34 / 69
第四話②
しおりを挟む
伝馬も颯天も更衣室のドア前で突っ立ち、襲いかかってきた方へ揃って顔を向ける。稽古場がある廊下から麻樹ともう一人の生徒が歩いてくる。剣道部の先輩ではない。
「聞いているって。俺の鼓膜が破れたら責任取れよな」
麻樹はあからさまに右側の耳に手を添える。よほどうるさいのだろう。しかし海坊主のような頭と牛のような体格で白い空手着を着ている生徒は、頓着なく胸を張る。
「大丈夫だ!! まだ俺の周りで鼓膜が破れた奴はいない!! ということは上戸も大丈夫だ!!」
口から言葉が飛び出る度に、ビックリマークが一個も二個も三個もくっついているようなデカ声だ。
「あの先輩、だれ?」
小声で颯天が聞く。しかし伝馬もちょっとだけ横に首を振る。
「だから聞け!! 俺もついにきたぞ!!」
麻樹の同級生で空手部主将の蘭堂宇佐美は、牛がモーモーと大きく鳴くようにダイナミックに吠える。
「彼女から連絡がきた!! 今度会いましょうって!!!」
盛大にビックリマークをくっつける。
「あ、そっ」
麻樹は宇佐美から思いっきり身体を引いて、手で両耳を押さえている。ちなみに二人のずっと後方には剣道部のニ・三年生たちがいるが、誰一人近寄ろうとしない。
「どうでもいいけど、彼女の鼓膜破くなよ」
「ふん!! 副島先生と同じことを言いおって!! 嫉妬は見苦しい!!」
「副島先生にも話したのかよ」
麻樹が表情をしかめて呆れる。
一成の名前に、声がうるさいだけで興味なく眺めていた伝馬がピクッと反応した。
「先生にそんなしょうもない話をするな」
「しょうもない話じゃないぞ!! 俺に彼女ができるかもしれないのが、そんなに羨ましいのか!! 見損なったぞ上戸!!」
「アホか」
麻樹は両耳を押さえて突っ込む。
「先生はそんな話好きじゃないって。宇佐美もいい加減に気づけ、バカ」
「バカとはなんだー!! そんなに彼女ができた俺が羨ましいのかー!!」
宇佐美は海坊主も真っ青な迫力で麻樹に詰め寄る。だが麻樹は毎度お馴染みの光景なのだろう、ハイハイと適当に受け流し、更衣室の前で石像のように立っている二人の新入生に気がついた。
「お前ら、大丈夫だから帰っていいぞ」
おそらく宇佐美にびっくりしたのだろうと、これまた何度も目にした光景であるらしい麻樹は片手を振って、帰れ帰れと促す。
伝馬と颯天は石化の魔法が溶けたように主将へ頭を下げると、昇降口へ向かって歩く。
「あのな、俺と会話したかったら、まずその口のボリュームを下げろ。お前のバカ話より俺の鼓膜が大事なんだよ」
「それが無二の親友の幸せに対する態度か!! お前は何て奴なんだ!!」
「お前の無二の親友でいて欲しかったら普通に喋ろ。出来なかったら、ここでお前との友情も終わり。じゃあな」
「信じられないぞ上戸!! そんな簡単に終わる友情だったのか!!」
「そうだよ。友情が終わるくらいうるさいんだよ」
後ろから延々と聞こえてくる剣道部と空手部の無二の主将同士の会話を背中に貼りつけて、伝馬と颯天は学校を出た。
「聞いているって。俺の鼓膜が破れたら責任取れよな」
麻樹はあからさまに右側の耳に手を添える。よほどうるさいのだろう。しかし海坊主のような頭と牛のような体格で白い空手着を着ている生徒は、頓着なく胸を張る。
「大丈夫だ!! まだ俺の周りで鼓膜が破れた奴はいない!! ということは上戸も大丈夫だ!!」
口から言葉が飛び出る度に、ビックリマークが一個も二個も三個もくっついているようなデカ声だ。
「あの先輩、だれ?」
小声で颯天が聞く。しかし伝馬もちょっとだけ横に首を振る。
「だから聞け!! 俺もついにきたぞ!!」
麻樹の同級生で空手部主将の蘭堂宇佐美は、牛がモーモーと大きく鳴くようにダイナミックに吠える。
「彼女から連絡がきた!! 今度会いましょうって!!!」
盛大にビックリマークをくっつける。
「あ、そっ」
麻樹は宇佐美から思いっきり身体を引いて、手で両耳を押さえている。ちなみに二人のずっと後方には剣道部のニ・三年生たちがいるが、誰一人近寄ろうとしない。
「どうでもいいけど、彼女の鼓膜破くなよ」
「ふん!! 副島先生と同じことを言いおって!! 嫉妬は見苦しい!!」
「副島先生にも話したのかよ」
麻樹が表情をしかめて呆れる。
一成の名前に、声がうるさいだけで興味なく眺めていた伝馬がピクッと反応した。
「先生にそんなしょうもない話をするな」
「しょうもない話じゃないぞ!! 俺に彼女ができるかもしれないのが、そんなに羨ましいのか!! 見損なったぞ上戸!!」
「アホか」
麻樹は両耳を押さえて突っ込む。
「先生はそんな話好きじゃないって。宇佐美もいい加減に気づけ、バカ」
「バカとはなんだー!! そんなに彼女ができた俺が羨ましいのかー!!」
宇佐美は海坊主も真っ青な迫力で麻樹に詰め寄る。だが麻樹は毎度お馴染みの光景なのだろう、ハイハイと適当に受け流し、更衣室の前で石像のように立っている二人の新入生に気がついた。
「お前ら、大丈夫だから帰っていいぞ」
おそらく宇佐美にびっくりしたのだろうと、これまた何度も目にした光景であるらしい麻樹は片手を振って、帰れ帰れと促す。
伝馬と颯天は石化の魔法が溶けたように主将へ頭を下げると、昇降口へ向かって歩く。
「あのな、俺と会話したかったら、まずその口のボリュームを下げろ。お前のバカ話より俺の鼓膜が大事なんだよ」
「それが無二の親友の幸せに対する態度か!! お前は何て奴なんだ!!」
「お前の無二の親友でいて欲しかったら普通に喋ろ。出来なかったら、ここでお前との友情も終わり。じゃあな」
「信じられないぞ上戸!! そんな簡単に終わる友情だったのか!!」
「そうだよ。友情が終わるくらいうるさいんだよ」
後ろから延々と聞こえてくる剣道部と空手部の無二の主将同士の会話を背中に貼りつけて、伝馬と颯天は学校を出た。
1
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる