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「ん…んっ!?」

 後頭部を強い力で固定され、口を塞がれる。
 突然のことに呆然としていると、ぬるりとしたものが口内にはいってきて、意図しない内に肩がびくりと跳ねた。

(な、何故このタイミング!?しかも、深い方っ)

 歯列や上顎をなぞられ官能を引き出すようなその動きはよく自分がするものだけれど、司からこんな風に荒いキスをされたのは初めてのことだ。
 体が強張ってその動きに応える余裕も無くなると、段々呼吸が苦しくなってくる。

「ふっ…ぅんっ」

 震える指先を叱責して司の背中を叩き解放を訴えれば、渋々といった様子で口が離れた。

「つ、つ、司…?」

「……」

 無言になった司は、浅い呼吸を整えるオレの腕を掴みそのまま歩き出す。
 足を縺れさせながらも引かれるまま付いていけば、司は自身の部屋の前で立ち止まった。

「?」

 滅多に入ることのないそこに、司は一度こちらを振り返ってから引っ張り込んだ。
 暗闇に慣れていない目は中の様子がよくわからないけど、司は迷いなくオレの手を引きベッドに放り投げる。

「っ」

 ギッ、という音が聞こえ、背中から着地した。
 慌てて身を起こそうとしたら、肩を押さえつけられベッドに逆戻りしてしまう。

「司!?な、何すっ」
「うるさい」

 感情を無理矢理抑えたような低い低い声で、司はオレを黙らせた。

「お前が望まないなら、と……俺が…、今までどれ程我慢してきたと思っている?」

「え…?」

 我慢?我慢って…

 一瞬だけ邪な期待を抱いてしまうが、そんなはずない、と首を振る。
 今はどう考えても、そんな甘い雰囲気ではないから。
 そう自分に言い聞かせれば、気持ちも自然と凪いできた。

 暗闇に馴れた目で、司を真っ直ぐ見つめる。
 思い詰めたかのような表情で眉を寄せる司になるべく自然になるように意識して笑いかけ。
 司の胸の辺りに両手をつき、ぐいと押した。

「我慢って何さ?もう、びっくりしたじゃん」

「退いてくれない?」と、再度腕に力を加える。
 けれどぴくりとも動かなくて、更に体重までかけてきた。
 もともと、この体勢のせいでただでさえ力を入れ辛いのだから、ぴんと張っていたオレの腕はすぐに折り畳まれてしまった。
 近すぎる体勢に顔が赤くなるのを感じながらそれを隠すように抗議する。

「ちょっとっ」

「嫌なら俺を蹴りあげるなりして逃げればいい。」

「っ!!」

 出来るわけないのに、きっとそれを知ってて司はそんなことを言っている。

「何、するつもり?」

「わからないわけではないだろ?」

「だって、そんな雰囲気じゃない」

「……雰囲気なんて、作っていくものだ」

「そうだけど…」

 煮え切らない態度に苛ついたように、両手を司の片手で纏めて掴まれた。

「あまり文句を言うようなら、縛るぞ」

「え」

 し、縛る……?
 あんまりな言葉に頭が理解するよりはやく、タオルで腕をぐるぐる巻きにされてしまった。
 はっとした頃には、もう両腕は使えなくなっている。
 少し気分が浮上したらしい司が鎮めるように額にキスしてきたけど、いつもとは別人かと思うくらい自分本意で強引な振る舞いに首をぶんぶん横に振った。

「やっ、まだ話が終わってないじゃん!!」

「必要ない。お前は俺とは別れないからな」

「な…にそれ」

「言葉の通りだ。お前も、俺と居たいだろ?」

 そう言った司の、今日初めての笑顔は心底嬉しそうで、身体の中が疼く位色っぽくて、ほんの少しだけ怖かった。

「これなら修也が暴れても手首を傷付けない」

 うっとりとオレの腕をなぞり、そう溢す司はやっぱり何かが可笑しい。

「修也は俺のことが嫌いか」

「すっ、好きだよ!けどさ…」

「なら別れるなんて許さない」

「っ…!?」

 その言いかたに目を見開くけれど司は離してくれなくて、額に唇を落とすと滲んだ涙を親指で拭った。

「男同士の仕方が分からないと言ったな。」

「……うん」

「なら、俺が全て教えてやる。」

「へ」

「だから……頼むから、俺を拒まないでくれ。」

「っ」

 すがるように眇められた瞳、その中に確かな熱量を感じ、息を呑み。

 別に、そこまで片意地張らなくてもよかったんだ。と納得して、それから嬉しくなった。司の気持ちが、自分と近いものだと分かって。

「司…」

 オレは言葉を返そうとしたけれど気のきいた返事が思い浮かばなくて、代わりに上体を浮かせてその唇に触れるだけのキスをした。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

「あっ、うぁ……」

「……修也。可愛い」

 慎ましやかな胸の先に口付けながら、司は薄く微笑んでそう言った。
 ちろりと覗く赤い舌はオレの脳を視界から犯し、労るようにゆるゆると刺激される局部からは鼓膜を震わせる水音が耳を犯して快感が肌の内側を駆け上がっていく。
 オレは昂る身体をなんとか落ち着けようと呼吸をしながら、目を強く閉じた。

「はあ……んっ、かわい、とか…ないって」

 本当にさ、オレのどこを見たら可愛く見えるわけ?
 なんて思いながら、恥ずかしくなって顔を背けると首筋にキスをされる。
 寡黙で、普段愛情表現とか全然してくれなくて、それに慣れてしまったオレには今の司は刺激が強かった。

「修也の可愛い所は、俺だけが知ってれば良い。」

「っあ」

 先を親指で軽く押され、ぴくっと身体が跳ねた。
 ぬるま湯の中で弛むような心地好さで、けれど身体は確実に快感を拾って、早くイきたいようなずっとこの心地好さに微睡んでいたいような気分になる。

 ……それを考えると、何度も激しく交じりあった彼女たちとのセックスは本当に欲求を満たすためだけのものだったんだね。

「んっ、ねえ司…もう暴れないからさ、腕、外してよ」

 司に愛されてる、ってちゃんと分かるのはすごく嬉しいんだけどさ、でもオレ実は現在進行形で腕縛られたままなんだよね。
 縛られたままヤるとか、そんなんで喜ぶような特殊な性癖してないし。いやまあ、触られて勃つのは生理現象だから仕方無いけど。

「ね、外して?」

「……外さないと駄目か?」

「駄目。オレも司に触りたい。」

 触ったり抱き締めたりしたいじゃん。
 纏められた手の指を司の襟元に掛けて此方に引き寄せ、唇を舌で辿れば小さく毒づいた司は手早くオレの拘束を解いてくれた。確かめるように手を開いたり閉じたりしてから、司に笑いかける。

「ん、ありがとう」

 オレは、眉を寄せてむっつりと口を閉じる司の首に片腕を回して、身体を密着させて抱き締めた。
 そのまま、もう片方の手をズボッとスウェットパンツの中に突っ込めば慌てたような声が聞こえる。

「修也っ」

「だって、司にも気持ちよくなって欲しい。」

 下着の中のモノは既に緩く芯を持ち始めていた。
 鎮めるように肩に指先が触れた頃、筋に沿うように先に向かって指を滑らせれば身体が少し跳ねたのが面白い。

「ちょっと勃ってるじゃん。嬉しいな、オレで興奮してくれたの?」

「……好きな奴が、自分の下で乱れているのに何も思わない訳が無いだろうっ」

「本当?オレも司が好きだよ。」

 はにかみそう言ってから、耳元で「一緒にイきたい」と囁けば司のモノはひくりと固さを増し、司(ほんにん)はといえば耐えるように目を眇めていた。
 煽るように何度か根元で指をくるくるとさせれば、熱くため息を吐いた司は、極々小さな声で。

「……後でへばっても、知らないからな。」

 そう言って、オレのモノに自分のモノをひたりとくっつけた。

「んんぅっ」

 司の局部を掴むオレの手ごと、オレの局部を包み込み司はゆっくりと上下に扱きだす。
 固さを増した敏感な粘膜が擦れあう感覚は未知のもので、自慰のような味気無い感覚とも、女の子の内部のように柔らかいもので包まれ締め付けられるのとも違った。
 背筋を這い回るぞくぞくとした快感に身悶え、知らず下唇を噛み締めていたら司がその境目を舐めてくる。

「我慢するな。」

 はあ、と熱い息を吐きながらそう言われ閉じていた瞳を開ければ、司は眉間に皺を寄せて頬を上気させていた。今まで見たこともないような扇情的な表情をしている。

「司、なんかエロい…」

 色気に充てられたようにぼんやりと呟けば、心外だ、と呟かれ、唇を塞がれた。

 口内を思うがまま蹂躙されそれに応えるように舌を絡める。背中に片手ですがり付き、捕えられたもう片手ごと再び動かされ、快さに身を捩りながら自分の手も互いを高揚させるため司に合わせて強弱をつけた。



 漏れる声はくぐもった呻きになり、息が上がって心拍数も上がるともう何にドキドキしているのか分からなくなってくる。

 どちらともつかない先走りが互いの手を汚し、身体と一緒に局部も震えてもうイきそうだと思った瞬間一際強く先端を圧されて堪える間もなく司と共に精を放っていた。

「はぁっ、は……ずっとキス、したまま…てのはちょっと苦しかったかも……。」

「けど、興奮しただろ?」

「……まあね」

 くたりと力の抜けた身体で司の喉元に額を擦り付けながら、されるがままに掌を伝う精液を拭われる。
 丁寧なその動作に眠気を感じると、体をひっくり返されて枕に顔を押し付ける形にされてしまった。

 呻くと、つむじのあたりに唇を落とされて首筋に乱暴に噛みつかれて、鋭い痛みに意図せず背が反り返る。

「ぁっいっ、痛!」

 俺が悲鳴をあげたらすぐにやめてくれたけど、じんじんと後を引く痛みになかなか呼吸が整わなくなった。

「まだ寝るなよ?」

「痛いのはやだって…」

「修也が俺を素直に受け入れてくれるなら、痛みはそれ程感じないだろうな。」

 それ程って…少しは痛いってことだよね?
 ぶるりと震えたオレのつむじに唇を落とすと、司は「大丈夫だ」と耳元で言った。

「知識だけはちゃんとある。用意もしてあるしな。」

「や、ヤル気満々じゃん!!」

「そうだな。」

 ふっと笑う声が聞こえてきて、堪らなく恥ずかしくなる。枕に顔を埋めながら、オレは誤魔化すように小さな声で話した。

「司は、しっかり用意とかしちゃうわけだし、ずっとオレとセックスするつもりだったの?」

「機会は伺っていた。まさかこんな形で叶うとは思ってなかったがな。」

「ね、じゃあさ…今更だけど、もしかして
 オレが女役?」

「なんだ、修也は俺を抱きたいのか?」

 …オレの下で女みたいに喘ぐ司って…なんか違う。
 途端に顔を歪めてしまうと、オレの違和感に気付いたらしい司が「なら大人しくしていろ。」と言い、オレの剥き出しの尻を撫でた。

「うわ、わっ…つ、司?」

「男同士ではここを使うことくらい知識にあるだろう」

「んっ…うん」

「男は女と違って、本来受け入れるべきではない場所に男を受け入れるわけだが…」

「んんっ」

 きゅっと閉じたそこが開かれ、外気にさらされた窄まりが収縮する。

「女の愛液とは違い、男の尻からはほんの少しの腸液しか分泌されない。」

「う…」

 広げたそこを塞ぐように、指が一本窄まりに触れる。触れた指を揺らされたけれど、当然濡れてなどいないそこは指の動きに合わせて引っ張られ、ちょっと引きつったような違和感を覚えた。

「だから、此処が裂けないように潤滑剤を使う必要がある。」

「…じ、じゅんかつざい?」

「ローションや、軟膏のことだ。」

 あ、ああ、ローションのことか…。

「オレ、そんなの置いてないよ?」

 腰をひねって背後の司を振り仰ぐと、頭を掴まれ唇を啄まれた。

「知識もあるし用意もしてある。そう言っただろう」

 司の腕が伸ばされるのが視界の端に映る。どうやら、用意したローションを手に取ったようだ。

「漸く…本当にお前を俺のものに出来るな」

 微笑んだ司はそれはそれは艶やかで、ごく、と生唾を飲み込んだ。
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