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感謝閑話:赤の”エクラン・ドゥー”
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(※こちらは読者の皆様への感謝を伝える為に書いている、感謝閑話です。この後エピローグで完結です。)
ノアはその日、馬を走らせた。
向かうのは、ギプロスだ。
フィリスの体調管理などはライラに任せて早朝に公爵邸を出た彼は、日が昇り始め城下町に人が溢れてきた頃、ギプロスの王都に到着した。
あのノアを狙って薬を盛った伯爵親子はあの後、捕縛され王城に地下牢に収監。
ノア以外の多くの貴族にも被害があった事が分かり、最終的には他国の公爵に薬を盛ったという事が決め手となり爵位を剥奪されたらしい。
あの令嬢も修道院に送られ、それでも尚逃げ出そうとする為地下で監禁されているのだそう。
ノアはその情報をウィルから聞いていたので、安心してギプロスを訪れる事ができた。
目の前にある重厚な扉を開ければ、以前見た店員が駆け寄ってくる。
「い、いらっしゃいませ!あ、以前の”エクラン・ドゥー”をご購入下さった······?」
「ああ、だが今日は少し要件が違う。ここのオーナーと話をする手筈になっているのだが」
「え······オーナーと?「ほうほう、朝早くからご足労おかけしましたのう。お待ちしておりましたよ、ロザリア王国、バルモント公爵様」
後ろからオーナーの声に遮られ、その言葉に耳を疑った店員はあんぐりと口を開けて硬直した。
「こ、公爵様······?!」
「君は下がっていなさい。今日は重要な商談という事で来ていただいたのでな」
ふぉっふぉっふぉっ、と白髭を撫でながらゆっくり歩いてきたのがこの”チョコレート”店のオーナーであり、”チョコレート”を作る料理長でもある初老の男、ボルザックだ。
「バルモント公爵。本当に此処までご足労おかけしましたのぅ。私はボルザック。ここで”チョコレート”を作っている、所謂、職人ですぞぃ」
「ほう、ボルザック殿。今日は時間頂き感謝する。貴殿の考えた”チョコレート”という甘味。実に興味深く、あの宝石箱になるという入れ物や、商品にメッセージを添える等の考え方も斬新で素晴らしいと思った」
「ありがとうございます。実は、私は”世渡り人”でしてね?まあ、そこからヒントを得たまでで」
”世渡り人”と聞いてノアは驚きに目を細め、ふぉっふぉっふぉと笑う目の前の男を見た。
”世渡り人”とは別の世界からこの世界に来た人間の事を指す。彼らは特異な能力、豊富な知識を宿している事が多く、ロザリアでは昔から”世渡り人”が現れればすぐに王城で保護、王族との結婚等色々と特別な待遇があったという。
「ほう?”世渡り人”は以前公爵家の祖先にもいた様なのだが······最近のロザリアでは滅法聞かなくなったな······。彼らは奇才な能力に溢れた人が多いと聞く。貴殿もその能力を保有しているのだろうな」
「お褒め頂き光栄でございますぞぃ。して、本日の商談はどういったもので······?」
「うむ。単刀直入に言おう。私の愛する妻への贈り物を作りたいと思っている」
「贈り物を······作る?購入したいではなくて······ですかぃ?」
「ああ。作りたい。世界で一つの、俺が最初に作ったものにしたいんだ。そこに込める意味も俺が決めたい」
真っすぐ向けられたその瞳には揺らぐことのない炎が宿っていて、ボルザックはその情熱の中に吸い込まれそうになった。
「······販売は如何様にお考えで?」
「販売に関しては、妻に渡した後、妻が今後販売をしても良いと許可した際には······ロザリア限定で販売をして欲しいと思っている」
「ほう······オーダーメイド、加えて公爵様との独占契約のような形と······?」
「ああ。この商品の開発にかかる全ては公爵家で出すし、なんならロザリア支店も作るのであれば出資しよう。妻の為ならば、なんでもすると決めたのでな」
ボルザックはノアを見て、その愛妻ぶりを認識し驚いた。
だから、彼らの馴れ初めを聞くべく口を開く。彼らの愛の強さを商品に最大限反映しようと考えて。
「公爵様の愛妻っぷりがこれほどまでとはのぅ!ならばそれを商品にも是非反映させたい!御二人の馴れ初め等を詳しく聞いてもよろしいでしょうかのぅ?」
「······そ、それは······本当に恥ずかしい話なのだが······」
ノアはこれまでの事をボルザックに全て話した。
結婚し、妊娠中の妻に、一度も素直に想いを伝えられていない事。
結婚当初、契約結婚などと言い、その後も幾度となく彼女を傷つけて、信用を失ってしまっていた事も隠すことなく全て、だ。
「······笑われる、だろうな。今まで最低な事をしてきたという自覚はあるんだ。今は、俺の出来ることならなんでもしてやりたい······と思って······」
「なるほどのぅ。しかし、自らの過ちに気付き、しっかりその気持ちと向き合われるとは素晴らしいことですぞ」
「······だから。だから、俺は······”赤のエクラン・ドゥー”を作りたいんだ」
「なっ······?!赤、ですと······?!」
「ああ、情熱の赤。これは、真実の愛······俺の妻に贈る”赤のエクラン・ドゥー”は4段にしたい。恋愛・婚約・結婚に加え、その後の夫婦の永遠の愛を誓うという意味を込めて。俺の場合は、自分の子を妊娠してくれた妻への感謝と彼女を生涯を愛するという誓いだな」
「おぉおッ······!それはっ······と、とても感動的ですのぅ······!この爺、最近は涙腺が緩くてのぉぉ······」
ボロボロと涙を零し始めたボルザックに、ノアは顔を引き攣らせる。
「いや······まあ、感謝するが······それで、どうだろうか?」
「うむうむ。それは是非、このボルザックめに頑張らせて頂きたいのぅ!ロザリア王国での独占販売についてはまた日を改めて相談でも良いじゃろうか?」
「ああ、それは勿論だ。俺と貴殿で作り上げるのだから」
「よし、では公爵様のその情熱を形にする為に、このボルザック、完璧な物をご用意しましょうぞ!」
◆
それからふた月が経ち、ノアは”赤のエクラン・ドゥー”の完成の知らせを聞いた。
ギプロスに引き取りに行けば、ボルザックが満面の笑みでノアを出迎える。
「公爵様!ささっ、こちらに!」
机の上に出されのは、重厚な4段重ねの美しい赤い宝石箱だった。
「なるほど、ただの宝石箱にしては手触りが心地よいな」
「えぇ。公爵様が宝石ではなく、どちらかというともっと日常使いのできる装飾品の入れ物にしたいという事でしたのでの。手で触る事が多い事を考慮し外側の触り心地にも拘ってみましたぞぃ」
「うん、より温かみがあって良いな。それに用途によって段が使い分けられるのも良いな······女性は指輪や腕輪、耳飾りなど色々分けて保管するのだろう?」
「おお!流石は公爵様!その女性の贈り物に関する豊富な知識は隠せませんな!!」
その言葉にノアは少し自慢げに笑う。
ここにライラがいれば、『ノア様、なに自慢げな顔してるんですか?!女性の贈り物に関しては最も疎い人間に他推したいくらいなんですが?!』とノアに苦言を呈したかもしれないが、ここには幸運な事にノアしかいなかった。
だから誰もノアを止める事はなかったのである。
「では、これに、甘味を入れてくれるか?あと······できれば、どこかに指輪を入れたいと思っているからそのスペースを確保してくれ。妻には婚約指輪すらも贈れていなかったからな。これと共に詰めて、贈りたいんだ」
「おお!それは素晴らしいですな!承知致しました。お待ちくだされ」
そしてノアはこの日、ボルザックからフィリスへの最初の贈り物となる”赤のエクラン・ドゥー”を受け取った。
「妻が喜んで受け取ってくれるのか······不安だが、楽しみでもあるな」
「ええ、きっと奥様も感動に涙を流される筈ですぞぃ!!」
これをロザリアまで慎重に持って帰ったノアは、特注していた婚約指輪をその中に入れ、出産直前の妻フィリスへ自分の想いを伝える際にそれを渡したと言われている。
◆ ── ◆ ── ◆
ノアのフィリスへの贈り物として初めて用意された”赤のエクラン・ドゥー”
これは後に”情熱の宝石箱”と呼ばれ、ノアとフィリスの話を元に愛する妻に贈る、特別な贈り物として一躍有名となる。
多くの男性が愛する妻の為に渡す贈り物としてロザリアでは知らないものはいない程の大流行となり、ゆっくりと確実に定着していくことになるなど。
この時の誰が思っていただろうか。
少なくとも”贈り物”にロザリア王国一・・・いや、世界一、疎いとされていたノアは、全く想像すらしていなかったのである。
◆ ── ◆ ── ◆
フィリスはこの贈り物を貰った時に白の”エクラン・ドゥー”の本当の意味を既にノアから聞いている。
赤のエクラン・ドゥーの意味と共にノアから愛の告白をされた際に知った。
『あの時は何も考えなしに行動して、本当に申し訳なかった。貴女が怒るのは当然だが······今後は絶対にそんな失態はしないっ』とノアは誠心誠意謝罪をしたのだ。
けれど、彼女はそれでも、「本当に何も考えなしのノア様らしいですね。まあでも、次そんな事したら流石に怒りますけどねっ!」と言って笑ってくれた。
ノアはそんなフィリスの隣に座り、チョコレートを口いっぱいに頬張る彼女をじっと見つめた。
「ねえ、ノアさま?そういえば、あの日、”赤のエクラン・ドゥー”の中に指輪が入っていると伝えて下さいました?!私、あやうく見逃すところでしたよ!?(とゆうか、あれもチョコレートかと思って思い切り噛み付いてしまいましたけど……!)
もうっ、本当に言葉足らずなんだからッ!!」
彼の”言葉足らず”は未だ健在。しかし、彼の想いは確実に、妻フィリスに届いていた。
だって彼はこうして、指に嵌められた指輪を嬉しそうに眺める妻の隣に座り、共に笑い合う事ができているのだから。
***************
【あとがき】
以前より感想で頂いておりました、『ノア!外交しているのにチョコレート屋の文字が分からないのか!』という理由は、店長が”転生者”であり、商品名が彼の転生元の言語であった為でした。
ギプロスで浸透してきていた新しい物だった為、ノアには分かりませんでした…。
理由があり、裏設定を組み込んでいたため分かりにくくてすみませんでした。
ノアはその日、馬を走らせた。
向かうのは、ギプロスだ。
フィリスの体調管理などはライラに任せて早朝に公爵邸を出た彼は、日が昇り始め城下町に人が溢れてきた頃、ギプロスの王都に到着した。
あのノアを狙って薬を盛った伯爵親子はあの後、捕縛され王城に地下牢に収監。
ノア以外の多くの貴族にも被害があった事が分かり、最終的には他国の公爵に薬を盛ったという事が決め手となり爵位を剥奪されたらしい。
あの令嬢も修道院に送られ、それでも尚逃げ出そうとする為地下で監禁されているのだそう。
ノアはその情報をウィルから聞いていたので、安心してギプロスを訪れる事ができた。
目の前にある重厚な扉を開ければ、以前見た店員が駆け寄ってくる。
「い、いらっしゃいませ!あ、以前の”エクラン・ドゥー”をご購入下さった······?」
「ああ、だが今日は少し要件が違う。ここのオーナーと話をする手筈になっているのだが」
「え······オーナーと?「ほうほう、朝早くからご足労おかけしましたのう。お待ちしておりましたよ、ロザリア王国、バルモント公爵様」
後ろからオーナーの声に遮られ、その言葉に耳を疑った店員はあんぐりと口を開けて硬直した。
「こ、公爵様······?!」
「君は下がっていなさい。今日は重要な商談という事で来ていただいたのでな」
ふぉっふぉっふぉっ、と白髭を撫でながらゆっくり歩いてきたのがこの”チョコレート”店のオーナーであり、”チョコレート”を作る料理長でもある初老の男、ボルザックだ。
「バルモント公爵。本当に此処までご足労おかけしましたのぅ。私はボルザック。ここで”チョコレート”を作っている、所謂、職人ですぞぃ」
「ほう、ボルザック殿。今日は時間頂き感謝する。貴殿の考えた”チョコレート”という甘味。実に興味深く、あの宝石箱になるという入れ物や、商品にメッセージを添える等の考え方も斬新で素晴らしいと思った」
「ありがとうございます。実は、私は”世渡り人”でしてね?まあ、そこからヒントを得たまでで」
”世渡り人”と聞いてノアは驚きに目を細め、ふぉっふぉっふぉと笑う目の前の男を見た。
”世渡り人”とは別の世界からこの世界に来た人間の事を指す。彼らは特異な能力、豊富な知識を宿している事が多く、ロザリアでは昔から”世渡り人”が現れればすぐに王城で保護、王族との結婚等色々と特別な待遇があったという。
「ほう?”世渡り人”は以前公爵家の祖先にもいた様なのだが······最近のロザリアでは滅法聞かなくなったな······。彼らは奇才な能力に溢れた人が多いと聞く。貴殿もその能力を保有しているのだろうな」
「お褒め頂き光栄でございますぞぃ。して、本日の商談はどういったもので······?」
「うむ。単刀直入に言おう。私の愛する妻への贈り物を作りたいと思っている」
「贈り物を······作る?購入したいではなくて······ですかぃ?」
「ああ。作りたい。世界で一つの、俺が最初に作ったものにしたいんだ。そこに込める意味も俺が決めたい」
真っすぐ向けられたその瞳には揺らぐことのない炎が宿っていて、ボルザックはその情熱の中に吸い込まれそうになった。
「······販売は如何様にお考えで?」
「販売に関しては、妻に渡した後、妻が今後販売をしても良いと許可した際には······ロザリア限定で販売をして欲しいと思っている」
「ほう······オーダーメイド、加えて公爵様との独占契約のような形と······?」
「ああ。この商品の開発にかかる全ては公爵家で出すし、なんならロザリア支店も作るのであれば出資しよう。妻の為ならば、なんでもすると決めたのでな」
ボルザックはノアを見て、その愛妻ぶりを認識し驚いた。
だから、彼らの馴れ初めを聞くべく口を開く。彼らの愛の強さを商品に最大限反映しようと考えて。
「公爵様の愛妻っぷりがこれほどまでとはのぅ!ならばそれを商品にも是非反映させたい!御二人の馴れ初め等を詳しく聞いてもよろしいでしょうかのぅ?」
「······そ、それは······本当に恥ずかしい話なのだが······」
ノアはこれまでの事をボルザックに全て話した。
結婚し、妊娠中の妻に、一度も素直に想いを伝えられていない事。
結婚当初、契約結婚などと言い、その後も幾度となく彼女を傷つけて、信用を失ってしまっていた事も隠すことなく全て、だ。
「······笑われる、だろうな。今まで最低な事をしてきたという自覚はあるんだ。今は、俺の出来ることならなんでもしてやりたい······と思って······」
「なるほどのぅ。しかし、自らの過ちに気付き、しっかりその気持ちと向き合われるとは素晴らしいことですぞ」
「······だから。だから、俺は······”赤のエクラン・ドゥー”を作りたいんだ」
「なっ······?!赤、ですと······?!」
「ああ、情熱の赤。これは、真実の愛······俺の妻に贈る”赤のエクラン・ドゥー”は4段にしたい。恋愛・婚約・結婚に加え、その後の夫婦の永遠の愛を誓うという意味を込めて。俺の場合は、自分の子を妊娠してくれた妻への感謝と彼女を生涯を愛するという誓いだな」
「おぉおッ······!それはっ······と、とても感動的ですのぅ······!この爺、最近は涙腺が緩くてのぉぉ······」
ボロボロと涙を零し始めたボルザックに、ノアは顔を引き攣らせる。
「いや······まあ、感謝するが······それで、どうだろうか?」
「うむうむ。それは是非、このボルザックめに頑張らせて頂きたいのぅ!ロザリア王国での独占販売についてはまた日を改めて相談でも良いじゃろうか?」
「ああ、それは勿論だ。俺と貴殿で作り上げるのだから」
「よし、では公爵様のその情熱を形にする為に、このボルザック、完璧な物をご用意しましょうぞ!」
◆
それからふた月が経ち、ノアは”赤のエクラン・ドゥー”の完成の知らせを聞いた。
ギプロスに引き取りに行けば、ボルザックが満面の笑みでノアを出迎える。
「公爵様!ささっ、こちらに!」
机の上に出されのは、重厚な4段重ねの美しい赤い宝石箱だった。
「なるほど、ただの宝石箱にしては手触りが心地よいな」
「えぇ。公爵様が宝石ではなく、どちらかというともっと日常使いのできる装飾品の入れ物にしたいという事でしたのでの。手で触る事が多い事を考慮し外側の触り心地にも拘ってみましたぞぃ」
「うん、より温かみがあって良いな。それに用途によって段が使い分けられるのも良いな······女性は指輪や腕輪、耳飾りなど色々分けて保管するのだろう?」
「おお!流石は公爵様!その女性の贈り物に関する豊富な知識は隠せませんな!!」
その言葉にノアは少し自慢げに笑う。
ここにライラがいれば、『ノア様、なに自慢げな顔してるんですか?!女性の贈り物に関しては最も疎い人間に他推したいくらいなんですが?!』とノアに苦言を呈したかもしれないが、ここには幸運な事にノアしかいなかった。
だから誰もノアを止める事はなかったのである。
「では、これに、甘味を入れてくれるか?あと······できれば、どこかに指輪を入れたいと思っているからそのスペースを確保してくれ。妻には婚約指輪すらも贈れていなかったからな。これと共に詰めて、贈りたいんだ」
「おお!それは素晴らしいですな!承知致しました。お待ちくだされ」
そしてノアはこの日、ボルザックからフィリスへの最初の贈り物となる”赤のエクラン・ドゥー”を受け取った。
「妻が喜んで受け取ってくれるのか······不安だが、楽しみでもあるな」
「ええ、きっと奥様も感動に涙を流される筈ですぞぃ!!」
これをロザリアまで慎重に持って帰ったノアは、特注していた婚約指輪をその中に入れ、出産直前の妻フィリスへ自分の想いを伝える際にそれを渡したと言われている。
◆ ── ◆ ── ◆
ノアのフィリスへの贈り物として初めて用意された”赤のエクラン・ドゥー”
これは後に”情熱の宝石箱”と呼ばれ、ノアとフィリスの話を元に愛する妻に贈る、特別な贈り物として一躍有名となる。
多くの男性が愛する妻の為に渡す贈り物としてロザリアでは知らないものはいない程の大流行となり、ゆっくりと確実に定着していくことになるなど。
この時の誰が思っていただろうか。
少なくとも”贈り物”にロザリア王国一・・・いや、世界一、疎いとされていたノアは、全く想像すらしていなかったのである。
◆ ── ◆ ── ◆
フィリスはこの贈り物を貰った時に白の”エクラン・ドゥー”の本当の意味を既にノアから聞いている。
赤のエクラン・ドゥーの意味と共にノアから愛の告白をされた際に知った。
『あの時は何も考えなしに行動して、本当に申し訳なかった。貴女が怒るのは当然だが······今後は絶対にそんな失態はしないっ』とノアは誠心誠意謝罪をしたのだ。
けれど、彼女はそれでも、「本当に何も考えなしのノア様らしいですね。まあでも、次そんな事したら流石に怒りますけどねっ!」と言って笑ってくれた。
ノアはそんなフィリスの隣に座り、チョコレートを口いっぱいに頬張る彼女をじっと見つめた。
「ねえ、ノアさま?そういえば、あの日、”赤のエクラン・ドゥー”の中に指輪が入っていると伝えて下さいました?!私、あやうく見逃すところでしたよ!?(とゆうか、あれもチョコレートかと思って思い切り噛み付いてしまいましたけど……!)
もうっ、本当に言葉足らずなんだからッ!!」
彼の”言葉足らず”は未だ健在。しかし、彼の想いは確実に、妻フィリスに届いていた。
だって彼はこうして、指に嵌められた指輪を嬉しそうに眺める妻の隣に座り、共に笑い合う事ができているのだから。
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【あとがき】
以前より感想で頂いておりました、『ノア!外交しているのにチョコレート屋の文字が分からないのか!』という理由は、店長が”転生者”であり、商品名が彼の転生元の言語であった為でした。
ギプロスで浸透してきていた新しい物だった為、ノアには分かりませんでした…。
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