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第一章 王国、離縁篇
19.舞踏会(離縁)まで5日 - 皇国の側近達は、主思い -
しおりを挟む「陛下、勝手に1人で行動されては困りますっ、御身になにかあったら!!「ルーカス副団長さまは真面目だよねぇ」
ルーカスは、今日ヴィクトールの護衛としてレベロン王国の王都にいた。その途中、突然ヴィクトールが一人で走りだし、騒ぎを起こしていた男達に剣を向けたのだ。慌てて追いかけようとした所をリチャードに止められ叶わなかったものの、本当に肝を冷やした。
「リチャード様!けれどっ、我々は護衛として同行しているのですよ!」
「リチャード、あれはずっと我が国の議題に挙がっていた密輸組織の一端だな? 確かに、あの魔導具は我が国の軍事用に開発された物だった」
「はい、仰っしゃる通りかと思います」
一人憤るルーカスを無視して、ヴィクトールとリチャードは最近皇国で問題になっていた密輸組織に関する話を進める。
「そうか、では直ぐにこの件、セドリックに報告と情報共有を。急いでくれ」
あと、とヴィクトールは言葉のトーンを落とし言葉を続ける。
「魔石だけは死守せよ、」
「はい、お心のままに。·······それにしても陛下っ。妖精姫は如何いたしましょうか?」
「舞踏会まではあと五日もある。だが、シャルロン公爵が手強そうだ。根回しが必要かもしれんな」
「では、シャルロン公爵家にこちらから出向くことも考えて今後の日程を組みますね?あと、我々の送った伝書鳩は明日にでもこの王国に届くようですよ!」
「あぁ。まあ舞踏会に間に合えば良い」
「陛下は明日から姫さまの護衛役になったのですよねっ? こんな最高の機会ないんですから、直ぐにでも射止めて下さって良いんですよっ?!」
ぎろり、とヴィクトールに睨まれたリチャードは、『ヴィクトール様、こわいっ』と戯けたように言いながらも、しっかりと敬礼をして部屋を出た。
ルーカスもリチャードを倣い敬礼をして、彼を追いかけるように退出する。
実のところ、ヴィクトール、リチャード、ルーカスそして選抜された影三名で編成されたルドアニア皇国一行は、昨日からレベロン王国に滞在していた。
変幻魔法で変装をして入国し、現在は中級階級の宿に滞在し拠点としていたのだ。
皇帝陛下でありながら、文句ひとつ言わず身分不相応な安宿に滞在するヴィクトールに、ルーカスは彼の過酷な生き様を見た気がして再度崇敬する。
彼こそ、戦場で生きてきた軍神なのだ、と。
だからこそ、ルーカスはヴィクトールの護衛という重要な役割に一段と気合いを入れていた。
絶対に陛下の役に立ちたい!という想いからだ。
『なのに、主を危険に晒すなど、護衛失格だ』
ルーカスは拳を握りしめると、リチャードに向かって口を開いた。
「リチャード様っ、やはりっ 「ルーカス、しつこいなぁ。キミ、真面目すぎるんだよ。あれで良かったんだよ? ヴィクトール様が何かご自身で行動するときは必ず目的があるんだもん」
リチャードはルーカスを適当にあしらいながらも、彼の憤りを理解し的確に回答する。彼なりにルーカスの成長を考えての事だった。
「······目的?」
「妖精姫、見たでしょ?」
「妖精姫、ですか? 王国の王太子妃、様?」
「あぁ、そうそう。それだけど、でもきっとすぐ皇国の皇后になるよ? 知っておいた方がいいとおもうなぁ」
「え?」
「えぇ?! マジで気付いてなかったの?! キミ、鈍感くんなんだね?」
妖精姫は王太子妃で、なぜそれが皇国の皇后に繋がるのだろうか······?
理解に全く追い付かず、ルーカスは混乱した。
「ど、どういう事ですかっ?!」
「だーかーらぁ! 妖精姫リリアーナ様はヴィクトール様の想い人だよ。彼女を奪うために僕等は王国に来てるんじゃんっ!」
いま初めて聞かされた、まさかの事実に開いた口が塞がらないルーカスをみて、リチャードはとどめを刺す。
「だから今日、ヴィクトール様はリリアーナ様を守ったし。それによってしっかり接点ができたでしょ?
でも、あぁ。あんな優しそうな顔するんだなぁ······。妖精姫、羨ましいなぁ」
「······、リリアーナ様を、守った······?」
「あぁ、キミって魔力量あんま多くないんだったね。確かに、結構強い魔法だったね。僕やヴィクトール様と同じ変幻魔法に、防御魔法も掛かってたよ? あれは······確か、レイアード君の魔力だったかな?」
あれが、本当にリリアーナ様なのか······。
見た目は全く違っていたが、変幻魔法ならば納得できる。それに、確かに“リリア”と名乗っていた。と、ルーカスは今日王都で見たリリアーナを思い出した。
「まあ、いいや。さて、と。明日からヴィクトール様はリリアーナ様の護衛役を引き受けたみたいだからね。僕らも作戦を ──「 ──ヴィクトール様が護衛?!!」
隣りにいるルーカスから発せられた、あまりに大きい声に、リチャードはびくっと身体を震わせた。
「びっくりしたぁ! 大声ださないでよね。まあ、叫びたいのも分かるけど······。ってゆうか、キミ、風魔法で会話集めるくらいしなよ? 情報って命だよ?」
“とりあえず”と言葉を続け、リチャードはポケットから砂糖菓子を取り出して口に放り込む。
「リリアーナ様達には“冒険者”って名乗ったみたい。そうしたら、護衛をしてくださいって依頼されてた。まあ良かったのかもねぇ、お互いに知る機会があればさ、距離が近づくかもでしょ?」
グルグルと膨大な量の新情報がルーカスの頭の中を駆け巡り、情報過多になった所でリチャードが彼の肩に手をかけた。
「あのさぁ、鈍感くん。今から僕、セドリックさんと情報共有するけどお前も参加しな? 色々と勉強したほうが良いよ。今後のためにもさぁ」
「は、はい。是非お願い致します!」
たしかに、護衛だけが今回の任務ではないのだ。
陛下の周りの情報を分かっていなければ、いざという時に対処もできない。ルーカスはリリアーナ含め、ヴィクトールの周辺について今回のレベロン王国訪問中にしっかり勉強することにした。
「あとキミ、皇剣への魔法付与の練習くらいはしなよ? 魔法が上手く扱えないのは分かるけどさぁ、皇剣があるんだから。時間があれば教えるから、」
「は、はいっ! よろしくお願い致します!」
魔法の天才であるリチャードに、魔法を直々に教えて貰える機会は白騎士団の団員でも殆どないと聞いている。
最高の機会を得たルーカスは皇剣を握りしめた。
諜報活動はルーカスの最も得意とする所だが、リチャードの行っていたように風魔法を使用したことはなかったし、学ぶ事もまだまだ有りそうだ。
決意を新たにしたルーカスと、それを横目にリチャードは、宿の自室に入るとセドリックに念話を繋ぐため魔法を発動させる。
こうして二人は、今日の街中での騒動に関する、現状報告を行う事となったのだった。
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初投稿です。初めましての皆様への注意書きです。1.想定以上に話のスケールが大きいです。こちら第一章『王国、離縁篇』50話位を予想しています。2.メインキャラのR18は未だありません。エロメインは第二章『皇国、慣らし五夜篇』お待ち下さい。3.最後に、変態が多めとなっています。たまにコミカルですが8割シリアスで重めです。では、ご準備が出来ました方から。七つの国からなる不本意な世界へいってらっしゃいませ!優先投稿はなろうです。 https://ncode.syosetu.com/n2302hx/2/
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