【第三章/獣人の国・邪竜と女神編】王太子に離縁されました?上等です。最強の皇帝陛下の【魔眼】と共に、世界攻略を致しますので!【R18・完結】

猫まんじゅう

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9. ヴィクトール、玩具を得る

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 ヴィクトールはぐったりとしたリリアーナを抱えて、部屋の外に出た。
 目の前の長椅子に、腑抜けた顔で腰掛ける弟を見て、ため息をつく。

「お前、本当に、殺すぞ?」

「······兄上っ!」
「とりあえず、着替えてこい。俺の護衛としてそんな状態では困る」
「はい」

 ロキが呉服屋の店主の元へ行き、新しい服へと着替えを行っている間、ヴィクトールはリリアーナを抱えたまま長椅子に座った。そして先ほど部屋に入った時の状況を思い出す。


 やましい事は何もなかった筈だ。あれば、弟とはいえ、誓約紋が発動し、無事では済まないだろう。
 ロキやリリアーナの証言通り、スライムに犯されて、あの張形でそれを掻き出したとかそんな所か。
 だが、何故ロキの手は彼女の秘所にあったのだろうか。とヴィクトールは眉間に皺を寄せる。

 それにあのロキの魂の抜けた様な表情と身だしなみ。俺がリリアーナと個室に入った後、一人で抜いたに違いない、とヴィクトールは頭を抱えた。
 どうしてこうもリリアーナに懸想する輩ばかりが湧き出てくるのか。


「兄上」
「ル、ルドアニア皇国、皇帝陛下!大変申し訳のないことを!!」

 ロキの入室と共に後ろから雪崩れ込んできた店主は、鼠獣人の店員を引き摺りながら跪くと、頭を床に擦りつけるように土下座をした。

「そちらの女性が、皇后陛下であるなどとは全く存じ上げずッ!本当に申し訳ございませんでした!!」

「詳細を聞こう」

「皇后陛下が試着室で、スライムの入った小瓶を開けてしまわれて」
「それが、凌辱用スライムであったというわけか」

「凌辱用というわけではないのですが、スライムでお遊びになる方のために、特別に訓練された個体でして······」

「まあ、不注意で彼女が開けたのだ。彼女にも責任はあるが、そんなモノを渡す必要があったのか?」

 ギロリと鋭い視線を向けられ、店主は冷や汗をだらだらと流した。

「次期竜王ロンファ様からは、最大限におもてなしする様にと仰せつかりましたので。閨事にも困らないようなものをお勧めしようかと、そう思っただけなのでございます。ドラファルトに住む獣人には有名な物なので、誰も開ける事はないのですが······皇后陛下は······獣人ではないです······ね。
 本当に申し訳ございませんでした」

「それで?」

「あのスライムは、女性の性器のみに反応するのです。やめるには男性器で掻き出すか、吸い取り式専用の張形を使うしかありません」

「なるほど、それは拷問だな。お仕置きにはいいかもしれない。ああ、独り言だ。続けてくれ?」

「ええと······はい。ですので、旦那様だと思っておりました、そちらのロキ殿にご選択頂いた次第です」

 そこで、黙っていたロキが口を開いた。

「俺はすぐに張形を選んだんだ。兄上は外交中だし、リリアーナ様が兄上を呼ばなくても一人で大丈夫っていうから······。でも、この張形は魔力を通さないと吸引できないんだって······だから······」

 そこまで言うと、ヴィクトールは手で先に続く言葉を片手で制した。

「分かった」

 リリアーナは魔力が使えない。治癒魔法を行う魔力量の制御はできるようにはなったのだが、性行為を通しての治癒以外においては魔力を使うという事ができないのだ。
 だから、魔力を通し吸引をする事ができなくて、ロキが助けたという事だろう。

「ロキ、覚えておくといい。次に何かあったら殺すぞ?」

「兄上、皇剣に誓って!オレは張形しか触っていなくて、彼女の身体には触れていません!」

「して、店主。聞きたい事があるのだが」
「は、ハイッ!」

 急に話を振られた店主は背筋をピンと伸ばした。

「この張形はどこから?」

「こちら······ですか?」

「ああ、この張形。元はスライムなのを、加工しているのでは?」

 その言葉に、店主は驚いたようにヴィクトールを見上げた。

「え、ええっ!流石はお目が高くていらっしゃる。こちらは、ドワーフの国で作られたものを輸入しておりまして」

「ドワーフ、が?あいつらこんなものまで作るのか」

「はい。このような商品に特化した物作りをしている職人が何人かおりまして。流石はドワーフです。作りも精巧で、オーダー等も受け付けており······」

 ヴィクトールが興味深そうに頷いたのを見て、店主は咄嗟に口を開いた。

「も、もし、お気に召しましたら、全て!私の店にて扱っております閨用玩具を全て贈呈致します!今回の不祥事のお詫びとはいかないかもしれませんが、お納めいただければ······」

「ほう?では遠慮なく頂こう。妻も喜ぶに違いない」

 ヴィクトールは腕の中で眠るリリアーナを見下ろしてにっこりと微笑んだ。





 ルイネは、執務室の中で右に左にと、落ち着きなく動きまわっている次期竜王ロンファを見た。

「ロンファ様、お座りになってお待ちになったらいかがです?」

「そんなのしていられるはずがないだろう」

 ルイネは先ほどまで親睦会が行われていた庭園を見つめる。
 そこはもう既に全て綺麗に片づけられ、誰も居らず、静まり返っていた。

「しかし、転移されたのでしたら、リリアーナ様の元なのではないですか?」

 ロンファは、目の前で苦し気に胸を抑えながら、倒れ込むように転移していったヴィクトールを思い出す。

「何かあれば、ただでは済まないだろう。今は皇国とだけは争いたくない」

 その時廊下が騒がしくなり、ロンファは扉まで走って駆け寄ると、勢いよくそれを押し開けた。

「ヴィクトール陛下!!」

「ああ、」

 先ほどの苦し気な様子は全くない。むしろ苦しそうなのは、彼に横抱きにされている彼の妻、リリアーナの方だ。

「無事でよかった······何事かと思いました」
「ああ、それは後でまた話そう。今はリリィを休ませたい。ああ、あと店主を責める必要はない。全ては解決済みだ」


 そそくさと部屋に歩を進めたヴィクトールを見送り、直ぐにその後ろで汗をだらだらと垂らしながら控えていた呉服店の店主をじろりと見る。


「っ、も、本当に申し訳ございませんでした!な、なんとお詫びをすれば良いか」

「詳しく話しなさい」

 ルイネが店主に全てを話させてから、直ぐに店へと帰させる。
 執務室の扉を閉めて、ロンファは重いため息をついた。

「確かに、ヴィクトール先輩の後ろに控えていた荷物の量、多かったよね」

「ええ、着物以外にもあの店の扱う閨用玩具を全て贈呈したのですからね」

「リリアーナ様が凌辱スライムに犯されて、直ぐに駆け付けられるなんて。どんな仕掛けなんだろう······本当、過保護だなぁ」

「何か魔法でも使用されているのでは?······それより、ロンファ様。その “顔” どうにかなりませんか」


「顔?何の話」

「ニヤニヤするのやめて下さい。そもそも他人の奥方がスライムに凌辱される場面や、玩具で遊ぶ姿を思い浮かべるのは不敬では?」

「お前ね、本当に言わなくても良い事を、いつもいつも」

 ロンファはそのだらしのない顔を隠す様に庭園を見つめた。それから、明日の即位式を思ってさらに深いため息をもう一度落としたのだ。


「はあ、憂鬱だな、翳手儀シェイギなんてさ」
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