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第一章 王国、離縁篇
15.ルドアニア皇国一行、レベロン王国へ
しおりを挟む「さて、そろそろ到着してもいいのですがね」
セドリックがちら、と扉を見るとほぼ同時にノック音が響いた。
まるで扉の外が見えているかのように、だ。
そして白と黒それぞれの色の騎士服に身を包んだ二人が執務室に入室する。
「遅いですよ」
「ったく、人使いが荒いっつーのうちの宰相さんは!呼ばれて直ぐにきたってのによぉ」
「まぁ、今回ばかりは脳筋ジョシュア君に同感だけどね。でも一体何の用です~?」
最初に執務室に足を踏み入れた赤茶の短髪にガタイの良い熊のような男がジョシュアで黒騎士団の団長である。腕っぷしの強さで平民から成り上がり、人望の厚さもあり騎士団の団長にまでなった実力者だ。
未だに敬語は苦手なようだが、ルーカスはそんなジョシュアが嫌いではなかった。
とても面倒見の良い、団員思いの団長。
「だ、団長!お疲れ様ですっ!」
部屋の隅に呆然と佇んでいたルーカスは自分と同じ黒騎士団で上司でもあるジョシュアに頭をさげる。
「おぉ!!ルーカス!久しぶりだな!お疲れ様!大丈夫か?疲れているみたいだな」
「だ、大丈夫です!」
この執務室の空間、息が詰まるんで早く出たいんです······。などとは言えるはずもなくルーカスは次いでリチャードの方に体を向けた。
「り、リチャード団長も、お疲れ様です!」
「あっ、ルーカス君。どうもっ♪」
団長ジョシュアの後に続き、騎士服のポケットに手を突っ込みながら入室してきた白い騎士服の美少年。
ピンク色のふわふわと柔らかく、空気を含んだような髪に薄ピンクの瞳をした一見女の子のようにも見える彼が、白騎士団の団長リチャードだ。
ルドアニア皇国ではヴィクトールを除けば彼が魔力、魔法の上手さ共に特に秀でている。ランブルグ公爵家の次男、歳は十九とまだ若いが、魔法学園に飛び級で合格する等の実績もあるかなり優秀で侮れない。
彼も皇国において術者と呼ばれ、無属性魔法を使用できる数少ない有能な人材だ。
「さて」
低いテノールの声が部屋の奥から響くと白騎士、黒騎士の団長二人は瞬時に膝を折った。その美しい動きを他人事のように見ていたルーカスも慌てて二人に習って跪く。
「「陛下の御前、失礼致します」」
ヴィクトールが椅子からゆっくり立ち上がり長机のある部屋の中央に近付いてくると、セドリックの隣にある一人がけのゆったりとしたソファに腰を降ろした。
「皆、楽にしてくれ。さて、本題に入ろう。
セドリック頼む、」
セドリックは無言で頷くと直ぐに二人に情報共有を始めた。ルーカスの諜報活動により得られた事とヴィクトール陛下が来たるレベロン王国の舞踏会に出席するという内容だ。
今回のヴィクトールのレベロン王国訪問に伴って同行する護衛を選びたい、というセドリックの言葉の後、ヴィクトールが『とりあえず』と言葉を繋ぐ。
「とりあえず、セドリックにはこの国に残ってもらおう。何かあればすぐに念話をする。お前が私の代わりにここを守れ」
「はい、陛下のお心のままに」
「また、俺の護衛は二人とする。だが騎士団のこともある。ジョシュアかリチャードはどちらか1人だ。
そして、」
セドリックとヴィクトールが話し始めてから、この執務室で存在感をひそかに消していたルーカスはふと自分に視線が集まっていることに気がついた。
そして陛下の次に続く言葉に驚愕に目を見開く。
「あいつを連れていく、」
「へっ?」
「じゃあ、もう一人は僕がっ!」
ルーカスは目の前でリチャードが勢いよく手を挙げる所が目に入った。逆に、隣にいるジョシュアはどことなく悔しそうだ。
だが、そんなことよりも、今のルーカスには言わなくてはならないことがあった。
『こんな大役は引き受けられない』と陛下に直接言わなくては。陛下の護衛として一緒にレベロン王国へ同行するなど心臓が幾つあっても足りないのだから。
そう決意したルーカスは口を開く。
「あっ、あのっ! 陛下よりお言葉とご指名頂けた事、大変に嬉しく思うのですがっ。私にはこの大役、過分であり荷が重く······!」
「ルーカス!? 何いってんだ。きっとこれも我が主の思惑とやらなんだろう! お前にとっては、成長する良い機会だ。ぜったいに受けるべきだと思うぞ!」
いつも真っ直ぐで裏表ない性格の団長に言われると、押しに弱いルーカスはいつも断ることができない····。
いや、ヴィクトールに直々に指名された時点で無論断る事はできないのだが。
「団長····は、い········」
消え入るような声で答えたルーカスを気にも留めずにセドリックは淡々とレベロン王国に向かうための決定事項を告げはじめた。
「では、決まりですね。護衛はリチャードとルーカス。それから影は三名程選抜し手配致します。
確かに少人数ですが、良しとしましょう。心配することはありませんよ、ルーカス。ヴィクトール様が誰かに害されることなど万に一もないですから」
ルーカスは気持ちを切り替え、護衛としてヴィクトールを守るという重大な任務に気を引き締めると同時に何故こんな事になったのか、と思念に耽る。彼は早々に退出しなかった数刻前の自分を責めた。
「──── では、これで以上になります。王国国境付近リドゥレラ中立国までは転移をして行きますが、その後は馬車で向かう予定です。リチャードとルーカス、直ぐに準備に取り掛かってください」
こうしてルーカスは、レベロン王国へ行く陛下の護衛という大役と共にやっと執務室を出る事が出来た。それは執務室に入った時の彼が到底予想できるものではなかった。
それから約一週間後、緊張で身を固めたルーカスを含めたルドアニア皇国一行はレベロン王国に向けてルドアニア皇国を出国したのである。
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