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第四話①

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「よーし、一年生は帰っていいぞ!」

 剣道部主将の上戸うえど麻樹あさきが雑巾片手にそう言い渡すと、稽古場を掃除していた一年生たちは元気よく返事をして、雑巾やモップを手早く片付けた。それから先輩たちに挨拶をして、隣の更衣室で着替えると、また明日と言葉をかけ合いながら、それぞれに出ていく。

 伝馬も制服に着替えて、上着のボタンを締める。剣道部に入部し一ヶ月以上は過ぎた。だいぶ部活に馴れてきている。稽古や筋トレはきついが雰囲気が良い。入部した一年生は七名で、伝馬も含めて和気藹々わきあいあいとやっている。先輩たちも変に厳しくはなく、主将の麻樹は話しかけやすい。元来面倒見が良いのだろう。挨拶も率先してやってくれる。顧問の二階堂雷太らいたは遠慮なくスパルタやるが。

「今日も先生、いつものようにヤバかったな」

 隣で着替えた倉本颯天はやてはこぼす。

「剣道は気合いだ、気合いで相手を突けって、ヤバくね?」
「うん、ヤバいな」

 伝馬は颯天の言い方を真似る。

「あれは先生の口癖なんだと思う。とりあえず、気合いって言っておかないと、自分が落ち着かないっていうか」
「それって、絶対ヤベーよ。気合いなんか、オレねーよ」

 颯天はロッカーの戸を弱々しく閉める。

「マンガみたいな根性論がいっちばん苦手なんだ。オレは楽しく竹刀を振り回したいだけなのに」
「別に大丈夫じゃないか?」

 伝馬は入部してから稽古中の先輩たちの様子を見ていて、顧問の雷太には結構フレンドリーに意義を唱えているのに気づいた。

「この前、上戸先輩が先生に言っていたぞ。一年生には気合いじゃなくて、もっと具体的な指導をして下さいって」

 それに対して、ごついといかついで外見が成り立っている雷太は両腕を組んで、うーんと難しく考え込んでいた。その態度からは主将の申し出を真摯に受け止めているという感じだったが、ふたを開けてみれば、気合いだ! とまた口から飛び出している。伝馬にすれば、毎度の口癖なんだろうなあという結論だ。

「なんだよ、やっぱりヤベーじゃんか」

 上戸先輩がせっかく言ってくれているのにと、颯天はヤベーを繰り返す。颯天のヤベーも顧問の気合いだ! も根本的に一緒なんだろうなと伝馬は思ったりした。颯天とはクラスは違うが、なにげにウマが合って友人になり、部活が終わると途中まで一緒に帰っている。

「もう帰ろう、倉本」

 伝馬は更衣室のドアを開け、へーいと颯天がついていく。

 廊下に出た途端、馬鹿デカい声に襲われた。

「俺の恋愛運がついに爆発した!! 聞いているか!! 上戸!!」
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