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35. 王国の内情と、謁見

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今日と明日は王国の謁見になります。国同士の話し合い回です。童貞大馬鹿王太子と宰相補佐が皇国にやってきています!
R回は金曜日になりますので飛ばしたい方は金曜日にまた会いましょう。
※ルリナ嬢と白い錠剤の詳細は第一章の43.です。

*****************************



 ──────場所はレベロン王国


 リリアーナが『慣らし五夜』に勤しんでいる頃、王国の王城内ではちょっとした事件が起きていた。

 それはアレクセイが皇国から婚儀の招待状を受け取り、その準備とレーボック子爵に関する調べものを並行して急ぎ行っていた際の事。


 バタバタと慌ただしく廊下を走る音が聞こえて、王太子クリストファーの専属護衛騎士のマルコが執務室の扉を乱雑に開けて入室してきた。


「マルコッ! いつも廊下は走るな、と何度も何度も······「申し訳ございません、ですがっ、っぐ、シャルロン公爵閣下がぁッ!!」」


 いい歳の大人の男、それも護衛騎士が涙と鼻水を垂らしながら泣き崩れる様に、クリストファーとアレクセイはぎょっとして目を瞠る。


 そして、最悪の展開が頭に過ぎり席を立った。


「おい! 待て、マルコ、何があった?! 
 シャルロン公爵がどうしたんだ!!」

「こっ、国王の執務室から······のっ、廊下でっ、、何者かに暗殺されて······、」



「──────は? うそ······だろ······?」



 クリストファーは希望を失ったように膝から崩れ落ちて、アレクセイも頭を抱えた。


「シャルロン公爵ともあろう英雄がそんなに簡単に殺られるの、か?」

「いま、ファルス医師が応急処置に当たっていますが······急所を全て的確に仕留められておりっ······
 もう、、」



「犯人は誰なのです!? まさかそれも分かっていないまま野放しに!? この国の騎士団は──── 」

 アレクセイは口を閉じた。この国の騎士団は、既にレーボック子爵の蔓延させた薬により腐敗している。公爵が狙われたのは、相手にとって不利な状況を彼が掴んだか、もしくは······見たのか?

「 ──────────国王、陛下は?」



 生気のないアレクセイの呟くような声を聞いて、クリストファーは叫び声を上げた。



「父上ッ!!!! 母上もッ!! 」

 咄嗟に駆けだした彼をアレクセイも追いかける。
 
 国王の執務室を目の前に、既に開かれているその扉を見て心臓がどくどくと音を立てて煩く鳴った。

 最悪の状況も想定しながら扉を開ければ、執務室に座ったまま涎を垂らしながら不気味に笑う国王陛下がいた。辺りには慌てていたのか、瓶と真っ白な錠剤が辺り一面に散らばっている。


「······ちち、うえ······、」

「これは······あの錠剤ですね? いつからだ······? 
 くそっ!! どうして気付かなかったっ!!」


 生きてはいるが、これはこれで生殺しだろう。
 あの白い錠剤は大量に摂取すればするほど、実態のない幻覚の中で生き続けるようなものらしい。
 
 要するに、もう国王に意思はないといえる。ただひたすらありもしない虚空の快楽を求め、虚無を彷徨う王の見た目をした、亡霊。


「これを······もしくは、この薬を投与している所を見られて、シャルロン公爵を暗殺したのか······」


 そこに、医師ファルスが駆け付けた。


「殿下、アレク。残念じゃが、公爵はもう既に息を引き取っておったわい。あれは、中々の手練れじゃ。殺しだけに特化したようなもんじゃ、、」


 その言葉でアレクセイはこの国の暗殺機関ではないと結論づける。
 だが、どこの国だ? エルフの郷? 獣人の国ドラファルト
 それとも······また別の国、なのか?


 アレクセイは先日、軟禁していた仮初の新王太子妃ルリナの塔の部屋から白い錠剤を押収していた。

 シャルロン公爵に力添えしてもらい行った騎士団の内部調査では“レーボック子爵”という名前が次々と挙がり、この王国を巣喰らっている要因はこの錠剤だという確証を得ていたのだ。

 また時を同じくして、他国から少女を誘拐し人身売買を行っている裏組織も捕縛。その指示役としても同じく”子爵”の名があがった。


 直ぐに邸に潜入し、大量の他の媚薬とその錠剤を押収するも、既に子爵は国外へと逃亡していた。
 行方を追う一方で、彼の娘ルリナは罪人として投獄される事となったのだ。
 勿論、クリストファーとの婚約も破棄である。


 この最悪な状況の中、皇国で行われた皇帝の婚儀には急遽予定より人数を減らし、王太子クリストファーと宰相補佐アレクセイの二人のみが出席することとなったのだ。



 ─────── そして、いま二人は皇国皇城の謁見の間で玉座に腰掛けた皇帝ヴィクトールとその隣に座る皇后リリアーナと相対していた。




「レベロン王国、王太子、クリストファー・レベロンが婚儀の祝いに参加させて頂きたく参りました」

「クリストファー王太子殿下、王国から遠路はるばるよく来てくれた。本日はゆっくりと休まれるといい。 婚儀の宴まではまだ日にちがある。皇都を回られてはどうだろうか、」

「お心遣いありがとう存じます。アレクセイ、」


 クリストファーに名前を呼ばれたアレクセイは祝いの品として王国より持ってきた王国産の宝石等を並べていく。
 そして、目の前に座る皇后リリアーナを見て息を呑んだ。


 何がどうしたら、あの短期間でここまで美しくなるのか。皇国特有の女性らしい部分を露出させたドレスの所為だろうか?······それにしても、妖艶だ。


 リリアーナを見て固まったアレクセイにヴィクトールは声をかける。


「どうかされたか? 宰相殿、」

「いっ、いえ。不躾な視線申し訳ございませんでした。リリアーナ様は、お変わりになられましたね」

「あぁ、美しいだろう、私の自慢の妻だ」


 ふっと頬を緩め、ヴィクトールは自然な流れでリリアーナの手を取り、口づける。
 クリストファーとアレクセイへの牽制であろうそれに、レイアードは謁見の間の壁際から不満そうに咳払いをした。


「本当に、皇帝陛下のために存在するような伴侶ですね。羨ましいかぎりです」


 クリストファーがそう呟いて、ヴィクトールは満悦の様子で頷き、口を開く。
 そして、その言葉の先が紡がれる前にクリストファーは焦ったように言葉を発した。


「そういえば───────── 「皇帝陛下、レベロン王国、王太子として、お話したき儀が御座います!何卒、人払いをお願いしたく······」」


 アレクセイは目を見張った。確かに、皇帝陛下に頼む事は二人相違がないようにはしてきた。
 しかし、この早いタイミングで切り出すほど、クリストファーは切羽詰まっていたのだろうか。
 そして、アレクセイも続いて深くお辞儀をする。


「私、アレクセイ・コンラッドからもお頼み申し上げます。何卒、」



 そしてヴィクトールはセドリックを目で見ると小さく頷いた。全ての使用人と護衛を下がらせ、皇国からはヴィクトール、リリアーナ、セドリック、そして王国側の意向でレイアードを部屋に残し、遮音の膜を魔法で形成した。



「さて、こちらの準備は整った。遮音もされているし、この謁見の間には干渉阻害もかかっている」

「ありがとうございます」



 王国のこの腐敗した内情と、シャルロン公爵のご逝去を知らせなくてはならないから。

 床に頭を付けて皇国に助けを乞うてでも、王国を救わなければならない。今回の事件で国王である父が実質的な権力を失った以上、自分が国を建て直し民を救わなければいけない立場なのだ。

 クリストファーは綺麗なお辞儀をすると、気合を入れるために大きく深呼吸をしてヴィクトールを真正面から見つめた。そして口を開いた。

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