【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

文字の大きさ
上 下
43 / 56

40. 僕なら君に、触れられるから

しおりを挟む

 
 執務室をあけると不機嫌そうに椅子に腰かけるヴィクトールが見えて、セドリックは跪いた。

「陛下の御前、失礼致します」
「セドリック」

 地を這うような低く威圧的な声が聞こえ、セドリックは姿勢を変えず、床をじっと見つめる。

「はい」
「昨夜の事、忘れたとは言わせないぞ。お前の指示とは言え、あの場にいた者達には相応の罰を受けてもらう」
「はっ。お心のままに」
「ほう?弁解もなしか?いつも雄弁に舌だけはよく回る男が笑わせてくれる」
「いえ、」

 セドリックは顔を上げて、真剣な眼差しでヴィクトールを見つめた。

「それが、ヴィクトール様のお心であれば私はそれに従いましょう。ですが······」

 セドリックは一旦言葉を区切った。ほんの少し、躊躇する様な素振りを見せ、だが言葉を続ける。

「ですが、今の貴方様も、記憶のある頃の貴方様も······私にとってはどちらも大切な主ですので」

 ヴィクトールはその言葉に片眉を釣り上げてセドリックを見る。

「何が言いたい?俺は俺だ。今も昔も変わらん」
「そうですか」

「それと、あの不敬な女だが。お前たちの言う事が正しく、アレが俺の妻であるのであれば早々に離縁の手続きをしよう。俺は神殿の手の者と婚姻をした覚えもないし、昨夜の件は多額の寄付金でも渡しておけば「兄上、やめて下さい!」

 聞こえた馴染みのある声に振り返ると、開いた執務室の扉から顔を覗かせたロキと、その隣に俯く白銀の髪の女が見えた。ヴィクトールは『またあの女を連れて来たのか······』と溜息交じりに口を開く。

「ロキ、ノックはしろ。いくらお前でも「しましたよ。その音に貴方が気づかなかっただけだ。それに······そんな事、兄上だからと言って許されると思うのですか!」

「ロキ様、陛下に対する不敬ですよ。直ぐにお怒りをお沈め下さい」
「セドリック、俺に命令するな。これは兄弟喧嘩だと思ってくれて構わないし、オレは許せない!」

「ロキ様、私は大丈夫です······から」

 ロキは隣で拳を強く握りしめるリリアーナを見た。
 できればその手を握って、その小刻みに震える肩を抱きしめてあげたいのに······それすら出来ないのだ。兄の独占欲の塊である誓約魔法によってそれすら許されない。
 なのに······。なのに、兄はリリアーナを憶えてもおらず、その上に”離縁”などと!

「離縁?寄付金?ふざけるなっ!リリアをなんだと思ってるんだよ!いくら兄上でも許せない。彼女に誓約魔法まで刻んでおいて、そんな仕打ち!自分も父帝となんら変わらないじゃないか「ロキ様!」

 兄弟喧嘩、と言われ黙っていたセドリックだったが、ロキの最後の言葉に我慢ならずそれを遮った。
 ヴィクトールはそれを気にする様子は見せずロキを睨みつける。

「ロキ、なぜお前がその女のためにそこまで怒る必要がある?身体でも篭絡されているのか?可哀相な事だ」

「ッ、クソぉ!」
「ロキ様!落ち着いて下さい!!ヴィクトール様も、ロキ様を煽るような事······お控え下さい!」

 ヴィクトールに掴みかかろうとしたロキをセドリックが抑えつける。
 ロキは、一旦怒りを抑えると、ヴィクトールをまっすぐに見つめた。

「······では、兄上。先ほどの言葉、本心であるならば、今すぐに誓約魔法を解除して下さい!あるのでしょう?解除方法が。そして、その暁には······皇国皇位継承権をもつロキ・ルドアニアとして彼女を私の妻に······────

「いやはや、凄い良いタイミングだね、ルイネ。でも間に合って本当によかったよ。そっかぁ、ヴィクトール先輩がリリアーナ様と”離縁”······ねえ?」


 部屋にいた皆がその人物の登場に目を見張る。


 昨日まで、ドラファルトで邪竜討伐の後処理を行っていたと報告を受けていた二人が目の前にいたからだ。
 竜王ロンファとその宰相ルイネは悪びれる様子もなくヴィクトールの執務室に入ってきて、一人で立ちすくむリリアーナの隣に立った。

「ロンファ様······お早いご到着でいらっしゃいましたね?それに、勝手に皇城に入り、護衛を威圧して執務室に立ち入る等、相変わらず見た目と反して趣味が悪くていらっしゃる······」

「セドリック先輩、お久しぶりですね。いえいえ、皇城に入るときもしっかり皇国の皆様に挨拶はしましたし、武力的な行使は一切していないですよ?それに、今日の朝に知らせは出したはずですが?」

 にっこりと微笑んだロンファにヴィクトールは顔を向ける。

「ロンファ、邪竜はどうなった」
「先輩のおかげで、邪竜は無事殲滅。事後処理も終わり、お礼とお詫びを兼ねて来たのです。竜の毒消しのポーションも一応持ってきてはあるんですけど······でも······そうか······先輩が昨日の今日でこんなに完治するなんて。薬は必要なさそうですもんね?皇国には何か秘密があるのかな?」

 探るような視線にヴィクトールは冷ややかな瞳を向ける。

「皇国では研究が進んでいるからな」
「なるほど?そうだ、そんなことより、先ほどの話、僕も入れて頂けませんか?」
「先ほど······?」

 ロンファはリリアーナを見ると彼女の前に跪く。そして下から顔を覗き込んだ。

「ああ、貴女にこんな表情をさせるだけでなく、皇国には誰も抱きしめてあげられる男がいないなんて。ここも大概男の教育がなっていないのかな?それとも、誰も触れられないの······か?」
「おい」

 ヴィクトールの制止を無視し、ロンファは着物をバサリと翻し、大きく手を広げると言葉を紡ぐ。

「神剣、フランベルジュよ。竜王の元に命じる。私に力を、」

 真っ赤な炎が一瞬彼の全身を包み込み、すぐに消える。そして彼はリリアーナの両腕をそっと掴んだ。
 リリアーナの身体がびくりと大きく震えるが、誓約魔法の制裁はロンファには起こらない。

「もう大丈夫。僕なら君に触れられる······抱きしめてあげられるから」

 驚きに顔を上げたリリアーナの頬に伝った涙を指で拭ったロンファは、震える彼女を正面から強く、優しく抱きしめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...