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37. 秘密を、明かして

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 皇帝陛下が目覚めた。
 
 リューイの声で、リリアーナとセドリック、ロキは直ぐにヴィクトールのもとへ走った。
 リリアーナはうっすらと瞳を開けたヴィクトールを強く抱きしめる。

「ッ、良かった!ヴィクトールさまっ······!!」

 リリアーナは零れ落ちる涙を止める事など出来なかった。
 彼がこの世からいなくなってしまうかもしれないと思って、頭が真っ白になったのだから。
 こうやって意識が戻ってくれただけでも幸せだ。

「本当に······意識がお戻りになって良かったです」
「兄上!良かった!」

 セドリックとロキも安堵の表情を浮かべる中、ヴィクトールは怪訝そうな顔でリリアーナを押し退けると感情の籠らない声を出した。


「おい、誰か知らないが、勝手に抱きつかれるのは困る」


 その場にいた全員が息を呑む。そしてリリアーナはあまりのショックに、寝台からずり落ちる様に座り込んだ。

「······ヴィクトール様、畏れながら。こちらは、リリアーナ様、貴方様の最愛の妻。この国の皇后陛下でいらっしゃいます」
「セドリック。冗談を言うな。俺に妻はいない」

 ヴィクトールは冗談を言っている様子はない。リリアーナに向ける、そのあまりに冷たい視線にロキは堪らず声を荒げる。

「兄上ッ!何を仰っているのですか!!リリアーナ様に近づく男達をあんなに牽制しておいて!今更、妻はいないなどと!兄上とて許せませんッ!!」
「ロキ、なんとでもいえ。だが、俺の記憶に妻がいた事などない。それに彼女は知り合いでもない」

 セドリックはヴィクトールを見つめながらポツリと言葉を零した。

「記憶が······失われているのか······?」
「なんだって!?そんなッ!そんなこと······でもオレ達の事は」
「リリアーナ様だけの記憶が失われている、と考えるのが妥当でしょう······」

「そんな!!治癒をしたら治るかもしれない!リリアーナ様!治癒を······早く!「駄目です······」

 リリアーナは涙をぽろぽろと流しながら蹲る。

「何故!緊急事態だと······!」
「駄目、なんですッ!ヴィクトール様に拒否されたら······私に治癒はできない······のです」

「どうゆうことですか?話していただいても?」

 セドリックは一旦ロキを見た。治癒魔法を受けた事のあるロキなら何か知っているかもしれないと思っての事だった。だが、ロキも首を横に振る。ロキの記憶の中にリリアーナからどのように治癒を施されたか、その方法については残っていないのだ。

「リューイ様、もう少し、止血を頼めますか?我々は今後の方針を決める為、少し話をしてきます」

 首肯したリューイを残し、セドリックは部屋の中にある長椅子にリリアーナを座らせるとロキも交えて再び防音魔法を展開する。

「リリアーナ様、治癒が施せないとは、どういう意味なのですか?もし、言う事ができないのであれば······こうしましょう。我々と誓約を結びませんか?今から貴女様が話す内容は、ヴィクトール様が治癒されたあとに記憶から消し去る、と」

「······分かりました。そういう事であれば······お話します」

 セドリックとロキの二人がリリアーナと誓約魔法を施し終わると、彼女は重い口を開いた。

「私の治癒魔法は大治癒です。ヴィクトール陛下の傷などは完璧に治癒する事ができるでしょう」

 その言葉にセドリックとロキは息を呑む。
 大治癒が使える人間はきっとこの世界にたった一人だ。
 過去には女神『サーシャ』以外に使える人間はいないと言われている。
 正に、神の力、そのものだ。

「では······「ただし、発動には条件があるのです」

 セドリックの言葉を遮ったリリアーナがそう告げて、彼は片眉を上げた。

「条件、ですか?」
「······はい。それは、”性交渉”のみで発動できるのです。正確には、粘液交渉、唾液などでも治癒が可能です。······そして恥ずかしながら······私の性的興奮の度合いによっても行使できる魔法の強さが変わります」

「「······」」

「ですから、ヴィクトール様が私についての記憶を失ってしまった今、無理なのです······。抱きしめられるだけでも嫌なのですから、閨を共にして頂けるとは思えません······」

 顔を俯けて黙ったリリアーナにかける言葉もなく、セドリックとロキは沈黙した。
 そしてしばらく熟考して、その重々しい空気を破ったのはセドリックだった。

「発動条件については、分かりました。しかし、ヴィクトール様を助けるのに貴女の力は必要不可欠だ。リリアーナ様······」

 セドリックはそこで言葉を区切り、真剣な表情でリリアーナを真っすぐ見つめた。

「ヴィクトール様をどうかお救い下さい。この秘密を知っている私セドリック、ロキ、そこに『慣らし五夜』の担当者もしたオリリアスを呼びましょう。我々三人でヴィクトール様を拘束しますので、貴女に治癒をお願いしたい」

 リリアーナはその提案に顔を上げた。

「それは、どのように治癒をしろと······?」

「無礼を承知で発言します。お許しください。今考えられる方法は一つ。唾液が有効なのでしたら、リューイ様の血操魔法で強制的に勃起を継続させて、貴女様に口淫して頂く方法ですね。治りが悪ければ、性的興奮も影響するという事ですので······「自慰、ですね」

 リリアーナはすべてを理解し、頷いた。『慣らし五夜』で自慰などは既に他人に見られている。ヴィクトールが助かるのであればそれくらい何てことはない。

 唖然とするロキの横で、リリアーナとセドリックは席を立つ。
 リリアーナは堅い決意の元、寝台に横たわるヴィクトールへと近寄っていった。
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