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4. 竜王宮での、親睦会
しおりを挟む翌日、ロキと共にドラファルトの城下町散策へ出掛けたリリアーナを見送り、ヴィクトールは宮内で着付けを施されていた。
「ロンファ、」
「ヴィクトール先輩!わぁ、これはまた、お似合いですね!」
黒の着物に金地の帯をつけたヴィクトールが部屋から出てきて、ロンファは声をあげる。
「久しぶりに見るな、この着物、というものを」
「学園では僕がたまに着る位でしたからね」
「で、今日は?」
「王族と、高位貴族の集まりがあるので、そこに参加して頂きたく。親睦会、というやつですね」
「ああ、それは良いが······」
ヴィクトールは窓から少し見える庭園を覗く。
ドラファルトの王族や高位貴族達が、自分の女を一人づつ侍らせながら、自慢気な顔で会話を交わしているのが見えた。
「立食形式なんです」
「いや、違うだろう。そうゆうことを聞いているのではない」
自分の冗談にも真面目に返してくれるヴィクトールは流石だ、とロンファは笑った。
「ははっ。先輩は本当に真面目ですよね。ま、そこが良いんだけど。とはいえ、立食形式は本当なんです。あの女性達は、各個人が連れてきている、所謂“お気に入り”の女性ですね」
「だが、あのように他人の女に手をだすのか?」
貴族の男の一人が、他の男の連れていた女性に触れているのを見て、ヴィクトールは顔を顰める。
「あれは、翳手儀でしょうね。連れている女性が伴侶であるとは限らないので······、なんとも言えませんが」
「なるほどな、だからリリアーナを別行動に?」
「まあ、それもあります」
ロンファは苦笑しながら頬を搔いた。
今日の集まりで貴族達が連れ歩くのは、妻、側室だけではない。未婚の娘、お気に入りの愛人など、様々だ。だから、獣人の相性確認のための翳手儀は絶対に、何処かでは起こる事。
そんなドラファルトの恥ずべき淫習をリリアーナに見せたくなかった、というのは確かに此処に彼女を呼ばなかった理由の一つ。
だが、本当の理由は、自分の作ったリリアーナの式典用の着物を、ヴィクトールには見せたくなかったからだ。
「此処は本当に、異様な文化を持つな」
「まあ、そうですね。それを無くしたいのですけど。でもどこの国にもある事ではないですか、」
ロンファは窓の外、遠くを見つめた。
そう、どこの国にでもある事だ。女性に無理を強いて、彼女達を子を成すための道具として見るなど。
「いつかは、それも変われば良いですね······」
「そうだな。俺もそれには同意するところだ」
二人は揃って部屋を出ると、庭園へと向かう。彼等の姿を捉えた全ての獣人達が、一斉に傅いた。
「さて、皇国皇帝ヴィクトール陛下をお招きしての会。皆ゆっくりと楽しんで欲しい!」
ロンファの美しい声が響き渡り、それを合図に皆が動きだす。彼はヴィクトールの耳元に顔を近づけると、小さく囁いた。
「ほら、先輩。すぐに来ますよ」
その言葉通り、先ずは王族、序列二位の第二王子がヴィクトールに挨拶にくる。彼は猫耳の獣人女性を連れてヴィクトールの前に立つと、胸の前に両手を重ね合わせた。
「皇国皇帝ヴィクトール陛下、お初にお目にかかります。私、ドラファルトが第二王子、竜二・ドラファルトと申します。こちらは私の側室の、猫です」
ヴィクトールは、直立したリュージの隣で跪いている猫獣人の女性を見て、リュージに視線を戻した。
「······ほう、貴殿が異世界人という?」
「?えぇ、私のことをご存知なのですね?
あぁ······兄上か、」
へらへらと笑ったその男は、ヴィクトールに向かって口を開いた。
「陛下も、もしよろしければ我が猫に “翳手儀” を行って頂けませんか?」
「いや、俺は遠慮しよう」
「そうですか。それは残念です。陛下に儀式をして頂ければ、彼女も喜ぶかと思ったのですが。
しかし、ドラファルトには素晴らしい文化がまだまだ沢山あります。ドラファルトならではの、アソビを存分に楽しむことをお勧めしますよ!他国から仕入れた選りすぐりの玩具も、スライムだってある。きっと陛下もお気に召すはずですから!」
「そうか。それは楽しみにしておこう」
完全に鼻の下の伸び切った第二王子が、側室を連れて下がるのと同時に、続々と貴族達が集まってくる。
自分の娘を見初めて欲しい、とか、自分の側室に触れて欲しい、そんな所だろうな。と、ヴィクトールは溜息を付きながらロンファをみた。
「皆、ヴィクトール陛下には一先ず、ドラファルトの食事を振る舞いたいんだ。挨拶はその後でもいいかな?」
ロンファがヴィクトールを連れて席をたてば、貴族達は残念そうな声をあげた。
『この玩具を紹介したかったのに』『この媚薬入りスライムが今流行りなんです!』『是非、我が娘に翳手儀を!』
そんな彼らを横目に、二人は庭園の奥へと進んでいく。
「お前達は本当に······どこまでも性に貪欲だな?」
「まあ、竜王があれですからね」
その時、手に持っていたグラスの酒を飲み干したヴィクトールが急に胸を抑えた。
「─────── ッ、っく······、」
「ヴィ、ヴィクトール先輩っ! 毒か?!ルイネ!誰かッ!」
「······っいや、違う······。これは······リリィっ!」
毒物によるものかと推測し、慌てるロンファの隣で、ヴィクトールは苦しみに顔を歪めながら転移魔法を発動する。
場所などは設定しない。設定などせずとも、大丈夫だと分かっている。
愛する人に『真名』を呼ばれているのだから。
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