上 下
17 / 58
第一章 王国、離縁篇

15.ルドアニア皇国一行、レベロン王国へ

しおりを挟む

「さて、そろそろ到着してもいいのですがね」


 セドリックがちら、と扉を見るとほぼ同時にノック音が響いた。
 まるで扉の外が見えているかのように、だ。
 そして白と黒それぞれの色の騎士服に身を包んだ二人が執務室に入室する。


「遅いですよ」

「ったく、人使いが荒いっつーのうちの宰相さんは!呼ばれて直ぐにきたってのによぉ」

「まぁ、今回ばかりは脳筋ジョシュア君に同感だけどね。でも一体何の用です~?」


 最初に執務室に足を踏み入れた赤茶の短髪にガタイの良い熊のような男がジョシュアで黒騎士団の団長である。腕っぷしの強さで平民から成り上がり、人望の厚さもあり騎士団の団長にまでなった実力者だ。
 未だに敬語は苦手なようだが、ルーカスはそんなジョシュアが嫌いではなかった。
 とても面倒見の良い、団員思いの団長。


「だ、団長!お疲れ様ですっ!」


 部屋の隅に呆然と佇んでいたルーカスは自分と同じ黒騎士団で上司でもあるジョシュアに頭をさげる。


「おぉ!!ルーカス!久しぶりだな!お疲れ様!大丈夫か?疲れているみたいだな」

「だ、大丈夫です!」


 この執務室の空間、息が詰まるんで早く出たいんです······。などとは言えるはずもなくルーカスは次いでリチャードの方に体を向けた。


「り、リチャード団長も、お疲れ様です!」

「あっ、ルーカス君。どうもっ♪」


 団長ジョシュアの後に続き、騎士服のポケットに手を突っ込みながら入室してきた白い騎士服の美少年。
 ピンク色のふわふわと柔らかく、空気を含んだような髪に薄ピンクの瞳をした一見女の子のようにも見える彼が、白騎士団の団長リチャードだ。

 ルドアニア皇国ではヴィクトールを除けば彼が魔力、魔法の上手さ共に特に秀でている。ランブルグ公爵家の次男、歳は十九とまだ若いが、魔法学園に飛び級で合格する等の実績もあるかなり優秀で侮れない。
 彼も皇国において術者アルカナと呼ばれ、無属性魔法を使用できる数少ない有能な人材だ。


「さて」


 低いテノールの声が部屋の奥から響くと白騎士、黒騎士の団長二人は瞬時に膝を折った。その美しい動きを他人事のように見ていたルーカスも慌てて二人に習って跪く。


「「陛下の御前、失礼致します」」


 ヴィクトールが椅子からゆっくり立ち上がり長机のある部屋の中央に近付いてくると、セドリックの隣にある一人がけのゆったりとしたソファに腰を降ろした。


「皆、楽にしてくれ。さて、本題に入ろう。
セドリック頼む、」


 セドリックは無言で頷くと直ぐに二人に情報共有を始めた。ルーカスの諜報活動により得られた事とヴィクトール陛下が来たるレベロン王国の舞踏会に出席するという内容だ。

 今回のヴィクトールのレベロン王国訪問に伴って同行する護衛を選びたい、というセドリックの言葉の後、ヴィクトールが『とりあえず』と言葉を繋ぐ。


「とりあえず、セドリックにはこの国に残ってもらおう。何かあればすぐに念話をする。お前が私の代わりにここを守れ」


「はい、陛下のお心のままに」 


「また、俺の護衛は二人とする。だが騎士団のこともある。ジョシュアかリチャードはどちらか1人だ。
 そして、」

 セドリックとヴィクトールが話し始めてから、この執務室で存在感をひそかに消していたルーカスはふと自分に視線が集まっていることに気がついた。
 そして陛下の次に続く言葉に驚愕に目を見開く。

あいつルーカスを連れていく、」


「へっ?」

「じゃあ、もう一人は僕がっ!」

 ルーカスは目の前でリチャードが勢いよく手を挙げる所が目に入った。逆に、隣にいるジョシュアはどことなく悔しそうだ。


 だが、そんなことよりも、今のルーカスには言わなくてはならないことがあった。
 『こんな大役は引き受けられない』と陛下に直接言わなくては。陛下の護衛として一緒にレベロン王国へ同行するなど心臓が幾つあっても足りないのだから。
 そう決意したルーカスは口を開く。


「あっ、あのっ! 陛下よりお言葉とご指名頂けた事、大変に嬉しく思うのですがっ。私にはこの大役、過分であり荷が重く······!」

「ルーカス!? 何いってんだ。きっとこれも我が主の思惑とやらなんだろう! お前にとっては、成長する良い機会だ。ぜったいに受けるべきだと思うぞ!」


 いつも真っ直ぐで裏表ない性格の団長に言われると、押しに弱いルーカスはいつも断ることができない····。
 いや、ヴィクトールに直々に指名された時点で無論断る事はできないのだが。


「団長····は、い········」


 消え入るような声で答えたルーカスを気にも留めずにセドリックは淡々とレベロン王国に向かうための決定事項を告げはじめた。


「では、決まりですね。護衛はリチャードとルーカス。それから影は三名程選抜し手配致します。
 確かに少人数ですが、良しとしましょう。心配することはありませんよ、ルーカス。ヴィクトール様が誰かに害されることなど万に一もないですから」


 ルーカスは気持ちを切り替え、護衛としてヴィクトールを守るという重大な任務に気を引き締めると同時に何故こんな事になったのか、と思念に耽る。彼は早々に退出しなかった数刻前の自分を責めた。


「──── では、これで以上になります。王国国境付近リドゥレラ中立国までは転移をして行きますが、その後は馬車で向かう予定です。リチャードとルーカス、直ぐに準備に取り掛かってください」


 こうしてルーカスは、レベロン王国へ行く陛下の護衛という大役と共にやっと執務室を出る事が出来た。それは執務室に入った時の彼が到底予想できるものではなかった。

 それから約一週間後、緊張で身を固めたルーカスを含めたルドアニア皇国一行はレベロン王国に向けてルドアニア皇国を出国したのである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...