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1. 「っう、げぇええ」から始まる契約結婚
しおりを挟む その日、新海を呼び止めたのは後輩の遠藤瑞樹だった。常にトップを逃げ切っていた遠藤だが、今月は成績が芳しくない。その相談かと新海は思っていたのだが、意外なことに万葉の話題だった。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
「笑えないですよ、女の子にとって、結婚ってかなり重要なことですから」
「それは男も一緒だと思うけど」
「遊び人の人が結婚するって、どういう心情ですかね。もう遊び飽きたか、奥さんを隠れ蓑にいい人っぽく見せておいて、他の女性と遊ぶ、なんてことも考えられますけどね」
遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
「先輩知っていますか、恵さんの旦那さんのこと?」
「ん? いや、全然知らないけど」
「親会社の役員ですよ、田中常務っていう有名な人です」
それに新海が度肝を抜かれていると、遠藤はため息を吐いた。
「はあ……どこで田中常務と出会ったんですかね。私も結婚したい」
「それ、マジ?」
「ええ、本当のことですよ。私の同期で総務の子がいるんですけど、聞いたら教えてくれました」
新海は渋い顔のまま固まり、なんとも言えないまま遠藤を見た。
「先輩なら恵先輩と仲がいいから、てっきり出会いのきっかけとかも知っているかと思ったんですけど」
それなら一人酒をする居酒屋だと言っていた、と新海は呟く。
「そうだったんですね。居酒屋かあ……なんか納得です。田中常務モテるって有名ですし、独身だから居酒屋で女の子誘って遊んでたんですかね」
「確かにモテそうだけど、遊んでるって感じには見えないけどな」
「そうですか? 女性泣かせで有名らしいですよ。恵先輩も、そのうちポイってされちゃうんですかね」
新海は顔には出さなかったが、内心青ざめる。ほら、言わんこっちゃない、とため息を吐いた。
万葉は仕事はバリバリできる割に、恋愛下手で奥手で鈍感だ。いいように遊び人の出来心に乗せられて、ノリで結婚してしまったようにしか思えなかった。
田中常務が手強すぎるのは、言われなくても見て取れる。それをまさか万葉が射落とすとは、新海には到底思えないことだったが、それはみんなおおむね同意見のようだった。
「遊ばれてるんだったとしたら、かわいそうですよね。恵先輩、田中常務の女泣かせっていう話知ってるのかな?」
「さあな。あいつ変なところでドジだから」
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「それは男も一緒だと思うけど」
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遠藤の言い方がなぜか非常に現実的で、新海は肝を冷やす。
「どうせすぐ離婚するって、みんな言ってますけどね……あ、いけない。これ、恵先輩には言わないでくださいね」
遠藤はしまったという顔をして、口元を手で隠した。
「まあ、噂はほどほどにしておけ。あいつの問題なんだろうから、俺たちがとやかく言う話じゃないしな」
「そうですよね。でもいいな、田中常務と結婚。私も一度はあんな人にエスコートしてもらいたいです」
新海はそれに笑っておいた。
「新海先輩は、好きな人いないんですか?」
「はあ、俺? そういう遠藤はどうなんだよ……って、俺がきくとセクハラかパワハラか」
大丈夫ですよ、と遠藤はけらけら笑う。
「俺はまあ、いたけど」
「恵先輩ですか?」
「んー、さあな」
「何だ、恵先輩のことてっきり好きなんだと思っていました。いいじゃないですか、今の情報伝えて別れてもらって、先輩が奪っちゃえ」
「何言ってんだよ……」
「私、恵先輩と新海先輩の方が、お似合いだと思いますけど」
新海はそれに鼻で笑ってしまう。
「で、遠藤は恵の後釜で田中常務と結婚、っていうシナリオか?」
聞くと、遠藤は答えるかわりにニヤリと微笑んだ。その意味深な瞳に、新海は思わず「マジ?」と聞き返した。
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