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第四話⑥
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「聞いていたに決まっているじゃん、ほら俺の耳」
勇太は首を曲げて圭に左耳を見せる。ここから聞いていたと主張したいらしい。
「伝馬はさ、ずっとまっすぐなんだから。まっすぐに、まっすぐに、向かっていけばいいんだ。どこまでもまっすぐに。それが伝馬なんだから」
満腹になったせいか、いつものひらがな口調ではない。しかしながら口元に小さな米粒がくっついていて、伝馬が自分の口元を指して教えると、勇太はひとさし指で取ってぺろっと食べた。
「まっすぐね」
圭は少し丸くなっていた背中を伸ばす。
「勇太の耳が機能していて良かったよ。珍しく感動した」
「あったり前じゃん。食べながらきちんと聞いていたって。俺食べないと死んじゃうし」
勇太の顔つきがとても重大な話であるように引き締まっているが、伝馬はとりあえず黙って聞いていて、圭は瞼を閉じて頭をかしげる。食べないと死ぬのは当たり前だろうと、どちらもリアクションに困ったような様子だ。しかし勇太は気にも留めないで伝馬へ向かって真剣に言う。
「だから、伝馬は伝馬のままでいっちゃえばいいんだよ。そのうちに先生がマイッタってなるから」
言われた伝馬が勇太の意味不明さに参ったような表情になる。どういう意味だろうと突っ込みたいが、突っ込んでも無駄なのは長年の付き合いでわかっている。
「あと、圭ちゃん。マジでキモい」
ついでというように当人を振り返って言葉で刺す。刺された圭は少しだけ頬を引き攣らせる。勇太には言われたくはないようだった。
そんなこんなでお昼休みも終わり、残りの授業も終えた頃には、伝馬は心の中で決意を強くさせていた。勇太が口にした「まっすぐに」という言葉が、不思議と鮮明に残っていた。
しかし――
伝馬は曇り空を胸内に抱えながら自転車を漕いでいく。その雲は段々と重たくなっていく。
前方にコンビニが見えてきた。立ち寄ろうかなと一瞬考えたが素通りする。コンビニで買う気力も湧かない。
次の十字路で交通量の多い基幹道路を左に曲がる。スーパーの大型店やドラッグストアなどの小売店が並ぶ通りを、気をつけながら走る。自宅まではまた距離がある。また十字路を右に曲がった。
一軒家やアパート、マンションがある住宅地に入る。道幅は狭くはないが、道路は網状になっていて今の時間帯だと歩行者や車も多い。伝馬はエコバックを片手に歩く女性を注意しながら追い越し、次に見えてきた歩行者を抜こうとして、急ブレーキをかけて止まった。
まだ周囲は車もライトをつけてはいない明るさだ。
歩いていたのは一成だった。
勇太は首を曲げて圭に左耳を見せる。ここから聞いていたと主張したいらしい。
「伝馬はさ、ずっとまっすぐなんだから。まっすぐに、まっすぐに、向かっていけばいいんだ。どこまでもまっすぐに。それが伝馬なんだから」
満腹になったせいか、いつものひらがな口調ではない。しかしながら口元に小さな米粒がくっついていて、伝馬が自分の口元を指して教えると、勇太はひとさし指で取ってぺろっと食べた。
「まっすぐね」
圭は少し丸くなっていた背中を伸ばす。
「勇太の耳が機能していて良かったよ。珍しく感動した」
「あったり前じゃん。食べながらきちんと聞いていたって。俺食べないと死んじゃうし」
勇太の顔つきがとても重大な話であるように引き締まっているが、伝馬はとりあえず黙って聞いていて、圭は瞼を閉じて頭をかしげる。食べないと死ぬのは当たり前だろうと、どちらもリアクションに困ったような様子だ。しかし勇太は気にも留めないで伝馬へ向かって真剣に言う。
「だから、伝馬は伝馬のままでいっちゃえばいいんだよ。そのうちに先生がマイッタってなるから」
言われた伝馬が勇太の意味不明さに参ったような表情になる。どういう意味だろうと突っ込みたいが、突っ込んでも無駄なのは長年の付き合いでわかっている。
「あと、圭ちゃん。マジでキモい」
ついでというように当人を振り返って言葉で刺す。刺された圭は少しだけ頬を引き攣らせる。勇太には言われたくはないようだった。
そんなこんなでお昼休みも終わり、残りの授業も終えた頃には、伝馬は心の中で決意を強くさせていた。勇太が口にした「まっすぐに」という言葉が、不思議と鮮明に残っていた。
しかし――
伝馬は曇り空を胸内に抱えながら自転車を漕いでいく。その雲は段々と重たくなっていく。
前方にコンビニが見えてきた。立ち寄ろうかなと一瞬考えたが素通りする。コンビニで買う気力も湧かない。
次の十字路で交通量の多い基幹道路を左に曲がる。スーパーの大型店やドラッグストアなどの小売店が並ぶ通りを、気をつけながら走る。自宅まではまた距離がある。また十字路を右に曲がった。
一軒家やアパート、マンションがある住宅地に入る。道幅は狭くはないが、道路は網状になっていて今の時間帯だと歩行者や車も多い。伝馬はエコバックを片手に歩く女性を注意しながら追い越し、次に見えてきた歩行者を抜こうとして、急ブレーキをかけて止まった。
まだ周囲は車もライトをつけてはいない明るさだ。
歩いていたのは一成だった。
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