公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう

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2. ご懐妊でございます?

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「う“う”ぇぇええ」
「奥様!!!大丈夫でございますかっ!」

 公爵家で働いている有能なメイド、巨乳ボインメイドに肩を抱き抱えられてフィリスは顔を歪める。

「く、ぐるじぃ······ぃう“ぇえ」
「まあ、大変だわ!お医者様を!!」

 その苦しがるフィリスの言葉と様子にボインメイドは更に慌てふためいた。
 その大きな胸が苦しいのよ!と喉まで出かかった言葉は、早速別のモノへと変わって口から出ていく。
 隣にいたもう一人のメイドが地を蹴り、言葉の通り部屋から飛び出して行くのを見送って、ボインメイドはフィリスの隣で背中をさすりながら呟いた。

「ノア様も、こんなときに遠征なんて······」

 そう、あのムッツリスケベ野郎。初夜の後何日かしてお仕事へ行かれているようで、もう何ヵ月も家を空けており。未だ帰ってきていないのだ。
 きっと、私の知らないところで色んな女性たちと逢瀬を楽しんでいるのでしょうね。
 まあ、彼は大人ですし?見目だけはいいのですから。
 このボインメイドだって、もしかしたらもうお手付き······。とフィリスは彼女のぷるんっと揺れる豊満な胸を見て、込み上げる胃の不快感に耐えられず、湯桶を覗き込んだ。


「うええ“ぇえ、ああ······もう、なんなのよぅ、さいあく······だわ!」





 そして今、フィリスは寝台に横になり、天蓋を見つめたまま茫然としている。
 先ほど医師が言い放った言葉が衝撃的で、彼女は両手で顔を覆った。

「おめでとうございます!ご懐妊でございます!」

 。要するに、妊娠をした、と。
 この部屋に響き渡るようなテンションで言われた言葉が、それ。

「わたくし、もう旦那様の子を身籠ったのね?」

 これはもう、契約の達成条件をクリアしたのでは?!とフィリスは寝具の下でガッツポーズを決める。
 いえ······でも、赤子を無事に生むまでは契約満了ではないわよね。とはやる気持ちを抑えて、フィリスは自分の赤茶色の長く美しい髪をひと房すくって見つめた。

 旦那様は濃紺色の短髪に、灰色の瞳で凛々しい顔立ち。私は赤の混じった茶色の髪に赤い瞳の平凡な見た目······となると、二人の子供はどんな見た目なのでしょう······?
 まあ、二人の子供を産んだとしても、すぐに契約満了で雇用を切られて離縁、私はここから出ていくのだから関係ないのだけれど。
 もしかしたらあのボインメイドが育てるのかもしれないわね。

 一人、そんなことを考えていたフィリスは、突如ノックされた扉を見つめた。

「はい?入って「フィリスねえぇぇさまあぁ!」」
 “入っていいわよ”まで言い終わらず、扉が勢いよく開く。ゼェゼェと、息を切らして入ってきた人物に、フィリスはぎょっとして寝具を強く掴む。

「フィリス義姉ねえさまあぁッ!!聞きましたよ······御子がッ?!ああ······!大丈夫ですか?本当に······!!?」

 興奮気味で、目が血走っている彼にフィリスは咳ばらいを一つした。

「んんっ、レオン様。女性の寝室に急に入るものではないですわよ?あなたももう、成人でしょう?」

 彼は、旦那様ノアルファスの弟でレオンハルト。銀髪に美しいアイスブルー瞳の彼は高身長で優しい笑顔の少年だ。たいして笑顔も見せないムッツリスケベの兄とは対照的に、とても心優しくいつもフィリスの心配をしてくれている、他人想いの義弟なのだ。
それに年齢も彼の方が近いので、よく一緒にお茶をして話をしたりする仲。

「っでも、兄上はまだ帰ってこないんでしょう?魔法文はもうさっき送ったから届いているはずなんだけどな······」
「いいのよ、旦那様はお忙しいのだから」
「もし、僕に何か手伝える事があったら言ってくださいね?僕、義姉さまの為ならなんだってしますから!!!」

 終始、前のめり気味のレオンはフィリスの手をそっと、だがぎゅっと強く握りしめる。そして、額に軽く触れるだけのキスをして立ち上がった。
 お腹に触れる素振りを見せた手を止めて、名残惜しそうに部屋を出て行ったレオンを見送ってフィリスは溜息をつく。

「はぁ······、どうして兄弟、こうも違うのかしらね?」

 素性についてあまり詳しいことは知らないが、レオンハルトはいつも自分をまるでお姫様かお嬢様のように扱ってくれる。
 謂うならば、おとぎ話のお姫様の護衛騎士みたいな人。

 一方、彼の兄、ノアルファスの顔を思い浮かべ、フィリスは首を横に振った。
 いつも笑顔がなく、眉間にシワを寄せている人。声は色気のあるテノールだとしても、笑顔すら見せない彼は温かみが一切なく冷たい印象を与える。

「レオン様はあんな優しくて良い子なのだから、女性から人気があるのも頷けるわ!きっと成人すれば直ぐに良い相手が見つかるわね!本当に······あのムッツリスケベとはくらべものにならないわ、『契約結婚だ!』なんて冷たく言い放つ人ですもの」

 そうして、フィリスがノアルファスと顔を合わせたのはそれから四日後。
 実に初夜以降3ヵ月ぶりの事であった。
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