8 / 15
6
しおりを挟む
全体練習が始まり、ストレッチやランニングのあとで、ミニゲームが行われた。それぞれグリーンとピンク色のビブスを着た二組に分かれ、四対四で試合を行う。
レインはピンクのビブスを着て、最初のミニゲームをタッチライン際で観戦していた。少人数で行うミニゲームは、一人のボールのタッチ数を増やし、技術力を高め、戦術的な動きを確認するために行われるものだ。
「ナイジェル! スターンの動きをよく見るんだ!」
ハーツが指示を飛ばしている。ピンクのビブスを着ているナイジェル・グラントは、同じセンターバックコンビを形成しているスターンの動きに合わせて、引きさがる。
グリーンのビブスを着たテレンスがボールをサイドへ回し、ゲイリーがドリブルをする。そこへピンク組のヴェールが華麗に足を繰り出して、ボールをカット。転がったボールをアレックスが取り、フェイントをかけて、同じグリーン組のバートンへボールを繋げる。
「もっと互いにプレスをかけるんだ!」
ハーツは激を飛ばす。
監督の叫びに促されるように、ボールを持った相手へ、プレッシングをかける動きが活発になる。
レインは口を結んで眺めていた。ミニゲーム全体を視界に入れながら、無意識にアレックスの動きに反応していた。
――さっきのって、何だったんだろう。
練習に集中しなければならないのだが、どうしても気になってしまう。
レインはこっそりと、同じタッチライン際に立ってミニゲームを見ているギルフォードを盗み見る。
――ギルに何か言われたのかな?
クラブのチームメイトであるフランス人選手ヴィクトール・ヴュレルをして「チームメイトをナーバスにさせることに関しては、世界トップクラス」と言わしめるギルフォードだ。実際、ナーバスになった元チームメイトたちもいたらしい。
――でも、ギルがアレックスに何を言うんだろう。
うーんと首をひねる。下手くそとでも罵られたのかなと考え込んでいると、足元にボールが転がってきた。
レインは足でボールを止める。アレックスが走ってきた。
「はい」
拾い上げて手渡すと、アレックスも両手で受け取った。
「ありがとう」
普通に礼を言って、ライン際からボールを投げ入れる。ボールはゲイリーへ渡った。
「さあ! あと五分で交代だ!」
ハーツは両手を叩く。選手たちのボールの奪い合いが活発になる。
――オレの考え過ぎだよね。
当のアレックスはミニゲームに集中している。
レインは頭の中でモヤモヤしているものを捨てるように、軽く首を左右に曲げた。自分も意識をサッカーに傾けようと思った。その場で腕を上へ伸ばし、足の膝を折り曲げる。ミニゲームの前なので、簡単に体を動かす。
「五分経過! メンバー交代!」
やがて、ストップウォッチで時間を計っていたブリストルコーチが告げ、次にミニゲームを行う選手たちの名前を呼ぶ。レインも呼ばれ、気合十分に腕を振り回しながら、グラウンドに入る。
「転ぶなよ、坊主!」
入れ替わる際にゲイリーがレインの鼻をぎゅっと摘んで、背中を叩いていった。
「転ばないよ!」
鼻をさすりながら言い返し、ピンク色のビブス組に駆け寄る。同じ組にはギルフォードとバートンがいて、バートンの足元にはボールが置かれてある。
コーチがホイッスルを鳴らした。
バートンはボールをギルフォードへ回す。ギルフォードはすぐにレインへボールを蹴る。レインは軽く足で止め、隣にいるベンジャミン・ライトへ蹴って渡す。
「早いパス回しをするんだ!」
ハーツが指示をする。
「パスをカットして、ボールを繋げる! 正確に、早く!」
グリーンのビブスを着たジュード・モーリスがパスカットし、同じ組のバリー・ホーンへスルーパスを送る。ホーンも素早くゲーリック・バーションへパスを繋げる。
ミニゲームではボールの奪い合いが何度も繰り返され、選手たちのボールタッチ数をあげる。レインもアレックスの件はすっかり忘れて、ゲームに集中した。
「よし! 今から互いにゴールを狙って打つんだ!」
両端にはゴールポストが置かれていて、それぞれキーパーが立っていた。監督の指示で、様子を眺めていたキーパーたちもミニゲームに参入する。
レインはちらっとゴールポストを見た。ボールはギルフォードの足に戻って、同じようにゴールポストを振り返った。
よし! とレインは駆けだす。それをわかっていたように、ギルフォードはボールを蹴って合わせる。
レインは足元にきたボールを、思いっきり蹴った。ボールは少し歪んで飛んでいき、ゴールポストに当たった。
「あー!」
両手で頭を抱える。ゴールネットを狙っていたのだが、どうも足の向きが悪かったようだ。
「ちゃんと前を見るんだ! レイン!」
ハーツが指先を伸ばして、指摘する。
「ただ、ボールを打てばいいんじゃない!」
「はい!」
レインは素直に返事をする。
「惜しかったね」
バートンがレインの頭を軽く撫でる。
「一応、狙ったんだけどさ」
少々悔しそうにレインはぼやく。
「シュートって、そういうものだよ」
バートンは肩をすくめた。
キーパーのトレヴァー・アンダーソンがボールを投げる。モーリスが足でうまくキャッチして、即座にバリーへ繋げる。今度はバリーが俊足を生かして走り、シュートする。
ボールはまっすぐにゴールネットに吸い込まれた。
「その調子だ!」
ハーツは手を叩いて、周囲を鼓舞する。
「サッカーはゴールが決まらないと勝てないスポーツだ! とにかくゴールを決めて、我々がユーロに出場するんだ!」
その言葉に後押しされるように、練習は熱を帯びていった。
レインはピンクのビブスを着て、最初のミニゲームをタッチライン際で観戦していた。少人数で行うミニゲームは、一人のボールのタッチ数を増やし、技術力を高め、戦術的な動きを確認するために行われるものだ。
「ナイジェル! スターンの動きをよく見るんだ!」
ハーツが指示を飛ばしている。ピンクのビブスを着ているナイジェル・グラントは、同じセンターバックコンビを形成しているスターンの動きに合わせて、引きさがる。
グリーンのビブスを着たテレンスがボールをサイドへ回し、ゲイリーがドリブルをする。そこへピンク組のヴェールが華麗に足を繰り出して、ボールをカット。転がったボールをアレックスが取り、フェイントをかけて、同じグリーン組のバートンへボールを繋げる。
「もっと互いにプレスをかけるんだ!」
ハーツは激を飛ばす。
監督の叫びに促されるように、ボールを持った相手へ、プレッシングをかける動きが活発になる。
レインは口を結んで眺めていた。ミニゲーム全体を視界に入れながら、無意識にアレックスの動きに反応していた。
――さっきのって、何だったんだろう。
練習に集中しなければならないのだが、どうしても気になってしまう。
レインはこっそりと、同じタッチライン際に立ってミニゲームを見ているギルフォードを盗み見る。
――ギルに何か言われたのかな?
クラブのチームメイトであるフランス人選手ヴィクトール・ヴュレルをして「チームメイトをナーバスにさせることに関しては、世界トップクラス」と言わしめるギルフォードだ。実際、ナーバスになった元チームメイトたちもいたらしい。
――でも、ギルがアレックスに何を言うんだろう。
うーんと首をひねる。下手くそとでも罵られたのかなと考え込んでいると、足元にボールが転がってきた。
レインは足でボールを止める。アレックスが走ってきた。
「はい」
拾い上げて手渡すと、アレックスも両手で受け取った。
「ありがとう」
普通に礼を言って、ライン際からボールを投げ入れる。ボールはゲイリーへ渡った。
「さあ! あと五分で交代だ!」
ハーツは両手を叩く。選手たちのボールの奪い合いが活発になる。
――オレの考え過ぎだよね。
当のアレックスはミニゲームに集中している。
レインは頭の中でモヤモヤしているものを捨てるように、軽く首を左右に曲げた。自分も意識をサッカーに傾けようと思った。その場で腕を上へ伸ばし、足の膝を折り曲げる。ミニゲームの前なので、簡単に体を動かす。
「五分経過! メンバー交代!」
やがて、ストップウォッチで時間を計っていたブリストルコーチが告げ、次にミニゲームを行う選手たちの名前を呼ぶ。レインも呼ばれ、気合十分に腕を振り回しながら、グラウンドに入る。
「転ぶなよ、坊主!」
入れ替わる際にゲイリーがレインの鼻をぎゅっと摘んで、背中を叩いていった。
「転ばないよ!」
鼻をさすりながら言い返し、ピンク色のビブス組に駆け寄る。同じ組にはギルフォードとバートンがいて、バートンの足元にはボールが置かれてある。
コーチがホイッスルを鳴らした。
バートンはボールをギルフォードへ回す。ギルフォードはすぐにレインへボールを蹴る。レインは軽く足で止め、隣にいるベンジャミン・ライトへ蹴って渡す。
「早いパス回しをするんだ!」
ハーツが指示をする。
「パスをカットして、ボールを繋げる! 正確に、早く!」
グリーンのビブスを着たジュード・モーリスがパスカットし、同じ組のバリー・ホーンへスルーパスを送る。ホーンも素早くゲーリック・バーションへパスを繋げる。
ミニゲームではボールの奪い合いが何度も繰り返され、選手たちのボールタッチ数をあげる。レインもアレックスの件はすっかり忘れて、ゲームに集中した。
「よし! 今から互いにゴールを狙って打つんだ!」
両端にはゴールポストが置かれていて、それぞれキーパーが立っていた。監督の指示で、様子を眺めていたキーパーたちもミニゲームに参入する。
レインはちらっとゴールポストを見た。ボールはギルフォードの足に戻って、同じようにゴールポストを振り返った。
よし! とレインは駆けだす。それをわかっていたように、ギルフォードはボールを蹴って合わせる。
レインは足元にきたボールを、思いっきり蹴った。ボールは少し歪んで飛んでいき、ゴールポストに当たった。
「あー!」
両手で頭を抱える。ゴールネットを狙っていたのだが、どうも足の向きが悪かったようだ。
「ちゃんと前を見るんだ! レイン!」
ハーツが指先を伸ばして、指摘する。
「ただ、ボールを打てばいいんじゃない!」
「はい!」
レインは素直に返事をする。
「惜しかったね」
バートンがレインの頭を軽く撫でる。
「一応、狙ったんだけどさ」
少々悔しそうにレインはぼやく。
「シュートって、そういうものだよ」
バートンは肩をすくめた。
キーパーのトレヴァー・アンダーソンがボールを投げる。モーリスが足でうまくキャッチして、即座にバリーへ繋げる。今度はバリーが俊足を生かして走り、シュートする。
ボールはまっすぐにゴールネットに吸い込まれた。
「その調子だ!」
ハーツは手を叩いて、周囲を鼓舞する。
「サッカーはゴールが決まらないと勝てないスポーツだ! とにかくゴールを決めて、我々がユーロに出場するんだ!」
その言葉に後押しされるように、練習は熱を帯びていった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる