2 / 13
1.リーフリールの森の中。
…軽い体重を憂うのは、乙女としてどうかとは思います。
しおりを挟む
二日目。
わたし達は普通の飲食だけでも魔力だけでも生きて行くのに支障はありません。
「ですが、ほぼ野良ホムンクルスといえどエルフでありヒトなのです。
むしろ理性と品性の象徴であるエルフをDNA形質に持った高度魔導文明の産物であるホムンクルスなのです。
文化的な生活は義務と言っても差支えはありません!」
『…そこまで言うと差支えはあるけれど、主旨としては理解できるし賛同するわ』
「ありがとうございます、ファル姉様」
『でも補給という現実とは向き合わないとね』
脳内で拠点システムの対人インターフェースと会話するわたしを傍から見た光景は、文字通り脳内会話する怪しいエルフ少女です。
ですが、それを気にする知的生命体は存在しません。
少なくとも半径90㎞以内には。
倉庫にあった、タグを信用するなら超高性能装備を纏えるだけ纏って、持てるだけ持って昼猶暗い森を進みます。
魔術を使えるようになったわたしはメインシステムからのマップや種族平均情報、わたしの感覚器や魔導装備の感覚器を通した個体の概算情報等の支援を受けられるようになりました。
…RPGのメニュー画面みたいな魔術で。
木に擬態した魔物を遠距離投石で始末した直後でした。
『五時方向、125m、討伐ランク41の魔化イノシシ2体です』
「はいな!」
右後方に向けて視界を向ける為にひねりを加えて跳…んだつもりでした。
実際、砲弾が発射された様に回転しながら300mぐらい上昇。
強化された肉体は気絶も許さず、高速回転による360度の視覚をはじめとしたあらゆる感覚器が情報としてわたしの中で処理されます。
そして放物線を描きながら落着しました。
「ぎぼぢヴぁるィ…」
『右後方150m討伐ランク40級3体、右前方200mに50級2体、更に奥330mに50級2体、他雑魚多数。八時方向へ撤退を提案します』
「提案を了解、実行します」
今度は慎重に樹の側面を蹴って地面と平行に跳躍します。
ついでに進路脇の小型魔化獣を右手の長剣で二つに切り裂き、立ち塞がる5m級巨人鬼魔物を左手で構えたハルバートで身体ごと突貫します。
ですが…わたしよりハルバートの方が重いくらいの自重をどんなに効率良く載せたところで…たとえ300㎞/hを超えた速度でも…致命傷になりません。
止められて…でも、腹部に刺さりました。
地に足を噛ませて巨人鬼魔物の足元に潜り込んで、突き込んだハルバートを更に抉り突き上げ、本命の魔術を行使します。
「[エナジードレイン]!」
やはり刃先の傷口内部からの秒間ドレイン効率は良いのです。
反撃を許さないまま、力の限り吸い尽くして骸に変えました。
メニューのステータスではなくマップを開いて拠点結界までの距離と方角を確認。
「650m、一気に行けます」
手近な岩を足場に、ガンと硬質な衝突音を残して跳躍。
『待って!…って、もう遅いですね』
…放物線の頂上部に魔化ワイバーンの5頭の群れです。
強化したステータスの思考速度を意識して集中強化します。
途端、時間の流れがわたしの意識を残して1/50になりました。
この状態で身体を動かせる事もできますが、空気抵抗すら邪魔で思う様に動きません。
例えば地面に立って蹴ったりしたら思う様に止まれず伸びきった蹴り足に身体ごと持っていかれて自爆ダメージなったりもします。
なので集中強化した場合の基本は思考のみです。
討伐ランク250~300、体長全翼長共に6m余り。
この世界のワイバーンは竜よりグリフィンか鳥類に近いのでしょうか?
顔は竜ですが全身が鱗ではなく灰色の羽毛で、足も鳥類のそれに見えます。
…空飛ぶモノは紙装甲。たとえ戦闘機であっても攻撃に対する装甲はありません。
例外もあるでしょうが地球で空飛ぶモノは飛行機動や飛行運動能力の為に大きな何かを犠牲にしています。そして大抵は防御能力なのです。
それくらい飛行とは厳しい能力なのです。
こちらにその法則は通じるでしょうか?
見かけたドラゴンは明らかに魔法生物成分が高くて魔法で飛翔していました。
一見では魔化ワイバーンは魔法生物成分が高く見えますが、魔化していない素のワイバーンはどうなのでしょうか?
…メインシステムのデータベースからの情報支援によれば、素のワイバーンは見た目はほぼ変わらず魔法生物成分が微量と読み取れます。
魔化して強化されているでしょうが、強化度合ならわたしの方が上です。
さすがに重量では装備込でも数倍差で負けているでしょうから、足場もないわたしは打撃戦では話にもなりませんね。
可能なら出会い頭に蹴って拠点結界方向に離脱。
取り付かれたら逆に1体に絞って全身で抱き着いてエナジードレイン。
ダメージを入れられなくても羽毛なら接触面積が多いでしょうからドレイン効率はマシでしょう。
抱き着けたら他の個体が寄ってきても抱き着いた個体の重量も利用できるので、わたしの攻撃も有効になるはずです。
他にもいくつか想定して考えてみましたけれど、わたしから取り得る手段は少なく、この状態でも脳は疲れるのです。
腹を決めましょう。
結果として、程よくエナジードレインされてヘロヘロなワイバーンを拠点結界に軟着陸させる事に成功しました。
「200m進めば高確率で討伐ランク150魔物とか200を超える魔化生物とサラッと遭遇とか、どんな魔境でしょうか?」
実際、今も1㎞も進めず逃げ帰って来ました。
『人為的に魔化生物を集中発生させるように仕組んだ森ですからね。
喰い合って高まる大気中魔力を施設で吸収して運営維持に使用しています。
おかげで周辺諸国や人里には魔化生物や魔物は激減・弱体化しているのです』
「…マイスター・カーラは慈善家なのですか?」
『まさか。欲望の為の研究と研究資金を第一に優先する事を自ら公言されていました。
完成したと言った成果にはふっかけた対価を要求していました。
逆に対価以上の成果を上げないと完成したとは言わない見栄っ張りな面もあり、研究者としては総じて最高位の評価を得てなお『リーフリールの引き籠り魔女』とまでいわれる変わり者でした。
魔の森にはどんな邪魔者も侵入できませんから』
「リーフリールの対価はどこがどんな形式で支払っているのですか?
維持となるとランニングコストもかかるはずですよね?
定期的な徴収相手がいるはずですよね?」
『ええ、ヒューマンの国相手に100年毎の徴収は現実的ではないでしょうから、1年毎に各国から指名代理店の商会に集められたのを徴収していました』
「…過去形…なのは…?」
『マイスター・カーラが亡くなられて3年。
徴収する者が居ませんでしたから』
「徴収しましょう!
しないとお互いに色々マズイ気がします!」
『もう百年分くらいの維持計画と年次予算や資材確保・配分は済ませてあるので、当面は問題ないのです』
「どんだけボッてたのですか!
いえ、それよりもマイスター・カーラの死亡と維持計画の概略くらいは伝えて、ある程度は徴収しないと自ら公言していた性格と合わなくなって余計な不信感を持たれますよ?」
『…なるほど。その可能性は考慮外でした。
ですが、現状その術がないのです。
相手もリーフリールの森をどうこうする事もできませんし…。
それともインフィが徴収に行ってくれますか?』
「む、無理ッス」
『…なので御手上げなのです』
徴収はともかく、街で買い物するくらいの手段が欲しいのです。
一番近い結界の外まで90㎞。
「今のわたしが本気で走れば一時間とかからない距離なのに…」
『直線で邪魔がなければ、ですが。
あれだけ跳ねたら無視してもらえませんよ?』
「横移動力に地面が噛んでくれないのですよ。
さっきみたいに木の魔物を蹴り進んでも中々思う方向には進めないし」
森の樹木・植物は瘴気を吸収して魔物にすら猛毒を持っているか、魔力で魔化した魔化樹木か、擬態魔物や擬態魔化生物なのです。
『重り代わりに重装甲の全身鎧を使用しては?』
「音で目立ちます。ただの重りを背負う方がマシですね。
それでも絶望的な運が必要です。
もう、焼いてしまいたくなります」
『焼けませんよ、ここの樹木も魔化生物も。
元は道があったのですが、この有様ですからマイスターもさすがに面倒になって大規模魔術で焼き払らったのですが、多くの魔化樹木や擬態魔物は一時退避しますし、消火魔術も使います。
十日で元通りでした。
マイスターの引き籠りが酷くなった原因の一つです。元々、年に2・3度ぐらいしか出歩きませんでしたし』
「…伐採自体は問題ないのですか?」
『ええ。元々道はあったのです。
ですが地道に魔術を修業した方が早いと思いますよ?』
「いえ、木に負けたみたいで何か悔しいです。
地面ごとエナジードレインして枯らして伐採して行けば…?」
「[エナジードレインゾーン]!
…っほあっ!」
幅十mの道を造ろうと、わたしを中心に半径6m程の球状にエナジードレインゾーンを行使してみたところ、物凄い吸収量でした。
範囲内の樹木や植物は目に見えて生気を失いますが、驚いたのは地中からの吸収量です。
ちなみに球状範囲化とういうテンプレートで存在する術式を噛ませると範囲化できました。
『…地中の魔化生物や魔物はもちろん、植物系の魔物を生態系的に支えるのも魔化微生物や魔化ミミズとかですし?』
他にも魔化リスや魔化鳥類など、樹上生活する魔化小動物類がボトボト落ちてきます。
「…これはもう、魔境と言うより魔界ではないですか?」
『否定しません』
「とりあえず、伐採します!」
手にした時のタグの表示に偽りなく紛れもなく高性能な魔法の武器であるハルバートを振って4・50㎝の切り株を残して片っ端から伐採。
「[エナジードレインゾーン]」
伐採。
「[エナジードレインゾーン]」
伐採。
…この方法だと魔化樹木だろうが植物系の魔物だろうが関係ありません。
ただ高魔力伝導の為に全魔法金属製のハルバートがわたしより重く2.5mとわたしの身長より1m位長いのでわたしに見合った型を独自に模索しながらとなると、たまにミスってわたしの身体の方が振り回されます。
わたしは30m級のドラゴンの体重の5倍くらいの金属塊を片手で持ち上げる事ができますが、ドラゴンの尻尾を掴んで振り回したりはできません。
振り回した遠心力に、わたしが平気でもわたしを支える地面が耐えられないのです。
多分、尻尾を掴んで引きずる事もできません。ドラゴンの体重に対する地面との摩擦に、わたしのそれは地面に下半身を埋めても勝てないと思います。
「…こいつらみたいに根を張れたら色々楽なのですけれど…」
今切り倒した切り株に座って休憩。
ドレインを繰り返しているので身体的に疲れたりはしませんし、瘴気を抜かれて枯れかけの樹にを当ててはいますが、ハルバートを操る素振り稽古のみたいなもので集中力が切れてた時が休み時。
…というか飽きます。
『ありますよ。そういうスキル。
シールド魔術は任意形状で空間固定もできますから地面に張って足場にできます。
あと魔力を足元に、それこそ根のように張り巡らせたら身体を固定できます。
少し難易度は上がりますが重力操作の魔術も』
「結局、魔術ですか…」
『…昨日目覚めたばかりの11歳相当とはいえ、エルフのホムンクルスが何故脳筋思考なのでしょうか?
メディカル鑑定でも、半日とかけずエナジードレインを習得した事からも魔術適性はマイスター並みか超えているかもしれないのですよ?
想定以上の知識と大人と比べても高い理解力もあるようです。
これが精神に引っ張られた子供なりの無邪気な気紛れというモノでしょうか?』
…いえ、逆のはずです…。
…わたしは子供の身体に精神が引っ張られて、無邪気に強い身体を試してみたり我儘染みた妙な拘りを持っているのでしょうか?
「ええと、もう少しだけこのままやらせて下さい」
『インフィは明確なオーダーを受けていませんから、方針を制限したりしませんよ。
…目標進路上の森の中、距離32m、推定討伐ランク400以上相当の魔化メタルゴーレム、推定・魔化オリハルコンゴーレムの移動を確認。
気づいていたとは思いますが、討伐ランクが未確認なので指揮個体かもしれません』
「うん、オリハルコンゴーレムですか。討伐ランクは高いですが一当りやってみます」
ここのゴーレム系は特筆するべき特徴が幾つかあります。
大きくても2.5m以下の細身で、ウッドやストーンでも球体関節のような関節機構を持っていて一見してパペット系に見えます。
パペット系はまだ見た事はありませんが自律判断力がほぼないそうなので、術者依存度の高い魔導器に分類されるようです。
そしてゴーレム系ですが、樹木に隠れ潜んでいたものがエナジードレインにより樹上生活する魔化小動物類と同様の末路を辿るのです。
根本的にエナジードレインとは相性が悪いので5m先でも秒殺…機能停止なのです。
更に金属ゴーレム系の特筆するべき点としてアイアンやスティールでリビングアーマーっぽいし、高級金属になるほどロボットっぽくなり、ミスリルなんかはリアル系巨大ロボットを人間サイズにしたような姿なのです。
高討伐ランクのクレイゴーレムと鑑定された中にはファインセラミクスとしか思えないのもいました。
魔法金属のミスリルなんかは魔術耐性が高いはずですがエナジードレインには逆効果なのだそうです。ミスリル装甲が内部へのドレイン経路になってしまうのです。
お互い無傷で一方的に機能停止にできるので、後で調べてみたいのと資産的に高級素材系は持って帰っています。
そして今、目視できない所でから相対する推定・魔化オリハルコンゴーレムはエネルギージャベリンの魔術を4発撃ってきました。
無属性の光の投槍魔術で当れば小爆発的なダメージです。おそらく誘導付きで。
ファル姉様の推測通り、指揮個体で配下個体とデータリンクでもしていたのでしょうか?
もし本当に配下個体とデータリンクしていたなら、戦術としては正体不明の攻撃手段をもつ敵に接近せずに遠隔攻撃は有効なのでしょう。
でも残念。
魔術もエナジードレインしちゃうのです。
自分で怖くなるほど万能で強いですね、エナジードレイン。
「後は鬼ごっこです」
『…まったく。
目的が捕獲にすり替わっていますよ?』
思っていたより捕獲に時間がかかりました。
なにせコイツら、飛ぶのです。
まああまり長くは飛べないようですし、ミスリルとかにもリアルロボットらしく背中にスラスタや各所にバーニアっぽい穴はあったのでまさかとは思っていましたが。
接近すれば弱らせて飛べなくなるしタッチ一つで機能停止なのです。
…ですが。
「…ちょっと、気分が悪いです…。
悪酔いしたような…感じってこんな状態でしょうか…?」
危ない、危ない。
インフィはお酒を飲んだ事はないのです。
『私達フィのホムンクルスは過度のアルコールは毒として分解されますから、私も悪酔いした経験はないので感覚的な理解できませんが、体調不良に繋がる明白な問題行動に心当たりがあります』
「…問題行動…ですか?」
『吸収するばかりで魔力をほとんど消費していません。
どれだけ貯め込めるのか黙ってみていれば、恐ろしい魔力量を貯め込んでいます。
おそらくこれ以上は過剰吸収なので漏れ出すでしょう。
気分も悪くなるはずです』
「…寝て休んだら良くなったりは…」
『しません。
気分は楽になると思いますが、吸収上限一杯なのは変わりません。
ドレインすればまた同じです』
「メニューとか使いっぱなしなのですが?」
『インフィの現在の自然回復量は1分にあたり自然回復上限の12%で、メニューの消費などその12%の0.1%未満です。
おそらくですが現在自然回復上限の十倍程度を吸収保有していると思われますが、一度自然回復量を上回る消費をしないと減りません。
自然回復上限の一時的例外法則です』
「やっぱり魔術ですか…」
『一度攻撃的魔術で破壊力を測らないと適切なアドバイスもできません。
基礎的な無属性魔力弾で構いませんから習得しましょう。
インフィならすぐ習得できます』
このエネルギーボルト、デフォルトでは直径1㎝長さ2㎝くらいの魔力弾を飛ばして当れば衝撃でわたしの拳ほどを範囲を破壊するといった魔術なのですが…。
「いえ、習得はしているのです。
ですが…。
…いえ、隠し事は不義理ですね。ずっと隠し通せるわけもありませんし」
『…?
まあ、使用すれば私に隠し事は無理ですね。
精密計測しますから全力の半分位を意識して元々の目標方向に向けてエネルギーボルトを放って下さい』
「…エネルギーボルトで全力の半分位ですか…」
感覚チックで微妙に難しいです。
目標方向に右手を向けます。エネボにそんな動作は必要ない事はファル姉様も分かっているでしょうが試射時のマナーみたいなものです。
「いきます。
[エネルギーボルト]」
『不発ですか?いえ、何をしているのですか?
何もインフィからは放たれていないのに2㎞先までダメージを確認、でも魔力は…』
目の前の樹木が粉々に削れて破砕音が響きます。
「うっぷ…うっかりエナジードレインを併用してしまいました。
半分までまだちょっとかかりますから少し範囲を広げます」
右手をゆっくり左右に揺らします。
『ええ、魔力は減り始めましたが、何をしているのですか?
オリジナルの魔術ですか?』
「いえ、基本的にエネルギーボルトですよ?
ただアローやジャベリンみたいに曲射して誘導するなら見えた方が便利でしょうけれど、エネボは見える必要はないですよね?
光って見えるという事はそれだけエネルギーをロスしているという事で、そこの術式は無駄なので削りました。それだけで威力と弾速と射程は上がるはずなので。
あと、マクロを組んで秒間20発の自動連射型にしてみました。
それを6個展開しています。合計秒間120発ですね。
あ、威力と弾速の計測ってできますか?」
『…できます。
マップのマークポイントを順に狙って下さい』
「あ、言い忘れましたが射程は2㎞に制限しています。
不可視の高速弾の流れ弾がそれ以上飛んだら危ないですし」
『…一時的に解除できますか?』
「できますが、この惑星の直径が分からないので、地平線の陰になる可能性がありますから、射点を上げて見えるように意味のない魔術陣を発光展開しますね」
『地平線の陰?
…了解しました』
射撃…もとい、魔術行使開始から7分くらい。
5万発くらい撃った計算です。
森も見える範囲は大分スッキリしました。
「そろそろ半分位みたいです」
『では終了してください。
…500㎞地点で威力・命中精度ともに大気・重力の影響は確認できませんでした。
魔術を飛ばせているのではなく、魔力を飛ばせて着弾時に魔術として顕現しているからでしょうか。
弾速は計測できず、時速一万から十万㎞と推察されます』
「凄いです!500㎞先で大気も重力も影響しないなんて魔力凄い!魔術凄い!」
レーザーとかより圧倒的に使えます!弾速は1/100でも、この速度域では誤差の内です。
『凄いのはインフィ、貴女です。
魔術を習って昨日の今日で術式改変できるまで理解するのは私達フィのホムンクルス視点でも異常です。
普通に思いつく大型化や凝縮して単発威力拡大にシフトしなかった理由はありますか?』
「エネルギーが同量なら作用点は少ない方が効果的と考えるからです。
単純に剣は腹で当てるより刃で当てた方が効果的、という理屈ですね。
単発威力拡大にしなかったのは、術式を重くしたら連射性が落ちるかと思いました。
結果的に余裕はあったので威力拡大を加えてもいいかもしれません」
『…フィのホムンクルスの歴代の大半はワンマンアーミー的な存在ですが、インフィは別格です。
単純な戦力としてはマイスターを超えています』
「でもアレ、基本はエネボですよ?
フィのホムンクルスなら簡単にマネできるのでは?
わたしもフィのホムンクルスだからこその凝縮魔術式塊と演算領域と演算速度です」
いや、本当に、謙遜とかではなく。
『そうかもしれませんが、運用思想や思考方向が賢明です。
メインシステムが認めています。
実際は結果的にですが、後世に記録を残す事になれば「フィリル・カーラのラスト・ドーター」と標しましょう』
「具体的にどういう意味を持つのか分かりませんけれど、大仰なのは勘弁して下さい」
尚、改良エネルギーボルトについては秘匿して、使用して知られた場合も別の魔術というフリと説明をする事にしました。
見えない長距離攻撃は魔物より人同士の方が需要がありそうと言う理由で。
もしかしたら大半の攻撃魔術が派手なのは、そういった配慮の末なのかもしれませんね。
わたし達は普通の飲食だけでも魔力だけでも生きて行くのに支障はありません。
「ですが、ほぼ野良ホムンクルスといえどエルフでありヒトなのです。
むしろ理性と品性の象徴であるエルフをDNA形質に持った高度魔導文明の産物であるホムンクルスなのです。
文化的な生活は義務と言っても差支えはありません!」
『…そこまで言うと差支えはあるけれど、主旨としては理解できるし賛同するわ』
「ありがとうございます、ファル姉様」
『でも補給という現実とは向き合わないとね』
脳内で拠点システムの対人インターフェースと会話するわたしを傍から見た光景は、文字通り脳内会話する怪しいエルフ少女です。
ですが、それを気にする知的生命体は存在しません。
少なくとも半径90㎞以内には。
倉庫にあった、タグを信用するなら超高性能装備を纏えるだけ纏って、持てるだけ持って昼猶暗い森を進みます。
魔術を使えるようになったわたしはメインシステムからのマップや種族平均情報、わたしの感覚器や魔導装備の感覚器を通した個体の概算情報等の支援を受けられるようになりました。
…RPGのメニュー画面みたいな魔術で。
木に擬態した魔物を遠距離投石で始末した直後でした。
『五時方向、125m、討伐ランク41の魔化イノシシ2体です』
「はいな!」
右後方に向けて視界を向ける為にひねりを加えて跳…んだつもりでした。
実際、砲弾が発射された様に回転しながら300mぐらい上昇。
強化された肉体は気絶も許さず、高速回転による360度の視覚をはじめとしたあらゆる感覚器が情報としてわたしの中で処理されます。
そして放物線を描きながら落着しました。
「ぎぼぢヴぁるィ…」
『右後方150m討伐ランク40級3体、右前方200mに50級2体、更に奥330mに50級2体、他雑魚多数。八時方向へ撤退を提案します』
「提案を了解、実行します」
今度は慎重に樹の側面を蹴って地面と平行に跳躍します。
ついでに進路脇の小型魔化獣を右手の長剣で二つに切り裂き、立ち塞がる5m級巨人鬼魔物を左手で構えたハルバートで身体ごと突貫します。
ですが…わたしよりハルバートの方が重いくらいの自重をどんなに効率良く載せたところで…たとえ300㎞/hを超えた速度でも…致命傷になりません。
止められて…でも、腹部に刺さりました。
地に足を噛ませて巨人鬼魔物の足元に潜り込んで、突き込んだハルバートを更に抉り突き上げ、本命の魔術を行使します。
「[エナジードレイン]!」
やはり刃先の傷口内部からの秒間ドレイン効率は良いのです。
反撃を許さないまま、力の限り吸い尽くして骸に変えました。
メニューのステータスではなくマップを開いて拠点結界までの距離と方角を確認。
「650m、一気に行けます」
手近な岩を足場に、ガンと硬質な衝突音を残して跳躍。
『待って!…って、もう遅いですね』
…放物線の頂上部に魔化ワイバーンの5頭の群れです。
強化したステータスの思考速度を意識して集中強化します。
途端、時間の流れがわたしの意識を残して1/50になりました。
この状態で身体を動かせる事もできますが、空気抵抗すら邪魔で思う様に動きません。
例えば地面に立って蹴ったりしたら思う様に止まれず伸びきった蹴り足に身体ごと持っていかれて自爆ダメージなったりもします。
なので集中強化した場合の基本は思考のみです。
討伐ランク250~300、体長全翼長共に6m余り。
この世界のワイバーンは竜よりグリフィンか鳥類に近いのでしょうか?
顔は竜ですが全身が鱗ではなく灰色の羽毛で、足も鳥類のそれに見えます。
…空飛ぶモノは紙装甲。たとえ戦闘機であっても攻撃に対する装甲はありません。
例外もあるでしょうが地球で空飛ぶモノは飛行機動や飛行運動能力の為に大きな何かを犠牲にしています。そして大抵は防御能力なのです。
それくらい飛行とは厳しい能力なのです。
こちらにその法則は通じるでしょうか?
見かけたドラゴンは明らかに魔法生物成分が高くて魔法で飛翔していました。
一見では魔化ワイバーンは魔法生物成分が高く見えますが、魔化していない素のワイバーンはどうなのでしょうか?
…メインシステムのデータベースからの情報支援によれば、素のワイバーンは見た目はほぼ変わらず魔法生物成分が微量と読み取れます。
魔化して強化されているでしょうが、強化度合ならわたしの方が上です。
さすがに重量では装備込でも数倍差で負けているでしょうから、足場もないわたしは打撃戦では話にもなりませんね。
可能なら出会い頭に蹴って拠点結界方向に離脱。
取り付かれたら逆に1体に絞って全身で抱き着いてエナジードレイン。
ダメージを入れられなくても羽毛なら接触面積が多いでしょうからドレイン効率はマシでしょう。
抱き着けたら他の個体が寄ってきても抱き着いた個体の重量も利用できるので、わたしの攻撃も有効になるはずです。
他にもいくつか想定して考えてみましたけれど、わたしから取り得る手段は少なく、この状態でも脳は疲れるのです。
腹を決めましょう。
結果として、程よくエナジードレインされてヘロヘロなワイバーンを拠点結界に軟着陸させる事に成功しました。
「200m進めば高確率で討伐ランク150魔物とか200を超える魔化生物とサラッと遭遇とか、どんな魔境でしょうか?」
実際、今も1㎞も進めず逃げ帰って来ました。
『人為的に魔化生物を集中発生させるように仕組んだ森ですからね。
喰い合って高まる大気中魔力を施設で吸収して運営維持に使用しています。
おかげで周辺諸国や人里には魔化生物や魔物は激減・弱体化しているのです』
「…マイスター・カーラは慈善家なのですか?」
『まさか。欲望の為の研究と研究資金を第一に優先する事を自ら公言されていました。
完成したと言った成果にはふっかけた対価を要求していました。
逆に対価以上の成果を上げないと完成したとは言わない見栄っ張りな面もあり、研究者としては総じて最高位の評価を得てなお『リーフリールの引き籠り魔女』とまでいわれる変わり者でした。
魔の森にはどんな邪魔者も侵入できませんから』
「リーフリールの対価はどこがどんな形式で支払っているのですか?
維持となるとランニングコストもかかるはずですよね?
定期的な徴収相手がいるはずですよね?」
『ええ、ヒューマンの国相手に100年毎の徴収は現実的ではないでしょうから、1年毎に各国から指名代理店の商会に集められたのを徴収していました』
「…過去形…なのは…?」
『マイスター・カーラが亡くなられて3年。
徴収する者が居ませんでしたから』
「徴収しましょう!
しないとお互いに色々マズイ気がします!」
『もう百年分くらいの維持計画と年次予算や資材確保・配分は済ませてあるので、当面は問題ないのです』
「どんだけボッてたのですか!
いえ、それよりもマイスター・カーラの死亡と維持計画の概略くらいは伝えて、ある程度は徴収しないと自ら公言していた性格と合わなくなって余計な不信感を持たれますよ?」
『…なるほど。その可能性は考慮外でした。
ですが、現状その術がないのです。
相手もリーフリールの森をどうこうする事もできませんし…。
それともインフィが徴収に行ってくれますか?』
「む、無理ッス」
『…なので御手上げなのです』
徴収はともかく、街で買い物するくらいの手段が欲しいのです。
一番近い結界の外まで90㎞。
「今のわたしが本気で走れば一時間とかからない距離なのに…」
『直線で邪魔がなければ、ですが。
あれだけ跳ねたら無視してもらえませんよ?』
「横移動力に地面が噛んでくれないのですよ。
さっきみたいに木の魔物を蹴り進んでも中々思う方向には進めないし」
森の樹木・植物は瘴気を吸収して魔物にすら猛毒を持っているか、魔力で魔化した魔化樹木か、擬態魔物や擬態魔化生物なのです。
『重り代わりに重装甲の全身鎧を使用しては?』
「音で目立ちます。ただの重りを背負う方がマシですね。
それでも絶望的な運が必要です。
もう、焼いてしまいたくなります」
『焼けませんよ、ここの樹木も魔化生物も。
元は道があったのですが、この有様ですからマイスターもさすがに面倒になって大規模魔術で焼き払らったのですが、多くの魔化樹木や擬態魔物は一時退避しますし、消火魔術も使います。
十日で元通りでした。
マイスターの引き籠りが酷くなった原因の一つです。元々、年に2・3度ぐらいしか出歩きませんでしたし』
「…伐採自体は問題ないのですか?」
『ええ。元々道はあったのです。
ですが地道に魔術を修業した方が早いと思いますよ?』
「いえ、木に負けたみたいで何か悔しいです。
地面ごとエナジードレインして枯らして伐採して行けば…?」
「[エナジードレインゾーン]!
…っほあっ!」
幅十mの道を造ろうと、わたしを中心に半径6m程の球状にエナジードレインゾーンを行使してみたところ、物凄い吸収量でした。
範囲内の樹木や植物は目に見えて生気を失いますが、驚いたのは地中からの吸収量です。
ちなみに球状範囲化とういうテンプレートで存在する術式を噛ませると範囲化できました。
『…地中の魔化生物や魔物はもちろん、植物系の魔物を生態系的に支えるのも魔化微生物や魔化ミミズとかですし?』
他にも魔化リスや魔化鳥類など、樹上生活する魔化小動物類がボトボト落ちてきます。
「…これはもう、魔境と言うより魔界ではないですか?」
『否定しません』
「とりあえず、伐採します!」
手にした時のタグの表示に偽りなく紛れもなく高性能な魔法の武器であるハルバートを振って4・50㎝の切り株を残して片っ端から伐採。
「[エナジードレインゾーン]」
伐採。
「[エナジードレインゾーン]」
伐採。
…この方法だと魔化樹木だろうが植物系の魔物だろうが関係ありません。
ただ高魔力伝導の為に全魔法金属製のハルバートがわたしより重く2.5mとわたしの身長より1m位長いのでわたしに見合った型を独自に模索しながらとなると、たまにミスってわたしの身体の方が振り回されます。
わたしは30m級のドラゴンの体重の5倍くらいの金属塊を片手で持ち上げる事ができますが、ドラゴンの尻尾を掴んで振り回したりはできません。
振り回した遠心力に、わたしが平気でもわたしを支える地面が耐えられないのです。
多分、尻尾を掴んで引きずる事もできません。ドラゴンの体重に対する地面との摩擦に、わたしのそれは地面に下半身を埋めても勝てないと思います。
「…こいつらみたいに根を張れたら色々楽なのですけれど…」
今切り倒した切り株に座って休憩。
ドレインを繰り返しているので身体的に疲れたりはしませんし、瘴気を抜かれて枯れかけの樹にを当ててはいますが、ハルバートを操る素振り稽古のみたいなもので集中力が切れてた時が休み時。
…というか飽きます。
『ありますよ。そういうスキル。
シールド魔術は任意形状で空間固定もできますから地面に張って足場にできます。
あと魔力を足元に、それこそ根のように張り巡らせたら身体を固定できます。
少し難易度は上がりますが重力操作の魔術も』
「結局、魔術ですか…」
『…昨日目覚めたばかりの11歳相当とはいえ、エルフのホムンクルスが何故脳筋思考なのでしょうか?
メディカル鑑定でも、半日とかけずエナジードレインを習得した事からも魔術適性はマイスター並みか超えているかもしれないのですよ?
想定以上の知識と大人と比べても高い理解力もあるようです。
これが精神に引っ張られた子供なりの無邪気な気紛れというモノでしょうか?』
…いえ、逆のはずです…。
…わたしは子供の身体に精神が引っ張られて、無邪気に強い身体を試してみたり我儘染みた妙な拘りを持っているのでしょうか?
「ええと、もう少しだけこのままやらせて下さい」
『インフィは明確なオーダーを受けていませんから、方針を制限したりしませんよ。
…目標進路上の森の中、距離32m、推定討伐ランク400以上相当の魔化メタルゴーレム、推定・魔化オリハルコンゴーレムの移動を確認。
気づいていたとは思いますが、討伐ランクが未確認なので指揮個体かもしれません』
「うん、オリハルコンゴーレムですか。討伐ランクは高いですが一当りやってみます」
ここのゴーレム系は特筆するべき特徴が幾つかあります。
大きくても2.5m以下の細身で、ウッドやストーンでも球体関節のような関節機構を持っていて一見してパペット系に見えます。
パペット系はまだ見た事はありませんが自律判断力がほぼないそうなので、術者依存度の高い魔導器に分類されるようです。
そしてゴーレム系ですが、樹木に隠れ潜んでいたものがエナジードレインにより樹上生活する魔化小動物類と同様の末路を辿るのです。
根本的にエナジードレインとは相性が悪いので5m先でも秒殺…機能停止なのです。
更に金属ゴーレム系の特筆するべき点としてアイアンやスティールでリビングアーマーっぽいし、高級金属になるほどロボットっぽくなり、ミスリルなんかはリアル系巨大ロボットを人間サイズにしたような姿なのです。
高討伐ランクのクレイゴーレムと鑑定された中にはファインセラミクスとしか思えないのもいました。
魔法金属のミスリルなんかは魔術耐性が高いはずですがエナジードレインには逆効果なのだそうです。ミスリル装甲が内部へのドレイン経路になってしまうのです。
お互い無傷で一方的に機能停止にできるので、後で調べてみたいのと資産的に高級素材系は持って帰っています。
そして今、目視できない所でから相対する推定・魔化オリハルコンゴーレムはエネルギージャベリンの魔術を4発撃ってきました。
無属性の光の投槍魔術で当れば小爆発的なダメージです。おそらく誘導付きで。
ファル姉様の推測通り、指揮個体で配下個体とデータリンクでもしていたのでしょうか?
もし本当に配下個体とデータリンクしていたなら、戦術としては正体不明の攻撃手段をもつ敵に接近せずに遠隔攻撃は有効なのでしょう。
でも残念。
魔術もエナジードレインしちゃうのです。
自分で怖くなるほど万能で強いですね、エナジードレイン。
「後は鬼ごっこです」
『…まったく。
目的が捕獲にすり替わっていますよ?』
思っていたより捕獲に時間がかかりました。
なにせコイツら、飛ぶのです。
まああまり長くは飛べないようですし、ミスリルとかにもリアルロボットらしく背中にスラスタや各所にバーニアっぽい穴はあったのでまさかとは思っていましたが。
接近すれば弱らせて飛べなくなるしタッチ一つで機能停止なのです。
…ですが。
「…ちょっと、気分が悪いです…。
悪酔いしたような…感じってこんな状態でしょうか…?」
危ない、危ない。
インフィはお酒を飲んだ事はないのです。
『私達フィのホムンクルスは過度のアルコールは毒として分解されますから、私も悪酔いした経験はないので感覚的な理解できませんが、体調不良に繋がる明白な問題行動に心当たりがあります』
「…問題行動…ですか?」
『吸収するばかりで魔力をほとんど消費していません。
どれだけ貯め込めるのか黙ってみていれば、恐ろしい魔力量を貯め込んでいます。
おそらくこれ以上は過剰吸収なので漏れ出すでしょう。
気分も悪くなるはずです』
「…寝て休んだら良くなったりは…」
『しません。
気分は楽になると思いますが、吸収上限一杯なのは変わりません。
ドレインすればまた同じです』
「メニューとか使いっぱなしなのですが?」
『インフィの現在の自然回復量は1分にあたり自然回復上限の12%で、メニューの消費などその12%の0.1%未満です。
おそらくですが現在自然回復上限の十倍程度を吸収保有していると思われますが、一度自然回復量を上回る消費をしないと減りません。
自然回復上限の一時的例外法則です』
「やっぱり魔術ですか…」
『一度攻撃的魔術で破壊力を測らないと適切なアドバイスもできません。
基礎的な無属性魔力弾で構いませんから習得しましょう。
インフィならすぐ習得できます』
このエネルギーボルト、デフォルトでは直径1㎝長さ2㎝くらいの魔力弾を飛ばして当れば衝撃でわたしの拳ほどを範囲を破壊するといった魔術なのですが…。
「いえ、習得はしているのです。
ですが…。
…いえ、隠し事は不義理ですね。ずっと隠し通せるわけもありませんし」
『…?
まあ、使用すれば私に隠し事は無理ですね。
精密計測しますから全力の半分位を意識して元々の目標方向に向けてエネルギーボルトを放って下さい』
「…エネルギーボルトで全力の半分位ですか…」
感覚チックで微妙に難しいです。
目標方向に右手を向けます。エネボにそんな動作は必要ない事はファル姉様も分かっているでしょうが試射時のマナーみたいなものです。
「いきます。
[エネルギーボルト]」
『不発ですか?いえ、何をしているのですか?
何もインフィからは放たれていないのに2㎞先までダメージを確認、でも魔力は…』
目の前の樹木が粉々に削れて破砕音が響きます。
「うっぷ…うっかりエナジードレインを併用してしまいました。
半分までまだちょっとかかりますから少し範囲を広げます」
右手をゆっくり左右に揺らします。
『ええ、魔力は減り始めましたが、何をしているのですか?
オリジナルの魔術ですか?』
「いえ、基本的にエネルギーボルトですよ?
ただアローやジャベリンみたいに曲射して誘導するなら見えた方が便利でしょうけれど、エネボは見える必要はないですよね?
光って見えるという事はそれだけエネルギーをロスしているという事で、そこの術式は無駄なので削りました。それだけで威力と弾速と射程は上がるはずなので。
あと、マクロを組んで秒間20発の自動連射型にしてみました。
それを6個展開しています。合計秒間120発ですね。
あ、威力と弾速の計測ってできますか?」
『…できます。
マップのマークポイントを順に狙って下さい』
「あ、言い忘れましたが射程は2㎞に制限しています。
不可視の高速弾の流れ弾がそれ以上飛んだら危ないですし」
『…一時的に解除できますか?』
「できますが、この惑星の直径が分からないので、地平線の陰になる可能性がありますから、射点を上げて見えるように意味のない魔術陣を発光展開しますね」
『地平線の陰?
…了解しました』
射撃…もとい、魔術行使開始から7分くらい。
5万発くらい撃った計算です。
森も見える範囲は大分スッキリしました。
「そろそろ半分位みたいです」
『では終了してください。
…500㎞地点で威力・命中精度ともに大気・重力の影響は確認できませんでした。
魔術を飛ばせているのではなく、魔力を飛ばせて着弾時に魔術として顕現しているからでしょうか。
弾速は計測できず、時速一万から十万㎞と推察されます』
「凄いです!500㎞先で大気も重力も影響しないなんて魔力凄い!魔術凄い!」
レーザーとかより圧倒的に使えます!弾速は1/100でも、この速度域では誤差の内です。
『凄いのはインフィ、貴女です。
魔術を習って昨日の今日で術式改変できるまで理解するのは私達フィのホムンクルス視点でも異常です。
普通に思いつく大型化や凝縮して単発威力拡大にシフトしなかった理由はありますか?』
「エネルギーが同量なら作用点は少ない方が効果的と考えるからです。
単純に剣は腹で当てるより刃で当てた方が効果的、という理屈ですね。
単発威力拡大にしなかったのは、術式を重くしたら連射性が落ちるかと思いました。
結果的に余裕はあったので威力拡大を加えてもいいかもしれません」
『…フィのホムンクルスの歴代の大半はワンマンアーミー的な存在ですが、インフィは別格です。
単純な戦力としてはマイスターを超えています』
「でもアレ、基本はエネボですよ?
フィのホムンクルスなら簡単にマネできるのでは?
わたしもフィのホムンクルスだからこその凝縮魔術式塊と演算領域と演算速度です」
いや、本当に、謙遜とかではなく。
『そうかもしれませんが、運用思想や思考方向が賢明です。
メインシステムが認めています。
実際は結果的にですが、後世に記録を残す事になれば「フィリル・カーラのラスト・ドーター」と標しましょう』
「具体的にどういう意味を持つのか分かりませんけれど、大仰なのは勘弁して下さい」
尚、改良エネルギーボルトについては秘匿して、使用して知られた場合も別の魔術というフリと説明をする事にしました。
見えない長距離攻撃は魔物より人同士の方が需要がありそうと言う理由で。
もしかしたら大半の攻撃魔術が派手なのは、そういった配慮の末なのかもしれませんね。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる