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31. 二人だけの、初夜を※
しおりを挟む「リリアーナ、」
部屋の扉が開き、ヴィクトールが入室してきてリリアーナは直ぐに腰を上げた。
「ヴィクトール陛下、大変もうしわけ 「いや、貴女のせいではない」」
「そんなことは······」
初夜の儀の後に、気を失って責務を全うできないなど、なんて事を仕出かしたのだろう。リリアーナの頭の中は目覚めた瞬間から罪悪感でいっぱいだった。
いっそまた記憶を失って入ればと思うほどには。
「いや、儀式は無事終わったし、晴れて私達が夫婦となった事に変わりはない」
”夫婦”という言葉にリリアーナは赤面する。
もう、婚約者という確約されただけの不安定な立ち位置ではなく、夫婦となったのだ。
「体調は、大丈夫か?」
ヴィクトールの瞳が揺らぎ、リリアーナは頷いた。
初夜の儀式は確かに緊張したけれど、想像していたよりも痛みは少なかった。これも『慣らし五夜』の効力なのかしら?
と呑気に考えていたリリアーナだったが、その裏でヴィクトールが自身の大きさを制御し、変化させていたとは想像もしていないのだ······当然である。
「まだ不確定要素が多すぎるので詳しくは話せないのだが。 ───リリィ、貴女は魔法を使用できるようになったらしい」
「え? 私、魔法が使えるのですか?!」
「ああ。だが、その属性や詳しい事はまだ分からん。本当は神殿で調べるのがいいのだが、少し特殊なようだ。この事については情報を制限したい。
黙っていてくれるか?」
「はい。承知致しました。魔法が使える気はしないのですけど······」
少し自嘲気味に笑いながら両手を感慨深そうに見つめたリリアーナの髪をヴィクトールは撫でる。
「大丈夫だ、使い方は教えてやるし、リチャードを師としてつけてやろう。そうだ、それで······」
少し口をどもらせ、目を泳がせた彼を不思議そうに見つめると、ヴィクトールは口を開いた。
「······その、今日は儀式の続きを出来るだろうか?」
リリアーナは言葉の意味を理解して赤面した。初めて、彼から閨事に誘われているのだから。
「······はい······。勿論でございます。······お待ちしておりますね、」
にっこりと微笑んだリリアーナを見て、ヴィクトールは短く ”ああ、ではまた” と言い口元を抑えながら出ていった。
退出時にメイドに彼女の背中に定着し始めたルドランテの誓約紋については触らず、本人にも伝えないように告げ、ヴィクトールは一旦自室に戻る。
閨までは時間がある。一旦軽食を取って、湯あみをして、と頭の中で素早く予定を立てながら、高鳴る鼓動を抑制し、彼は扉を閉めた。
「リリアーナ様、本当にお美しいですわ!」
「ええ! 本当に!!」
皇后となったリリアーナの専属メイドはラナーとイリスが受け持つことになった。
軽食を取った後、医師マチルダの診察を終えて、湯あみをし、二人に閨の支度を整えられている。
整えられてはいるのだが······、リリアーナは二人の持つ下着に目を見張る。
「ええ、と。ありがとう? これは······?」
「最近、皇都に新しくできた、魅惑の国の夜着なんだそうです」
「ええ、それを、皇室専用にそれはもうとびっきりせくすぃーに!」
「······イリス、その ”せくすぃー”と言うのは?」
「向こうの言語で、色気があり妖艶で男を誘うような、という意味なんですって!」
うっふん!と、髪を色っぽく掻き分けながら体現して見せたイリスを見つめ苦笑する。
なるほど。”セクシー”と言いたいのか。とリリアーナは自然に頭に流れてくる他国の言語を翻訳する能力を駆使して納得した。
そしてその下着に目を落とす。
王国での夜着や皇国とも違う、布面積の少ない総レースと紐で出来た独特な下着。
その上に真っ白なふわっと広がる膝上丈のワンピースを着ているのだが、本当に······透けている。
王国の初夜の衣装も十分透けていたが、これは比較にならない位だろう。
そんな事を考えていればラナーが微笑んだ。
「これで、陛下がお気に召されれば、この店は皇后御用達として専属で雇いましょう、」
“皇后御用達” などという文句、絶対に辞めて頂きたい。こんないやらしい夜着を愛用してますよ~!と世間に公表しているような物ではないか。
完全に公開処刑のようなその想像を振り払うようにぶんぶんと顔を横に振る。
「えーと、あの、······それはやめない?」
「いえ、リリアーナ様っ、良い案ですっ!この国は性に積極的ですから、これでもっと子供が増えれば皇国の人口も増えますし、素晴らしいですっ!」
そんな会話を繰り広げながら、イリスは張り切ってリリアーナをヴィクトールとの寝室へ押し込んだ。
「陛下がいらっしゃるまでお待ち下さいっ。陛下にもお伝えはしておきますが、もし用があればベルでお呼びくださいませ!」
パタンッと扉が締まり、リリアーナは寝室の寝台の前に置かれた椅子に腰かけた。
リリアーナ用の部屋も大変豪華で美しい造りだったが、この寝室もモノトーンで落ち着きがありとても好ましい。寝台以外にも机や椅子もあり、仕事をする事も可能なその造りにリリアーナは感心する。
そして、外の眺めを見ようと向きを変えて、窓に映った卑猥な格好の自分に驚愕した。
「······やっぱり、、これは、やりすぎではないかしら······」「────やりすぎ、とは?」
後ろから突然聞こえた低いテノールに身体が硬直する。心臓がばくばくと鳴り、あまりにも煩くてリリアーナは耳を覆った。
「リリアーナ、大丈夫か······─────っ、」
ヴィクトールは椅子に座る彼女を心配し、回り込んで彼女の全体像を捉え、言葉を失う。
「・・・「っ、本当にお見苦しいところをっ「いや、違うんだ ────」」
「 ────あまりにも、美しくて。これは、、メイドが?」
「っ、はい。彼女達がとても張り切っていたので止められず······、」
心の中で、咄嗟に罪を擦り付けてしまった二人に謝罪するリリアーナとは裏腹に、ヴィクトールは満足そうに頬を緩めた。
「そうか、彼女達には褒美をやらねば」
「え?」
困惑するリリアーナを横抱きにするとヴィクトールは寝台へ乗り上げると、胡坐をかいた。
彼女を自分の目の前に向かい合わせに座らせて、その姿を瞳の奥に焼き付けるように堪能する。
真っ白な夜着から覗く形の良いその双丘も、触れれば直ぐに折れてしまいそうなその細い四肢も、それなのに肉付きの良い尻も、全て、俺だけの。
「ああ、私の妻、おいで」
両手を広げれば、少しはにかんだ彼女が恥ずかしそうに両手を首に手を回し抱きついてきて、
───────── そっと口づけを落とした。
あまりの流れるようなそれにヴィクトールは固まる。状況を理解するのに少々の時間を要して、彼は彼女を強く抱きしめると、寝台に押し付けた。
ぐるんっ、と回転した身体に驚き目を開ければ、美しい黄金の瞳が自分を覗き込んでいて、その先に見え隠れする欲望の炎に息を呑む。
彼とは、ぎくしゃくした期間が多かったけれど、それも自分の嫉妬という醜い感情の抑制が出来なかった所為だ。
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そんなリリアーナの不安を他所に、ヴィクトールは口角をあげた。
「リリアーナ、そんなあざとい技、どこで身に着けた?」
「えっ?」
「そんな事。いや、そんな顔も、俺以外の前でしたら許さないぞ」
ヴィクトールはリリアーナの口を塞ぎ、その柔らかい唇を貪った。
そして、必死で鼻呼吸をする彼女を無言の肯定と受け取り、口内に舌を侵入させる。
深く、浅く、右に、左に、角度を変えながら、彼女の口内を犯し彼女の判断能力がつかなくなるように。
もう後戻りはさせない。胎内に、精をあと何度か注ぎ込んで、誓約魔法を完全に完成させれば、彼女は永遠に俺の。
───────俺だけのものになるのだから。
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