レッド・クロス

蒼月さわ

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 全体練習が始まり、ストレッチやランニングのあとで、ミニゲームが行われた。それぞれグリーンとピンク色のビブスを着た二組に分かれ、四対四で試合を行う。
 レインはピンクのビブスを着て、最初のミニゲームをタッチライン際で観戦していた。少人数で行うミニゲームは、一人のボールのタッチ数を増やし、技術力を高め、戦術的な動きを確認するために行われるものだ。

「ナイジェル! スターンの動きをよく見るんだ!」

 ハーツが指示を飛ばしている。ピンクのビブスを着ているナイジェル・グラントは、同じセンターバックコンビを形成しているスターンの動きに合わせて、引きさがる。
 グリーンのビブスを着たテレンスがボールをサイドへ回し、ゲイリーがドリブルをする。そこへピンク組のヴェールが華麗に足を繰り出して、ボールをカット。転がったボールをアレックスが取り、フェイントをかけて、同じグリーン組のバートンへボールを繋げる。

「もっと互いにプレスをかけるんだ!」

 ハーツは激を飛ばす。
 監督の叫びに促されるように、ボールを持った相手へ、プレッシングをかける動きが活発になる。
 レインは口を結んで眺めていた。ミニゲーム全体を視界に入れながら、無意識にアレックスの動きに反応していた。

 ――さっきのって、何だったんだろう。

 練習に集中しなければならないのだが、どうしても気になってしまう。
 レインはこっそりと、同じタッチライン際に立ってミニゲームを見ているギルフォードを盗み見る。

 ――ギルに何か言われたのかな?

 クラブのチームメイトであるフランス人選手ヴィクトール・ヴュレルをして「チームメイトをナーバスにさせることに関しては、世界トップクラス」と言わしめるギルフォードだ。実際、ナーバスになった元チームメイトたちもいたらしい。

 ――でも、ギルがアレックスに何を言うんだろう。

 うーんと首をひねる。下手くそとでも罵られたのかなと考え込んでいると、足元にボールが転がってきた。
 レインは足でボールを止める。アレックスが走ってきた。

「はい」

 拾い上げて手渡すと、アレックスも両手で受け取った。

「ありがとう」

 普通に礼を言って、ライン際からボールを投げ入れる。ボールはゲイリーへ渡った。

「さあ! あと五分で交代だ!」

 ハーツは両手を叩く。選手たちのボールの奪い合いが活発になる。

 ――オレの考え過ぎだよね。

 当のアレックスはミニゲームに集中している。
 レインは頭の中でモヤモヤしているものを捨てるように、軽く首を左右に曲げた。自分も意識をサッカーに傾けようと思った。その場で腕を上へ伸ばし、足の膝を折り曲げる。ミニゲームの前なので、簡単に体を動かす。

「五分経過! メンバー交代!」

 やがて、ストップウォッチで時間を計っていたブリストルコーチが告げ、次にミニゲームを行う選手たちの名前を呼ぶ。レインも呼ばれ、気合十分に腕を振り回しながら、グラウンドに入る。

「転ぶなよ、坊主!」

 入れ替わる際にゲイリーがレインの鼻をぎゅっと摘んで、背中を叩いていった。

「転ばないよ!」

 鼻をさすりながら言い返し、ピンク色のビブス組に駆け寄る。同じ組にはギルフォードとバートンがいて、バートンの足元にはボールが置かれてある。
 コーチがホイッスルを鳴らした。
 バートンはボールをギルフォードへ回す。ギルフォードはすぐにレインへボールを蹴る。レインは軽く足で止め、隣にいるベンジャミン・ライトへ蹴って渡す。

「早いパス回しをするんだ!」

 ハーツが指示をする。

「パスをカットして、ボールを繋げる! 正確に、早く!」

 グリーンのビブスを着たジュード・モーリスがパスカットし、同じ組のバリー・ホーンへスルーパスを送る。ホーンも素早くゲーリック・バーションへパスを繋げる。
 ミニゲームではボールの奪い合いが何度も繰り返され、選手たちのボールタッチ数をあげる。レインもアレックスの件はすっかり忘れて、ゲームに集中した。

「よし! 今から互いにゴールを狙って打つんだ!」

 両端にはゴールポストが置かれていて、それぞれキーパーが立っていた。監督の指示で、様子を眺めていたキーパーたちもミニゲームに参入する。
 レインはちらっとゴールポストを見た。ボールはギルフォードの足に戻って、同じようにゴールポストを振り返った。
 よし! とレインは駆けだす。それをわかっていたように、ギルフォードはボールを蹴って合わせる。
 レインは足元にきたボールを、思いっきり蹴った。ボールは少し歪んで飛んでいき、ゴールポストに当たった。

「あー!」

 両手で頭を抱える。ゴールネットを狙っていたのだが、どうも足の向きが悪かったようだ。

「ちゃんと前を見るんだ! レイン!」

 ハーツが指先を伸ばして、指摘する。

「ただ、ボールを打てばいいんじゃない!」
「はい!」

 レインは素直に返事をする。

「惜しかったね」

 バートンがレインの頭を軽く撫でる。

「一応、狙ったんだけどさ」

 少々悔しそうにレインはぼやく。

「シュートって、そういうものだよ」

 バートンは肩をすくめた。
 キーパーのトレヴァー・アンダーソンがボールを投げる。モーリスが足でうまくキャッチして、即座にバリーへ繋げる。今度はバリーが俊足を生かして走り、シュートする。
 ボールはまっすぐにゴールネットに吸い込まれた。

「その調子だ!」

 ハーツは手を叩いて、周囲を鼓舞する。

「サッカーはゴールが決まらないと勝てないスポーツだ! とにかくゴールを決めて、我々がユーロに出場するんだ!」

 その言葉に後押しされるように、練習は熱を帯びていった。
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