上 下
9 / 12
追いかけっこ編 1

1

しおりを挟む
「勿論さ」

 レオンはとびっきりの流し目を相手へ送ると、くるりとカメラへ向かって開いている目でウィンクをした。

「俺は、レイディよりジェントルマンを抱きたいんだ」

 魅力あふれる声が決めセリフを吐くと「カーットオ!!!」という叫び声が現場に響き渡った。

「素晴らしい!! ブラヴォレオーン!!」

 簡易椅子から飛び跳ねて駆けつけたのは、巨匠スティーブン・ハンバーグ監督である。

「とにかくワンダフルだ! 君にお願いして良かったよ!」

 レオンの両手を強引に掴んでぎゅーっと握りしめると、まるで神さまのように拝んだ。

 映画界では一番興行収入を稼ぐ映画監督として有名なハンバーグ監督は、エイリアンの指先と子供の指先をくっつけて技術革命を起こす「I・T」、セクシィな考古学者の奇蹟体験アンビリーバボーアドベンチャー「ミラクル・ジョーンズ」、ジュラ紀の恐竜たちが遊園地でどんちゃん騒ぎをする「アミューズメント・パーク」など錚々たる大ヒット作を連発している。そのヒットメイカーが新作映画として絶賛撮影中なのが「ランドウォーズ」で、遥か昔に起きた新大陸対旧大陸の戦いを描いた壮大な物語である。本来の監督は旧知のジョージ・サーカスなのだが、世界の幻獣をレンタルできるワールドモンスターエージェンシーからペガサスをレンタルし、スーパーアクロバティックサーカスな撮影をしていた最中、突然飽きたペガサスがひらりと翼で舞うと、海中に監督をドッポンと落として大空へ駆けていってしまった。サーカス監督は入院中で、本来はプロデューサーだったハンバーグ監督が映画の指揮をとっている。

 そのハプニングでだいぶ時間をロスし、映画の撮影自体は何とかかんとかなっているのだが、撮影スケジュールが押し気味になった結果、出演予定だった俳優たちが数人降板してしまった。その一人が、少ない出番ながら旧大陸を指揮したことで有名なエスパニョールの太陽王の役を演じる俳優だった。この役は誰もが演じられるわけではなく、一目で太陽王とわかる有名な容姿を持ち合わせていなければならない。

「ほんとに助かったよ」

 監督はまだ手を握って感謝している。

「シーンは少ないが、太陽王は絶対登場させたかったんだ。けれど隻眼の男性がそこら辺にいないんだよ! レオンが隻眼で映画が助かった」

 偉大なる太陽王は隻眼で有名だった。

「お安い御用だ」

 前職が実はその太陽王であるレオンは余裕癪々しゃくしゃくで演技を終えて、俺はやったぜ! と全身で達成感を燃え上がらせている。

「最高に楽しかった。また太陽王を演じて欲しかったら呼んでくれ。いつだって俺は演じられるからな! 本物の太陽王も見たらびっくりするだろう」

 と、大陸間の平和の代償として人柱となり不老不死者となった――当事者たちしかその事実を知らない――元太陽王が盛り上がっているところへ、サンタ・マリア海賊団の副船長兼俳優レオンのマネージャーをしているマルコが慌てて駆け寄ってくる。

「大変だ! レオン!」
「俺の太陽王がスーパーファンタジックで大変なことが起きたんだな、マルコ」

 非常にご機嫌がよろしいレオンは、ハンバーグ監督と手に手を取って踊っている。

「違うぞ! 今海の向こうからイングレ……」

 マルコの叫び声をかき消すように、一発の砲弾が飛来して近場に落ちると爆発した。

「おお! これから戦闘シーンか! よし! 俺もやるぞ!」

 巻き起こったド派手な土煙に、レオンはノリノリで腰に巻いた帯から剣を抜き取る。この間かっさらったイングレス女王国の秘宝、第一の剣ランスロットだ。

「これから俺が華麗にフラメンコをしながら敵をやっつけていく。さあカメラスタンバイだ!」
「いいねえ!」
「やめてくれ!」

 真面目なマルコが真面目に突っ込みを入れて、一生懸命に愉快な二人組を現実に立ち返らせようとする。

「しっかりしろレオン! ロイヤル・ネルソン号が追いかけてきたんだ! 俺たちを捕まえて縛り首にするためだぞ!」
「縛り首!! いいねえ! 盛り上がるシチュエーションだ!」

 何も知らない監督が手を叩いて盛り上がっている。

 レオンはロイヤル・ネルソン号という言葉に、どれどれと海の方を眺める。撮影は海が見えるすぐそばの丘の上で行われている。沖合にはサンタ・マリア海賊団の帆船がいかりを下ろして停泊していて、その向こうから巨大な船が徐々に前進してくる。

「お、バスターか」

 レオンは嬉しそうに歓声を上げる。

「ようやく俺に追いついたな! 待ちくたびれたぞ!」
「どうする?」

 ようやく現状認識してくれたレオンにホッとして、手で額の汗を拭いながらマルコは傍らに立つ。少し前に母船から緊急――でもなかったが連絡がきて、「船が近づいてきてまっせー」というテッドの昼寝を起こされたような声が、青い渡り鳥の嘴から聞こえてきたかと思うと、ピカンと一瞬鳥が光り「砲弾が飛んできましたっせー」「わーわーでっせー」「わてらトンずらしまっせー」と立て続けに青い鳥がお気楽に喋り、ビックリしたマルコがエキストラ五十三人分の役をやっていた魔術師のヴァイオに、すぐに母船に戻って砲撃から船と仲間たちを守るように伝えた。魔術『立体三次元3D』を駆使して五十三人分のエキストラ代を稼いでいたヴァイオは、六歳の無垢であどけない美少女のなりで「えー、めんどいなー」と手でお腹をかきながらオヤジの声でぶつぶつ文句を言ったが、命令には従って、小鳥に変身してピューッと飛んで行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

海の覇王は人魚を愛す

槇村焔
BL
僕ら、ジャック海賊団の船長・ジャック船長。 ジャックという名は、船長の本当の名前じゃない。 船長の本当の名前は僕は知らない。 海の覇者となった船長には、帰る場所があるらしい。 名誉より、自分の命よりも大事なものがそこにはあるんだそうだーーー。 海賊になった元騎士団長息子×元王子 プロローグストーリーです。 本編はそのうちに。 この話は主に モブ×元王子の無理矢理話になります。R18 ※こちらのお話は、残酷描写&無理矢理要素が強くなっております。 本命以外の絡みあり。 本編はハッピーエンド予定です。

離縁しようぜ旦那様

たなぱ
BL
『お前を愛することは無い』 羞恥を忍んで迎えた初夜に、旦那様となる相手が放った言葉に現実を放棄した どこのざまぁ小説の導入台詞だよ?旦那様…おれじゃなかったら泣いてるよきっと? これは、始まる冷遇新婚生活にため息しか出ないさっさと離縁したいおれと、何故か離縁したくない旦那様の不毛な戦いである

127柱目の人柱

ど三一
BL
滅びゆく集落に住む美しい青年ナジュが、甥の代わりに人柱に名乗り出た。死の間際に信頼する親友の裏切りに遭ったナジュは、尊い願いを封じた唇から呪いの言葉を吐く。命を落とし神々の住まう天に昇ったナジュは、美しい蓮が咲く池に哀れな姿で浮かぶ。神々はナジュを見て疎ましそうに目を細める中、高貴な神を乗せた牛車が通りかかる。その神に拾われたナジュは憎い相手を呪い殺すという願いを叶える為に、その身体を捧げる。願いが叶っても、ナジュの恨みは尽きない。集落の全員を地獄に落とす為、特別な力を持たない彼に出来る事は、長年空いた神の座に収まる事。その為にナジュは、神様候補の集まる学舎で学ぶ事となり、経歴を知った神様候補や師となる神様にその身体を嬲られて…。 【性描写がある話は表記あり】 【ifバッドエンドあり】

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

おっさんの幸せ探し

丸井まー(旧:まー)
BL
アナニーマスターのセシリオは、理想の幸せ(でかちん)を求めて旅に出た。 目的地である『武器の街』で、セシリオは武器職人のガルバと出会った。 おっさん達のささやかな幸せのお話。 武器職人の厳ついおっさん✕魔法使いの平凡おっさん。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

転生したらいろんな意味で兄に可愛がられています~ヴァルハラで死合いましょう~

夢咲まゆ
BL
 ヴァルハラに集められたオーディンの眷属ーーエインヘリヤル。不老不死の彼らは、「死合い」という命懸けの戦闘を行い、自らの能力を高め合っていた。  新人戦士・アクセルは、憧れの兄・フレインに追いつくべく、必死に戦士ランキングを上げていく。  何度死んでも変わらない兄への恋慕。もっと自分を見て欲しい。いつか本気で「死合い」たい。  アクセルの想いは、果たしてフレインに届くのか……? ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※北欧神話のヴァルハラを舞台にしています。 ※戦闘シーンの練習のために始めたので、流血が多めです。苦手な人はご注意!(流血シーンには※をつけてあります) ※あくまで創作なので、ガチの「北欧神話」ではありません。設定を都合よく解釈してる部分も多々あり。 ※細かいことは抜きに、純粋に創作として楽しんでくだされば幸いです。 ※こちらに転載するに際して、タイトルを少し変えました。

片翼のアレス

結城れい
BL
鳥人族のアレスは生まれつき片翼しかないため、空を飛ぶことができない。鳥人族の村で孤立しながらも、生きていくために危険な森へと入っていく日々を送っていたが―― 優しい獣狼ルーカス × 片翼の鳥人アレス のお話です。 *基本的に毎日20時に更新していく予定です(変更がある場合はXでお知らせします) *残酷な描写があります *他サイトにも掲載しています

残酷な淫薬は丸出しの恥部目掛けて吹き付けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...