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42. 二国の、未来は
しおりを挟む「ほう? 今は珍しき白猫族、か? それも、その見てくれ極上よなあ! これだけの見てくれの猫が何故儂の後宮にいない?ん?」
リリアーナが席を立つと同時に、同じ机にいた竜王がセシルを見てそう発言し、セドリックはセシルの隣に立つと共に綺麗な所作で膝を付き胸の前に両手を重ね合わせた。
ドラファルトでの国王の謁見の習わしである。
「ドラファルトの竜王。お初にお目にかかります。
皇国宰相のセドリック・ラズベルと申します。こちらは我が妻でセシル・ラズベルです」
小刻みに震えるセシルの手を取りながらそう言うとニタニタと竜王は歯を出して笑った。
「ほうほう、妻とな!一匹逃げ出していたとは! もったいないことだ。そうか、そうか。どうだ、獣人はよかろう? 何匹でも飼って愛でてみると良い、」
種族ごとの雌の違いも飽きずに堪らぬ。と楽しそうに笑う竜王タオリャンの目を真っすぐ見つめ、セドリックはほほ笑み返す。
「私は他の女性を愛でる趣味はありませんので、分かりかねますが、妻は私の宝です」
「ははっ、そうかそうか。一匹美姫が逃げよったか。こんな白猫が残っていたと知っていたなら、猫族の枠はお前だったろうに。残念なことだ」
獣人族の国の竜王の後宮に召し上げられる妃は種族ごとに一人と決まっている。
暗にその事を指しているのであろうが、竜王のあまりの非礼な言動にリリアーナは押し上げる怒りを必死でこらえた。顔は多少引き攣っているだろうが、これでも淑女教育を一からやり直した身だ。表情筋に鞭打って笑顔を張り付ける。
「お前たちも我が愚息ロンファの竜王就任の即位式、来ると良い! 獣人と人族の間に子を成しやすい秘薬をやろうぞ! 種族が違えば子を成すのは難しいからなあ。雄が獣人ならまだしも、脆弱な人間であればよっぽど、な?」
少し挑発したような言い方で竜王はほほ笑んだ。それを気にせず、セドリックはセシルに愛おしそうな眼差しを向ける。
「では、そろそろ此処にて一旦下がらせて頂きましょうか? セシル、リリアーナ様を頼みましたよ、」
セドリックに促され、リリアーナとセシルは晩餐会の会場を出た。直ぐに二人の元へ駆け付けたシャルロッテとルーカスを見てセドリックは安堵の表情を浮かべる。
護衛として彼らがいればもう安心だろう。あと残る問題は此方か。とセドリックはバルコニーで次期竜王ロンファと酒を酌み交わすヴィクトールを見た。
「ヴィクトール先輩、本当にお久しぶりです」
「ああ、学園以来か」
「はい。先輩の代に入学は出来ませんでしたが、ああして同じ期間に学園に通えた事、本当に嬉しく思いますよ」
「そうだな、」
見目麗しいロンファは火魔法に特化した男だ。加えて、竜人族という種族上、体力も群を抜いている。
そして彼は父親と違い素行も品も良く、なによりヴィクトールを慕っていた。ヴィクトールにとっては学園でもよく面倒を見ていた、弟のような存在である。
「お前も次期竜王に決まったのか。災難な事だな、」
「そうですね。でもこれで、皇国と絆を強くしていけば我が国は安泰ですからね」
にっこりと笑って言うロンファを見てヴィクトールはため息をついた。
ドラファルトとは、建国当初からつかず離れずの関係をとっている。常に力を欲する傾向のあるドラファルトは何かと油断はできないのだが······。
とはいえ、ロンファが国王になれば、手を取り合える日がくるのかもしれないな。とヴィクトールは無言で庭園を見下ろす。
そんなヴィクトールに、ロンファは思い出したように声をかけた。
「そうだ、これは余談なんですが。弟バロンには気を付けて下さい。僕も何度か狙われていて、少し過激思考なんです。思い込みが激しいというか······」
血の繋がった弟ながら本当に困ったものです。と苦笑しながらロンファは酒を啜った。そしてもう一つ気になっていた事を口にする。
「それに、リリアーナ様ですが······、」
”リリアーナ”という名前を聞き、ぴくりと眉を動かしたヴィクトールを見てロンファは内心驚く。
いつも冷静沈着であまり他人には干渉せず興味も示さないヴィクトールが、たった一人の女性に興味を示すなんて。
「番波長のフェロモンを出しやすいみたいです。
獣人の雄に狙われやすい体質だなぁと、そう、思いました。いや、僕はそんな意思は······ありませんよ?っ、」
途中から殺気が漏れ始めたヴィクトールにロンファは両手を上げながら降参のポーズをとる。
確かにリリアーナは美しく、自分好みの匂いを放っている。獣人の雄であれば、誰でもあの美しい項に齧り付いて自分の証をつけ自分の匂いで塗りたくりたいと思うだろうが······。
「本当だろうな?お前、俺の妻に手を出してみろ、ただでは済まさん。まあ、手を触れる事もできないだろうがな。諦めるんだな、」
誓約魔法の施されている事を知らないロンファにはその言葉の意味は分からなかったが、彼は直ぐに頷いてヴィクトールに微笑んだ。
「ですが、此の度は本当に、おめでとうございます。ヴィクトール先輩、」
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