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20. 竜姫リューイの、幸せ

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「はあ······リューイ姫、正確には俺の側室に入りたいわけではないのだろう?私は本当の理由が知りたい」
「······」

 ヴィクトールにそう言われ、リューイはちらりと彼の目の前に座っている兄であり竜王ロンファの顔色を窺った。
 その一瞬すらも見逃さなかったヴィクトールがロンファに口を開く。

「ロンファ、一度姫と二人で話がしたい。外してもらえるか?未婚の女性と一緒にいるわけにはいかないから、ここには護衛のジョシュアを残させる」
「······分かりました。僕は隣の部屋で待っていますから、終わったら教えて下さいね」

 その言葉にロンファは渋々頷いて、ロンファとルイネがシャルロッテと共に一旦別室に移動したところでヴィクトールは再びリューイを見た。

 そして片手を翳すと、防音魔法や探知疎外魔法を展開していく。何重にもかけられた、目には見えない魔法の壁の中で、ヴィクトールはリューイに先を促した。

「さて。姫、本当の事を話してくれるか?」

「はい······お気遣い感謝致します。やはり兄上に聞いていた通り、皇帝陛下は聡明で慈悲深い。噂などは信じる価値もないですね。御察しの通り、私は側室になりたいというわけではありません。
 私には想い人がいるのです。それは女性で、公にすることが叶わない恋なのですが······」

 そこまで言ってリューイはヴィクトールを見る。
 だが、彼は先程と全く変わらぬ表情で、リューイの話が止まった事に首を傾げた。

「······軽蔑、されないのですか?」
「なぜ俺が軽蔑をしなくてはならない?」

「女同士で愛し合うなど······」

「愛しあう相手に性別や種族は本来関係ないだろう?私はリリアーナが男であっても、きっと彼女を愛でるだろう。本当に愛するとはそういう事ではないのか」

「ヴィクトール皇帝陛下の寛大なお心、感謝致します」

 リューイは深く頭を下げる。そして直感的にこう思った。
 この人は新しい時代を切り開ける力を持った方だ、と。
 竜王になった兄ロンファが実の兄のように慕うのも理解できる。そして彼は皇国という最強の軍事国家の皇帝だ。それを変えるだけの力がある人、という事に彼女は身体が震えたのが分かった。

「で?その想い人と共に皇国に来たい、と?表面上側室に入るという体裁をとって、離宮の中では相手を愛でたいという事だな?」

「······はい。皇帝陛下が皇后陛下しか愛する事がないのは承知しております。寧ろ私にはそれが良い。
 私は彼女とずっと幸せに暮らしていたい、ただそれだけなのです······っ」

「ふむ。だが、それは別にここにいてもできるのでは?ロンファもそこまで考えが固い奴ではない。
 それに、俺も側室に貴女を入れるという事は、国の貴族らや他国からも打診が来る事になるだろう。貴女にだけメリットがあって、俺には何もない」

「······」

「もっとあるのだろう?全て吐け。他国の人間を迎え入れるのであれば、それくらいは誠意と忠誠心を見せてもらわねば。私は納得しないぞ?」

「······実は、第四王子と第五王子の慰み者にされております」

「は?」

 その瞬間、ヴィクトールの顔が歪み、魔力が揺れたのが分かってリューイは顔を俯けた。

「······随分前から、毎晩、犯され続け······もう心が辛いのです。······早く、こんなところから逃げたい」
「なるほど。もう喋るな。暫し待て、」

 ヴィクトールは直ぐにロキに念話を飛ばすと、二人を呼び出した。念話の終わったヴィクトールを見て、リューイは目を丸くする。

「······リリアーナ様を此処に、この場に同席させるのですか?」
「ああ、彼女には隠し事をしないと決めている。特に女性関係は、な」

 直ぐに扉が開き、リリアーナとロキが入室する。そこにロンファ達も合流して、皆が席に着いた。
 ヴィクトールは、リューイの受けている凌辱行為に関しては触れずに、彼女の置かれている現状を話していく。その話を全て聞き終えて、リリアーナはリューイに向かって口を開いた。

「リューイ姫様、皇国皇后リリアーナと申します。私も、ヴィクトール様と同じ気持ちですわ。”愛する”という気持ちは誰からも縛られるものであってはいけないと思うの」

「だが、私は後宮は解放しない」

 ヴィクトールのその言葉に、リリアーナの表情が悲壮感に濡れる。

「ヴィクトール様······私の事を考えて下さるお気持ちは嬉しいですが。それではリューイ姫様が······「では、オレの側室としては如何でしょう?」

 突然真後ろから声がしてリリアーナは彼を振り返った。
 ロンファも、いや、ロンファだけではない。部屋にいるヴィクトール以外の皆が、目を丸くしてその人物を見ている。
 彼はヴィクトールの前に腰掛けているリューイの前に歩いていくと、片膝をついて跪いた。 


「リューイ姫、お初にお目にかかります。私、本名をロキヴェルスタ・ルドアニアと申します」
「ルドアニア?」


 リューイは目をパチパチと瞬かせる。

「こいつは俺の唯一の弟、ロキ。要するに王位継承権二位ということになるな。まあだから確かにそうか。お前なら正室として彼女を娶っても、問題はない身分ではあるな」

「はい、ですが、協力する代わりに側室でお願いします。オレも好きな人は自分で追いかけたい」

 ロキはバツが悪そうにヴィクトールから視線を逸らすと、彼はふっと笑って頷いた。

「相分かった。お前のその正室にしたい想い人やらが手に入るかは不明だが、リューイ姫を側室にしたいという願いは聞き届けよう」

 こうして、リューイはその後ロキの側室として皇国の後宮に身を置き、最愛の想い人と共に一生を過ごすという幸せを掴んだのである。
 この日は彼女にとって、その幸せへの第一歩であった。

********************************

★竜姫リューイの設定とあとがき★
※リューイ姫は血操術という血を操る能力をもっています。とても有能な姫です。
短編は彼女が今回ヴィクトールに告白した内容の物語(GL×禁忌)となり、繋がっています。
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