公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう

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25. ”変な物”ではない・・・んだよな?!

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 大通りに出れば、ノアはその中心で異彩を放つ高級菓子屋を見つけた。
 店に入ると甘ったるい匂いが鼻腔を掠め、ノアはショーケースに並べられた色とりどりの宝石のような甘味を見た。

「これが菓子なのか?」

 ノアの服装等で高位貴族と判断した店員が、直ぐにやってきて個室へと案内する。
 促されるまま席に座れば、店員は深くお辞儀をした。

 「いらっしゃいませ。こちらは他国出身の料理長が作っているギプロスでは新しい御茶菓子でして。名を”チョコレート”と言います。原材料を船で輸入し、こちらで加工しているのです」
 「なるほど······。これは貴族向けなんだよな?そうか······ロザリアにも仕入れたいな」

 直ぐに仕事脳に切り替わったノアを見て、店員が苦笑いを浮かべる。

 「ほ、本日はどういったご用件でしょうか?」

 少し考えに耽った後、ノアは顔を上げると『誕生日会のための贈り物を見繕って欲しい』と言い放った。
 
 この世でノアを知る誰もが知っている共通認識事項、“”。

 加えて、THE高位貴族という見た目のノアから発せられたその言葉に、””と店員が間違って解釈してしまうのは仕方が無い事だろう。

 決して、店員の責任ではない。

「特別な方への誕生日のお祝いにという事でしたら、この3段の宝石箱に入ったものが最も人気があります!“エクラン・ドゥー”という名前の商品なのですが」
  
『特別な人ではないのだが········』と言おうとしたノアだったが、目の前に置かれた真っ白な美しい重厚な箱に目を見張った。

「これは······また凄いな」
「はい。こちらは、御茶菓子として召し上がった後にジュエリーボックスとしてもお使い頂けるので、女性からはとても好評なのです」

「な、なるほど。それは······誕生日の女性に渡すのに“”ではないのだよな?」

 ””と聞いて、店員は首を傾げる。
 しかし、咄嗟にその真の意味を理解した。
 『ああ、なるほど!大切な女性の誕生日にしっかりと意味のある物なのだよな?!という確認の意味ね!』
 そう解釈した店員は、ノアに向かって微笑みながら口を開く。

「ええ、“”などではないですよ。ギプロスの流行に敏感な貴族女性であれば誰でも一度は夢見るものです!誕生日に用意をする男性も多くいらっしゃいますし、とてもピッタリだと思うのですが······如何でしょうか?」

「ああ······では、それを頂こう」

 時間もなかった為、言われるがままにその”エクラン・ドゥー”とかいう商品を購入したノアは、プレゼント用にリボンの巻かれたそれを受け取ると足早に店を出た。

 ”エクラン・ドゥー甘い宝石箱”、それは純潔を現す白の宝石箱に、恋愛における交際、婚約、結婚の3段階を暗示する3段重ねの、親愛なる女性へ贈られるプレゼントであった。

 それをロザリア王国出身のノアが、いくら外交に精通しているとしても知る筈もなかった。
 だって、それはギプロスでこの“チョコレート”を特別な甘味として広める為に作られた造語であったのだから。

 客の要望を推測し、接客した店員の落ち度でもない。
 ”チョコレート”を薦めたウィリアムの所為でもない。 
 ただ、いつも通り、運がノアに味方しなかった。
 それだけの事だった。



 会場につくと、もう既に人が溢れていて、若者も多く参加していた。
 アメリアは結婚適齢期なので当然だろう。

 会場に足を踏み入れれば、すぐに中央にカルロス伯爵とその娘アメリアがいるのが確認でき、ノアはそこに歩を進める。
 アメリアはノアに気づくと、両手を口に抑え顔を染めた。

「まぁ、なんて素敵なの!ノア様!」
「カルロス伯爵、先ほどパーティではお世話になりました。こちらは本日誕生日を迎えたとお聞きしました、アメリア嬢へ御茶菓子です」

 ノアがチョコレートの入った宝石箱を差し出すと、会場の女性達からは感嘆の声が漏れた。

「······?」

 何故、甘味如きにそこまで陶酔した様な顔を見せるのか······?ノアの頭は疑問で埋め尽くされる。

「ノア様、嬉しいですわ······!この国の女性の誰もが夢見る”エクラン・ドゥー甘い宝石箱”を頂けるなんて!」

 そんなノアの前で父親のカルロス伯爵が娘を見て微笑んだ。

「アメリア良かったな、父さんも嬉しいぞ。あとは縁談の旨、書面として貰えれば、承諾をするだけだな」

 カルロス伯爵がブツブツと何かを呟いていたがそれは会場の様々な声にかき消される。
 よくわからないまま、ノアはジョセフの扱う特産品の事を思い出した。

「え、えくらんどぅ?いや、その贈り物はこの国では通例だと聞いたからで······。いや、それより、伯爵、私はジョセフ殿と話がしたいのだが」
「ああ!行きましょうか」

 こうして伯爵に連れられて、ノアは漸くジョセフと話をする事が叶った。

 そう、これがノアがこの誕生日会に出席した本当の目的だったのだから。断じて、アメリアにプレゼントするためなんかではない。

 だが、ノアはカルロス伯爵には黒い噂が多いことを知らなかった。
 だから、この時すでに、伯爵父娘に狙われていたなど、鈍感なノアが知る由もなかったのである。
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