公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう

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42. 二人は漸く、想いを一つに

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本話長いですお暇つぶしにお願い致します。タイトル通りなので切れず、ご容赦下さい。
完結まであと3話と閑話です!!本日か明日の朝には〆たいです(願望)

***************

「旦那様は······ズルいです······そんな事を今更急に言うなんて」

 胸に顔を強く押さえつけながら、ノアの服の裾をぎゅっと握りしめたフィリス。彼女の少し震えた声を聞き、ノアは少しでも安心できればとそっと抱きしめた。

「フィリス。俺は貴女の言う通り、ズルいのかもしれない。今更、というのも当然だろう。
 だけど······伝えなくては、とは思ってたんだ。気づいたら······貴女が好きで······好きで仕方なくて」

 そう続いたノアの言葉に、フィリスは目を閉じて彼の胸板に自分の耳をぴったりと寄せた。
 バクバクと早まるノアの鼓動が聞こえて、彼の緊張が鼓膜を通して伝わってくるようで。
 今まで自分が気持ちに怖がって、悩んでいた事すらもちっぽけに感じて······フィリスはゆっくりと口を開く。

「······本気、なのですか······?こんな”じゃじゃ馬”と?それに······だって、メイドちゃんはどうするのです?」

「メイドちゃん······?あぁ、ライラの事か?······実は、あいつが、フィリスが俺の気持ちに気付いていないと教えてくれたんだ」
「まあ······彼女······なんて余計な事を······。でも世話上手な、彼女らしいけれど」

 ふふっと小さく笑ったフィリスをみて、ノアはその美しい髪を優しく撫でた。

「余計、だろうか?俺にとってはとても大切な忠告だった。やっと、こうして自分の気持ちを伝える事ができたんだからな」
「そうですか······」
「ああ······。俺は本当に女関係には疎くて。自分の気持ちには少し前から気づいてはいたんだ。けど、やはり上手く伝わっていなかった······んだろうな。
 それにしても、こうして貴女を抱きしめて、逃げないでくれたのは······初めてだな」

 抱きしめていたフィリスを胸の中から解放したノアが、顔をくしゃっとさせて嬉しそうに笑って。
 フィリスの胸はドキッと音を立てて、目に映る世界が止まった······ような気がした。

「フィリス。その······俺の我儘な願いを聞いてくれるだろうか?先ほども言った通りなんだが、俺と、この先も一緒にいてくれないか?
 ”契約”ではなく、”夫婦ごっこ”でもなく、ちゃんとした”夫婦”として。産まれてくる子の親としても······。その過程で、もし、万に一の確率でも、貴女の気持ちが変わって俺を好きになってくれたら······嬉しいと思うのだが······」

 どうだろうか······?と、瞳を揺らし、不安の混じりあった真剣な表情で顔を覗き込んだノア。
 フィリスはその少年のような真っすぐな告白に目を見開く。
 
 そして自分の、この気付かない振りをしていた想いを口にすることにした。
 
 彼がこんなに勇気を振り絞って気持ちを伝えてくれているのに、自分だけ逃げ続けるのは卑怯だ。自分も彼に、この想いを伝えなければ。と、そう思ったから。

「······私も。······好きだったのです······。迷惑だと思って伝えていなかっただけで······。だから、はい······よろしくお願いします······」

「へ······?」

 直後、ノアが口をぽかんと開け、動揺した顔を見せて、フィリスは吹き出した。

「っふ、ふふっ、あはははっ!なんですか、その顔っ!!?」
「ッ!そ、それは······だって!俺に、め、迷惑なはずがあるわけがないだろうッ!?
 いや······夢、ではないんだよな?フィリス······本当、なんだよな?」

 グイッと顔を近づけてきたノアにフィリスは赤面し、頷く。

「······はい······」
「もう一度、聞いてもいいか?本当に俺のことが、少しでも好き······なのか?本当に?レオンじゃなく?」
「······はい。これが、好き、という気持ちなんだと思います······。レオン様じゃなくて、旦那様······が」
「っはァ······!それは······それは、いつからだっ?」
「えぇ······いつからでしょうか?う~ん、ギプロスの帰り辺りからかな······?とても気になって、胸が苦しくて······。でも気づかないようにしていたので······」

「ッぐ、ぅ!!俺と······俺と、今後も一緒にいてくれる······んだよな?」

 ノアは予期せぬフィリスからの告白に、緩む頬を隠すように口元を手で押さえた。

「······はい。もし旦那様がそれでもいいのであれば······」

「当たりまえだ!もう離縁して出ていくなんて言わない······よな?」
「······はい」
「っ、本当に?夢じゃないんだよな?」
「······はい」
「キスしていいだろうか?」
「······はい」

 ノアにそっと頤を掴まれて、フィリスは熱の籠ったノアの瞳を見つめた。
  そして、自分が無意識に “はい” と答えていた事に気付く。

 あれ?なんて質問をされたのだっけ?
 確か、キスしていいか?って······え。

「えっ?!······あ!いや、ちがっうううう、んうっ!」

 フィリスが拒否の言葉を口にする前に、ノアがそれを塞ぐ。
 けれどその情熱的で、通じ合ったばかりの想いを再確認するかのような深く長い口づけに、フィリスは抵抗をやめた。

「っう、はぁっ!」

 暫くしてフィリスが苦し気にその長い口づけから逃げ出せば、唇を離したノアがフィリスを覗き込んで悪戯に笑った。

「フィリス······ああ!フィリス!こんなに嬉しいのだな!これが······恋かっ!」

 情熱的なキスとは一転、目の前で子供のようにはしゃぐノアを見て、苦笑する。

「旦那様、”恋かっ!”って······私たち、もうすぐ親になるのに······」
「いや、政略結婚などで、愛や恋とは程遠い夫婦もいるだろう?俺は、妻に恋したんだ!こんなに嬉しい事があるか?それだけでなく、貴女との子をもうすぐ見れるのだからな!」

 ノアが待ち遠しそうな顔をして、フィリスは大きく頷いた。

「確かに。旦那様のおっしゃる通りですね······。私たちも始まりは契約結婚だったし。色々とありましたけど、最終的には私も旦那様に恋する事ができたのだから······幸せな事かもしれませんね」

「ああ、そうだ、フィリス。”旦那様”はもうやめてくれないか?今後はノアと呼んでほしい」
「······ノア······様、」

 フィリスはその名前での呼び方に恥じらいを感じ顔を俯けようとした。
 けれど、それを阻止するようにノアが両手を掴む。

「それと、今日はこれを貴女に渡そうと思って。······用意をしていたんだが······」

 そして、ノアが目の前に差し出したのは、美しい、赤い宝石箱だった。

「······受け取ってくれるだろうか?」

「あれ······これ、ノア様のストーカーの女性が言っていた宝石箱ですか?」
「ええと······あれとはまた違うんだが······。これは、俺が特注で作らせたんだ······」

 そう。それはノアがギプロスに赴き、”チョコレート”店でフィリスの為だけに作らせた世界で一つの贈り物。
 今後、フィリスが許可した際のみ、ロザリア王国で販売するという内容で専属契約を取り付けた特注の品だ。

 ”赤のエクラン・ドゥー”
 真っ赤な4段で出来た宝石箱は、白のエクラン・ドゥーと同じ、恋愛、婚約、結婚に加え、夫婦のあらゆる局面で感謝とその愛を伝える為のもの。
 ”夫婦二人のこれからの人生に永遠に変わらぬ愛と祝福を”という情熱的な意味を付けた贈り物だ。

 ノアは、自分の子供を身籠ってくれたフィリスへの感謝と、今後未来永劫の愛を誓い捧げるという気持ちを伝える為にそれを一から作った。

「俺達はまだ結婚式もあげていないし、笑われるかもしれないが······。この人生を終える時には、きっと人生の全ての段階で幸せだったと貴女が思える様にしたいと思っている······。これは俺からの貴女への感謝と心からの愛を誓う気持ち······。
 フィリス、今後も俺と共に人生を歩んでいってくれるだろうか?」

 顔を真っ赤にしたノアが、フィリスの前にさっと跪き、それを差し出す。 
 少し緊張で震えた彼の手からその宝石箱を受け取って、フィリスは微笑んだ。

「ノア様······ありがとうございます。とても······とても嬉しい······です。
 はい······。今後は”夫婦”として……よろしくお願いします」
「ああ······。まあ、今はそれでいいが、慣れてきたら、ノアと呼んで欲しいものだな······」

 フィリスが受け取ってくれたという安心感でだろうか。
 ノアはフィリスを見上げ満面の笑みで顔を綻ばせる。

「······ッ!と、当分はノア様でご勘弁下さいませっ!」

 今度はフィリスが顔を真っ赤にしてそう叫んで、ノアはさっと立ち上がると彼女の身体を引き寄せる。
 そして額に触れるだけの、口づけを落とした。

 このロザリア王国で最も女心に疎い堅物、ノアルファス・バルモント。
 彼が妻フィリスの為に特注で作った”赤のエクラン・ドゥー”。 
 それが【情熱の宝石箱】と呼ばれ、今後ロザリアの貴族の間では結婚後の夫婦間で記念日などに妻に贈られる、特別な贈り物として定着する事となるなんて。

 この時の二人は、想像すらもしていなかったのだ。
 だって二人はようやくお互いの心を通い合わせた所だったのだから。
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