12 / 13
4.リーフリールの森の住人。
権力・金力・破壊力?政治屋ではないのですが…。
しおりを挟む
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
古代遺跡は完全環境計画都市といっても軍事関連のようで1千人くらいの居住しか想定されていません。
フィクションや実際に計画されているアーコロジーより小規模で、更にドーム状の敷地の半分位は軍事施設のようで地下シェルター型基地を兼ねていたのでしょうか?
ここだけSFです。
ほとんどの機能は清潔に維持されていますが、人気も遺体の類は見当たりませんでした。
今も施設保全の為に稼働している数十機の小型魔導機がタンパク再生設備で処理したのでしょうか?
魔脈溜りができて急激に魔力圧が強くなって、対策が追い付かなくて放棄した可能性もありますね。
軍事関連なら放棄する時に破壊するような気もしますが、巨額を投じているはずですから再利用できる可能性を残すかも?
さすがに昔の保全タンパクは放棄させて補給しましたが、二・三人が引き籠るには十分です。
「完全環境計画都市でしたっけ?
この中だけで補給なしに生活できる古代都市ですか…。
インフィちゃんはここで生まれたの?」
「いいえ。
ここは後からわたしが発見して拠点にしている、マイスターとは関わりのない施設です」
「インフィに常識はないし通じないのは解っていたつもりだけど、この古代都市を一人でリーフリールの森の中を探索して見つけたの?」
「リーフリールの森の中だからこそ今まで手付かずで残っていただけですよ?
発見のヒントはゴーレムが見つけましたし、管理権限の掌握はファル姉様に手伝ってもらっていますよ?」
「でも、ここはインフィちゃんの個人資産ですよね?」
「いえ、リーフリールの森の自体マイスターの所有地のはずです」
「フィリル・カーラさんは亡くなっているのですよね?」
「はい、現在はメインシステムが維持管理者ですね」
「…魔導機に資産所有権はないと思うけど?」
「なら、インフィちゃんの個人資産ですよね?」
「何度でも言いますが、現在わたしにはメインシステムの維持管理機構に関して権限はありません。
メインシステムに資産所有権がないなら、誰でも好きにすれば良いのです」
「…確かに誰も好きにできませんけど…」
「そういう意味ではなく、本当に好きに…例えば誰かが別の維持管理システムを作るというなら、譲る事に躊躇いはありませんよね、ファル姉様?
引っ越しましょうか?」
「そうですね。
インフィがそう言うなら構いませんね。
マイスターが亡くなられて、私達には明確な使命がありませんし」
「それは暴論よ?
維持管理システムを作れる『誰か』なんて多分いないし、いたとしてもその『誰か』が今以上の公平性を保つなんて考え難いわね。
放置するより酷い事になるかもしれないわよ?
あとね…。
前から気になって推測はしてたし、子供に重責を押し付けるのはどうかと思うから聞かなかったし、今もそう思うから余所では黙っておくけど…。
…インフィに権限がないのは『現在は』でしょ?」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
わたしには地球の大人並の知識と、この世のエルフ少女並の知識があります。
フィのホムンクルスなので大人並以上の思考力・演算力・記憶力にファル姉様のサポートまであります。
精神が子供でも時間と経験が解決すると判断されたからこそ、唯一のメインシステムの最高権限者候補なのです。
覚醒から暫くは、幼いエルフの知識より地球の大人並の知識方が人格を支えていましたが、今となってはどちらも『記憶』ではなく『知識』でしかないように思えます。
少女の精神に引っ張られた気がする事もありましたが、実際に精神は少女なのかも知れません。
そもそも最初からマイスター=フィリル・カーラを創造主と抵抗なく受け入れてましたし、ファル姉様も自然に姉と思えました。
地球の知識も意図的なのでしょうか?。
召喚された勇者が日本人なのですから、接点を持つ方法はあるのでしょう。
カズヤに日本人として興味や共感がなかったり、日本人のメンタリティならあるべき忌避感が薄いのは、『日本人の知識とエルフ少女の知識を持った』この世のホムンクルスだからなのかもしれません。
そのせいかは分かりませんが、リーフリールの森のメインシステムの権限取得に前向きになれないのです。
メインシステムはともかく、ファル姉様の部分は妹にマイスターの後継になって欲しいそうですが、無理強いしても良い方向には進まないでしょうとの事。
…正直、面倒事の予感しかしません。
「大人になれば権力で駆け引きするのが楽しくなるのでしょうか?」
「お姉さんは大人のつもりだけど、それはないわね」
「年齢ではなく性格の問題なのでは?
私達はお金っていう、割と分かり易い権力は既に持っていますし」
二人も結晶封印を使えるようになったので、修業で得た素材で普通にお金持ちと言える資産を持っています。
クリリスさんにもオリハルコンゴーレムに濃緑のコーティングを施した深碧を貸してもいます。
「わたしも楽しくない性格なので、貸しを減らしてみるつもりはありませんか?」
「何かあった?」
「やっぱりあの日の殉職者は十万人を超えていたようですね。
その事もあってユール商会を通じてリーフリールの森の関係者の会議に出席を要請されているのです。
現在のわたしには権限も資格もありませんし、無視しても構わないのですが、多分わたしの容姿等が知れて舐められたのでしょう」
「子供に八つ当たりして生贄にしようって事ですか?!」
「馬っ鹿じゃないの?
ああそっか、そういえば、インフィの実力も質の悪さも敵に回す怖さも知らないのね」
「…インフィちゃん、怖いのですか?」
「…怖いよ?
お姉さんは絶対に敵に回さないし、クリリスも敵に回さないでね?
その時は見捨てるか、あたしもクリリスの敵に回るから。
それにしても十万人超えなのね。
戦神ジーナスの加護はなかったのかしらね?」
「私も一応はジーナス教会の女司祭神兵でしたけど、そんな無益な集団自殺に戦神様の加護はありませんよ」
「へえ、教会の女司祭神兵だったの?」
「熱心な信徒ではありませんが、ある程度の戦闘経験と加護を1回受けたら資格があるんで、緊急時の叙階で一応ですけど、破門されてなければ今も多分そうですね」
「医療ギルドなんかに参加して大丈夫なのですか?」
「別に神罰とか受けてないし、許されないような教会なら破門でも構いません。
それに私の事なんて誰も覚えてないんじゃないかな?」
「大体の教会ってギャラは出ないけどポンポン叙階するもんね。
教会から破門されたって、加護とか祝福には関係ないから滅多な事では破門できないのよ。
破門した人が加護とか祝福を受けたら面子が潰れるでしょ?」
「なんていい加減な…。
まあいいです。
話を戻しますと、わたしは会議に出席する気はありませんが、紅に出席させようと思うので通訳を御願いしようかと思うのです。
生贄にされる可能性まであるのですが、また舐めた事をするなら喧嘩して嘲笑ってやる機会でもあります。
御二人も出席を求められて捜索されているようですし、立場を理解させる好機でもあります」
「うーん、ゴーレムは武器扱いされて参加できないと思うよ?」
「となりますとディアーナさんも〈代理人〉ではなく勇者パーティ扱いされてしまいますか。
それなら無視しましょう」
「一度喧嘩して立場を理解させるのは賛成なんだけどね」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
とある城塞4Fの大会議室。
例の勇者召喚三国の一つの国境城塞です。
さすがに各国の代表者が集まる会議を密室で、というわけにもいなかったのでしょうか、窓はありませんが奥側一面はバルコニーに通じています。
ですがバルコニーを含めて魔術対策もされています。
城塞に入る前にボディチェックくらいはされるかと思っていましたが、ローブも鎧も着ずに軽装で非武装アピールのわたし達に魔術・魔導器探知の魔術をされただけでした。
わたし達三人が入室すると大会議室の扉を四人の騎士が塞ぎました。
大テーブルに三十人ほどの人達が着席していて、空いている席は三つ。
わたし達が最後の出席者のようです。
偉い人は後から来るものと思っていましたが、一人が起立します。
「ようこそ御出で下さいました、麗しい淑女方。
私がこの場の進行を仰せつかっております、この国の宰相のヒューア・デミトリスと申します」
四十歳代後半に見える男の、ワザとらしさを隠さない礼です。
「こちらの事は存じていらっしゃるでしょうから、自己紹介は省かせていただきます」
わたしの事は形式上の御飾りと思われていたのでしょうが、返礼もしない物言いに場がざわつきます。
「失礼ですよ!」
四十歳くらいの女性が一際高い声で叱責しますが、わたしは笑顔で答えます。
「わたしが礼を知らない田舎者である事は御承知かと思いますが?」
「…横の二人もです!教育がなっていません!」
今度は一歩後ろの左右で無表情に黙するディアーナさんとクリリスさんに食って掛かります。
「二人はわたしの補佐としてここにいます。
教育する立場でも指図する立場でもありません。
それから事前に御伝えしました通り、今からは記録して公開しますので発言に注意して下さい」
「…御嬢さんは少々無鉄砲が過ぎますな。
立場を弁えなさい」
「立場?
わたしは一体どのような立場なのですか?
確たる理由もなく、わざわざ呼び付けられた客のつもりですが?
わたしに何か非があるのでしょうか?」
「おい」
ヒューア氏は視線で騎士に指示してわたしの肩に剣を突き付けます。
横の二人はニヤニヤしても体は微動もしません。
「何の御積りですか?」
「立場を弁えろと言った」
威圧的に睨んだつもりのようですが迫力が足りません。
「ですから、わたしはどのような立場なのですかと問いました」
「無知な小娘は黙れ」
「無知な小娘をわざわざ会議に呼び付けておいて、剣を突き付けて黙れとは、程度が低過ぎて笑えますね。
あ、ひょっとして今の、本当にウケを狙った場面ですか?」
横の二人は失笑を隠せませんでした。
「痛い思いをしなければ無知は治らんな。
切れ」
騎士は躊躇いなくわたしの肩に添えた剣に力を籠めます…が薄皮すら傷は付きません。
部屋に魔術対策しても体内で発生させたシールド魔術は無効化できません。
「何をするのですか?服に当てたら傷むじゃないですか」
といってもリーフリール産の魔物素材なので切れたりはしませんが。
「何をしている!本気でやれ!」
ヒューア氏の指示に騎士は更に力を籠める為に剣を振り被りますが、迫る剣の腹を殴ると折れ飛んで、バルコニーを破壊します。
各国の代表者たちが驚愕しますがわたしには意味が分かりません。
「ええと、わたしがリーフリールの森の住人なのは知っていますよね?
これでどうにかできると思っているのなら、本気で舐め切っているとしか思えませんね」
これ以上は意味がなさそうなのでバルコニーから紅と蒼と深碧を突入させて残りの騎士達との間に立たせます。
「我々を人質にでもして脅迫するつもりか?」
「やっと立場を理解してきましたね。
わたし達がアウェイでも脅せる側で、貴方達がホームで脅される弱者の側なのです。
わたし達に人質が必要な状況に思えるなら、救いようのないお馬鹿さんですね。
ちゃんと理解できていますか?」
「…もう資金が届く事はなくなるぞ」
「お馬鹿さんは、まだそんな事を言っているのですか?
ユール商会さん、ちゃんと説明しているのですか?」
涼しい表情のユール商会の二人に問い質しますが、事前にこんな事態になる可能性を説明してあります。
「はい、何度も説明しておりますし、今皆さんの手元にある事前資料にも明記しています」
「資金が届こうが届くまいがわたしには関係ないのです。
わたしには権利も責任もありません。
記録して公開しますって宣言した事を覚えていますか?
このような魔導具の大型サイズのものを各国五十カ所で公開しています」
紅が持ち込んだ荷物からフィルム状モニターを広げます。
そこにはわたしや紅達の視界と聴覚を、ファル姉様経由で、わたしの顔が鮮明には映らないように工夫して映し出しています。
「こ、こんな…」
それ以上言葉が出ないらしく、重い沈黙が場を満たします。
「では、立場を弁えるのは誰でしょうか?」
そのまま誰も喋る事ができなくなり、程なくして無条件降伏せよとの伝令が届きましたが…。
「…わたし達に貴方達が無条件降伏すると何がどうなるのしょうか?」
また絶句して沈黙が場を満たします。
「普通は謝罪と賠償でしょうけどね…」
ディアーナさんが何か諦めたように口を開きます。
「賠償って何をですか?」
「普通は金銭だと思いますけど…?」
クリリスさんも疲れたように口を開きます。
「お金もこの人達の中身のない謝罪も要らないのですけれど?
それに、それじゃあ丸っ切りカツアゲじゃないですか。
意味もなく呼び付けられて来て、条件通りにしたのに悪役にされるのですか?
理不尽です。
どうせ悪役にされるなら憂さ晴らしにこの人達の拠点を一個ずつ潰しましょうか?
あ、ちゃんと生き物は避難させておいてくださいね?
徹底抗戦するならそれでも構いません。
これでもリーフリールの森の住人ですから遠慮は要りませんよ?
派手にやりましょう」
ハッタリです。
そんな面倒な事はしません。
「待て、俺はションサース帝国軍だぞ!
そんな事してみろ…」
顔を真っ赤にして怒鳴りますが最後まで言わせません。
「どうなるのですか?
面子にかけて殺しに来ますか?
わたし、今までもこれからもリーフリールの森の住人ですよ?
十万も犠牲者を出して十㎞も進めなかったのに?
馬鹿ですか?
そんなお馬鹿さんのトコは特別に大き目の城塞を2ヵ所潰してあげましょうか?
帝国って大きな国ですよね?
その方がそちらの士気も上がるでしょう?」
帝国の人は真っ赤な顔が蒼くなり、更に帝国の横の上司だか同僚だかの人に殴られて赤く腫れ上がりました。
わたし達の思惑通り、自分達の裁量では何も発言できないから、それぞれの国許で相談する時間が欲しい。
今日は散会させてくれとの事なので許可しました。
敵対して来なければこのまま無視する予定なのです。
来てもわたしの所まで辿り着けるとは思えませんけれど。
「そうそう、お馬鹿さんといえばヒューアさんのトコもですね。
帰り際に国境城塞の門をわたし達が出てから30分は差し上げますから、今からでも退避勧告を出しておいて下さい。
実行可能である事を証明しておく為に国境城塞を破壊します。
再建資金くらいは置いていきますので安心して下さい」
お馬鹿さんは倒れちゃいました。
でも見せしめは必要なのです。
城塞の門から百m離れた所で直径十mのシールド魔術を張って待ちます。
門前では反抗した騎士・兵士十数名と、後戻りできないお馬鹿さんが門を固めています。
「30分は経ちましたね。
では、3・2・1、[6重フルバーストインパクト]」
騎士・兵士を無視して背後の1㎞ほどの城壁の端から6重フルバーストインパクト斉射。
城壁の端から射線が見えない攻撃魔術の破壊が近付くのに怯えて、途中で居残り組も逃げ出しました。
これで心置きなく攻撃できますが、城壁と国境城塞は1分ほどで原型を想像できない瓦礫にしてしまいました。
遠巻きに見ていた人達も逃げ出しています。
…変ですね。
いくら効率が良い改良版といっても所詮は最下級の攻撃魔術がたった七・八千発くらいですよ?
「一応魔術対策もしていたみたいですが、仮にも国境城塞がこんなに脆いものなのでしょうか?
策略か罠なのでしょうか?」
「ないない、さすがに強力な三重結界魔術だったわよ?」
「世の中は理不尽を基準に作られていないのです」
古代遺跡は完全環境計画都市といっても軍事関連のようで1千人くらいの居住しか想定されていません。
フィクションや実際に計画されているアーコロジーより小規模で、更にドーム状の敷地の半分位は軍事施設のようで地下シェルター型基地を兼ねていたのでしょうか?
ここだけSFです。
ほとんどの機能は清潔に維持されていますが、人気も遺体の類は見当たりませんでした。
今も施設保全の為に稼働している数十機の小型魔導機がタンパク再生設備で処理したのでしょうか?
魔脈溜りができて急激に魔力圧が強くなって、対策が追い付かなくて放棄した可能性もありますね。
軍事関連なら放棄する時に破壊するような気もしますが、巨額を投じているはずですから再利用できる可能性を残すかも?
さすがに昔の保全タンパクは放棄させて補給しましたが、二・三人が引き籠るには十分です。
「完全環境計画都市でしたっけ?
この中だけで補給なしに生活できる古代都市ですか…。
インフィちゃんはここで生まれたの?」
「いいえ。
ここは後からわたしが発見して拠点にしている、マイスターとは関わりのない施設です」
「インフィに常識はないし通じないのは解っていたつもりだけど、この古代都市を一人でリーフリールの森の中を探索して見つけたの?」
「リーフリールの森の中だからこそ今まで手付かずで残っていただけですよ?
発見のヒントはゴーレムが見つけましたし、管理権限の掌握はファル姉様に手伝ってもらっていますよ?」
「でも、ここはインフィちゃんの個人資産ですよね?」
「いえ、リーフリールの森の自体マイスターの所有地のはずです」
「フィリル・カーラさんは亡くなっているのですよね?」
「はい、現在はメインシステムが維持管理者ですね」
「…魔導機に資産所有権はないと思うけど?」
「なら、インフィちゃんの個人資産ですよね?」
「何度でも言いますが、現在わたしにはメインシステムの維持管理機構に関して権限はありません。
メインシステムに資産所有権がないなら、誰でも好きにすれば良いのです」
「…確かに誰も好きにできませんけど…」
「そういう意味ではなく、本当に好きに…例えば誰かが別の維持管理システムを作るというなら、譲る事に躊躇いはありませんよね、ファル姉様?
引っ越しましょうか?」
「そうですね。
インフィがそう言うなら構いませんね。
マイスターが亡くなられて、私達には明確な使命がありませんし」
「それは暴論よ?
維持管理システムを作れる『誰か』なんて多分いないし、いたとしてもその『誰か』が今以上の公平性を保つなんて考え難いわね。
放置するより酷い事になるかもしれないわよ?
あとね…。
前から気になって推測はしてたし、子供に重責を押し付けるのはどうかと思うから聞かなかったし、今もそう思うから余所では黙っておくけど…。
…インフィに権限がないのは『現在は』でしょ?」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
わたしには地球の大人並の知識と、この世のエルフ少女並の知識があります。
フィのホムンクルスなので大人並以上の思考力・演算力・記憶力にファル姉様のサポートまであります。
精神が子供でも時間と経験が解決すると判断されたからこそ、唯一のメインシステムの最高権限者候補なのです。
覚醒から暫くは、幼いエルフの知識より地球の大人並の知識方が人格を支えていましたが、今となってはどちらも『記憶』ではなく『知識』でしかないように思えます。
少女の精神に引っ張られた気がする事もありましたが、実際に精神は少女なのかも知れません。
そもそも最初からマイスター=フィリル・カーラを創造主と抵抗なく受け入れてましたし、ファル姉様も自然に姉と思えました。
地球の知識も意図的なのでしょうか?。
召喚された勇者が日本人なのですから、接点を持つ方法はあるのでしょう。
カズヤに日本人として興味や共感がなかったり、日本人のメンタリティならあるべき忌避感が薄いのは、『日本人の知識とエルフ少女の知識を持った』この世のホムンクルスだからなのかもしれません。
そのせいかは分かりませんが、リーフリールの森のメインシステムの権限取得に前向きになれないのです。
メインシステムはともかく、ファル姉様の部分は妹にマイスターの後継になって欲しいそうですが、無理強いしても良い方向には進まないでしょうとの事。
…正直、面倒事の予感しかしません。
「大人になれば権力で駆け引きするのが楽しくなるのでしょうか?」
「お姉さんは大人のつもりだけど、それはないわね」
「年齢ではなく性格の問題なのでは?
私達はお金っていう、割と分かり易い権力は既に持っていますし」
二人も結晶封印を使えるようになったので、修業で得た素材で普通にお金持ちと言える資産を持っています。
クリリスさんにもオリハルコンゴーレムに濃緑のコーティングを施した深碧を貸してもいます。
「わたしも楽しくない性格なので、貸しを減らしてみるつもりはありませんか?」
「何かあった?」
「やっぱりあの日の殉職者は十万人を超えていたようですね。
その事もあってユール商会を通じてリーフリールの森の関係者の会議に出席を要請されているのです。
現在のわたしには権限も資格もありませんし、無視しても構わないのですが、多分わたしの容姿等が知れて舐められたのでしょう」
「子供に八つ当たりして生贄にしようって事ですか?!」
「馬っ鹿じゃないの?
ああそっか、そういえば、インフィの実力も質の悪さも敵に回す怖さも知らないのね」
「…インフィちゃん、怖いのですか?」
「…怖いよ?
お姉さんは絶対に敵に回さないし、クリリスも敵に回さないでね?
その時は見捨てるか、あたしもクリリスの敵に回るから。
それにしても十万人超えなのね。
戦神ジーナスの加護はなかったのかしらね?」
「私も一応はジーナス教会の女司祭神兵でしたけど、そんな無益な集団自殺に戦神様の加護はありませんよ」
「へえ、教会の女司祭神兵だったの?」
「熱心な信徒ではありませんが、ある程度の戦闘経験と加護を1回受けたら資格があるんで、緊急時の叙階で一応ですけど、破門されてなければ今も多分そうですね」
「医療ギルドなんかに参加して大丈夫なのですか?」
「別に神罰とか受けてないし、許されないような教会なら破門でも構いません。
それに私の事なんて誰も覚えてないんじゃないかな?」
「大体の教会ってギャラは出ないけどポンポン叙階するもんね。
教会から破門されたって、加護とか祝福には関係ないから滅多な事では破門できないのよ。
破門した人が加護とか祝福を受けたら面子が潰れるでしょ?」
「なんていい加減な…。
まあいいです。
話を戻しますと、わたしは会議に出席する気はありませんが、紅に出席させようと思うので通訳を御願いしようかと思うのです。
生贄にされる可能性まであるのですが、また舐めた事をするなら喧嘩して嘲笑ってやる機会でもあります。
御二人も出席を求められて捜索されているようですし、立場を理解させる好機でもあります」
「うーん、ゴーレムは武器扱いされて参加できないと思うよ?」
「となりますとディアーナさんも〈代理人〉ではなく勇者パーティ扱いされてしまいますか。
それなら無視しましょう」
「一度喧嘩して立場を理解させるのは賛成なんだけどね」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
とある城塞4Fの大会議室。
例の勇者召喚三国の一つの国境城塞です。
さすがに各国の代表者が集まる会議を密室で、というわけにもいなかったのでしょうか、窓はありませんが奥側一面はバルコニーに通じています。
ですがバルコニーを含めて魔術対策もされています。
城塞に入る前にボディチェックくらいはされるかと思っていましたが、ローブも鎧も着ずに軽装で非武装アピールのわたし達に魔術・魔導器探知の魔術をされただけでした。
わたし達三人が入室すると大会議室の扉を四人の騎士が塞ぎました。
大テーブルに三十人ほどの人達が着席していて、空いている席は三つ。
わたし達が最後の出席者のようです。
偉い人は後から来るものと思っていましたが、一人が起立します。
「ようこそ御出で下さいました、麗しい淑女方。
私がこの場の進行を仰せつかっております、この国の宰相のヒューア・デミトリスと申します」
四十歳代後半に見える男の、ワザとらしさを隠さない礼です。
「こちらの事は存じていらっしゃるでしょうから、自己紹介は省かせていただきます」
わたしの事は形式上の御飾りと思われていたのでしょうが、返礼もしない物言いに場がざわつきます。
「失礼ですよ!」
四十歳くらいの女性が一際高い声で叱責しますが、わたしは笑顔で答えます。
「わたしが礼を知らない田舎者である事は御承知かと思いますが?」
「…横の二人もです!教育がなっていません!」
今度は一歩後ろの左右で無表情に黙するディアーナさんとクリリスさんに食って掛かります。
「二人はわたしの補佐としてここにいます。
教育する立場でも指図する立場でもありません。
それから事前に御伝えしました通り、今からは記録して公開しますので発言に注意して下さい」
「…御嬢さんは少々無鉄砲が過ぎますな。
立場を弁えなさい」
「立場?
わたしは一体どのような立場なのですか?
確たる理由もなく、わざわざ呼び付けられた客のつもりですが?
わたしに何か非があるのでしょうか?」
「おい」
ヒューア氏は視線で騎士に指示してわたしの肩に剣を突き付けます。
横の二人はニヤニヤしても体は微動もしません。
「何の御積りですか?」
「立場を弁えろと言った」
威圧的に睨んだつもりのようですが迫力が足りません。
「ですから、わたしはどのような立場なのですかと問いました」
「無知な小娘は黙れ」
「無知な小娘をわざわざ会議に呼び付けておいて、剣を突き付けて黙れとは、程度が低過ぎて笑えますね。
あ、ひょっとして今の、本当にウケを狙った場面ですか?」
横の二人は失笑を隠せませんでした。
「痛い思いをしなければ無知は治らんな。
切れ」
騎士は躊躇いなくわたしの肩に添えた剣に力を籠めます…が薄皮すら傷は付きません。
部屋に魔術対策しても体内で発生させたシールド魔術は無効化できません。
「何をするのですか?服に当てたら傷むじゃないですか」
といってもリーフリール産の魔物素材なので切れたりはしませんが。
「何をしている!本気でやれ!」
ヒューア氏の指示に騎士は更に力を籠める為に剣を振り被りますが、迫る剣の腹を殴ると折れ飛んで、バルコニーを破壊します。
各国の代表者たちが驚愕しますがわたしには意味が分かりません。
「ええと、わたしがリーフリールの森の住人なのは知っていますよね?
これでどうにかできると思っているのなら、本気で舐め切っているとしか思えませんね」
これ以上は意味がなさそうなのでバルコニーから紅と蒼と深碧を突入させて残りの騎士達との間に立たせます。
「我々を人質にでもして脅迫するつもりか?」
「やっと立場を理解してきましたね。
わたし達がアウェイでも脅せる側で、貴方達がホームで脅される弱者の側なのです。
わたし達に人質が必要な状況に思えるなら、救いようのないお馬鹿さんですね。
ちゃんと理解できていますか?」
「…もう資金が届く事はなくなるぞ」
「お馬鹿さんは、まだそんな事を言っているのですか?
ユール商会さん、ちゃんと説明しているのですか?」
涼しい表情のユール商会の二人に問い質しますが、事前にこんな事態になる可能性を説明してあります。
「はい、何度も説明しておりますし、今皆さんの手元にある事前資料にも明記しています」
「資金が届こうが届くまいがわたしには関係ないのです。
わたしには権利も責任もありません。
記録して公開しますって宣言した事を覚えていますか?
このような魔導具の大型サイズのものを各国五十カ所で公開しています」
紅が持ち込んだ荷物からフィルム状モニターを広げます。
そこにはわたしや紅達の視界と聴覚を、ファル姉様経由で、わたしの顔が鮮明には映らないように工夫して映し出しています。
「こ、こんな…」
それ以上言葉が出ないらしく、重い沈黙が場を満たします。
「では、立場を弁えるのは誰でしょうか?」
そのまま誰も喋る事ができなくなり、程なくして無条件降伏せよとの伝令が届きましたが…。
「…わたし達に貴方達が無条件降伏すると何がどうなるのしょうか?」
また絶句して沈黙が場を満たします。
「普通は謝罪と賠償でしょうけどね…」
ディアーナさんが何か諦めたように口を開きます。
「賠償って何をですか?」
「普通は金銭だと思いますけど…?」
クリリスさんも疲れたように口を開きます。
「お金もこの人達の中身のない謝罪も要らないのですけれど?
それに、それじゃあ丸っ切りカツアゲじゃないですか。
意味もなく呼び付けられて来て、条件通りにしたのに悪役にされるのですか?
理不尽です。
どうせ悪役にされるなら憂さ晴らしにこの人達の拠点を一個ずつ潰しましょうか?
あ、ちゃんと生き物は避難させておいてくださいね?
徹底抗戦するならそれでも構いません。
これでもリーフリールの森の住人ですから遠慮は要りませんよ?
派手にやりましょう」
ハッタリです。
そんな面倒な事はしません。
「待て、俺はションサース帝国軍だぞ!
そんな事してみろ…」
顔を真っ赤にして怒鳴りますが最後まで言わせません。
「どうなるのですか?
面子にかけて殺しに来ますか?
わたし、今までもこれからもリーフリールの森の住人ですよ?
十万も犠牲者を出して十㎞も進めなかったのに?
馬鹿ですか?
そんなお馬鹿さんのトコは特別に大き目の城塞を2ヵ所潰してあげましょうか?
帝国って大きな国ですよね?
その方がそちらの士気も上がるでしょう?」
帝国の人は真っ赤な顔が蒼くなり、更に帝国の横の上司だか同僚だかの人に殴られて赤く腫れ上がりました。
わたし達の思惑通り、自分達の裁量では何も発言できないから、それぞれの国許で相談する時間が欲しい。
今日は散会させてくれとの事なので許可しました。
敵対して来なければこのまま無視する予定なのです。
来てもわたしの所まで辿り着けるとは思えませんけれど。
「そうそう、お馬鹿さんといえばヒューアさんのトコもですね。
帰り際に国境城塞の門をわたし達が出てから30分は差し上げますから、今からでも退避勧告を出しておいて下さい。
実行可能である事を証明しておく為に国境城塞を破壊します。
再建資金くらいは置いていきますので安心して下さい」
お馬鹿さんは倒れちゃいました。
でも見せしめは必要なのです。
城塞の門から百m離れた所で直径十mのシールド魔術を張って待ちます。
門前では反抗した騎士・兵士十数名と、後戻りできないお馬鹿さんが門を固めています。
「30分は経ちましたね。
では、3・2・1、[6重フルバーストインパクト]」
騎士・兵士を無視して背後の1㎞ほどの城壁の端から6重フルバーストインパクト斉射。
城壁の端から射線が見えない攻撃魔術の破壊が近付くのに怯えて、途中で居残り組も逃げ出しました。
これで心置きなく攻撃できますが、城壁と国境城塞は1分ほどで原型を想像できない瓦礫にしてしまいました。
遠巻きに見ていた人達も逃げ出しています。
…変ですね。
いくら効率が良い改良版といっても所詮は最下級の攻撃魔術がたった七・八千発くらいですよ?
「一応魔術対策もしていたみたいですが、仮にも国境城塞がこんなに脆いものなのでしょうか?
策略か罠なのでしょうか?」
「ないない、さすがに強力な三重結界魔術だったわよ?」
「世の中は理不尽を基準に作られていないのです」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる