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42. ロンファ持つ、二人の記憶

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 ロンファはセドリックに連れられて皇城内を歩く。セドリックは最上階にある貴賓室の前で立ち止まるとロンファを振り返った。

「ロンファ様。早めに帰って頂いてもいいのですよ?」
「セドリック先輩はいつも僕に冷たいですよね。獣人の奥様ができてからは柔らかくなったと聞いていたのにな」

 ふふっとお茶目に笑うロンファを見て、セドリックはため息をつく。

「皇城内は自由に散策して頂いて構いませんが、リリアーナ様の私室に行くなどはご遠慮下さい?」
「そりゃあ勿論。僕はリリアーナ様を無理矢理襲おうとか、攫おうとか、そんな事は考えていませんよ」


 ロンファは部屋に入ると、扉を閉まったのを確認し、フランベルジュを床に立てる。

「神剣フランベルジュよ、竜王の名の元に命じる。【防御結界】、【防音魔法】」
 途端、部屋全体が真っ赤な魔法陣に包まれ、魔法が発動した。


「さて、これで良いかな?それにしても、竜二(リュージ)大丈夫かな?僕たちのいない間、竜王代理がしっかり出来ているか心配だ。第二王子だったのに、今まで仕事なんて何もしてこなかったんだから······全く怠惰な奴だよね······」
「まあ、彼は異世界人ですからね」

 ルイネの言葉に、ロンファは相槌を打つ。
 そして、ルイネはそんなロンファを見てさらに言葉を続けた。

「ロンファ様、水晶(クリスタル)はお渡ししなくても良いのですか?」

 ロンファが此処皇国に来た理由は、リリアーナを奪いにくるためではない。
 邪竜討伐後の事後処理の際、邪竜の体内に取り込まれていた白と黒の二つの水晶(クリスタル)を見つけた。そしてそれらが、リリアーナとヴィクトールの記憶の一部である事が分かったのだ。

 皇国の護衛達の報告通り、やはりあの邪竜は初代皇帝と一戦を交えた邪竜と同じだった。今回の討伐に限っては、完全に魂を消滅させた事を確認した為もう今後の復活や転生、転移等は起こらないだろうが······。

 この一件ではヴィクトールにもリリアーナにも多大な迷惑をかけたため、報告も兼ね、お詫びとしてこの記憶水晶を返還しようと皇国まで転移魔法を使ってやってきたのだ。

「う~ん、まだ良いんじゃない?記憶がなくなったとはいえ、あんな”離縁”だとか”寄付金”だなんて言い方は良くないよ。それに、そんなに簡単に忘れてしまうなんてさ、真の愛じゃないんじゃない?」

 記憶がないのだから仕方ないのでは?とルイネは考え首を横に振る。そして先ほど見たヴィクトールの様子を思い出した。

「······。それにしても、ヴィクトール陛下はでしたね」

 その言葉にロンファは頷く。

「本当に、驚いたよ。あれはさ······なにかあるよね?」

 邪竜の尻尾に突かれた時、確かに身体を貫通していたし、それに毒も回っていた気がする。
 それでヴィクトールが死ぬとは全く思わないが、かなりの時間を要するだろうとは踏んでいたのだ。
 だが、今日会ったヴィクトールは全くもっていつもと同じヴィクトールだった。

「そう、ですね······。我々が急遽持ってきた毒消しのポーションでもあんな風に完治はしないかと」
「それにあの誓約紋も、あんなに強力だなんてさ······聞いてないよ。まさか、あのロキ君すら触れられないなんてね」

「はい、まあ······【支配】の魔眼持ちの御方のしそうな事です。支配とか牽制とか······そんな所でしょうね。しかし、今のロンファ様にはフランベルジュの剣がありますから」

「まあ、一応僕も神の力の一端とやらを扱えるようにはなったからね。まあ、でも流石にずっと触れているのは無理だな······。今日触れてみて分かったよ。本当にヴィクトール陛下って何者なんだろうね」

「まあ、とても、ケタ違いの人間でいらっしゃいますから」

「僕もリリアーナちゃんを手に入れたら、あんな誓約紋を彼女に刻みたいなあ。なんか特別な感じがするよね?」

 『いや、それは流石にリリアーナ様がお可哀想では······?』と言う言葉が喉元まで出かかったのを飲み込んで、ルイネは無理矢理笑顔を作る。

「でも、皇国にこんなに簡単に入国できてよかったです。怪しまれ、止められるかと思ったのですが」
「それも、ヴィクトール先輩の精神に影響があるんじゃないの?リリアーナ様を忘れたから防御が薄くなったのかな?緊張感にかける、感じがするよね······」

 まあ、どちらにせよ。とロンファは夕日の沈む窓の外を見つめた。

「あと五日でリリアーナ様を落とせると良いんだけど」
「ロンファ様、本気なのですか?竜王妃の座を、などと······」

「当たり前だし、ルイネは知っているんだろ?僕は他の女性を竜王妃にするつもりはないよ」

 ルイネは前途多難を思って、ため息をつく。

「さて、今夜の晩餐はリリアーナ様と頂こうと思う。ルイネ、悪いけど、彼女の侍女・・・ここではメイドだっけ?とりあえず、知らせてきて」

「それ、悪いと思っていないですよね?」

 ふんふ~ん、と鼻歌を歌いながら身支度を整え始めたロンファを見てから、ルイネはそう呟いて部屋を出た。

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