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29. 本当に高位精霊だったのかい?

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 シェリルを安全に王城から見送って、ヒューベルは頬にキスをしただけで赤面し、硬直した彼女を思い出してニヤニヤと緩む顔をおさえた。

「······」
「なんだい、リル。言いたい事があるなら言ってごらん」

 ギロリと下を見下げれば、リルがジト目で自分を見つめながら口を開いた。

「マジ、詐欺なの!!?なんなの、アレ!株あげようとかそうゆうのなの?ボクが喋れないことをいいことに?ふんッ!」
「君は喋らない方がウケがいいと思うよ?」

 ふふっと妖艶に笑った契約主ヒューベルを見て、リルはベーッと舌を出す。

「それにしてもホント、胸糞案件だよ!」

 ぷんすか怒って毛を逆立てたリルにヒューベルは苦笑する。

「そんな言葉、どこで覚えてきた?」
「学生の女の子達が騒いでるんだから二か月もいれば覚えるよ!”胸糞ですわ~!”って」
「いや、普通の御令嬢はそういう事言わないと思うけど」
「え······?あれ、娼館のお姉さんだったかな?」

「君、娼館なんて出入りしてるのかい?!」

 あ、やばぁ。とリルは咄嗟に首を振った。

「いや、違くて······いや······その」

 シェリルの自慰を見れると楽しみにしていたら、全然してくれないし。
 でも、着替えの時に見える彼女の裸はもうなんたって······ンフフっ······脱いだらあんな······。

「君、顔が緩んでいるよ?」

 っ、いけないいけない。これは絶対に言ったら、ボクが拷問で死刑エンドのやつだ。

「そ、それにしても主?腕輪の結果だけど、やっぱり”世渡り人”だったね?これでロザリア王国での彼女の地位は確立されるの?」

「ああ、そうだね。でも、とりあえずこれは二人の秘密にしよう。二か月後に学園では中間舞踏会があるんだ。そこできっとアルが婚約破棄をする。だから僕はシェリルを貰おうと思うよ」
「本当に用意周到で怖いにゃ~」
「だからそれまでは、君が、シェリルを守るんだよ?ロイドも今後は彼女の護衛にまわって貰うつもりだから」

 リルは伸びをするついでに片手を高くあげる。

「はぁ~い。でも痛覚があって良かったね、痛みがないってのも相当不便そうじゃん?」
「ああ、そうだね······」

 そのリルの言葉にヒューベルはシェリルの肌に微量の雷魔法を落とした時の事を思い出した。

 あれは、痛みを分かるようになったというレベルではない。
 予想が正しければアレは······。
 彼女は、痛みを快感として捉えているのだろうから。

「本当に彼女は私と相性が良いみたいだ······運命だな······」



 ヒューベルがそう呟いたのと同時に、庭園の中心からキャアキャアと黄色い声が上がり、リルはその方向を見た。

「あれは······メイドちゃんたちか?御令嬢もいる」
「あの声は、アルじゃないかい?」

 ヒューベルの推測通り、アロラインがニコニコと笑いながら周りの御令嬢に手を振っているのが見えて、リルはヒューベルの腕に飛び乗る。

「ホント、僕には分かんないな~。やっぱり彼が国王になれば人気がでそうなのにね?性格も良好。人当たりも良いし、主みたいに捻くれてないじゃん?」
「本当に君は、高位精霊だったってことを疑う位には抜けているよね?」

 ふっと嘲笑いながらも妖艶に微笑んだヒューベルの隣で、リルはアロラインをじっくり観察した。

 ふんわりとした濃紺の髪が風に靡いて揺れ、それだけで周りの令嬢達が色めき立つ。
 あの大きな紫色の瞳も······、顔の系統や印象は全く違うが、やはりヒューベルと血が繋がっているというべきだろう。

 王太子が明るく可愛らしい好青年とすれば、ヒューベルは妖艶な人間の皮を被った美しい悪魔と言ったところ······。

「君、なんか不敬な事考えた?契約、イマココで切っても良いんだよ?」
「······っ、違うって!主だって、ボクがいないと魔法が使えなくって困るだろう?!」

「まあ、そうだけど、ロザリアの王族は多少の魔力を持って産まれるんだ。特に僕は恵まれている様だからね、君と契約を切ってもそんなに困らないと思うよ。この国では魔法が使える人間は王族だけだからね?使えなくても死にはしない」

「ふん、使わせてあげるって言ってるんだ。ありがたく使えよっ······!」

 ふいっと顔をそらせば、ヒューベルがにっこりと笑って『ありがとう、』と言いながら額を撫でる。

 うん、気持ち良い······カイカイ······そこそこ~、ん、流石主は気持ち良い所を分かってるにゃ~。

「で、まあ先の君の疑問の補足だけど、あいつは、ド級のマゾでね?」
「······え?」

 衝撃的な内容に、リルは硬直する。
 あの優しい王子様みたいな見た目の彼が······ドM?
 でも国王がドSよりは良いのかな?圧制を強いたりしないんだろうし?

「君、僕をなんだと思っているんだい?思っている事が口に出ているよ?それに、例えS気質だとしても、国民に圧制をかけるわけがないだろう?」

 リルの心を読み、やれやれ、と手を額に当てたヒューベルは、アロラインに視線を移した。

「アルからは跡継ぎは望めない。期待しても無駄さ。僕が国王にならなくても、どちらにせよ、僕の子供が次世代の国王になる」

「なんで······そうなるのさ?」

「彼は勿論肉体的なMでもあるんだけどね」
「あ、あの······、女王様叩いてくださいぃぃ!ってやつ?」
「······君、本当に娼館に行っているようだね?それも特殊なお客さんを扱う所かな?」

 ジッとヒューベルに見つめられ、リルは黙った。

「······」

「変態覗き見高位精霊殿······?あぁ、”元”か?」
「やめろって!その呼び方ッ!引っ掻くぞっ!」

「まあ······捕まんないように、程々にね?」

「分かってるって!で、肉体的なの以外にもあるの?」
「そりゃあ、あるだろ?精神的な、だよ」

「精神的?」

 リルは首を傾げた。精霊界に生きる高位精霊にとって、特に精神的な何かを気にする事は少ない。
 だから精神的なマゾと言われてもピンとこなかった。

「ん~、要するに。彼は自分の大切なモノを奪われているという事にゾクゾクするそうだよ?まあそうゆうことだよ。僕には到底考えられないけどね」

 その言葉にリルは息を呑むと同時に漸く、疑問だった事が明瞭になり、納得した。

 あぁ、だから、今まであの赤髪女と様々な男の逢瀬には、その全てに遠めでそれを穴が開くほど見つめている王太子がいたのか。

 最初は、他の男とイチャイチャしているのがショックで、眺めるしかできないのかと思っていた。
 だけど、それは根本的に違ったんだ。
 王太子は彼女がそうやって他の男と関係を持っている事を知っていて、それを見るのが好きだったという事だろう。

「······それは······破綻してるんじゃ?」
「まあ、だから、あいつはあの女とは本気で気が合うんだろう?それに”世渡り人”ならば王族との結婚が必須。それに加えて、一妻多夫を選択できるだろう?彼女はかなり軽い女性の様だしね。彼女にとってもアルにとっても都合が良いんだよ」

 『さて、』と、ヒューベルはリルを腕に抱えたまま歩を進める。
 そしてにっこりと、妖艶な笑みを浮かべた。

「さあ、リル、行こうか。シェリルが”世渡り人”だと分かった以上こちらも準備を進めよう。”世渡り人”は王族との結婚が必須。まあ、僕は誰かにシェリルを触らせたりは絶対にしないけど」


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※AI画を挿し込みます。
苦手な方はここで回避して下さい。



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庭園演習の際の二人をイメージしています。
・ヒューベルとリル(猫がうまく描けずww笑)
・ヒューが匿名で贈ったドレスを着るシェリル


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