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9. 悪役令嬢とは・・・?
しおりを挟むシェリルは走って会場を出て行ったヴァレンティ―ナを必死で追いかけた。
「ッ······はぁ······ヴァレンティ―ナさ······ん」
待って······。お願い、もういなくならないで······。
学園の校舎の脇、美しい庭園が広がり、その角を曲がった所でヴァレンティ―ナが止まったのが見えてシェリルはそこまで急いだ。
「もう、早く来なさいよ!誰かに見つかったらどうすんの?本当に相変わらずドンくさいわね」
「っ······ご、ごめんなさい······っはぁ」
息も絶え絶えで、庭園に入った所でヴァレンティ―ナに腕を引っ張られ、シェリルは地面に倒れ込んだ。
「ねえ、時間がないのよね、シェリル。話を聞く準備はいい?」
「っ······ヴァレンティ―ナさん······なのですよね?ほんとう······に······ッ?」
瞳から溢れる涙を拭ったシェリルを冷ややかな目で見下ろしたヴァレンティ―ナは地面に座ったままの彼女の目の前にあるベンチに腰掛けた。
「そういうのは良いから。感動の再会はまた今度やりましょ?それより!私の国、ロザリア王国にいらっしゃい、シェリル?」
あまりにも美しい笑顔で微笑む彼女に、シェリルは息をのむ。
「い、いらっしゃい······とはどういう事なのでしょう?」
「えぇ?覚えてないの?私、いっつも貴女に色々教えてあげてたのにぃ?」
シェリルは施設の日々を思い出した。
ロザリア王国······ロザリア······。
確か、ヴァレンティ―ナさんは本を持っていて、それは······彼女が創っている物語だと言っていた。
それで、その国の名前が······「ロザリア······王国······?」
「あ、思い出せたみたいね!話が早くて助かる!」
『で、』とヴァレンティ―ナはシェリルを見ながら脚を組みかえる。
「ココは、私の創造した国、ロザリア王国。私はこの国のヒロインで、一妻多夫を選択して皆に愛でられる予定だって······これは覚えてる?」
「は、はい。えぇと、この国の王太子殿下が最初の旦那様······ではなかったでしょうか?」
「そうそうッ!私、ヒロインは数々の障壁を越えて、数多の攻略対象と恋に落ちてハッピーエンド!なわけなんだけどぉ······でも、現在、殿下には婚約者がいるわよね?だから最初の障壁が······」
シェリルはヴァレンティ―ナを見る。
施設にいた時から美しかった彼女は、今、さらに輝いて見える。
目元も華やかで、唇だって真っ赤で······にっこりと笑った姿はキモチワルイ存在の自分なんかと比較できないほど艶やかで。
「アンタよ」
その美しい唇が開き、指は自分を指していて、紡がれた言葉にシェリルは目をパチクリさせる。
「へ?わたくし、ですか······?」
「そう、シェリル、アンタよ。だって貴女、殿下の婚約者でしょ?」
「婚約者······確かにそのようでしたね······失念しておりました」
「私は優しいから~、一人ぼっちで可哀相なアンタもキャラクターに組み込んであげたの。で、アンタは悪役令嬢。だから、私のハピエンの為に私の踏み台になって欲しいの。それくらい、”親友”なら、できるよね?」
シェリルはその言葉に大きく頷いた。
「ヴァレンティ―ナさんの幸せの為に······私に何かできるという事ですよね?それなら、是非私にお手伝いさせて頂きたいです!」
ヴァレンティ―ナの役に立てるのであれば勿論なんでもする。
だって私はヴァレンティ―ナの親友だから······。
「イヤイヤ、そういう態度じゃないんだよねぇ。もっと悪い印象を出して嫌われて欲しいんだけど~」
少し考え込んだヴァレンティ―ナは、ハッとした様子で庭園の入口を見た。
そして、制服のポケットから取り出した一枚の紙をシェリルに押し付ける。
「コレ!明日に起こる予定だから、ちゃんと予習してきてくんない?悪役令嬢っぽく振舞う練習、してきてよ?」
ヴァレンティ―ナが囁く様にそう言い終えた時、男性の声が響き渡った。
「ヴァレンティ―ナ嬢······!と、シェリル······」
「······ってか、なんでこんな所まで追いかけてくんのよ?こんなの書かなかったけど」
シェリルはヴァレンティ―ナの小さな呟きを聞きながら、じっと地面を見つめた。
頂いた役、”悪役······令嬢······”とはなんなのでしょうか?
でも、踏み台になって欲しいという事は······悪い言動をして、ヴァレンティ―ナさんの立場を立てれば良いという事でしょうか?
それがヴァレンティ―ナさんの為になるならば······演技は下手ですが頑張るしかないですね······。
「ッ、ふあぁん!アロライン様あ!シェリルさまったら、私は何もしてないのに、勝手に転んで私の所為にしようとしたんですよぉ?」
先程の呟きとは一転、ヴァレンティ―ナが涙を浮かべながら、ベンチから立ち上げるとその男性の腕にしがみついた。
シェリルは無言で立ち上がると真っ白なスカートを優雅に叩く。
地面に倒れ込んだ所為で汚れてしまった服の裾を見て、大きな溜め息をついてからヴァレンティ―ナとその男性の方をみた。
彼も、ヴァレンティ―ナさんの夫になる人の一人······なのでしょうか?
それならば、此処はわたくしの初めての見せ場というわけですね!
そう思いながら、シェリルは口を開く。
「ヴァレンティ―ナさん、言いがかりはお止めください。貴女が私の腕を引っ張ったのでしょう?ほら、見て下さい。美しい服が汚れてしまっています。せっかく公爵家の使用人が綺麗に洗濯して下さったのに······物は大切に扱わなくてはなりませんよ?」
「······はぁ、全然できてないし······」
「シェ、リル······?君はバルモント公爵令嬢であっているんだよな?替え玉とか······?」
「そこの殿方。人前で異性と身体を密着させるなど、破廉恥極まりないと思わないのでしょうか?それに私の事をご存じのようですが、面識はございませんが?」
「······は?いや、俺は君の婚約者で、王太子のアロラインで······って、先程会って挨拶している筈なんだが······?」
ポカンとした顔のアロラインを見て、シェリルは内心で焦る。
た、確かに、先程校門の前でお話した······この国の王太子で私の婚約者であるらしい方でしたわね!では彼がヴァレンティ―ナさんの夫になる方!······ああ、もう!そんな重要な事すらできないなんて······踏み台失格ですね。
あまりの衝撃に固まってしまったシェリルと、その彼女を不信そうに見つめるアロラインを見て、ヴァレンティ―ナは彼の腕を引っ張った。
「で、殿下······もう戻りましょ?バルモント公爵令嬢、先程から言動がおかしいんです。何か変な薬でも使っているのかもしれないし······怖いから関わりたくない」
カタカタと震えてみせるヴァレンティ―ナの肩を、アロラインはそっと擦った。
「ああ。震えてる、大丈夫か?貴女が体調を崩したりしては大変だ」
「はい、ありがとうっ」
そしてアロラインはシェリルに目を向けた。
「シェリル······婚約者として、またゆっくり話す機会は取りたいと思うが。貴女は公爵令嬢で次期王妃候補なんだから、どんな理由であろうと他人に罪を押し付けたりしては駄目だ。特に彼女はこの国の宝、”世渡り人”なんだから。頼むぞ?」
二人がその場からいなくなり、一人取り残されたシェリルは拳を握りしめた。
「······悪役······令嬢。ええ、頑張ってみましょう!ヴァレンティ―ナさんの為ですから!練習あるのみ、ですね」
シェリルのロザリア王国での日々はまだ始まったばかり。
彼女の唯一の友達、ヴァレンティ―ナの書いた小説元に周るこの二度目の人生で、シェリルは悪役令嬢として親友の幸せな人生を叶える為に生きて行こうと決めた。
だが、この時からすでに、この世界はヴァレンティ―ナの書いた小説とは少し違った方向に、綻びを生じながら進んでいたのだが。
それを知るのはもっとずっと先の話。
********************************
※AI画を挿し込みます。
苦手な方はここで回避して下さい。
********************************
(ヒューベル作画はかなり難しく同じ画像になってしまいました。また、正ヒロインのシェリルは作者の趣味が全振りで反映されております。)
ヒューベル
学園に入学したシェリル
アロライン
ヴァレンティ―ナ
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