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21. フィリスの悠悠自適生活
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【まえがき】
※本日、夜感謝閑話を投稿します。(イラスト有)
本話は長めです。お時間ある時にお願い致します。また、本話から、匂わせ風ワードが出てきます。キーワードにつき、、ご容赦下さい。
*******************************
フィリスは目覚めてすぐに寝台から降りると窓を開けた。
エレインの家は大きな邸ではない。そのため、一階部分で作る朝食の匂いが鼻を掠め、フィリスは少しえづいた。
「っう"······」
でも胃には何も入っていない。
だってずっと食べていないのだから······当然出るものもないのだ。
フィリスはその吐き気を抑える為に、窓の外に広がる雄大な自然を見つめた。
「本当に、夢みたいだわ。自分が国を出て隣国のギプロスにいるなんて!」
ギプロスは海も近く、魚料理も盛んだと聞いたことがあるし、食事好きには堪らないわね!と料理の事を考えて······、また気持ち悪くなって手で口を覆った。
「うぅ······この悪阻だけが、本当に憎いわね」
義母であるエレインの家に来てから、4日が経った。
やはり未だに食事だけが思うように食べられなくて、基本的にはその時々で変わる、食べたい物を、食べたい時に、食べれるだけ、食べるようにしていた。
ギプロスでは一般的らしい、身動きのとり易い”ワンピース”と呼ばれる服を着用し、フィリスは一階に降りる。
匂いに敏感なフィリスは、息を止めて一階のキッチンへ向かうと、お目当ての果物をいくつか取ってからエレインに手を振った。
「あら、フィリスちゃん、おはよう!またお外に気分転換?気を付けていってらっしゃい!」
フィリスは小さくうなずいて微笑むと家をでる。
森の中を突き進めば、小さな湖があってその目の前に木でできた小さな家があった。
エレイン曰く、夫であるウィリアムと二人で息抜きをする為だけに作られた、”愛の巣”というらしい。
エレインが『此処はウィリアムが建ててくれたのよ!所謂”愛の巣”ね』と嬉嬉とした表情で言っていたので間違いないと思う。
フィリスはこの木の温もり溢れる”離れ” を心底気に入っていたのだ。
木で出来ているという時点でとても落ち着くのに、目の前に湖も広がっており、見ているだけで心が浄化される様だ。森に囲まれているというのもポイントが高く、澄んだ空気が吸い放題!
本当に落ち着く······。
「あぁ~!最高ね、この”愛の巣”って所は!!」
湖畔がキラキラと光り輝くのを見ながら、フィリスは目の前に腰をおろした。
そして新鮮な果物に齧り付く。
これが最近のフィリスの日課だ。
「公爵家の邸にいれば、『(声色を変えてノア風に)またこんな脚を出すなんて!貴女は本当に貴族令嬢だったのかァ!!』って旦那様に叱責されるものね~。ここにいる方がお互いにとっていいのだわ!」
くすりと小さく笑って、フィリスがそう零せば、後ろから声がした。
「帰りたくなくなってしまったかい?」
後ろを振り向けば、赤い長髪を後ろで束ねた美形の男性がシャツを濡らして立っており、フィリスは驚きに口をあんぐりと開ける。
「っふ、ははは!ごめんごめん!驚かせるつもりはなかったんだよ、まあここは僕の鍛錬の場所でもあってね」
フィリスは開いた口を強制的に閉じると、頭を下げた。
「ウィ、ウィリアム様······お見苦しいところを······。おはようございます」
「おいしょっと」
彼は地面に両手を伸ばして寝転んで、顔だけフィリスの方に向ける。
「フィリスちゃんは······旦那さんが好きじゃないのかい?」
「え?」
「だって、契約が達成されるまでの辛抱よ~!!って毎日此処で叫んでるじゃないか」
ウィリアムはクツクツと笑う。
フィリスは、アレを毎日見られていたのか······と恥ずかしくなって顔を俯けた。
「み、見られていたのですね······そ、そういうわけでは······ないのですが······」
いや、確かに、毎日、ここで吐きながら、その辛さに涙を流し、そう叫んでいる。
それも、フィリスの日課の一つである。
でも、それを、見られていたなんて!!
というか見ていたなら、いっそのこと話しかけてくれても良かったのにッ!
両手で顔を覆うフィリスに、ウィリアムは口を開く。
「そういうわけじゃないの?······じゃあ、好き?」
「いえ、好きではありませんね」
「即答かいッ!!」
ウィリアムは吹き出して、また笑う。そしてフィリスをチラリと見た。
「それならやっぱり、子供を産んで、公爵家で旦那さんとメイドちゃん、だっけ?······彼女が育てればいいと思うのかい?」
「······」
フィリスは黙った。それは実際フィリスには分からない。子供を身籠るとやっぱり特別な気持ちになるわけで······。
旦那様の事は”好き”という感情はないけれど、自分の子供の父親ではあるわけだから何も感じないという訳ではない。
「あの人に自分の子供を任せられるか心配······といった所でしょうか······」
「っふふ、ははは。そうかそうか!そりゃあとんでもない旦那だ!」
「でもあのメイドちゃんがいれば、大丈夫なんじゃないかとは思うのです。でも······」
「でも、嫌、なんだね?」
「······何故、嫌なのかは分からないのです······契約には入っていなかったからでしょうか?」
ウィリアムはフィリスを見て固まった。そしてまた、吹きだす。
「っふはは!契約には、”メイドの想い人がいる”、って書いてなかったって?それはもし本当だとしても、男なら言わないんじゃないかなぁ?」
「そう、ですよね······」
フィリスはノアが花をメイドに渡していた事を思い出した。
あれを見た時はなんとも思わなかったのに······。
「花束を贈っていたのが嫌だったとかではないのです。私は契約結婚ですし、身の程を弁えているつもりですので······。それに二人が恋仲でも応援したいと、そう思っていました。
でも······あの日、レオン様との不貞を疑われたりして、部屋から出ないように言われて······それで······」
「それは、束縛、だね~」
”束縛”と聞いてフィリスは首を傾げたて自嘲気味に笑う。
「束縛?······そんなもの旦那様が私にする意味がありませんわ?もう子も身籠っているわけですし、何処にも逃げられませんよ」
「う~ん、そういう事じゃないんだよ。好きな女性が他の男と親密にしていたりするのが嫌だと思う感情はよくあるものだよ?」
”嫉妬”とかね。とウィリアムは言葉を続けた。
「僕は、エレインがロザリアに行ってしまった時本当に辛かった。嫉妬と束縛したいって気持ちしかなかったね。彼女が他の男の手に渡るなんて死んだ方がマシだと思った」
「······好きな人と離れ離れは辛いですわよね、きっと。特にお二人は······」
心が引き裂かれるような想いをしたに違いない。とフィリスはウィリアムを見た。
「でも、それは君の旦那さんもそうなんじゃないかい?だから自分の事は棚にあげて、君を軟禁しちゃったのかな~」
「へ?あの方が、私と離れて辛いはずがありませんよ。ずっと仕事で家を空けているような人ですし。それに好きなんて······もっとナイですね」
「はははっ、まだまだ叶わないね~!さて、僕はそろそろ仕事に行くよ。フィリスちゃんは身体冷えないようにね」
手を振りながら去っていくウィリアムを見て、フィリスは木々の合間から見える真っ青な空を見つめた。
「旦那様が私を好きなんて事、絶対にないわ。······まあ、私も好きでは······ないけれど」
きっと今頃、フィリスのいなくなった公爵家の邸で悠々自適にボインメイドと疑似夫婦生活を送っているに違いない。
でもやはりボインメイドとノアルファスの関係はそういう事なんだろうか······?
自分の事は部屋から出る事を禁じておきながら、自由に逢瀬を楽しむ二人を思い出して、フィリスは心に靄がかかった気分になった。
「······でも、違うわ、フィリス。私はただの契約結婚なの。あの二人の事をこれ以上考える必要はないのよ······」
二人の関係を認知してはいるけれど、認めたくないような気持ち。
自分だけ除け者にされているような、孤独感。
信じようとしていた人に裏切られたような、喪失感。
だけど、自分がそれを感じる必要はない事は分かっている。
今は妊娠しているから、ノアルファスの言う通り、少しセンチメンタルになっているのかもしれない。
フィリスはその感情が漏れだす前に蓋をした。
「さてと、今日はレオナちゃんと遊ばせてもらいましょう!」
きつく閉まった事を確認して、彼女は立ち上がり、エレインの待つ家へと戻っていった。
※本日、夜感謝閑話を投稿します。(イラスト有)
本話は長めです。お時間ある時にお願い致します。また、本話から、匂わせ風ワードが出てきます。キーワードにつき、、ご容赦下さい。
*******************************
フィリスは目覚めてすぐに寝台から降りると窓を開けた。
エレインの家は大きな邸ではない。そのため、一階部分で作る朝食の匂いが鼻を掠め、フィリスは少しえづいた。
「っう"······」
でも胃には何も入っていない。
だってずっと食べていないのだから······当然出るものもないのだ。
フィリスはその吐き気を抑える為に、窓の外に広がる雄大な自然を見つめた。
「本当に、夢みたいだわ。自分が国を出て隣国のギプロスにいるなんて!」
ギプロスは海も近く、魚料理も盛んだと聞いたことがあるし、食事好きには堪らないわね!と料理の事を考えて······、また気持ち悪くなって手で口を覆った。
「うぅ······この悪阻だけが、本当に憎いわね」
義母であるエレインの家に来てから、4日が経った。
やはり未だに食事だけが思うように食べられなくて、基本的にはその時々で変わる、食べたい物を、食べたい時に、食べれるだけ、食べるようにしていた。
ギプロスでは一般的らしい、身動きのとり易い”ワンピース”と呼ばれる服を着用し、フィリスは一階に降りる。
匂いに敏感なフィリスは、息を止めて一階のキッチンへ向かうと、お目当ての果物をいくつか取ってからエレインに手を振った。
「あら、フィリスちゃん、おはよう!またお外に気分転換?気を付けていってらっしゃい!」
フィリスは小さくうなずいて微笑むと家をでる。
森の中を突き進めば、小さな湖があってその目の前に木でできた小さな家があった。
エレイン曰く、夫であるウィリアムと二人で息抜きをする為だけに作られた、”愛の巣”というらしい。
エレインが『此処はウィリアムが建ててくれたのよ!所謂”愛の巣”ね』と嬉嬉とした表情で言っていたので間違いないと思う。
フィリスはこの木の温もり溢れる”離れ” を心底気に入っていたのだ。
木で出来ているという時点でとても落ち着くのに、目の前に湖も広がっており、見ているだけで心が浄化される様だ。森に囲まれているというのもポイントが高く、澄んだ空気が吸い放題!
本当に落ち着く······。
「あぁ~!最高ね、この”愛の巣”って所は!!」
湖畔がキラキラと光り輝くのを見ながら、フィリスは目の前に腰をおろした。
そして新鮮な果物に齧り付く。
これが最近のフィリスの日課だ。
「公爵家の邸にいれば、『(声色を変えてノア風に)またこんな脚を出すなんて!貴女は本当に貴族令嬢だったのかァ!!』って旦那様に叱責されるものね~。ここにいる方がお互いにとっていいのだわ!」
くすりと小さく笑って、フィリスがそう零せば、後ろから声がした。
「帰りたくなくなってしまったかい?」
後ろを振り向けば、赤い長髪を後ろで束ねた美形の男性がシャツを濡らして立っており、フィリスは驚きに口をあんぐりと開ける。
「っふ、ははは!ごめんごめん!驚かせるつもりはなかったんだよ、まあここは僕の鍛錬の場所でもあってね」
フィリスは開いた口を強制的に閉じると、頭を下げた。
「ウィ、ウィリアム様······お見苦しいところを······。おはようございます」
「おいしょっと」
彼は地面に両手を伸ばして寝転んで、顔だけフィリスの方に向ける。
「フィリスちゃんは······旦那さんが好きじゃないのかい?」
「え?」
「だって、契約が達成されるまでの辛抱よ~!!って毎日此処で叫んでるじゃないか」
ウィリアムはクツクツと笑う。
フィリスは、アレを毎日見られていたのか······と恥ずかしくなって顔を俯けた。
「み、見られていたのですね······そ、そういうわけでは······ないのですが······」
いや、確かに、毎日、ここで吐きながら、その辛さに涙を流し、そう叫んでいる。
それも、フィリスの日課の一つである。
でも、それを、見られていたなんて!!
というか見ていたなら、いっそのこと話しかけてくれても良かったのにッ!
両手で顔を覆うフィリスに、ウィリアムは口を開く。
「そういうわけじゃないの?······じゃあ、好き?」
「いえ、好きではありませんね」
「即答かいッ!!」
ウィリアムは吹き出して、また笑う。そしてフィリスをチラリと見た。
「それならやっぱり、子供を産んで、公爵家で旦那さんとメイドちゃん、だっけ?······彼女が育てればいいと思うのかい?」
「······」
フィリスは黙った。それは実際フィリスには分からない。子供を身籠るとやっぱり特別な気持ちになるわけで······。
旦那様の事は”好き”という感情はないけれど、自分の子供の父親ではあるわけだから何も感じないという訳ではない。
「あの人に自分の子供を任せられるか心配······といった所でしょうか······」
「っふふ、ははは。そうかそうか!そりゃあとんでもない旦那だ!」
「でもあのメイドちゃんがいれば、大丈夫なんじゃないかとは思うのです。でも······」
「でも、嫌、なんだね?」
「······何故、嫌なのかは分からないのです······契約には入っていなかったからでしょうか?」
ウィリアムはフィリスを見て固まった。そしてまた、吹きだす。
「っふはは!契約には、”メイドの想い人がいる”、って書いてなかったって?それはもし本当だとしても、男なら言わないんじゃないかなぁ?」
「そう、ですよね······」
フィリスはノアが花をメイドに渡していた事を思い出した。
あれを見た時はなんとも思わなかったのに······。
「花束を贈っていたのが嫌だったとかではないのです。私は契約結婚ですし、身の程を弁えているつもりですので······。それに二人が恋仲でも応援したいと、そう思っていました。
でも······あの日、レオン様との不貞を疑われたりして、部屋から出ないように言われて······それで······」
「それは、束縛、だね~」
”束縛”と聞いてフィリスは首を傾げたて自嘲気味に笑う。
「束縛?······そんなもの旦那様が私にする意味がありませんわ?もう子も身籠っているわけですし、何処にも逃げられませんよ」
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「でも、それは君の旦那さんもそうなんじゃないかい?だから自分の事は棚にあげて、君を軟禁しちゃったのかな~」
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「はははっ、まだまだ叶わないね~!さて、僕はそろそろ仕事に行くよ。フィリスちゃんは身体冷えないようにね」
手を振りながら去っていくウィリアムを見て、フィリスは木々の合間から見える真っ青な空を見つめた。
「旦那様が私を好きなんて事、絶対にないわ。······まあ、私も好きでは······ないけれど」
きっと今頃、フィリスのいなくなった公爵家の邸で悠々自適にボインメイドと疑似夫婦生活を送っているに違いない。
でもやはりボインメイドとノアルファスの関係はそういう事なんだろうか······?
自分の事は部屋から出る事を禁じておきながら、自由に逢瀬を楽しむ二人を思い出して、フィリスは心に靄がかかった気分になった。
「······でも、違うわ、フィリス。私はただの契約結婚なの。あの二人の事をこれ以上考える必要はないのよ······」
二人の関係を認知してはいるけれど、認めたくないような気持ち。
自分だけ除け者にされているような、孤独感。
信じようとしていた人に裏切られたような、喪失感。
だけど、自分がそれを感じる必要はない事は分かっている。
今は妊娠しているから、ノアルファスの言う通り、少しセンチメンタルになっているのかもしれない。
フィリスはその感情が漏れだす前に蓋をした。
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