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第三話⑥

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「……私の大切なお姉様を悲しませるようなことは、断じて防がねばならない」

 冴人は顔を伏せながら両手を口元まで下げる。尊大な三白眼がきらりと鈍く光る。

「一成は見境のない男じゃない。ちゃんと常識をわきまえているぞ。子供じゃないんだからな」

 何やら不穏な空気がぷんと匂ってきたので、順慶は冴人の「大切なお姉様」へのビッグな感情を刺激しないように、やんわりとだが的確に口添えする。

 すると冴人はむくりと顔を上げ、明らかに気に入らないという体で背後の壁を振り返った。

「順慶、お前は私の味方なのか。それとも一成の味方なのか」

 両目が据わっている。

 しょうがないなあと順慶は胸の中で苦笑いした。どうも間違った方向のスイッチを押してしまったらしい。

「俺はいつだってお前の味方だ。わかっているくせに聞くな」

 敵とか味方とかいう問題ではないのだが、冴人がこれ以上ヘソを曲げないように後ろから優しく抱きしめた。

「わかっているのならば、私を怒らせるな」

 冴人は片眉を上げてぴしゃりと言うが、順慶の大きな腕の中に大人しく抱かれたままなので、居心地は良いのだろう。順慶も気持ちよさそうに冴人の肩に顔を寄せると、まだまだ肌艶が整っている身体をぎゅっとした。

「筒井順慶、お前に命じる」

 自分を守るように包み込む温かい肌を感じながら、冴人はご主人様の口調になる。

「一成を見張れ。不心得なことをしないよう、逐一私へ報告するように。いいな」

 当然自分の言う通りにすると信じて疑わない態度だ。順慶は「わかった」とご主人様へ返事をしたが、頭の中では冴人はドラマの見過ぎだろうと呑気に呆れた。教師と生徒がイケない関係になるなど、そうそうあってたまるか。いくら男子校だからといって――




「お、いらっしゃい、一成」

 お昼休みに借りた本を返すため図書室へ行くと、司書の貴水原たかみはら七生ななみがカウンター席で椅子に座りながら、まるで客を出迎えるバーテンダーのようにゆったりとした笑みを浮かべた。

「本を返しに来た」

 一成は右手で持っていたハードカバーの分厚い本をカウンターに丁寧に差し出す。七理は椅子から立ち上がると、その本のページを軽くめくった。

「俺が紹介した本は面白かったか?」
「面白かった。七生は面白い本を見つけるのが相変わらず得意だな」
「ふん、嬉しいね。それじゃ、俺と一緒にこの本を語り合おうか」

 まるで一緒に飲もうかという気軽さで、七生はその分厚い本を閉じて自分と一成のちょうど真ん中に置くと、夜の男のような色気を放つイケメンの顔立ちを輝かせて、目の前の一成に期待に満ちた目を見せる。
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