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24. 外交パーティーでの思わぬ再会
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翌日、ノアルファスはギプロスの王城の庭園で開かれたパーティーに参加していた。
各国の外交に携わる者達が出席しており、賑やかなそこでノアも自国ロザリアの代表として関係性構築に努めていく。
「バルモント公爵、お久しぶりでございます。こちら妻の、」
「バルモント公、次は是非わが国にもお越しいただきたく。娘も婚期を迎えまして」
とまあ、ノアルファスの歳以上にもなれば大抵は妻帯者もしくは娘がいて、その紹介と売り込みがメインになるわけで。
ノアルファスはテーブルに綺麗に並べられた軽食の数々を見ながらフィリスを思い出していた。
『俺だって······妻はいるし。もうすぐ子供だってうまれるのに』
『美しい妻だって俺に自慢してるのかもしれないが······俺の妻なんてもっと······』
そんな事を考えていると隣から甘ったるい香水の匂いと声がして、ノアは顔を顰めた。
「あれ?ノア様、ではないですか?」
「は?」
突然、知らない女性にノアなんて愛称を呼ばれる筋合いはない。
とても不愉快だ。とノアは声のした方を振り返ると、冷たい視線を向けた。
直後、上目遣いに潤んだ大きな瞳と目が合い、女の唇が弧を描く。
「え?わたしのこと······忘れてしまったのですか?昨夜は共に楽しんだではないですかっ」
「は?ちょっ」
彼女の、含んだような言い回しに周りの貴族の視線が集まり、ノアは慌ててその場を離れようとした。
だが、女はそのタイミングすらも与えない様に、にっこりと笑うと片手を挙げる。
「あ!お父様!」
『最悪だ······』
面倒な事になった······と、ノアは頭を抱えた。
「おお!これはこれは、バルモント公爵でいらっしゃる!······わが娘アメリアとお知り合いでしたか?」
「ええ、お父様。ノア様には昨晩、良くして頂いて······」
「なんと?!」
さっと頬を染めて微笑んだ女は父親の前で恥じらうように顔を俯ける。
その反応に、ノアはぎょっとした。
父親の表情が嬉嬉としたものに変わり、ノアは咄嗟に口を開く。
「いや、昨日は俺は一人で呑んでいただけで」
「なるほど······いや、ですが、我が家にとっては嬉しい繋がりでございます!私、ギプロスで伯爵位を授かっております、カルロスと申します」
「いや······だから、誤解だと······」
「昨日はお互いバタバタしていて······自己紹介がまだでしたね。私、カルロス伯爵が娘のアメリアですわ。昨夜の様に、アメリアと呼んで下さいませ?」
ふふっと妖艶に微笑んだ彼女の顔を見て、ノアは顔を引き攣らせる。
「そうかそうか、アメリアももう自分で幸せを見つけられるとは!」
「いや、だから、そういう事ではっ!「それはそうと、では今夜行われるアメリアの誕生会には参加されるのですよね?バルモント公にも是非ご出席頂きたい」
「······誕生会?」
「まあ!来てくれるのですか?!」
その言葉を聞いたアメリアは、隣でキラキラと目を輝かせた。
「いえ、私は仕事で来ている身ですので、そのような私的な場所には行きません」
漸くハッキリと言い切る事のできたノアに、伯爵が余裕な表情で微笑みかける。
「いえいえ、他国の使者の方々も参加される大きな晩餐会なのです。娘の誕生日を兼ねているだけなのですよ。······ほら、彼も······。ジョセフ様!また後程、楽しみにしておりますね」
直後、目の前を他国の使者が通り過ぎていき、ノアはその人物を見た。
”ジョセフ”と呼ばれた男は、振り返り、手を上げる。
「カルロス伯爵、では後ほど!バルモント公爵も出席されるようでしたら是非!」
確か彼は······その国でしか取れない貴重な農産物を扱っていたはず······。
あれは、国王アレクも興味を示していたんだった。
そう思い出した瞬間、ノアの頭は完全に仕事モードに切り替わった。
ノアは根っからの真面目で仕事人間だ。
だから、この時はもう既に、アメリアの事など完全に頭の中から消し飛んでいたのだ。
ノアは伯爵に向き直ると、少し食い気味に口を開く。
「彼も来られるのですか?」
「ああ、はい。ジョセフ様の扱う国の特産品の話を詳しく聞く機会を得まして」
「······では······私も参加させて頂きます」
この機会を逃すまいと、ノアは誕生会の出席を承諾した。
その隣で、アメリアの表情が一気に明るくなる。
「嬉しいわ!ノア様、お待ちしておりますね。誕生日の贈り物も、皆様持ってきて下さる事になっていますから······楽しみにしておりますわね!では!」
伯爵と共に嵐のように去っていた令嬢を見て、ノアは記憶を呼び起こす。
あの長い黒髪に大きな瞳、濃い化粧······。
「あぁ、昨日の店で隣に座ってきた······あの女か」
◆
ノアは城内でのパーティーの後、城下町を歩いていた。
晩餐会までには時間がある。
「出席者は贈り物持参必須か······参ったな」
困った。ノアは女性に贈り物などしたことがない。
ついこの前フィリスに摘んだ花が初めてだ。かくいうあれも本人には贈れなかったので、実質贈った経験はない。(と、ノアは思っている)
何を贈って良いかも分からないし、ましてや他国で何が主流なのかも分からない。
そんな時、急に後ろから名前を呼ぶ声がして、ノアは振り返った。
「ノア!!」
「ああ、ウィルか」
「昨晩はさっさと帰っちゃうんだもん!今日もご飯にいくのかい?」
「いや、今日はこれから晩餐会があるからその準備に」
「なるほど、だから畏まった服を着ているんだね。でも、そういうのは邸か王城の傍の会場を貸切って行われるだろう?なんでこんな所にいるんだい?」
”こんな所”とは今ノアのいる、少し庶民向けの店の並ぶエリアという事だろう。
ノアはその瞬間、ウィリアムを見て、名案を思い付いた。
彼はこの国の人間なのだからアドバイスを貰えばいいのだ、と。
「ああ、それなんだが。今回の晩餐会はご令嬢の誕生日を兼ねているらしい。出席には贈り物が必須だと聞いてな。何が良いか考えあぐねていた」
「誕生会で······贈り物?彼女とかではなく、普通の友人に?」
「ああ、貴殿はこの国の出身だろう?どんな物を持っていくんだ?やはり、花だろうか?」
「え?いや、普通は持って行かない······けど、無難な贈り物なら······花かな。
あ······いや!待って!やっぱり花は辞めた方が良いかも。僕の知り合いが花言葉に惨敗したって話を、ついこの間耳にしたから······」
ウィルはフィリスから聞いた、彼女の夫の話を思い出して、咄嗟に彼に忠告した。
「確かに······花言葉には俺も自信が全くないな」
ノアはフィリスに言われた花言葉の内容を思い出して、その忠告に納得し、頷く。
「誕生日のご令嬢なら、最近この国で流行っている”チョコレート”という御茶菓子が良いんじゃないかい?元々は他国の甘味で、目新しいし高価らしい。簡単に手に入らないから特別だって聞いたよ。大通りの真ん中に専門店が······」
「そうか!じゃあそれにしよう。ウィル、本当に助かった。少し時間が迫っているから、礼はまたする」
ウィルの話を最後まで聞かず、やはりこの国の人間に聞いて正解だった!とノアは満足気に手をあげて、足を踏み出す。
「······え、あ、うん。あ、でもちょっと待って!なんていうご令嬢の誕生日なの?」
「ん?あぁ、カルロス伯爵の所のご令嬢だ」
じゃあな、と手を振りながら、その高級菓子店のある大通りに向かって行ったノアの後ろ姿を見つめ、ウィルことウィリアムは嫌な予感を覚えた。
「カルロス伯爵って······あんまり良い噂聞かない気がするんだけどな······何もないと良いんだけど······」
そう、ウィリアムの予感は大抵当たるのだ。
だから、ウィリアムも、情報を集めるべくとりあえず騎士団の集まる詰所へと足を踏み出した。
*******************************************
【裏設定メモ】
※ウィル、ことウィリアムは未だノアがフィリスの夫だという確証を持っていません。
彼はフィリスからポンコツ夫の話を聞いているので、花言葉で惨敗した人物の話をしています。
そしてそれは勿論ノアの事ですね(笑)でも、ノア自身は別人の話だと思っています。
各国の外交に携わる者達が出席しており、賑やかなそこでノアも自国ロザリアの代表として関係性構築に努めていく。
「バルモント公爵、お久しぶりでございます。こちら妻の、」
「バルモント公、次は是非わが国にもお越しいただきたく。娘も婚期を迎えまして」
とまあ、ノアルファスの歳以上にもなれば大抵は妻帯者もしくは娘がいて、その紹介と売り込みがメインになるわけで。
ノアルファスはテーブルに綺麗に並べられた軽食の数々を見ながらフィリスを思い出していた。
『俺だって······妻はいるし。もうすぐ子供だってうまれるのに』
『美しい妻だって俺に自慢してるのかもしれないが······俺の妻なんてもっと······』
そんな事を考えていると隣から甘ったるい香水の匂いと声がして、ノアは顔を顰めた。
「あれ?ノア様、ではないですか?」
「は?」
突然、知らない女性にノアなんて愛称を呼ばれる筋合いはない。
とても不愉快だ。とノアは声のした方を振り返ると、冷たい視線を向けた。
直後、上目遣いに潤んだ大きな瞳と目が合い、女の唇が弧を描く。
「え?わたしのこと······忘れてしまったのですか?昨夜は共に楽しんだではないですかっ」
「は?ちょっ」
彼女の、含んだような言い回しに周りの貴族の視線が集まり、ノアは慌ててその場を離れようとした。
だが、女はそのタイミングすらも与えない様に、にっこりと笑うと片手を挙げる。
「あ!お父様!」
『最悪だ······』
面倒な事になった······と、ノアは頭を抱えた。
「おお!これはこれは、バルモント公爵でいらっしゃる!······わが娘アメリアとお知り合いでしたか?」
「ええ、お父様。ノア様には昨晩、良くして頂いて······」
「なんと?!」
さっと頬を染めて微笑んだ女は父親の前で恥じらうように顔を俯ける。
その反応に、ノアはぎょっとした。
父親の表情が嬉嬉としたものに変わり、ノアは咄嗟に口を開く。
「いや、昨日は俺は一人で呑んでいただけで」
「なるほど······いや、ですが、我が家にとっては嬉しい繋がりでございます!私、ギプロスで伯爵位を授かっております、カルロスと申します」
「いや······だから、誤解だと······」
「昨日はお互いバタバタしていて······自己紹介がまだでしたね。私、カルロス伯爵が娘のアメリアですわ。昨夜の様に、アメリアと呼んで下さいませ?」
ふふっと妖艶に微笑んだ彼女の顔を見て、ノアは顔を引き攣らせる。
「そうかそうか、アメリアももう自分で幸せを見つけられるとは!」
「いや、だから、そういう事ではっ!「それはそうと、では今夜行われるアメリアの誕生会には参加されるのですよね?バルモント公にも是非ご出席頂きたい」
「······誕生会?」
「まあ!来てくれるのですか?!」
その言葉を聞いたアメリアは、隣でキラキラと目を輝かせた。
「いえ、私は仕事で来ている身ですので、そのような私的な場所には行きません」
漸くハッキリと言い切る事のできたノアに、伯爵が余裕な表情で微笑みかける。
「いえいえ、他国の使者の方々も参加される大きな晩餐会なのです。娘の誕生日を兼ねているだけなのですよ。······ほら、彼も······。ジョセフ様!また後程、楽しみにしておりますね」
直後、目の前を他国の使者が通り過ぎていき、ノアはその人物を見た。
”ジョセフ”と呼ばれた男は、振り返り、手を上げる。
「カルロス伯爵、では後ほど!バルモント公爵も出席されるようでしたら是非!」
確か彼は······その国でしか取れない貴重な農産物を扱っていたはず······。
あれは、国王アレクも興味を示していたんだった。
そう思い出した瞬間、ノアの頭は完全に仕事モードに切り替わった。
ノアは根っからの真面目で仕事人間だ。
だから、この時はもう既に、アメリアの事など完全に頭の中から消し飛んでいたのだ。
ノアは伯爵に向き直ると、少し食い気味に口を開く。
「彼も来られるのですか?」
「ああ、はい。ジョセフ様の扱う国の特産品の話を詳しく聞く機会を得まして」
「······では······私も参加させて頂きます」
この機会を逃すまいと、ノアは誕生会の出席を承諾した。
その隣で、アメリアの表情が一気に明るくなる。
「嬉しいわ!ノア様、お待ちしておりますね。誕生日の贈り物も、皆様持ってきて下さる事になっていますから······楽しみにしておりますわね!では!」
伯爵と共に嵐のように去っていた令嬢を見て、ノアは記憶を呼び起こす。
あの長い黒髪に大きな瞳、濃い化粧······。
「あぁ、昨日の店で隣に座ってきた······あの女か」
◆
ノアは城内でのパーティーの後、城下町を歩いていた。
晩餐会までには時間がある。
「出席者は贈り物持参必須か······参ったな」
困った。ノアは女性に贈り物などしたことがない。
ついこの前フィリスに摘んだ花が初めてだ。かくいうあれも本人には贈れなかったので、実質贈った経験はない。(と、ノアは思っている)
何を贈って良いかも分からないし、ましてや他国で何が主流なのかも分からない。
そんな時、急に後ろから名前を呼ぶ声がして、ノアは振り返った。
「ノア!!」
「ああ、ウィルか」
「昨晩はさっさと帰っちゃうんだもん!今日もご飯にいくのかい?」
「いや、今日はこれから晩餐会があるからその準備に」
「なるほど、だから畏まった服を着ているんだね。でも、そういうのは邸か王城の傍の会場を貸切って行われるだろう?なんでこんな所にいるんだい?」
”こんな所”とは今ノアのいる、少し庶民向けの店の並ぶエリアという事だろう。
ノアはその瞬間、ウィリアムを見て、名案を思い付いた。
彼はこの国の人間なのだからアドバイスを貰えばいいのだ、と。
「ああ、それなんだが。今回の晩餐会はご令嬢の誕生日を兼ねているらしい。出席には贈り物が必須だと聞いてな。何が良いか考えあぐねていた」
「誕生会で······贈り物?彼女とかではなく、普通の友人に?」
「ああ、貴殿はこの国の出身だろう?どんな物を持っていくんだ?やはり、花だろうか?」
「え?いや、普通は持って行かない······けど、無難な贈り物なら······花かな。
あ······いや!待って!やっぱり花は辞めた方が良いかも。僕の知り合いが花言葉に惨敗したって話を、ついこの間耳にしたから······」
ウィルはフィリスから聞いた、彼女の夫の話を思い出して、咄嗟に彼に忠告した。
「確かに······花言葉には俺も自信が全くないな」
ノアはフィリスに言われた花言葉の内容を思い出して、その忠告に納得し、頷く。
「誕生日のご令嬢なら、最近この国で流行っている”チョコレート”という御茶菓子が良いんじゃないかい?元々は他国の甘味で、目新しいし高価らしい。簡単に手に入らないから特別だって聞いたよ。大通りの真ん中に専門店が······」
「そうか!じゃあそれにしよう。ウィル、本当に助かった。少し時間が迫っているから、礼はまたする」
ウィルの話を最後まで聞かず、やはりこの国の人間に聞いて正解だった!とノアは満足気に手をあげて、足を踏み出す。
「······え、あ、うん。あ、でもちょっと待って!なんていうご令嬢の誕生日なの?」
「ん?あぁ、カルロス伯爵の所のご令嬢だ」
じゃあな、と手を振りながら、その高級菓子店のある大通りに向かって行ったノアの後ろ姿を見つめ、ウィルことウィリアムは嫌な予感を覚えた。
「カルロス伯爵って······あんまり良い噂聞かない気がするんだけどな······何もないと良いんだけど······」
そう、ウィリアムの予感は大抵当たるのだ。
だから、ウィリアムも、情報を集めるべくとりあえず騎士団の集まる詰所へと足を踏み出した。
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【裏設定メモ】
※ウィル、ことウィリアムは未だノアがフィリスの夫だという確証を持っていません。
彼はフィリスからポンコツ夫の話を聞いているので、花言葉で惨敗した人物の話をしています。
そしてそれは勿論ノアの事ですね(笑)でも、ノア自身は別人の話だと思っています。
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