かっている乗従甲魔獣に乗せていたはずです。
 でないとあの仕事は成立しないでしょう。
 ああ、結局、二刀流使いの女性エルフってだけで良い風に見てしまいます。
 応援二人がどういった性質なのか分かりませんが、時間稼ぎぐらいは手伝っても良い事にしましょう。
 でもLv2のわたしはもちろん、防諜に目立たせる場面でもありません。
 レイも街に連れ歩いてるし…この際、天災に行ってもらいましょう。
 考えてる間に相方が突進スキルを放ちます、がエルフの姿が消えました、転移です。
 これがハイヒューマン二人相手に時間を稼ぐ切り札なのですね。
 でもやはり分が悪いですし、こんな時でもなければ出番がありませんし。

[召喚]甲魔竜。

 直径7mの召喚陣が地に輝きを放ちます。
 そして、腕を組んで力強く二足で仁王立ちのまま灰色の影が浮き上がってきます。
 緊張しながらも唖然と見続ける3人。
 完全に出現した瞬間、肩翼体高くらいの翼を広げて吠えます。
 GOGAAAA!
 体高5mの板装甲の様な甲殻で翼を含めた全身を包んだLv350竜種甲魔獣。
 …何、格好付けてるんだか?
 でも、存在するだけで時を止めます。羨ましいです。
 そして到着する応援二人。
 固まります。
 無理なのです。
 仮にLv500相当の修行をしていなくても、5人で全力でも、10人でも、無理なのです。
 パラメータは非情なのです。
 50レベルが100人いても100レベル1人に勝てません。
 ガースギースの住人はパラメータを知らなくても、それを知っているのです。
 客観的にはこの都市が廃墟になる10分前。超強力なブレスを何種類かと魔法も使います。
 まさに天災。
 あれ?こっちから手を出さないと動けない?
 どうしましょうか?誰に手を出しましょうか?
 ま、いっか。
 『甲魔竜、そのエルフ連れて逃げて』

 有無を言わせない速度と威圧でエルフを掴んで飛び去る姿を全員が呆然と見送ります。
 都市滅亡の危機は去りました。
 1人のエルフ女性を贄にして。
 …客観的には。
 気の抜けた4人もハイヒューマン対ハイヒューマンの原則に従い解散。
 白黒が儲けた形になりました。

 
 ラーグスリーグの森の中。
 甲魔竜は誇らしげに気絶したエルフをわたしの前に下します。
 そして腕組んで仁王立ち。
「あなた、もう使わないから」
 わたしの一言で、犬の様な「伏せ」をしました。
 だって、羨ましいのですよ…。

「…ここは?」
「おはようございます、フェブリーさん。ここは森の中です。
 マップは使えますね?」
「え、あ、はい」
「なら、隠しても意味はないですね。エトファムの森の中です。
 あと、健康状態も気になりましたので調べさせてもらいました」
「Lv2のあなたが?」
 鑑定系のスキルを使用したと気付けるのがガースギースの人です。
「Lv2にも色々あるのですよ。この場はセンス・ライさせて頂いています。
 先に注意しておきます。逃げなくても大丈夫ですからね?
 振り向いて下さい。あれが何か分かりますか?」
 実は有り余る魔力で恒常的にセンス・ライ状態ですが、嘘は通じませんと宣言しておく事は有意です。
 言われるまま振り向いて、伏せ状態の甲魔竜を見て固まるフェブリー。
「やっぱり、羨ましいのです・・・」
「あの時の…竜?」
 アウォーン。
 軽く頭を上げて犬の様に鳴く甲魔竜。
「伏せ、です」 
 ピクンと頭を下げます。
「ヒト並みの知性も知識もありますし、言葉も理解して念話なら会話できるのですけれど。
 …もしかして犬プレイが気に入りました?」
 首を横に振ってNOの意思表示しますが念話してきません。
 怪しいです。
「見ての通り、彼、甲魔竜はLv2のわたしの従魔です。
 ここからは貴女、フェブリーの事を教えて欲しいのです」

 
 フェブリーは二十歳にして限界とされるレベル81までになった冒険者で結構な有名人なのです。
 ギルドの依頼であのクズ貴族の調査を受けて期限までにそれなりの結果は出たので依頼不成立にはならなかったけれど決定的なものは出せませんでした。
 内容については勘弁して下さいといわれたのですが「まあ、乗従甲魔獣の件でしょうね」とカマをかけてみましたら「秘密です」と笑顔で答えてくれました。
 顔色などの感情の動きを鑑定していましたが確信は持てない感じでした。さすがです。
 でも関係ない部分でもクズ貴族らしい貴族らしさも多数見せられて、個人的に敵認定したのだそうです。
 だからと言って勝手に動けば今調査している者の邪魔になるので動けず、歯痒い思いをしていたそうです
 元々、宿も遠くないので空間接続と隠密セットに気付けてしまい、隠れて盗聴しているのがハイヒューマンである事も気付けてしまいました。
 ハイヒューマンが敵対しているなら時間の問題かもしれません。
 ですが聞こえてしまいました。
 手掛りが裏切って逃ようとしています。
 でもチャンスかもしれません。彼らは明らかな不法侵入者、不審者です。
 堂々と乗り込んで騒ぎを大きくすれば…。
 有名人故にパーティに入れてもらった事のあるハイヒューマンには、すでに応援を頼んでいますが、空間接続で来たのなら空間接続で逃走可能性が高いです。
 時間を稼がないと…。
「そこであのツバメさんに小石を落してもらって、作った隙を狙ってあの一撃ですね」
「え?あの…」
「フェブリーの使い魔ですね、あのツバメさん。
 あの空間接続でわたしの使い魔と従魔も隠密セットでこっそり付いて行ったんですよ。
 なのであのツバメさんが誰かの使い魔で白黒を監視しているのは気付いていましたよ?」
「従魔もって…?」
 フェブリーの視線が甲魔竜の方に向きます。
「いえ、別に雀従魔があの場に8羽ほど」
「8羽って、あの甲魔竜?もそうですけど、テイマー特化なの?」
「つい先日もズルだって言われましたね」
「甲魔竜が主って言われた方がまだ納得できるわ」
「ふむ、場合に因ってはそれで納得してもらうのも有りかもしれません…」
 ヴォン。
 甲魔竜がまた頭を下げます。
「でももう使いませんよ?その鳴き声、もう犬じゃないですか?」
 シュンといった感じがもう完全に犬プレイです。
「なんで従魔にもう使わない、なんて酷い事いうんですか?あんなに凄いのに」
「どこに使い所があります? 先刻も出てきただけで何もしていません。
 居るだけで都市機能が止まりそうになったのですよ?
 ズルいですよ、わたしなんて子供よりマシ扱いなのに」
「じゃあなんで従魔にしたの?」
「倒したら仲間になりたそうに見てた…から?」
 視線を向けると甲魔竜が頷きます。
「分りません。あなた達が分りません」
 フェブリーは頭を抱えます。
「確認なのですが、フェブリーは冒険者でクズ貴族をクズと思えるエルフなのですね?
 他のエルフに思う所はありますか?」
「クズはクズでしょ。エルフの国と集落集団は、気に入らない程度。
 離れて個人で生きるエルフには共感できると思うわ」
「無位無官ですが個人的に某国の人間に友誼で協力しているLv82のエルフに興味はありますか?」
「会ってみたいとは思うわね」
「暇な時は他の依頼を受けるのは可で長期依頼を受ける事に抵抗は?」
「依頼内容次第ね。
 基本的に前衛向きだから調査のような長期依頼に向かないわよ?」
「今回のは?」
「私は目立つし、向いた者でも今回のような場合、同じ顔が長期間周辺をうろつくのは気付かれるリスクが高いの。
 だから複数でずらして人員を入れ換える方針でやるのは普通よ? 
 私はその繋ぎ。飛燕…ツバメの使い魔がいるし、レベルは高いですからね」
 飛燕。そのままですが、和名の使い魔ですか。
 Lv2のセンス・ライと侮る事無く正直なのも好印象です。
「…会ってみますか?Lv82のエルフに」

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