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37. それ、本当に治癒なんだよな?!
しおりを挟む※本話、場面分けを挟み、後半は若干の悲恋が含まれます。長めですのでお時間ある際にお願い致します。
********************************
レオンはボルマン医師と話をした後にフィリスのお腹に手をあてる。
そして集中する為、目を閉じた。
「おい、本当に治癒なんだよな?お前、フィリスに触れたいだけなんじゃ······」
「兄上、煩いですよ」
ぽかぽかと温かい感覚がフィリスを包み、フィリスはリラックスして目を瞑る。
「……はぁ、」
木漏れ日の中にいるような、とても心地の良い気分······。
そして次の瞬間、自分の胎内、身体の奥で何かがぎゅるんっと動いた気がした。
「っぅあ!」
思わず声が漏れて、フィリスは恥ずかしさに赤面し、顔を押さえる。
同時に、隣で手を握りしめながら様子を見守っていたノアルファスは声を張り上げた。
「オイ!長くないかッ?それになんだか変な雰囲気じゃないか?!なあッ!!?」
「兄上っ!ウルサイと言っているでしょう!集中できません!」
「公爵様、ここはレオン様に任せましょう······」
「······ボルマン······ッくぅ、」
フィリスの肌にレオンが直接触れている、というだけでも嫌なのに。ゆっくりとその肌を撫でまわしているようで、手つきもなんだかいやらしいし!(※ノアルファス個人の偏った感じ方です)
そんな苛々とした様子のノアの手をぎゅっと握り返して、フィリスは微笑む。
フィリスにとっては『一応、大丈夫ですよ~』という意味のそれだったが、ご都合主義のノアの脳内では『旦那様、心配してくれてありがとう、大好き』と変換されていた。
だからノアはうっとりとするような笑みでこう答える。
「ああ、俺もだよ」
「······?」
蕩けるような表情でそう言ったノアを見てフィリスが首を傾げ、直後レオンは手を離した。
「ボルマン医師が言った通り、御子は問題なさそうだ。けどやっぱり、筋肉の収縮が見られるね。何か身体を使って疲れたり······いや、心労やストレスがかかったのかなぁ?」
レオンがちらりとノアを見て、ノアは彼を睨みつける。
「そんなのボルマンの診察で分かっていた事と同じではないか······」
不機嫌そうに呟くノアの隣で、フィリスは手を顎に当てた。
「疲れ······ストレス······?う~ん、ありましたでしょうか?」
「ギプロスで無理をしすぎただろうか?」
「確かに少し歩きすぎましたね?」
「まあ、一緒に一日中、城下町を散策したからな······」
その言葉にレオンが驚いたような表情を見せ、ノアは勝ち誇った顔を向ける。
「ほんとに大人げないですね、あなたは······」
「なんだって?」
「御二方······奥様の前で兄弟喧嘩はお止めください」
「こんな歳の離れた弟と喧嘩などしていない!」
「兄弟喧嘩なんてするほど大人げなくないよ!」
同時に言葉を発した二人を見て、ボルマン医師はヤレヤレ、と頭を振った。
「それで、レオン様?治癒は施して頂けそうですか?我々医師にはどうする事もできず······」
「うん、僕も完璧に出来るかは分からないんだけど、治癒魔法はもう習得しているんだ。この収縮状態を元に戻すくらいなら出来ると思うんだけど······どうかな?」
「流石でございます。それで大丈夫かと。元の状態に戻して頂ければきっと胎児も喜びましょう」
「じゃあ、義姉さま、もう一度触れますが。今回は少し魔法を使いますから、何か変な感じがするかもしれません······痛かったりしたら直ぐに教えて下さいね」
「あ、はい!大丈夫よ!本当にありがとう」
にこりとフィリスに微笑まれて、レオンは顔を俯ける。
レオンの頬が赤く染まった事に気付いたノアは、直ぐにフィリスの手を握りしめた。
「フィリス、大丈夫だ。俺がついている」
「え?······はい、大丈夫ですよ?」
レオンがまたフィリスのお腹に手をあてて、小さな声で詠唱を始めた。
彼の手のひらから白い光のようなものが発せられて、フィリスの身体を包み込む。
お腹の辺りが温かくなり、ふわふわとして、抱きしめられている気分。
慈愛に満ちた、レオンの優しさを直接感じているような不思議な感覚にフィリスは吐息を零した。
「······うん、もう大丈夫だと思うな。だけどもう無理は禁物ですよ、義姉さま」
レオンは手を離すと、フィリスに向き直った。
「はい······あ、ありがとう。······本当に······レオン様は凄いのね」
「っこれで、動いても大丈夫なのか?だがあと何日かは安静にしていた方がいいのだろう?」
「兄上はなぜか心配性になっているようですからね。何日かは安静にしていた方が良いのではないですか?」
「お前、なんか嫌味な言い方だな。棘があるぞ?」
「いちいち気にしすぎなんですよ。嫌われますよ、”おとうさま”?」
「お、お前ッ!!」
「御二方······「二人共!いい加減にして下さいませ!仲が良いのは分かりましたが、先ほどから本当にっ!何度も何度もボルマン医師を困らせないで下さい!」
「「はい······」」
ボルマン医師の制止を遮るように発せられたフィリスの一言と共に、二人は一先ず部屋から追い出され。
ノアはサロンでレオンと夜酒を酌み交わしながら、呟いた。
「レオン。お前には悪いが、やはりフィリスを渡すことはできない」
「好きなのですか?あんなに”契約”だと言い切っていて、結婚したくなかったのに?」
「好き······なんだろうな」
酒を飲みながら、遠くを見てそう言ったノアにレオンは乾いた笑い声をもらした。
「なんだそれ。前も言いましたが、フィリスが貴方の御子を身籠っているから、好きだと思っているのではないですか?」
その疑問に、ノアは首を横に振る。
「いや······今回の事で分かった。彼女が倒れた時、俺は子供の心配よりフィリスの心配をしたんだ。父親としては······失格なのだろうが······」
レオンは自嘲気味に笑うノアを見て、静かに口を開く。
「兄上。本当に、変わりましたね。いえ、良い意味で······です。父親として失格か失格じゃないかは僕には分かりませんが。それは本当に、義姉上を想っての事なんでしょうね。それは伝わりました」
そしてレオンは酒を口に含むと、窓から顔を覗かせる月を見つめた。
「羨ましいな······」
◆
レオンは翌日帰る準備を整えた後、庭園の椅子に座る一人の女性を見つけて、その隣に腰掛けた。
「君も、災難だね」
「いえ、そんな事ありません」
彼女は前を見つめたまま、口を開く。
本当であれば公爵家の次男であるレオンの顔を見もせず、そんな風に答えを返すのは不敬。
けれど、自分達の関係は幼い頃からこうだから。
「僕は災難だよ~。本当は二人が契約結婚のまま、義姉様の出産後に離縁。僕が責任を持って彼女を養おう、なんて考えていたんだけど。ほら、彼女美人だしね」
「そうですか。本当に、いつも貴方は能天気ですね。だからお相手に逃げられるのでは?」
「僕には相手なんかいたこともないよ。いつもあるような言い方は止めてくれ。それより君、これからどうするの?」
ちらりと彼女の横顔を見るが、暗くて表情の変化は読み取れない。
「······どう、とは?私は公爵家のメイドですので。ノア様の居られる所に、」
「君の恋が叶わなくても?」
「私は恋など「強がるなよ、ライラ」
名前を呼ばれ、彼女はびくりと肩を揺らす。
「強がってなど、おりません。違う、私は、奥様には気がないから······っ。もしノア様が離縁されても普通に今まで通りでいるつもりでした······」
「でも、兄上はフィリス姉様が好きになった」
「······でも、奥様にはその様な御様子がない······から」
「だから、義姉上が兄上を捨てて家を出て行ったら、慰めようと?」
ライラはそのレオンの言葉に勢いよく顔をあげた。
「そんな事!滅相もございません!」
「じゃあ、何?」
「いえ······ただ、公爵家のメイドとしてお支えする気でいるだけです」
「ふ~ん。ま、でも、兄上は本気そうだったから。多分義姉上を離さないと思う。諦めた方が良い。
もしバレれば、君、此処にいられなくなるよ。僕は明日にはまた学園に戻るし。兄上が離縁しないなら、僕は卒業後、騎士団にでも入ろうと思ってる。まだ結婚もしたくないしね~」
レオンは椅子から立ち上がると、片手をひらひらと振ってその場を離れる。
残された彼女は一人、満天の星が広がる夜空を見上げ溜息を零した。
「分かっています。この想いが報われないこと位。ずっと昔から······。
でも、私のこの気持ちは ”憧れ” なのです。私にとってはこの公爵邸が何よりも大切なのです。ご当主様が······ノア様が、幸せになってくだされば······私はそれだけで······本望なのですっ」
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