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chapter8 エンディング
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フランツはベッドの上で時が止まったように身を硬くしたまま、パウロだけを深く見つめている。
「ああ、パウ……」
身体中から力が抜けていく。
「私は……君に会いたくて……」
ずっと会いたくて……
「……だから、パウに会えて……幸せなんだ」
プランツは両目にパウロを収めながら、ひとり言のように洩らす。
「パウの顔が見たかった……声が聞きたかった……楽しく、話したかった……」
訥々と言葉を連ね、息を一つ吐く。
「ああ、でも……それらは全て……」
そこで静かになった。
時計の針がゆったりと刻む間、二人は黙って見つめ合う。
パウロはフランツの手に唇をあてた。
「言ってくれ、フラ」
手のひらが熱く感じる。ああ、パウの熱量だ……フランツは泣きたくなる代わりに、晴れやかに唇を開いて言った。
「今の、パウの言葉でわかった……私もだ、同じだよ」
好きなんだ、と告げる。
「だから、私はパウに会いたかったんだ……」
胸のつかえがようやく取れたような安堵感がフランツを包み込んだ。
「ありがとう、パウ」
愛していると言ってくれたから、自分の気持ちがわかった。
フランツは全身が安らかに満たされていくのを感じる。今まで手を伸ばせば掴める霧の中で立ち往生していた。無意識に何かを恐れていた。けれど霧が晴れて感情が開放された。霧を追い払ってくれたのはパウロだ。
「幼馴染みとしても……友人としても……一人の男としても……フランツ・ツェーゲラーは、パウロ・ビアンチを魂の底から愛している……」
先程のパウロの言葉をなぞる。
「パウのためなら、何でもやるよ……」
フランツはひどく狼狽していた自分がおかしくて顔をほころばせた。パウロとポルノのようなセックスしただけなのに。それがパウロのためになるのなら、何度でも行為をやるだろう。パウロが望むのならば。
「俺を奪ってくれ」
パウロはフランツの手から唇を離さずに囁く。
「俺の身体も、心も、魂も、全てフラのものだ。フラに蹂躙されて征服されたい」
「私は生真面目なだけのドイツ人だから、君を奪って征服することはできないよ……昔のゲルマン人じゃないんだ」
フランツは控えめに笑った。
「けれど、パウが望むなら……私は君を奪って征服するよ。精一杯、頑張りたいね」
まるでスポーツ大会で述べる宣誓のような文句に、フランツ自身が苦笑いする。しかし他にどのように言えば良いのだろう。実際に頑張らなければならない。好きなパウロのためならば。
「フラは、フラのままでいいんだ」
パウロは大切そうにフランツの手をベッドの上に戻す。
「俺も俺のままだ。嘘をついて、いつもフラを泣かせる」
「パウの嘘なら、ケーキのように甘いだろうね……」
パウロが何か口にしたような記憶があるが、どうでもよい些細なことだと思った。パウロならチョコレートケーキのようにまったりと甘く、とろけるようにうっとりとする嘘をついてくれるに違いない。
「そうだな」
パウロは破顔した。フランツも眩しく感じるほどのこぼれるような笑顔だった。
「俺の嘘はドルチェだ。ミルクのように甘ったるい。けれど、愛しているのは嘘じゃない」
「わかっているよ、パウ」
フランツもまた幸せそうな表情になって、ベッドから上半身を起こす。永遠の眠りから目覚めたような快活さと心地良さが湧き上がってきた。
「信じられない」
自然に洩れ出た。
「大丈夫だ、俺を見ろ」
パウロはベッドの端に腰をかける。フランツは言われるままにパウロに顔を向ける。その顎に手を添えて、パウロはキスをした。
気持ちが眩暈するくらいの激しいキス。
二人は感情のままに互いに抱き合い、ずっとずっと放さなかった。
やがて、満たされた運命が新たに廻り始めた。
「さあ、二人で物語を始めよう」
「ああ、パウ……」
身体中から力が抜けていく。
「私は……君に会いたくて……」
ずっと会いたくて……
「……だから、パウに会えて……幸せなんだ」
プランツは両目にパウロを収めながら、ひとり言のように洩らす。
「パウの顔が見たかった……声が聞きたかった……楽しく、話したかった……」
訥々と言葉を連ね、息を一つ吐く。
「ああ、でも……それらは全て……」
そこで静かになった。
時計の針がゆったりと刻む間、二人は黙って見つめ合う。
パウロはフランツの手に唇をあてた。
「言ってくれ、フラ」
手のひらが熱く感じる。ああ、パウの熱量だ……フランツは泣きたくなる代わりに、晴れやかに唇を開いて言った。
「今の、パウの言葉でわかった……私もだ、同じだよ」
好きなんだ、と告げる。
「だから、私はパウに会いたかったんだ……」
胸のつかえがようやく取れたような安堵感がフランツを包み込んだ。
「ありがとう、パウ」
愛していると言ってくれたから、自分の気持ちがわかった。
フランツは全身が安らかに満たされていくのを感じる。今まで手を伸ばせば掴める霧の中で立ち往生していた。無意識に何かを恐れていた。けれど霧が晴れて感情が開放された。霧を追い払ってくれたのはパウロだ。
「幼馴染みとしても……友人としても……一人の男としても……フランツ・ツェーゲラーは、パウロ・ビアンチを魂の底から愛している……」
先程のパウロの言葉をなぞる。
「パウのためなら、何でもやるよ……」
フランツはひどく狼狽していた自分がおかしくて顔をほころばせた。パウロとポルノのようなセックスしただけなのに。それがパウロのためになるのなら、何度でも行為をやるだろう。パウロが望むのならば。
「俺を奪ってくれ」
パウロはフランツの手から唇を離さずに囁く。
「俺の身体も、心も、魂も、全てフラのものだ。フラに蹂躙されて征服されたい」
「私は生真面目なだけのドイツ人だから、君を奪って征服することはできないよ……昔のゲルマン人じゃないんだ」
フランツは控えめに笑った。
「けれど、パウが望むなら……私は君を奪って征服するよ。精一杯、頑張りたいね」
まるでスポーツ大会で述べる宣誓のような文句に、フランツ自身が苦笑いする。しかし他にどのように言えば良いのだろう。実際に頑張らなければならない。好きなパウロのためならば。
「フラは、フラのままでいいんだ」
パウロは大切そうにフランツの手をベッドの上に戻す。
「俺も俺のままだ。嘘をついて、いつもフラを泣かせる」
「パウの嘘なら、ケーキのように甘いだろうね……」
パウロが何か口にしたような記憶があるが、どうでもよい些細なことだと思った。パウロならチョコレートケーキのようにまったりと甘く、とろけるようにうっとりとする嘘をついてくれるに違いない。
「そうだな」
パウロは破顔した。フランツも眩しく感じるほどのこぼれるような笑顔だった。
「俺の嘘はドルチェだ。ミルクのように甘ったるい。けれど、愛しているのは嘘じゃない」
「わかっているよ、パウ」
フランツもまた幸せそうな表情になって、ベッドから上半身を起こす。永遠の眠りから目覚めたような快活さと心地良さが湧き上がってきた。
「信じられない」
自然に洩れ出た。
「大丈夫だ、俺を見ろ」
パウロはベッドの端に腰をかける。フランツは言われるままにパウロに顔を向ける。その顎に手を添えて、パウロはキスをした。
気持ちが眩暈するくらいの激しいキス。
二人は感情のままに互いに抱き合い、ずっとずっと放さなかった。
やがて、満たされた運命が新たに廻り始めた。
「さあ、二人で物語を始めよう」
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