17 / 65
15. ヴィクトールの不安
しおりを挟むリチャードの羨ましそうな眼差しをひしひしと背中に感じながらシャルロッテはヴィクトールの後を追いかけた。
シャルロッテは城の地下にある、大きな魔石の目の前でじっとヴィクトールが魔力を入れていくのを観察する。やはり、強大にして底を知らない膨大な魔力量だ。
そんな中、ヴィクトールはシャルロッテに言葉を投げかける。
「シャルロッテ、リリアーナに何か変化があれば教えてくれるか?なんでも良いんだ。 他に分かりそうな者がいたら、そちらにも手回しを頼みたい」
「はい、お心のままに、」
シャルロッテは執務室で見た惨劇と、この何気ない会話を漠然と結び付けた。
リリアーナとの間に何かがあったのは明白だろう。聞くべきだろうか、いや、聞かない方が······、と考えあぐねていると魔力を入れ終わったらしいヴィクトールが振り返った。
「シャルロッテ、今から私が言う事は他言厳禁だ。 軽くだが、誓約をしよう、」
どうやらいつも無口な陛下は本日、話すことをご所望らしい。シャルロッテは心を決めて手を差し出す。
誓約魔法の中でも軽いものを交わし、ヴィクトールは自分の髪を鬱陶しそうに掻き分けると目を逸らした。そして口を開く。
「リリアーナに······『魔眼』を使ってしまったのだが、効かなかったのだ」
「はっ?」
シャルロッテは困惑した。先ず第一に、何故、ヴィクトールが『魔眼』をリリアーナに使用する必要があるのか。そして、何故、その絶対効果を発揮すると言われる『魔眼』が彼女に効かなかったのか······すべてが謎。
「彼女に”だいきらい”と言われてな。 ······拒絶されたのが気に障った。 だから、【支配】してしまえば、楽だと思ったのだが」
上手く行かなかった、と言って歩き出したヴィクトールをシャルロッテは追って部屋をでる。
『それは、最低ですね』
とは言える筈もなく彼女は押し黙った。
リリアーナが怒っているだろう事は想像に難くないし、なんなら本気で嫌いになっている可能性もある。
あの美しい、自分好みのリリアーナが独り身となるのは大歓迎だが、その所為でヴィクトールが怒りに身を任せ自爆し国自体が無くなるなど、本望ではない。
「彼女が最初に怒っていた様子だったのだが。 その理由が分からない。 探りを入れてくれるか?」
「はい······シルフィア嬢との次の面会が明後日にあるようですので、彼女にも頼んでおきます。 それから······ええと、最初に陛下が何を仰ったのか、伺ってもよろしいでしょうか······?」
「ああ、『慣らし五夜』の相手が決まったのでそれを伝えようとした。それだけだ。それも聞きたくないというから、未だに伝えられてはいないが、」
「なるほど。ちなみにどなたに?」
「オリリアス、マルクス、ジョシュア、だ」
オリリアスは分かるが、あの無口で堅物のマルクス卿と、あのニコニコした熊のようなジョシュアか······、と一瞬逸れかけた思考をシャルロッテはすぐに引き戻す。
「では、担当者の件はこちらで機会を伺ってお伝えしてもよろしいですか?」
ああ、任せる。
そう呟いてヴィクトールは他の面々の待つ執務室の扉を開けた。
そして、その日の夕方、リリアーナを訪れたシャルロッテは、彼女の怒りが本気であると知る事となる。それは機会を見計らって『慣らし五夜』の相手を伝えるなど、出来得ないものだった。
食事も殆ど取らず、湯あみ等最低限の世話以外はメイドすらも入れていない様子のリリアーナに、シャルロッテは慌てて作戦を立て直す。
この皇国が近い未来に無くなることがなく、安心して生きていく事ができるように。
その命運は彼女にかかっているのだ。
そのためには、皇帝ヴィクトールとの仲を取り持つという重大な任務を遂行しなければいけないのだから。
1
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる