28 / 61
第三話④
しおりを挟む
「それにしても、気に入らない」
冴人は大型犬に甘えるように順慶にずっしりと寄りかかったまま、刺々しく吐き出す。
「何が気に入らないんだ? 俺の撫で方か?」
胸に頭をもたれているのでそんなに気に入らなくはないだろうと思ったが、冴人とは常人の感覚では付き合えないことを長年の経験から承知している。
「愚か者、そうではない」
冴人はぴしゃりと言う。
「一成だ」
お、と順慶は片眉をあげた。愚か者と言われてもてんで腹も立たないが、それよりも空気が微妙ながら斜め方向に向かい始めたのを嗅ぎ取る。
「一成がどうしたって? ベッドの上で俺たちが抱き合ったまま喋らなきゃいけないことなのか?」
「当たり前だ。私の甥で、お前は元担任で、現在は同僚だろう。話から逃げるな」
冴人は順慶の撫でる手を払うように胸元から顔を上げて睨みつける。見透かしているぞと言わんばかりだ。
順慶はやれやれと撫でるのをやめて、ベッド横のサイドテーブルにあるベッドライトをつけた。こぢんまりとした温かな色合いの明かりが二人の枕もとを照らす。
「なぜライトをつけた」
「そりゃ、お前の怒っている顔が見たいからさ」
ぬけぬけと順慶は嘯くと、自分の胸におさまっている冴人をまじまじと眺めた。良いお育ちのお坊ちゃまがブレることなく五十代になりましたという品性の良い顔立ち。これでどこかの王侯貴族のようなスーパー上から目線な態度でなければ、周囲から愛され慕われていただろうが、冴人自身は周囲から愛され慕われたいとは微塵も思っていないだろう。順慶も今更そんなキャラ変更されても白けるだけだ。
「馬鹿者、順慶。話を逸らすな」
ベッドライトの明かりで眩し気に目を細めた冴人は、キッとなる。
「私の怒っている顔など、お前の頭の中にたくさん詰まっているだろうが。順慶は私をいつも怒らせているからな」
本気でムキになって言い返す。
順慶は予想通りの展開に目尻を下げた。うーん、可愛い。可愛いからわざと怒らせてしまう。
「そんな馬鹿話よりも、一成だ」
冴人は再び順慶の胸板を自分専用の背もたれにすると、甥っ子と同じ三白眼を光らせる。
「俺が話した内容が問題なのか?」
順慶は柔道で鍛えている胸でどっしりと冴人を支えながら、汗で濡れた髪をさらっとかき上げる。
「そうだ、問題だ。大問題になるかもしれない」
冴人は顎をあげて下から順慶を睨む。
「お前はどうしてそう呑気なのだ。間違いが起きたら、どう対処するつもりだ」
「間違いなんか起きない。一成だぞ」
順慶は顎を下げて、仕方ないなあというように苦笑いする。
「あいつは生徒から告白されても、絶対に応じない男だ。応じないどころか、パンチしたからな」
「それもだ」
冴人は苦々しい口調になる。
「なんて暴力的なんだ。私と同じ血が流れているとは到底思えない」
冴人は大型犬に甘えるように順慶にずっしりと寄りかかったまま、刺々しく吐き出す。
「何が気に入らないんだ? 俺の撫で方か?」
胸に頭をもたれているのでそんなに気に入らなくはないだろうと思ったが、冴人とは常人の感覚では付き合えないことを長年の経験から承知している。
「愚か者、そうではない」
冴人はぴしゃりと言う。
「一成だ」
お、と順慶は片眉をあげた。愚か者と言われてもてんで腹も立たないが、それよりも空気が微妙ながら斜め方向に向かい始めたのを嗅ぎ取る。
「一成がどうしたって? ベッドの上で俺たちが抱き合ったまま喋らなきゃいけないことなのか?」
「当たり前だ。私の甥で、お前は元担任で、現在は同僚だろう。話から逃げるな」
冴人は順慶の撫でる手を払うように胸元から顔を上げて睨みつける。見透かしているぞと言わんばかりだ。
順慶はやれやれと撫でるのをやめて、ベッド横のサイドテーブルにあるベッドライトをつけた。こぢんまりとした温かな色合いの明かりが二人の枕もとを照らす。
「なぜライトをつけた」
「そりゃ、お前の怒っている顔が見たいからさ」
ぬけぬけと順慶は嘯くと、自分の胸におさまっている冴人をまじまじと眺めた。良いお育ちのお坊ちゃまがブレることなく五十代になりましたという品性の良い顔立ち。これでどこかの王侯貴族のようなスーパー上から目線な態度でなければ、周囲から愛され慕われていただろうが、冴人自身は周囲から愛され慕われたいとは微塵も思っていないだろう。順慶も今更そんなキャラ変更されても白けるだけだ。
「馬鹿者、順慶。話を逸らすな」
ベッドライトの明かりで眩し気に目を細めた冴人は、キッとなる。
「私の怒っている顔など、お前の頭の中にたくさん詰まっているだろうが。順慶は私をいつも怒らせているからな」
本気でムキになって言い返す。
順慶は予想通りの展開に目尻を下げた。うーん、可愛い。可愛いからわざと怒らせてしまう。
「そんな馬鹿話よりも、一成だ」
冴人は再び順慶の胸板を自分専用の背もたれにすると、甥っ子と同じ三白眼を光らせる。
「俺が話した内容が問題なのか?」
順慶は柔道で鍛えている胸でどっしりと冴人を支えながら、汗で濡れた髪をさらっとかき上げる。
「そうだ、問題だ。大問題になるかもしれない」
冴人は顎をあげて下から順慶を睨む。
「お前はどうしてそう呑気なのだ。間違いが起きたら、どう対処するつもりだ」
「間違いなんか起きない。一成だぞ」
順慶は顎を下げて、仕方ないなあというように苦笑いする。
「あいつは生徒から告白されても、絶対に応じない男だ。応じないどころか、パンチしたからな」
「それもだ」
冴人は苦々しい口調になる。
「なんて暴力的なんだ。私と同じ血が流れているとは到底思えない」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる