14 / 50
14. ハイ、お義母様、ついていきます!
しおりを挟む急遽公爵家を訪問してきたレオンの母、エレイン。
彼女の”お義母さま”と呼んで欲しい!という強い思いを前に、フィリスは速攻で降参した。
「オ、オカアサマ······」
「うんうん!よろしくてよ!!いいわね~、本当に公爵家にこんな子が来たのね!私、嬉しいわ!」
「オ、オカアサマ······私は「フィリスちゃんでしょう?カーテシーも不要よ。座ったままで結構。これでも私もこの間まで妊婦だったのよ。気持ちは痛いほど分かるんだから!」
軽く笑いながら言うエレインにフィリスは口をぽかんと開いた。
レオンの母ということは、仮に18歳で身籠り、子を産んだとしても35歳位のはず······。
だが、この凄まじい勢いと、恐るべし美貌。
「うっふふふふ、年齢は聞かないで?あ、推測するのもだめよ!今日は貴女に会いに来たのだから、色々お話しましょう?もっと貴女の事が知りたいわ」
台風のようなエレインは、フィリスに新しい風をもたらした。
それに、話してみれば、とても活力の溢れる彼女の内面は優しく穏やか。だが、時に厳しく、意見はきっぱりと言う強い女性であることが分かった。
母は強し、という言葉があるが、このエレインのいう女性は素晴らしい母親像であるとフィリスは内心尊敬する。
それに元公爵様の第二夫人であった彼女は現在、騎士団で団長をしている男性と結婚し二人で仲睦まじく暮らしているというのだから驚きだ。
そんな身を焦がすような情熱的な恋、想像すらしたこともないフィリスには正に夢物語。
「そ、それで······!旦那様は昔の護衛だった方なのですか?」
「そうよ。やっぱりフィリスちゃんも女の子ねぇ。気になるの?」
「それは······そんな情熱的な恋愛は、物語か何かだけかと思っていましたので······」
「ふふふっ。そうね、彼の事は私の護衛をしてくれていた頃から気にはなっていたの······。でもバルモント公爵様に見初められてしまって。
別に、公爵家に来たことを恨んでいるわけではないのよ?レオンもノア君もとても可愛いかったし、良い事だって沢山あったわ!······でも、ずっと彼の事は気にかかっていたのよね。公爵様が亡くなって、祖国を訪れた時に偶然再会したの」
「それは······運命、ですね······!」
「うふふふ、そう思う?私もそう思うのよっ!お互いに好きな気持ちは変わっていなかったのよね!すぐにプロポーズして貰って、結婚。で、今は2か月の赤子がいるわ?」
嬉しそうに顔を赤らめながら話す彼女は少女のようで、フィリスは素直に羨ましいと思った。
「そんな大変な時期に家を空けてまで来させてしまって······大丈夫なのですか?」
「大丈夫。私が貴女の話を聞いて、会いたくなって来てしまったのだから」
「私の話······ですか?」
「レオンはね、私の妊娠中から家に来て、よく手伝ってくれていたのよ。だから、貴女の事も面倒を見なければと思ってしまったみたいね。迷惑、だったかしら?」
「い······いえ。一人だった私を気遣ってくれるレオン様のおかげで、公爵家の事も学べましたし、悪阻で辛くても助けてくれて······そういう事だったのですね」
レオンの気遣いはこの母の教育の賜物なのか、とフィリスは首を振って納得した。
公爵家の次男でもある彼が自分が嘔吐しているときも、蔑むことなく背中をさすってくれるなど本当であればありえないのだから。
「吐き悪阻なのね?辛いわね」
「ほかにもあるのですか?」
「もちろんよ。食べ過ぎてしまう食べ悪阻、眠くなる眠り悪阻、匂いが駄目な匂い悪阻······皆違って当然だもの、たくさんあるわ?」
「······そうなのですね······そんなに種類が······」
「ノア君も悪い子じゃないのよ?ただ彼は公爵としての顔があるから······とても真面目なの」
「はい······それは、なんとなく分かりますけど」
「でも、二人はお互いに少し時間が必要かもしれないわね、私なんて昔は家出したいと思った事もあったわね~」
そう言ってふふふと笑ったエレインを見てフィリスは声を出した。
「そ、それですわ!家出、すれば良いのですわ!!」
「······え?冗談よ······、えぇ?!本気ナノ?!······いや、ちょっと!お待ちなさい、フィリスちゃん!!」
「お義母さま、ご助言、本当にありがとうございます!」
「なんだが”オカアサマ”の言い方の滑舌がよくなっているわね?!嬉しいけど、でも、ちょっと待って!!」
早速勢いよく立ち上がったフィリスを見て、慌ててエレインも立ち上がる。
「私、今すぐに荷物をまとめて、少しばかりこの邸を離れようと思います。やはりここにいるから余計な事を考えるのです。私も一旦頭を冷やす必要があるのですわ!」
「フィリスちゃん、待って!なら、お願い!私の家に来なさい?それなら許可できますが、まだ悪阻も収まっていない妊婦さんを一人で出すわけに行くわけがないでしょう?!」
「お義母さまの所······?」
「その······会ったばかりでまだ信用できないかもしれないけれど······「良いのですか!?ハイっ!行きますッ!」
前のめり気味に手を挙げたフィリスを見て、エレインは苦笑する。
「······これは、想像以上に大変ね」
エレインは、自由奔放な彼女に翻弄される、ノアルフィスとレオンを思い浮かべた。
そんな気苦労もしらないであろうフィリスは「あ!」と思い付いたようにエレインを振り返る。
「お義母様?私、多分ずっと嘔吐してますけど······大丈夫でしょうか······?」
「ええ、それなら気にしないで頂戴。私の夫ウィリアムも理解があるから大丈夫よ」
こうして、フィリスはその日荷物を纏め、エレインと共に隣国ギプロスに向けて初めての家出をしたのだ。
76
お気に入りに追加
3,630
あなたにおすすめの小説

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】
幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。
そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。
クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる