上 下
40 / 61

第四話⑧

しおりを挟む
 ――昼休みは昼休みで大変だったな……

 相談室でコンビニ弁当を食べようとした一成の前に「先生!! 聞いてください!!」と文字通りドアをぶん投げる勢いで現れたのは三年生の宇佐美だった。その海坊主が人になったようなガタイを見た瞬間、一成は椅子の上で仰け反った。宇佐美はドデカい声で喋りはじめて永遠に話が終わらないと、吾妻学園では人気ユーチューバー並みに有名な生徒だった。一成は背後を振り返り、後ろのソファーに座っていた順慶じゅんけいに身代わりになってもらおうとした。三年生なので三年生を受け持つ教師が応対するのが筋だろう。と、思ったのだが、驚いたことに順慶の姿は忽然こつぜんと消えていた。ドアが開きっぱなしになっていたので、忍者のような素早さで逃げ出したのだろう。一成は苦虫を嚙み潰したような顔になったが、宇佐美のご指名を受けた自分も押しつける気満々だったので、どっちもどっちだと諦めた。そんなくたびれた気持ちなど宇佐美には当然関係がないので、昼休み中、廊下にまで響き渡る大音量で「俺彼女とデートするんです!!!」という一言で終了する話を延々リピートされた。

 ――俺はよく我慢して聞いていたな……

 その後疲弊ひへいした一成は、何とかかんとか午後の授業をやり遂げて、放課後の業務も無事にこなし、うるさい先輩ズに無駄に絡まれる前に職員室を辞して帰ろうとしたら、相談室で雲隠れした順慶が柔道着姿で現れて「理事長が呼んでいるぞ」と伝えに来た。昼休みの件もあったので、一成は露骨に嫌な顔をして拒否ろうとした。が、ただの雇われ教師が権力者の命令に逆らえるわけがない。相手は叔父だが、むしろ身内にこそ容赦がないことは実体験で知っている。仕方なしに理事長室へ向かったが、用件は「最近、何かなかったか」だった。何があるんだと一成は噛みつきたくなった。この前から馬鹿のひとつ覚えのように聞いてくる。「何があったら叔父貴は喜ぶんだ」と皮肉半分に聞き返すと「愚か者、何もないことが正しいのだ」とわけわからん言葉が返ってきて、理事長室を退去した時、扉の脇に設置している自分の母親を描かせた絵画ドアホンを拳骨でぶっ叩きそうになった。

 ――これでようやく帰れると思ったが……

 理事長室を出た足で教員用駐車場へ行き愛車のエンジンをかけたら、信じられないことにかからなかった。数回エンジンスイッチを押したり、長押ししたりしたが、フェアレディZはウンともスンとも言わなかった。原因はもちろん不明で、ディーラーに連絡をして翌日引き取りに来てもらう予約をしてから、歩いて帰ることにした。

 ――災難というか、踏んだり蹴ったりというか……

 ある意味グランドフィナーレな一日の幕引きだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...