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chapter6 愛撫

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 フランツの頭上から屈み込むと、またキスをする。フランツの心臓がバクバクと鳴ったが、少しは慣れたのか、落ち着いて受け入れられた。だが、キスだけではなかった。
 パウロは利き手でフランツのペニスを握ると、手のひらであやすように揉み、ゆっくりと動かした。
 フランツは声をあげそうになったが、啄ばむようにキスをするパウロの唇に奪われ、下半身を麻痺させるような快感に襲われる。
 パウロはキスを繰り返しながら、女性をエスコートするような優雅さで、ペニスを扱いた。パウロの手で淫らに勃ったペニスは、もはや無条件降伏をしたかのように成すがままにされている。明らかに欲情を放ちたがっていた。
 フランツは歯を喰いしばって耐えた。何度も扱かれ、自分の気力も蕩けそうになっている。下半身を弄ぶ興奮は、フランツへ身を委ねるよう甘く囁いている。それは抗えない命令だった。

「……あ」

 フランツはもう耐え切れないというように、声を落とす。
 パウロは舌の先で優しく舐めると、そっとキスをやめた。
 自由になったフランツは深く息を吐いた。その瞬間に、ペニスは溜まっていた快感を解き放った。

「……すまない」

 やがて、フランツは消え入るように呟いた。目の前のパウロの肌に、飛び散った精液がついている。幼馴染みの手で達してしまった事実に、気を失いそうだった。
 ――なんてことだろう……
 フランツはひどく感じてしまっていた。

「謝るな、フラ」

 パウロはびっしょりと濡れたペニスを手放した。その手は白い液で汚れている。

「俺がそうさせたんだ。フラが罪の意識を感じることはない」
「……けれど、私はパウに……」

 欲情したんだ、と言いかけたが、残骸となっていた羞恥心がにわかに息を吹き返した。

「いいか、フラ。ここで確認をしておこう」

 急にパウロは、ビアンチ監督の口調になった。

「これはゲイポルノ映画の撮影だ。シーンの一つなんだ。早く次へ行こう」
「……」

 フランツは何故だか、心がぎゅうっと強くねじり締められたような気分になった。だがどうしてそう感じたのかわからないまま頷いた。

「……ああ、うん、そうだね」

 パウロもその返事が欲しかったように頷くと、ちょっとだけ屈んでいた背を真っ直ぐにした。

「さあ、フラ。俺が今やったことを、今度はフラがやってくれ」
「……えっ?……」

 フランツは目を大きく見開くと、パウロを見上げる。

「俺のペニスを、舌で舐めてくれ」
「……」

 フランツは突然声が出なくなってしまったかのように、口だけが動いた。

「舐めるのが嫌なら、しゃぶってもいい。扱いたっていいさ。フラの好みで選んでくれ。どのコースも最終的にはゴールは一緒だ」

 パウロは冗談めかして言う。

「俺のも、ずっと勃ちっぱなしだ。フラと同じで、気持ちよくなりたいんだ」

 フランツの顔が絵の具で塗ったように真っ赤になる。改めて恥ずかしくなったが、パウロの言葉を否定できなかった。

「俺もいかせてくれ、フラの手で……」

 フランツは馬鹿のように見上げていた顔を下げた。ちょうど視線の先に、パウロのペニスが自分を待っていた。

「……無理だ」

 フランツは反射的に首を横に振っていた。

「無理だ、無理だよ……私にはできない……」

 鸚鵡のように、無理だ無理だと繰り返す。

「できない……無理だ……」
「やるんだ、フラ」

 パウロは汚れていない手で、フランツの頭をなだめるように撫でる。

「怖がることじゃない……俺を信じるんだ」

 フランツは鼻を啜った。幼い頃、いつもパウロは頭を撫でて自分を慰めていた。まだ自分は子供だと思われているのだと、恥ずかしくなった。
 ――怯むな、フランツ。
 自分に言い聞かせる。
 ――子供のように駄々をこねるんじゃない。パウのためなんだ……
 フランツは息を吸った。下半身はまだ達した名残に濡れている。びくびくする疼きを唾もろとも喉の奥に押し込んで、眼前に集中した。
 パウロのペニスは、鼻先にあった。綺麗だと感じた。容がひどく整っている。
 動悸がまた速まってくる。そのうち心臓が停止するんじゃないかと思うほど、今日は全力疾走である。それでもいいとフランツは思った。パウのためなら、心臓が壊れるぐらいどうってことない……
 フランツは再び小さく吐いて、唾を呑み込んだ。口の中が渇いている。飢えから逃れるように舌が出ると、ぴんと張っているパウロのペニスを、震えながらぺろっと舐めた。
 それは硬かった。まるでギリシャ彫刻の石像を舐めたような感覚。
 フランツはすぐに舌を引っ込めた。ペニスの味が口の中全体に広まる。それは不思議な味わいだった。

「……続けてくれ」

 頭上からパウロが促す。
 フランツは顔を近づけて、もう一度舌を出した。今度は下から上へとなぞるように舐める。
 ペニスは湿っていて、少しだけざらついた感触がするが、なめらかだと思った。まるでもぎたての果実を舌で味わっているように……
 フランツの手が、引っ張られるようにシーツを離れた。その手は迷いなくパウロの腰へと向かい、両手で抱える。しっかりと支えると、フランツはミッションを開始するようにペニスを熱心に舐めた。

「……フラ……」

 しばらくして、かすれた声が落ちてくる。

「フラ……」
「……何だい……」

 フランツは丁寧に動いていた舌を休ませて、息をつきながら顔をあげた。

「何か……まずいことをしてしまったのかな……」
「……いいや」

 パウロは吐息のように呟く。

「最高だ……」

 フランツの愛撫を全身で感じているようだった。
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