13 / 56
11. ロンファ、新竜王となる※
しおりを挟むリリアーナはヴィクトールの隣に腰かけたまま、その状況に唖然とした。
そんな彼女の様子に気付いたヴィクトールは、顔を前に向けたまま口を開く。
「リリィ、顔はそのまま前に向けて、俺の話を聞けるか?」
今はロンファの即位式の真っただ中である。
というより、リリアーナには即位式が始まっているのかすら分からなかったのが本音。突然始まった、竜王による若い女性達の選定の様な儀式に、リリアーナは心の中で顔を顰めた。
「······はい」
「先に言っておかなければいけなかったのだが、忘れていた」
”これは、ドラファルトならではの伝統的な習わしで、皇国や王国でいうデビュタントのようなものだ” そう続けたヴィクトールに、リリアーナは言葉を失う。
「これが······?」
男性に手を翳されて、膝をつき、自分で着物の裾を開いて、秘部を触らせる。
······それが、デビュタント?
「獣人は匂いで番や相性を判断するらしくてな。その匂いは首回りと秘所から濃くでるらしい」
だから下着を身に着けないし、首元もこんなに大きく開いているのか。とリリアーナは自分の身に着けている着物を見た。
「匂いで相性が良さそうだと判断したら、男は女に手を翳す。そうしたら、女はああして跪き、相手に触らせなければならないらしい」
「それは······」
「それが”翳手儀”だ」
そうヴィクトールは言って、女性達を吟味する竜人族の王族たちを冷ややかな目で見た。
「まあ、いま行われている ”翳手儀” は王族の先行権というだけだがな」
「どういうことですか?」
「ここで選ばれなければ、この後、彼女達は確実にこの宴の誰かに手を翳される。そして触られて、抱かれるだろう事は簡単に想像できる」
「な······なん、ですって······?」
今まで彼女達が守ってきた貞操はどうするのか。
それに彼女達の拒否権は?
疑問が沸々と沸きあがり、その心の内を読んでいるかのようにヴィクトールは言葉を続けた。
「ドラファルトで雄の要望は絶対だ。彼女達に拒否権はない。それに貞操はこの儀式のためだけにある。王族が選ばなければもう貞操には拘らない国でな」
そう。だからこの宴の会場にいる男性達は固唾を飲んでこの儀式を見守っているし、なんならギラギラとした欲望に濡れた目をしているのだ。
リリアーナは会場を見渡して納得した。
「その······匂いは分かりますが。触るとは、何故?」
「あぁ、ドラファルトでは女性の陰核の大きさで子の成しやすさを測っているらしい」
「は、い?っ、すみません······こほんっ」
あまりに意味不明な理由に、突拍子もない声を出したリリアーナは、急いで咳払いをする。
「ああ、まあ、そういうことだ。そこを ”獣蕾”というのだが、触って好みのものか確かめているらしいな」
「次、兎獣人、シズク・ワルレット」
「はい」
濃い鼠色の長い髪を二つに結び、赤と黒の着物に身を包んだ兎獣人が、立ち上がって壇上に上がってくるのを、リリアーナはじっと固唾を呑んで見つめた。
胸元から首元にかけては大きく開いており、零れんばかりの胸の谷間が見えている。
彼女は国王タオリャンの前までゆっくりと歩いてくると、両ひざを立てて、両手を胸元で重ね合わせて俯いた。
「兎獣人、シズク・ワルレットと申します。本日成人を果たしましたのでお目通り願いたく思います」
「ほう、美しいな。兎はいつ見ても良いものだ」
現竜王タオリャンは彼女に向かって手を翳す。
それを合図に、シズクと呼ばれた兎獣人の少女は、竜王にだけ見えるようにスリットを大きく開いた。
「······あれも、正確には開き方があり、相手のみに見せるという作法があるらしい」
他の男性達には見えないように器用にスリットを開いている、というヴィクトールの追加情報に、リリアーナは無言で頷く。
そして竜王が彼女の秘部に手を伸ばす。
何が行われているかは全く見えないが、シズクの頬が仄かに赤く染まり、身体とその白い耳がぴくりと揺れた。
「ほう?なかなか良いものを持っているな。ああ、だが儂は竜後宮に既に兎がいてな。それにお前のような若いのであれば······ロンファ。お前はどうだ」
タオリャンがシズクの秘部から手を引いて、隣に控えていた従者が彼の手を清める。
その間、彼は隣に座る次期国王ロンファを見た。
「いえ、私は······」
「先ほどから儀式に参加していないのと同じだぞ。おい、兎の雌よ、ロンファに吟味させてやれ」
「はい······」
彼女はさっと着崩れを直すと、直ぐに立ち上がってロンファの前に両ひざを立てる。
「うーん······、じゃあ、」
ロンファは乗り気ではなさそうに手を翳し、例に習って彼女の秘所に触れた。
彼の細く美しい指がその獣蕾を的確に探し出し、くるくると周りを撫でてから適度な圧力と共にそれを圧し潰して擦る。ピリピリと電気が走り、身体の芯から熱が湧き上がってくるような感覚に、シズクは思わず歯を食いしばった。
魔法か何かを使っているかのような繊細で、それでいてあまりに強い刺激。
もっと欲しい、と身体がうずいた瞬間、彼は手を離した。
「うん、素晴らしいですね。ですが、私は、即位して落ち着いてから考えたいと思います」
ロンファは彼女に微笑んで”ありがとう”と告げる。
父タオリャンが隣で舌打ちをするも、それに怖気づくことなく、シズクを後ろに控えた弟たちの方に誘導した。
最終的に、今回の”翳手儀”では誰も側室に選ばれることなく、直ぐにロンファの即位式が始まった。
こうして、この日、正式にロンファが竜王となったのだ。
0
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる