男子校的教師と生徒の恋愛事情

蒼月さわ

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幕間 出会う②

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 変な音を立てて邪魔をしてはいけないと、俯き加減でコソコソと歩く。男性の近くまで来て、前を横切るのではなく背後を通り過ぎようと「すみません」と一言添えて、本棚と男性の間の狭いスペースを通り抜けようとした。時に、

「君」

 と、突然声が降ってきた。

 一成は反射的に足を止める。え? と思って声がした方を振り向くと、男性の背中がある。すらりと伸びて均整の取れた後ろ姿。ネイビーブルーのスーツが綺麗に整っている。

 ――俺に言ったのか?

 高い塀のような男性の背中を目でのぼるように、首を後ろに曲げて仰ぎ見る。すると、もう一度声がした。

「君、下品だな」

 まるで目の前に台本があって、そう書かれてある台詞を読むかのような抑揚のない口調。

 一成は唖然とその場で固まった。下品? 今の今まで聞いたことのない衝撃的な言葉に、いや、何を言っているんだこの人と、驚きや反発を越えて呆れる。というか、あまりにも唐突で正直戸惑った。

 ――俺、何かしたか?

 見知らぬ男性である。

 一成はぐっと顎を上げた。下品という言葉のインパクトに徐々に腹が立ってきた。元々この学園へ入学したくなかった一成である。その原因である叔父への反発心もあって、それが先生だか何だか知らない人間のわけのわからない一言で、怒りが猛然と吹き出した。

 ――誰だ、この人。

 胡乱気うろんげに背中と向き合う。あからさまに不審者にでも遭遇したような眼差しをぶつけた。その不躾ぶしつけな眼差しを背中で感じ取ったのか、男性は肩越しに振り返って一成に目をやると、フッと鼻で笑った。

 一成はムッとなる。何だこの人と、怪しむ色が顔全面に出る。すると男性はフフッと鼻で笑った。とても愉快そうに。

 二度も鼻で笑われた一成は、相手が誰だろうが構わないとばかりに食ってかかった。

「あの!……」

 まるで一成の文句を遮るように、男性は優雅な身のこなしで振り返った。

「君が悪い」

 色に例えればダークな声。

 一成は口先から飛び出す寸前だった「あの! 俺何かしましたか!」という文句を喉元で呑み込んだ。

 男性の顔立ちは外国映画で見るような俳優のようだった。両目の色も薄い緑色をした異国風で、どこかシニカルに一成を見つめている。

「先程の君の行動が愉快でね。つい下品だと感じた」

 本を朗読しているような心地良い口調。

 一成は吸い寄せられるように男性に視線が釘付けになった。先程の行動というのは、本棚を前にしてウロウロと彷徨さまよい、本を手に取ろうとしては止めるという繰り返しのことだろうか。それが下品なのか、男性にとっては。

「たくさんの本を前にして迷うのは、人生を迷うことと同じだ。躊躇ためらわずに手を伸ばしなさい。その手が掴んだ本を読みなさい。それが君に幸運をもたらすだろう」

 端整な口元が容赦なく言葉で刻んでいく。
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