男子校的教師と生徒の恋愛事情

蒼月さわ

文字の大きさ
上 下
48 / 69

第五話④

しおりを挟む
「明日でもいいぞ」
「やったあ!」

 両手で無邪気にバンザイする勇太に、伝馬が慌てて「勇太!」と声をかける。しかし当人には届いていない。

「忘れるなよ、綾野」
「はいはーい!!」
「返事は一度でいい」

 一成は教師らしく注意するが、何だか小言を喰らわすやかまし屋のような気分になってちょっと気が滅入った。「大丈夫! 元気なのは良いことだ!」と古矢が横から口を出してきたので、いい加減にその首を締めたくなった。

「話はそれだけか」
「――はい、ありがとうございます」

 伝馬が小さく頭を下げる。お前がプリントを忘れたわけじゃないだろうと一成は苦笑いしながら椅子を引いて座った。伝馬につられて勇太も「すみませんでした!」と笑顔で言ってきたので、もう教室に戻れと二人に手を振った。

「あの、先生」

 伝馬は一成の机の上をちらっと見た。何かが気になっている様子である。何だと一成は伝馬が見ている先を目で追う。

「この本がどうかしたのか」

 図書室で借りた文庫本である。

 伝馬は目線を下げて、じっと見つめている。

「興味があるのか」

 どうしてそんなに凝視しているのかがわからない。

「先に読むか。貸すぞ」

 ちょうどいい渡りに船だと思った。七生には悪いが、やはり読むのに気が乗らなかった。伝馬が読みたいのなら、七生には自分が説明して本の貸し出し人を変更すればいいだけの話だ。

「いえ、興味があるっていうか……」

 伝馬はようやく目を上げて、一成を向いた。

「先生は、こういう本を読むんですか?」

 まるでテストの正解を聞くような口調で真剣に聞いてくる。

「まあな。読みたくなったらな」

 伝馬の言う「こういう本」の意味合いがよく掴めないが、本は読みたい時に読むのが一番没頭できると一成は考えている。だから今の気持ちでこの本を読むのは難しかった。

「俺も読んでみます」

 伝馬は素早く言った。

「先生が読んだら、次に貸して下さい。お願いします」

 だからお前が先に読めと一成は言いかけたが、強情そうに結ばれた口元を見てやめた。言い出したら頑固に聞かない伝馬の性格は、あの相談室での一件から一成の脳裏にがっつりと刻み込まれている。

「遅くなるが、それでもいいのか」
「大丈夫です」

 伝馬は嬉しそうに表情を崩す。その隣で勇太も覗き込むようにして文庫本を見ているが、タイトルの意味でもわからないのか左右に首を振っている。

「先生、ところでこの本を書いた人は何て読むんですか?」

 伝馬は文庫本の表紙の下に記されている作者名をきちんと読もうと目を細めている。「俺もわかんない!」と勇太も投げ出す。一成はふっと息をついた。俺も最初は読めなかったと思い出した。

「それは、ふかみ……」
深水ふかみえい先生だ!!」

 唐突に古矢が話に割り込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

山奥のとある全寮制の学園にて

モコ
BL
山奥にある全寮制の学園に、珍しい季節に転校してきた1人の生徒がいた。 彼によって学園内に嵐が巻き起こされる。 これは甘やかされて育った彼やそれを取り巻く人々が学園での出来事を経て成長する物語である。 王道学園の設定を少し変更して書いています。 初めて小説を書くため至らないところがあるかと思いますがよろしくお願いいたします。 他サイトでも投稿しております。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...