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21. 悪役令嬢は腰を抜かす※
しおりを挟むシェリルは図書室の外で、個室の中で行われる光景に目を見張る。
「······な、······」
ドキドキと心臓がなり、お臍の下あたりがぎゅっと握りつぶされるような感覚に襲われ。
この感覚が何かは分からないけれど、じゅわりと下着が濡れた気がして、蹲くまろうとした瞬間、その個室の奥に人が立っている事に気付き、シェリルは息をのんだ。
「······ッ!!」
シェリルは咄嗟に両手で口を覆い、叫び声がでそうになるのを必死に絶える。
そしてもう一度、その場を見た。
シェリルと同様にその個室の様子を見ていたもう一人の人物。
彼は図書館の内側、その部屋の扉の奥にいて、顔を真っ赤にさせて下半身部分で手に何かを持ち必死に動かしていた。
彼の額には汗が滲み、遠くからでも肩で浅い呼吸を繰り返しているのが分かる。
「なにっ······なん、なの、ですか······?」
煌びやかに光る王族服をこの学園で今日、社交界演習の為に着ている人物など一人しかいない。
そう、それは······アロライン王太子殿下、その人であったのだ。
何をしているのか、というのは分からないがそれが普通ではないことは分かる。
少なくとも自分の好意を寄せる相手が他の男、それも自分の護衛騎士と熱烈に愛し合っているのに······それを見てあんな表情をするなんて。
「な、何故······貴方はそんなに······嬉しそうなの······」
シェリルの身体から嫌な汗が出て、彼女はその場から逃げ出そうとした。
そして振り返った瞬間、誰かの胸板に辺り、彼女は咄嗟に頭を下げる。
「も、申し訳ありません······ッ」
直後、甘ったるい男の声が上から響き、シェリルは身体を震わせた。
「ああ、やっぱりシェリル様って良い匂いするな、ねえ。ヴァレンティ―ナ嬢に聞いたんだよ。君って実は、尻軽で淫乱なんだって?」
へへっと汚い笑いを零しジリジリと近寄ってくるその令息に、シェリルは後ずさる。
「それは······」
「それにさ、他人の逢瀬の覗き趣味もあるなんて······。ねえ、まずはその大きなおっぱい揉ませてよ」
男の手が伸びてきて、シェリルは咄嗟にその手を払った。
「めて······、やめて下さいッ」
「は?ムカつくんだよ、その態度!尻軽ならお高くとまんじゃねーよ!俺じゃ気に入らないってゆーのか?!」
「ひっ···───」
男に腕を乱暴に引っ張られ、シェリルは施設での日々を思い出した。
あぁ、私は抵抗なんてしてはいけない。
どうせ、私はキモチワルイ、なんの役にも立たない人間なのだから。
それに尻軽ならソレらしくしろって彼は言った。
”尻軽”それはヴァレンティ―ナさんが私に求めていた悪役令嬢の姿。
なら、私は······私がヴァレンティ―ナさんの為になる事は······。
シェリルは歯を食いしばって立ち止まる。
それを見た男は満足した様に髪を一房掬って鼻を近づけた。
「ああ、髪まで良い匂いなんだな。それに可愛い唇」
「っ······」
クンクンと匂いを嗅いだ後、彼の手が唇に触れ、指でこじ開けられ、唾液を絡めとる。それを見せる様にしながらペロリと舌で舐め取り······───
「ッひ、ィ」というシェリルの小さな悲鳴の後、
───······男は頭を押えて後ずさった。
「な、な······なんだ!熱い······ッ、はァ、何故っ······ああ!滾るぞ」
シェリルは真っ赤に充血したその男の瞳を見て蹲る。
キモチワルイ、嫌だ、早く逃げなくては!
そう思うのに、身体が震えて動かなくて。
少し落ち着きを取り戻し始めた男がゆっくりと蹲ったシェリルに近づき、彼は履いていたズボンのベルトをカチャカチャと緩め始め。
「こんなにした責任、取れよな」
その男がズボンを下げようとした瞬間、シェリルは手で顔を覆った。
「怖い······怖いっ······いや······助けて······」
直後、後ろからまた別の男の声が聞こえて、シェリルは身体を抱え込む。
「おい、何やってるんだ······っ、シェリル?······ッ!お前、彼女はバルモント公爵令嬢だぞ、分かっているのか?!お前が······伯爵次男如きが、触れていい御方ではない!」
「貴様······!俺の邪魔しやがって······って······エヴァン······侯、爵?」
エヴァンは蹲って震えるシェリルを見て頭に血が上った。
「ッ······お前、何をした!」
彼は持っていた短剣を首筋ギリギリに当て、顔を近づけると口を開く。
「とりあえず、今から王城に行け。そしてそこで全部吐くんだ、分かるな?······ロイド、」
「っはぁーいー?」
突然姿を現した緑の長髪を一本に束ねた男は嬉しそうな顔で、ズボンに手を当てた男子生徒を見て手を差し伸べた。
「っじゃあ、きみ、行こっかー」
「っひぃ······ロイド······って······血濡れのロイド······!?」
「馬鹿だと思ったけど知識はあるらしい。彼の事を知っているなら話が早いです。彼は話を聞くのもとっても上手いのですよ。王城につけば、きっとすぐに何があったか全部話したくなるはずだ」
”ロイド”と呼ばれた男が軽々しくその生徒を持ち上げ、跳躍して消えていったのを見送って、エヴァンはフィリスの前にしゃがみこんだ。
「フィリス······嬢······。大丈夫ですか?」
「っ!」
エヴァンは片手を彼女に伸ばして······怯える彼女を見て、───それを止めた。
「何をされたかは······言わなくていい。ただ、私はあなたに一切危害は加えないと誓います、姫」
「いえ······助けて下さり、ありがとうございます······っあ!」
シェリルは涙に濡れた瞳をドレスの裾で拭うと何かを思い出したように、咄嗟に彼の腕を掴み、自分の方に引っ張る。
「っ!?」
エヴァンは混乱した。彼女の真っ白な美しい手が自分の腕を掴み、急に引っ張られ······。
「も、申し訳ない!」
体勢を崩し、シェリルに抱きつく形になったエヴァンは慌てて距離を取ろうとして尻もちをつく。
「あ、いえ、突然引っ張ったりして申し訳ございませんでした······。ええと、その、中の方にバレてしまいますので······それに殿下にも······」
「中の方?殿下?」
エヴァンはゆっくりと立ち上がると、図書室の中を覗き込む。
そこには、ヴァレンティ―ナの頭を持ち無理矢理口淫させ、彼女の露わになった胸に白濁を撒き散らかし終えたラルクと。
その光景を隠れて見ながら自慰をしているアロライン殿下がいた。
「あの······童貞大馬鹿王太子とその仲間達ッ!!」
これをシェリルは見たのか?これを見て······どう思ったのか?
そんな疑問が頭に浮かぶが、それを脳から消し去るように首を横に振る。
「シェリル嬢、立てますか?」
「······っ、すみません腰がぬけてしまいまして······先に行ってくださ······へっ?!」
”先に行って下さい”という言葉を聞き切らずに、エヴァンはシェリルを横抱きに抱えるとその場を離れる。そして寮に向かって歩を進めた。
「っ、も、申し訳ありません!」
「いや······」
エヴァンは彼女の身体が自分の昂る熱に当たらないように注意して慎重に彼女を運ぶ。
良い匂いだ、とか柔らかい身体だとか、美しい瞳だとか余計な事は考えないように集中して。
寮についたエヴァンは慌てて出てきた寮母に挨拶をして、彼女を無事に送り届け。
それから、すぐに王城へと戻ったのだ。
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