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40. 婚約破棄と変わる未来
しおりを挟む「今日、この時をもって私、ロザリア王国王太子アロラインはバルモント公爵令嬢との婚約を破棄する!」
そう、計画通り。
少し破綻していた部分もみられたものの、断罪、婚約破棄の流れはしっかりヴァレンティ―ナの書いた小説通りだった。
アロラインの大きな声が会場に響き渡り、その言葉に会場中が水を打った様に静まり返る。
「こ、婚約······破棄?」
シェリルはわざとらしく見えないように、顔を俯けた。
婚約破棄になる事は分かっていた事だし、私は······友人の踏み台になる準備が出来ているから。
「そうだ。それに、嫉妬にかられヴィヴィを邪魔しようとして危害を加えた罪は重いぞ。何の罪を与えるかはこの先追って知らせるが······」
親友である自分がヴァレンティ―ナに危害なんて、加えるはずがない。
これも、話通りにするべく演技をしているだけ。だけど、それを訂正する気はシェリルには毛頭ない。
「だが、重罪だと思った方が良い。ヴィヴィはこの国で王族の次に権力を持つ”世渡り人”だ」
そこで一息ついたアロラインは、じっとヴァレンティ―ナを見つめた。
「そして、今日をもって、ヴァレンティ―ナを私の新しい婚約者とする!」
その言葉に会場中がザワザワと騒がしくなり、シェリルは最後の演技を始めた。
「そんなっ!そんな事が許されるのですか······?こんな学園の演習の場で?」
「ああ、この舞踏会演習はこのロザリアで古くからおこなわれてきた公式なものだからな」
ポロポロと涙を流すシェリルを見て、ヴァレンティ―ナはアロラインに抱きついた。
「嬉しい······アル······!でも彼女、やっぱり王族の色を身に纏うなんて不敬じゃない?だってもう、アルの婚約者でもないのに?身にそぐわないドレスね」
ははっ、と見下すように嘲笑うヴァレンティ―ナを見て、シェリルはドレスの裾を握りしめた。
自分は良いけれど······ドレスの事はそんな風に言わないで······。ヒュー様とリルの贈ってくれた大切なものなのに······。
そう思えば何も言い返せない自分が力不足で悲しくなる。
「貴女がいたら怖くて舞踏会演習もできないんですけど?今日はいなくなってくれない?そのドレスもこの場に相応しくないから。ラルク、どうにかしちゃってよ」
ラルクと呼ばれたアロラインの騎士が、自慢のオレンジの髪を揺らしながら大股に近づいてきてシェリルの腕をおもいきり掴む。
「っ、いや······やめて······ドレスが破れてしまうわ!」
ラルクは嫌がるシェリルのドレスを強引にひっぱり、直後ビリっと生地が破れる音がして、シェリルは悲痛な表情をした。
「お願いッ!これは大切なのっ!やめて下さい!!」
「本当に、アルに未練があるのね~。貴女にはそれは似合っていないと思うけど?」
ヴァレンティ―ナの高らかな声が響き渡る。
あまりの乱暴な光景に学生達は誰一人動けずその状況を見守っていた。
だが、その直後、会場には威厳のある怒りを孕んだ低い声が響く。
「そこの護衛騎士、今すぐシェリル嬢から離れてくれ。二度はないよ」
会場中の視線が声のする方に集まり、王族用の重厚な扉の前に凭れ掛かったその男性を見て口を閉ざした。
「ヒューベル王弟殿下······」
だれかがポツリとそう呟いたのが聞こえて、シェリルは愕然とする。
「ヒューベル······王弟······殿下?」
王族服に身を包んだ彼は全く違う見た目だけれど、シェリルには分かる。
彼はヒュー。
······ヒュー様が王弟殿下······ということは?
「ヴァレンティ―ナさんの······」
そこまで考えて、シェリルはヴァレンティ―ナを横目でちらりと見る。
ヒューベルをじっと見つめた彼女の瞳がキラキラと輝いていて、確信を得た。
「彼も、ヴァレンティ―ナさんの······夫になる人······なのですね······」
ポツリとそう呟いたシェリルの後ろで、ヒューベルを視界に捉えたラルクは『チッ』と舌打ちをする。急に手を放され、彼女は尻もちをついた。
床に倒れ込むシェリルを見て、ヒューベルはゆっくりと歩を進めて近寄ってくる。
そして会場に向かってにっこりと笑って口を開いた。
「如何にも。私がロザリア王国、王弟ヒューベル・ロザリアだ。今日は皆の舞踏会演習を見に来たのだけど······なにやら甥が大変迷惑をかけているようだね?」
じろり、とヒューベルに睨まれ、アロラインは気まずそうに背筋を正す。
「お、おじ······王弟殿下······今はバルモント公爵令嬢との婚約破棄とヴァレンティ―ナとの婚約を発表しただけで」
「これが?」
ヒューベルは少し破れたドレスを見て床に座っているシェリルを見て、すぐにアロラインに視線を戻す。
「は······はい」
「ふーん、そうか。なら、早く正式な手続きを取ると良い。神殿の使者、連れてきてあげたから」
ヒューベルがその名を呼べば、普段神殿の使者として婚姻の手続きを行っている者が身体を震わせながら進み出る。
舞踏会演習という場で迅速にシェリルとの婚約破棄が成立、同時にヴァレンティ―ナとの婚約が新たに結ばれて、アロラインは驚きに叔父であるヒューベルを見つめた。
「叔父上······何故、いま正式な手続きを······?」
アロラインがそう彼に話しかけた時、ヒューベルはふっと笑みを零した。
そして尻もちをついたまま茫然としているシェリルの前に立つと手を差し伸べる。
「シェリル、そのドレス、よく似合っている」
「ヒュー様······なのですか?何故······っ······」
シェリルには手を取る事は出来なかった。
だって、彼も、ヴァレンティ―ナの夫になる筈の人物だと分かってしまったから······。
そんなシェリルをヒューベルは横抱きにして抱き上げると、アロラインを見た。
「アロライン、君が婚約破棄をしたバルモント公爵令嬢だが、王家の責任をもって私が娶る事にするよ」
「へ?」
「え?」
驚きに茫然とするシェリルと同様、アロラインはその言葉に目を丸くし、その隣にいた、ヴァレンティ―ナは慌てたようにヒューベルの目の前に飛び出した。
「ちょ、ちょっと待って!それは駄目です!こんな悪役令嬢、ヒューベル様には合わないわ!!」
「ヴァレンティーナ嬢。私は貴女には話していない。それに名前を呼ぶことを許可した覚えはない。そして合うか合わないかは私が決める」
ヒューベルがヴァレンティ―ナを冷たい目で見下ろして、ヴァレンティ―ナは彼をじっと見つめた。
「っ、なんで?変よ······前は好感度上がってたのに、なんで······?!」
ブツブツと呟きながら拳を握りしめたヴァレンティ―ナを一瞥し、すぐにヒューベルはアロラインに目を移す。
「アロライン、もう国王の許可は取ってある。後は君だけだが······良い、よね?」
アロラインはこの前の”借り”を思い出して渋々といった様子で頷いた。
「······分かりました。叔父上がそれで良いならば、僕に異論はありません」
ヴァレンティ―ナが再び慌てふためく中、ヒューベルはそれを気にせず神殿の使者に微笑みかける。
「使者、私とシェリルの婚約も頼むよ?」
それから、シェリルの瞳をまっすぐ見つめた。
「シェリル、私は貴女の事が好きなんだ······。君の意思を確認せずに婚約を結ぶ事を許して欲しい。でもこれで私は気負いなく君の隣に立ち、守る事ができる」
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