公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう

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23. 二人は同じ場所に導かれ

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 その日の夕方、ノアは隣国ギプロスに到着した。

 ギプロスの王都にある高位貴族向けの高級宿にチェックインをし、ノアは夜の街にでる。
 海の近いギプロスは魚料理が有名だったな。とノアはふらりと大衆の酒場に入った。

 店内は休日ではないのに賑わっていて、ノアはその店の一人用のカウンターに腰掛ける。注文後、すぐに運ばれてきた美味しそうな魚料理を目の前に、ノアは一瞬フィリスを思った。

『フィリスは食べるのが好きだったよな······。だが、まだ悪阻が酷くて食べられないのだろうか······申し訳ないな······』
「それ、美味しいよ~?食べないのかい?」

 そんな時、隣から声が聞こえてノアは振り返った。
 ニコニコとほほ笑みながら立っていたのは、少し長い赤髪を後ろで一つに結って、騎士団の制服を着た高身長の男性だ。
 年齢は自分より少し年上くらいだろうか?

「え、ああ······人を思い出してしまって。ぼうっとしていたようだ」
「隣いいかい?」
「ああ、」

 その赤髪の男は、ミード蜂蜜酒!と店員に叫ぶと、鼻歌まじりに先に出された軽食に手を付け始める。

「ああ、ごめん、僕はウィル。君は?」
「俺はノアだ」

「よろしく。ここではあまり見かけないね?」
「仕事で来ているだけだからな」

 そっかそっか、と軽く応えたウィルを見てノアは内心戸惑った。この能天気な性格、あまり得意な人間ではない、とノアは酒を啜りながら自分の食事に集中する。


 予定よりかなり呑んでしまったし、早く宿に帰ろう。少し時間が経って、席を立とうとした時、後ろから何人かの女性達が歩いてきてノアとウィルを取り囲んだ。

「あれ?騎士団のウィリアム団長じゃないですか?!」
「ホント!団長だぁ~かっこいい!」
「え、私初めて見たかもぉ!」

「あ、君たちは······新人騎士とそのお友達かな?」
 
 ウィルは苦笑しながらも、彼女達に言葉を返す。

「はい!団長に憧れて!」
「声もかっこいい!」
「幸せ~!」
「やっぱり経験のある男性って感じが素敵!!」

 ウィルが隣で話に花を咲かせるなか、ノアの隣には一人の女性が座った。
 黒髪をポニーテールにして騎士団とは違う制服に身を包んだ彼女は、ノアの顔を笑顔で覗き込んだ。

「団長とはお知り合いなんですか?」
「俺?いや、今知り合っただけで、別に」

「そうなんですね!私、王宮で勤めているんです。とても······かっこいいですね。大人の色気すごいなぁ」

 ふふふっと手を口に当てて微笑んだその女性を見て、ノアは硬直する。
 
 こういう時、全く以てなんと返していいかもわからない。邪件に扱うのも問題だし、ここは無難にいくか······。
 ノアは早速方針を決めると、口を開いた。

「ああ、ありがとう······」

「彼女とか、婚約者とかいるんですかっ?」
「妻がいる」
「······そうですよね。こんなイケメンなら、あたりまえですよね······」
「······」
「でも、一人で呑みに来てるってことは······喧嘩中だったりして?」
「······」
「あれ、私当てちゃいました?ふふっ、そっか······私で良ければ、話······聞きますよ?」

 にっこりと可愛らしく笑ってノアの腕に手を置いたその女性を、ノアはじっと見つめる。
 そして腕を振り解くと冷たい声を発した。

「いや、そういうのはいい。俺は失礼する」

 ノアは席を立って、そそくさと店を出る。
 後ろから「ノア君!待って!!」とウィルの声がしたが、ノアは振り向かなかった。

 面倒ごとは好きではないから。
 とはいえ、女性に話しかけられて『カッコいい』などと言われれば、嬉しいのは事実。嬉しくない男はいないだろう。
 けれど、彼女とどうこうなりたいと等、全く思えなかった。

 確かに可愛らしく世間一般的には魅力的と言われる部類に入る子なのだろうけれど、フィリスの美しさとは全然違う······。

 そう、ノアはこの時、若干酔っていた。


「そうなんだよなッ、違うんだよ!!」


 ノアはそう声に出して滞在している高級宿の扉を押し開けると、大股で歩きながら部屋へと向かう。

 公爵当主となる前からも、婚約の打診は山のように来ていた。来てはいたが、釣書を見ても全く興味が湧かなかった。
 それは、俺にイロコイができないと、自分でも分かっていたからだし、そもそも面倒な事をしたくなかったからだ。

 でも、国王アレクに紹介されたフィリスだけは違った。
 周りの女と違い、俺を公爵という最優良物件とすら見ていない上に、あの能天気さ。破天荒なじゃじゃ馬。翼があれば、すぐに飛んでいきそうな······美しい人。

 ノアは大きな寝台に身を放り投げて、隣に合った枕をぎゅっと抱きしめた。

 フィリスの美しさは、あの赤茶色の美しい髪、キラキラと輝く真っ赤な朝焼けのような瞳。
 それに白い肌に······少し肉付きのいい女性らしい身体も。柔らかくて、ずっと抱いていられるようだった。
 女神のような純粋無垢な彼女を、あの日自分のものにして······────

 そこまで考えてノアは衝撃的な事実に直面する。

 いや、したから······か。
 俺の独りよがりな考えで、行動で、彼女を自分のモノにしたから。
 だから、彼女は今苦しんでいるのか······。
 あの悪阻の苦しみも、全部、俺の為に頑張ってくれているのに、俺はそれに気づかないで彼女を傷つけてばかりいるのか!

「っ······フィリス!本当にすまなかった······、子供だけじゃないっ······貴女も、俺にとっては大切なんだ······本当なんだよ······」
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