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45. 秘密の調教部屋※

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 シェリルは目を覚ました。
 
 記憶は虚ろ。
 ヴァレンティ―ナの指示通りに行動し、会った冒険者の男の宿屋に行って、寝台に横たえられて。
 男の手が伸ばされて自分に触れる直前······視界が真っ赤に染まったと思った後、その人はいなくなったんだっけ······。

 そして、目の前に現れたのは······彼だった。
 私の、好きになってはいけない相手、ヒューベル王弟殿下。

 それで······?
「っ、ここは?!」

 私、またヴァレンティ―ナさんの指示を達成出来なかった。

 咄嗟に身体を起こそうとして、ガシャンという金属音が響き渡り、シェリルは目を見張る。
 片手が鎖で寝台に繋がれていて、その細い腕に嵌められた美しい金で出来た腕輪に目を落とした。

「こ、れは······?」

 右腕につけられたその腕輪は、鎖と共に寝台の上に繋がっていて、シェリルの力では到底逃げられそうに無い。

「ッ、はぁ······っは······」

 またどこかの施設に囚われたのかもしれない······という恐怖から過呼吸に陥りかけ、シェリルは息をゆっくりと吐きだす。

 少し落ち着きを取り戻し、周りを見渡せば、見たこともないような美しい部屋が広がっていた。

 ずっとこの部屋の主人がいなかったかのような······誰かの為に作られたが使われていないような、少し無機質で寂しい印象を与える部屋だ。

 白と金で統一された部屋の中央にある、自分の繋がれている寝台は、一人用にしてはあまりに大きすぎるもの。
 その前にあるソファ、大きな机、と並ぶインテリアのどれもが新品だが、窓の外側には美しく彫刻の施された柵が取り付けられていて、何人たりともの出入を許さないような作りだった。

「あんなに大きく美しい鳥籠も······?」

 部屋の角には、金で出来た大きな鳥かごが置かれていてシェリルはそれに目が釘付けになる。
 アーチ状の美しい鳥かごは、”鳥かご”といっても人間が何人も入れるほどに大きい。その頂点からは金具が吊り下がっていて、シェリルはその鳥かごの内側、奥半分に取り付けられた大きな鏡と、その前に置かれた一人掛けの大きなソファに目を見張った。

「何故鳥籠に椅子が······?ここは······どこなの?こんなに美しいのに、何かが足りない······?」

 そんな時、部屋に聞き慣れた男性の優しい声が響き、シェリルは硬直する。

「シェリル、目が覚めたかな?そうだよ、正解だ。この部屋は君の事を待っていたんだろうね?やはり君がいると更に完成形に近づいた様に美しくなるね」

「ヒュー······さま······!?」

 部屋の入口らしい扉の前に立っている彼を見て、シェリルは咄嗟に自分の装いを確認した。

 着ていた筈のドレスとは違う、真っ白の薄いローブに薄い羽織。金の装飾の施された夜着に近いそれに、心許なさを感じシェリルは寝具をたくし寄せる。

「大丈夫、シェリル、もう夜だからね。それに、ここは私の私室の隣にある隠された秘密の部屋だから、誰も来ないよ」

「秘密の部屋······?いえ、ヒュー様、わたくし、早く寮に戻らなくては!また、怒られて······「いや、君はもう寮には戻らない。学園も卒業まで休園だ。落ち着くまでは此処にいてもらうよ?」

「え······?」

 学園を休園······?寮にも戻れないなんて、ヴァレンティ―ナさんが知ったら······。
 シェリルの不安を読み取ったヒューベルは寝台へ歩いていくと、隣に腰掛けた。

「ヴァレンティ―ナ嬢の事を気にしているなら、もう彼女には会えないと思った方がいい。僕が君を”悪役令嬢”にするまでは、ね?」

 にっこりと笑ったヒューベルは「早く”悪役令嬢”になれれば、戻れるんじゃないかな?」と言葉を付け足す。

「でも······お兄様······にも怒られてしまいます。卒業だけはしろと······」
「それも、大丈夫だよ。僕と君が婚約をしたという件で、すぐに話は通したんだ。驚いてはいたけど、怒ってはいないから」

「そんな······」

 落胆した様な表情を浮かべたシェリルに、ヒューベルはふふっと抑えきれないように笑った。

「それに、シェリル、見知らぬ男に”初めてなので優しくして下さい”とか言って身体に触れさせようとしていたじゃないか。もし、あれが君に触れていたら、貴女は学園にいられるどこの話ではないよ?」

 ヒューベルは徐に立ち上がると、湯を張った盥と厚い布を持ってくる。
 彼がシェリルの身体を抱きかかえ寝台の端まで動かせば、鎖が揺れて音を立てた。

「ヒュー様······なにを······」

 ヒューベルの手が羽織に掛かり、するりと落とされて、シェリルは片手で彼の腕を掴んだ。

「待って······やめて下さい······!あなたには婚約者になる本当の相手が······っ、」

「婚約者?僕の婚約者は君だけど?君の世話をするのは夫となる予定の僕の仕事だよ」
「っ······!」

 シェリルの片手を後ろにまわし、両手首を纏めて腕輪で拘束され、シェリルは訴える様に彼を見上げた。

「ああ、本当に真っ白な肌だ······ずっと触れたいと思っていた。けどね、僕は無理矢理はあまり好きではないんだ。だから今日は身体を清めるだけだよ」
「っそ、······そんな事、自分でもできますっ······!」

 ヒューベルはシェリルのその言葉を聞かず、首の後ろに手をまわすと、ローブを止めていた金具を外す。
 薄いローブが肌を撫で、そのまま下に落ちて、シェリルの双丘が露わになった。

「っ······、待って······お願い、見ないで······・」
「綺麗だ、シェリル。良く見せて」

 ヒューベルはシェリルの長く美しい髪を後ろに流す。
 大きな双丘とほんのり色づいた小さな果実が二つ見えて、彼はその果実に齧りつきたいのを必死で堪えた。

「じゃあ、手から拭いていこうね」

 ヒューベルが少し熱めの湯を染み込ませた布を身体にあてて行けば、シェリルの身体がビクビクと小刻みに震えて呼吸も荒くなる。
 身体の敏感さをその手に感じながら双丘に布をあてれば、それが頂に触れ、擦れる度に彼女の口からは甘い吐息が漏れた。

「······っはぁ、お願い······やめてください······っ、」
「大丈夫、身体を清めているだけだよ。ほら、そのまま寝てごらん」

 シェリルを寝台に横たえて腰紐を解けば、美しい、誰も見たことなどないであろう恥部が見えてヒューベルは喉を鳴らす。
 ゆっくり脚を開かせて、見える全てのパーツを布で拭きなぞりながら、彼は狂いそうな理性を必死で繋ぎ止めた。

「っ、は、恥ずかしいっ······お願い、ヒュー様、もうやめて······ッあぁ、」

 この日シェリルが感じたのは初めての羞恥心。

 他人に見せた事もない身体の部位を、異性、それも好意を寄せる相手に見られたという事から来るもの。
 そして、もう子供ではないのに彼に世話をされた。それはこの世界に来てから公爵令嬢として侍女に身体を洗われる事とは、また違った恥しさだった。

 そして、こんな恥ずかしい行為が毎日続く事になるなど、考えもしていなかったのだ。
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