上 下
56 / 58
第一章 王国、離縁篇

46. 皇国、晩餐会

しおりを挟む


 リリアーナは後宮の部屋でラナーにより晩餐会に出席するための支度を施されていた。

「リリアーナ様、こちらが陛下より届いた物です。
是非今晩はこちらを着てください。」

 メイド長のアイシャとラナーが持ってきたドレスは、濃い紫色に銀の刺繍の入った美しい物だった。

 そして支度が整った事を知っていたかのような完璧なタイミングで部屋の扉が叩かれ、アイシャが再度顔を出す。

「リリアーナ様、ルーカス様とシャルロッテ様がいらっしゃいました」
「そう、では入って頂いて」
「リリアーナ様、失礼ながら、ここは後宮ですので。男性は陛下以外、入室できません」
「な、なるほど······。では直ぐに向かいます」

「後宮入口にこじんまりとした来客用のガゼボがありますのでそちらで待たれているかと思います」

 部屋の手前でアイシャがそう言ったのでリリアーナは急いで後宮を出た。
 後宮入口すぐ右手にドーム状のガゼボがあり、そこに騎士服に身を包んだ二人の男女の姿が見える。

 こんなに綺麗な場所があったなんて、入った時はぐったりしていて気が付かなかったわ·······。
 そう考えながら、リリアーナは二人に近づけば、それを察知した二人がすぐに跪いた。

「「リリアーナ様の御前失礼致します」」
「待たせてしまったかしら。ごめんなさい」

 ルーカスと共に、隣にいた蒼色の美しい髪を一つに束ねた騎士服の女性が立ち上がって敬礼する。

「私、シャルロッテ・トンプソンと申します。白騎士団副団長を務めており、これからリリアーナ様の専属護衛も兼任致します。よろしくお願い致します」

「まあ、こんなに綺麗な方が騎士団にはいらっしゃるのね。素敵ね」

「ルドアニア皇国でも女性で騎士団に所属できるのは凄く稀なんですよ。シャルロッテ様はとても優秀なのです。それに、魔法学園の卒業生なのですよ」

 ルーカスが彼女の補足情報をくれて、リリアーナはシャルロッテを見て目を輝かせた。 
 確かにレベロン王国でもそうだったけれどあまり国の重臣や騎士団に女性がいた印象はない。とはいっても記憶が戻ってから少しの間の印象だけど·······。

「まあ、では、お兄様とも知り合いなのですね」

 三人で和やかに話しながら、後宮から皇城の中心へと歩いて行く。

 皇城に来る道中にも思ったが、皇国は真っ白なドーム型の建物がいくつも並び、幻想的で美しい景観をしている。それはこの皇城の一部にも採用されているらしく、後宮もとても美しい作りだ。

 だが、やはり皇城本体は冷たく厳かな雰囲気を醸し出していた。

「ご気分はもう大丈夫なのですか?」
「はい、薬を頂きまして。大分落ち着きました。ただ、食欲はあまり······」
「晩餐会とはいっても皆が集まって自己紹介するだけです。お食事はお気になさらず大丈夫ですよ?今いる面々は、陛下も心を許している側近達しかおりませんから」
「お気遣いありがとうございます」

「本当に美しいですね、」

「え?えぇ、とても美しいです」

 リリアーナは城の内部を見渡す。無駄な装飾がない、どこか寂しげで儚さを感じさせるような、それでいて美しい城だ。少し灰色がかったような白色も落ち着いていて、緊張から解きほぐしてくれる様な。

「こちらです」

 シャルロッテは固く閉ざされた重そうな扉をいとも簡単に片手で押し開けた。
 目の前に先程とは全く違う、白を基調に金の装飾が施された豪華な内装の部屋が広がり、リリアーナは息をのむ。

 そして中央におかれた大きな長机には既に八人の男性が座っており、壁沿いには十人以上のメイド達が直立不動で立っているのが見えた。

 シャルロッテに促されるままに部屋の中に足を踏み入れると、直ぐに着席していた八人が立ち上がる。

 その中に兄のレイアードをみつけて、リリアーナは顔を綻ばせた。他国に嫁いできても、身内が一緒にいるというのは本当に心強い事だ。

 その近く、部屋の最奥にはヴィクトールがいて、彼がゆっくりと歩いてくるのを見てリリアーナもそちらへ歩を進めた。
 彼女の前まできたヴィクトールは自分の腕を差し出し、そこに彼女の手が添えられた事を確認すると耳打ちをする。

「ドレス、とても似合っている。体調は大丈夫か?」

 ヴィクトールの吐息が耳にかかり、ぞくぞくとした感覚がリリアーナの全身を駆け抜けた。

「───っあ·······ありがとうございます。お薬が効いたようです。ご心配おかけして申し訳ございませんでした」

 用意された二人の席まで辿り着くと、ヴィクトールは部屋を見渡してから声を張り上げた。

「皆、此度の件既に耳にしていると思う。彼女がレベロン王国から連れ帰った私の婚約者リリアーナ・シャルロン公爵令嬢だ。この場にいる者に告ぐ、今後彼女に仕える際は相応の対応をするように」

「「「はっ、陛下のお心のままに」」」

 部屋にいる全ての人が声を出すのは壮観だ、と呑気に考えていたリリアーナはヴィクトールからの視線を感じ、慌てて姿勢を正す。

「ご紹介に預かりました。リリアーナ・シャルロンです。分からない事も多くご迷惑おかけしてしまうかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します」

 顔を上げて初めて部屋にいる面々の顔を見てリリアーナは唖然とした。
 全員、系統は確かに異なるが、皆が美形揃いだ。
 レベロン王国のクリストファーやアレクセイを美男子だと感じたのが馬鹿馬鹿しい程には。

 そして壁沿いに立つメイドも同様に美女揃いで目を見張る。

 ヴィクトールの着席の合図で皆が着席すると、一人ずつ自己紹介が始まった。そしてその間にも食事の用意が行われ、自己紹介が終わる頃には机の上は色とりどりの料理で埋め尽くされる。

 食事が始まると斜め前に座っていたセドリックがリリアーナに今後の話を切り出した。


「リリアーナ様、到着して直ぐで大変心苦しいのですが。明日からはルドアニア皇国についても少し知って頂きたく、マダム・ジゼッタを教育係として準備整えました。また、こちらは相談役として、ですが、スチュワートの婚約者であるシルフィア嬢を登城させようと考えております。シルフィア嬢については時期は検討中ですので、またお知らせ致します。」

「セドリック様、お忙しい中、私の勉強そして教育係まで準備していただきありがとうございます。ルドアニア皇国についての勉強、慎んで取り組ませて頂きます。
スチュワート様、シルフィア様にお会いできること心より楽しみに待っておりますね。よろしくお伝えくださいませ。」

 リリアーナがスチュワートに顔をむけて微笑むと、彼は一瞬の間をおいて、ハッとしたように感謝の言葉を紡いだ。

「·······っ、身に余る光栄にございます。シルフィアにも私の口から必ず伝えさせて頂きますね」

「あともう一点。明日は身体検査もさせて頂きたく、皇国の皇族専属医師を向かわせますのでお気に留めて置いて頂けますでしょうか。
また、今後はお互いに忙しくなりますゆえヴィクトール様やレイアード卿と会う機会も減ってしまうかと思います。もし何かございましたら直ぐにメイド長や、ルーカス、シャルロッテにお知らせ下さい」

「······はい」

 リリアーナはその時、セドリックの気迫に押され与えられる情報を理解するのに必死だった。
 だから、セドリックに色々と質問をしなかった事を後々幾度も後悔する事になるなどとは、この時は思いもしなかったのだ。

 此の後、兄であるレイアードとは婚儀まで会う事は無いのだと、この時もし知っていたのなら。もっと兄との会話を楽しんでいたかもしれないのに。

 だが、もう全ては計画通りに進められていたのだ。
 セドリックの手によって。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...