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14. ヴィクトールの、憤り
しおりを挟むヴィクトールは乱雑に執務室を開け、部屋の中にある陶器を目についた物から全て床に投げつける。
バリンッ、ガシャンッ、とけたたましい音がして陶器が割れ破片が床に散らばった。
宰相であるセドリックはセシルと蜜月に入っている。それに伴い、魔力感知も切ってある。今の荒ぶるヴィクトールを止められる人材はこの国に多くないだろう。
人生で初めてかもしれないくらいの動揺と怒りに魔力が大きく揺らぎ、それを制御するためにさっきから物に当たり散らしているのだが。
「くそッ、何故」
魔眼に頼って【支配】を使用したのが悪かったのか?
だが、彼女の離れていく心をあそこで黙ってみているわけにはいかなかった。
─────でも、何故だ。
何故、自分の、最強であるはずの『魔眼』がリリアーナに効力を発揮しなかったのか。
魔眼の効力がなんらかの問題を起こし、使用できなくなったのかと一瞬疑い、直ぐに傍にいた使用人には効く事を確認した。
だから問題はこの『魔眼』ではないのだろう。
リリアーナに『魔眼』の特殊能力【支配】は知られていないとはいえ、赤い瞳を見られただけでなく、かなり強く当たってしまった。
ヴィクトールは彼女を手荒く扱ってしまったその罪悪感に苛まれ、両手に視線を落とす。
悪夢のように脳内に響き渡るのは、リリアーナの『だいきらい』という一言。
その言葉を思い出して、ゴオォッ、と再び荒々しく渦巻き始めた感情を制御するため、破片が散乱した執務室の床を見つめていると部屋の扉が静かに開いた。
「へ、陛下······ノックは何度かしたのですが······その、······出直し、ます、ね?」
扉から申し訳なさそうな顔をひょこりと出した黒騎士団副団長のルーカスは、その部屋の惨状を見て、顔を引き攣らせながら引っ込めた。
「おい、ルーカス! あっぶねー、いきなり止まんなよ・・・って、え─────、」
後ろから、ルーカスを回避するように扉を大きく押し開けたジョシュアはその執務室を見て硬直した。
「 ─────ああ、確かに、な。 出直すか···、」
二人が急いで逃げるように退出し、扉を閉めようとするのを、ヴィクトールは制止する。
「······良い。 入れ、」
「「······っ、はっ、陛下の御前失礼致します」」
執務室に入ったは良いものの、歩く足場も気にしなくてはならないほど散らかっている。それに加えて、明らかに不機嫌で闇の魔力を纏ったヴィクトールがいるのだ。
そんな中を長椅子まで歩き、やっとの事で腰掛けたジョシュアがルーカスに耳打ちした。
「······お前、ちゃんと陛下の魔力に充てられても大丈夫になってるぞ、頑張ってるな!」
「あ、ありがとうございます······、」
『それ、今言うことか?!』と思うがルーカスは黙ったまま、目の前の不機嫌なヴィクトールをみた。
二人は黒騎士団として此処にいる。 そしてもうすぐ白騎士団の二人も合流するだろう。
今日はヴィクトールの婚儀の期間中の警備体制に関する会議の予定だったのだが······。
と、彼は冷静に執務室を見渡した。
元々物が少なかったとはいえ、高価な置物やガラス等、物体化している物は全て壊されて床に散らばっている。
今でもその膨大な魔力を放出しないように努力している様ではあるが······駄々漏れだ。
そんな少し緊張感の漂う執務室に、突如ノック音が響き、次いで緊張感のない男の声が響き渡った。
「あー疲れたなーっ、今日も。 ······って、え"ぇ?なに、これっ?!!」
「ちょっと、煩いですよ。 陛下の御前で···ッ?!」
彼(リチャード)の後方から急かすように歩いてきたシャルロッテもその光景に目を見張る。
「陛下っ、、の、魔力、濃い······」
「リチャード。 魔石か何かはあるか? 魔力が溢れて、自分で回収はできそうにない、」
そう言いながら椅子から立ち上がり、床の破片を気にも留めず歩き出したヴィクトールにリチャードは目を輝かせた。
「陛下っ! 僕、魔力頂きますよっ? 今日は結構使って疲れたので、まだまだ入りますッ!」
「リチャード、辞めておいた方が良い。 シャルロッテにもこの間怒られて、執務室が使えないんだろう?」
胸を張ってそう進言したリチャードにジョシュアは早速避難の目を向ける。白騎士団の団長であるリチャードの執務室が使えない事で黒騎士団にも迷惑がかかっているのだ。ジョシュアは苛々とした様子の白騎士団の副団長シャルロッテを目で制した。
確かに、執務室の修繕依頼の報告書が上がって来ていたな、とヴィクトールもその出来事を思い出す。自分の魔力液の入った瓶が何か大惨事に繋がったと聞いているが。
「まあ、ジョシュアの言うことは正しいな、」
「ちぇっ······。 あっ、では、陛下! 城全体の結界に使っている魔石に魔力を注いではいかがですか?」
リチャードのその代替案に、ヴィクトールは頷いて肯定を示す。
「そうだな。それが良さそうだ。 では、シャルロッテ。共に来てくれるか?」
「わ、私ですか、、はい。」
リチャードの羨ましそうな眼差しをひしひしと背中に感じながらシャルロッテはヴィクトールの後を追いかけた。
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