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6 セシルの逢瀬

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皇帝陛下から縁談の打診を受けた日から五日間、セシルはセドリックに会う事はなかった。

六日目となったこの日、初めて男性ジョシュアと二人きりでお茶をする事になり、いまは皇城内にある庭園のガゼボにいる。


「·········あまり、お城にはこないのです、けど、今日は、にぎやかです、ね·····?」

「あー、今日は陛下の婚約者のリリアーナ様がご友人と初めて会うらしいからなあ、」


確かに外に出ている人の量が普段よりも多いな、とジョシュアは周りを見渡した。

このガゼボもジョシュアが予約したのだが、どうやらリリアーナも今日は離宮から出て皇城の庭園でお茶会をしているようだった。最近結婚したばかりの未来の公爵夫人シルフィアと初めての顔合わせしているらしい。


陛下にも最近様々な恋事情があって、婚約者であるリリアーナ様に友人を作ってあげたりと彼女の周囲を固めるのに焦っているのだろうか。とジョシュアは心の中で考えた。
 
そしてちらっと目の前のセシルを見る。
普通に可愛い。あのたまにひょこんと動く耳も、つぶらなオッドアイの瞳も確かに、凄く可愛いのだが。

ジョシュアは平民であり、政略結婚にはそこまで興味はない。陛下も好きにしていいと言っているのだから、出来れば好き同士で結婚したいなあ。と楽観的に考えていたのだ。
そんな時に振られたこの縁談·······。




「セシル嬢、君はセド──「ああっ!団長!!」」



”セドリックが好きなんじゃないのか?”と聞こうとした所で、側を通りかかった黒騎士団の団員達から邪魔が入る。


「お前ら、、」


「わあっ、団長だ!え、しかも天使セシルちゃんだっ、本物かよ!可愛い!!」
「俺たちは天使セシルちゃんには近づけないからなー」
「うんうん、でも本当なんだな!宰相様が婚約されたってのはさ!」
「確かに~!だから天使セシルちゃんが団長と一緒にいるのか!」



「お前たちっ!余計な事を言わなくていい!」


ジョシュアは周りを取り囲む団員達をすぐに追い払う。


「ったく、しょうがねー奴等だな、」


そう言って椅子に腰かけたままのセシルを見て止まった。彼女の大きな瞳には涙が溜まり、涙をこぼすのを必死で抑えているようだったからだ。


『セドリックさんの奴、婚約のこと、セシル嬢に言ってなかったんだな』


六日前にヴィクトールから結婚の打診を受けた際にはもう婚約者候補として相手は決まっていて、その後すぐに婚約が成立、何かに急かされるように次の日から『慣らし五夜』を開始して、確か今日あの人は················初夜ではなかったか?


ジョシュアは拳を強く握り、歯を噛み締めた。
多分、確実に、セシルはセドリックが好きなんだろう。でも、俺は彼女には何もしてやれない。とジョシュアはそこに立ち尽くす。





────────そんな時、目の前を白銀の髪が通り過ぎて、鳥の鳴くような美しい声が聞こえた。





「まあ!美しいご令嬢ね!お名前は?」


顔を向ければ、そこには最上級の美しさを放つ女性。皇帝陛下が王国に自ら奪いに行った未来の皇后、リリアーナがいた。

たまには外に出るものよね、素敵な方に出会えるわ!と微笑む彼女の傍にもう一人女性が走ってくる。ランブルグ公爵家スチュワートと先日結婚し蜜月を空けたばかりのシルフィアである。


「リリアーナ様!そんなに走られては危ないですわ、って、貴女········セドリック様の、、」



最悪だ、本当に最悪の展開だ。
ジョシュアは頭を抱えた。
今日はどうしてこんなにも邪魔が入るのか。
にしても、護衛を撒いてきたらしいリリアーナとシルフィアの二人がセシルに遭遇するのはマズすぎる。


ジョシュアは座っているセシルの隣に立つとリリアーナとシルフィアに頭を下げた。


「リリアーナ様、御前失礼致します。シルフィア様もこの度はご結婚おめでとうございます。
セシル嬢、もうすぐセドリック様が迎えにきます。私たちはこれで失礼致しましょう。」


それを黙って見過ごしてくれるほどリリアーナは優しくないらしい。まあ当然だろう。一人の女性が目の前でこんなに辛そうに涙をこらえているのを放っておくわけはない、か。


「セシル様というのですね、美しい名前。」

「セシル嬢?私たちはこれで失礼致しましょう!」


再度ジョシュアにそう促され、手首を掴まれたセシルはびくりと身体を跳ねさせる。


「ちょっと待って、ジョシュア様。無理矢理というのは感心しないわ。私は彼女と話したいのだけど。」


リリアーナはジョシュアを見つめた。
吸い込まれそうな紫の瞳にジョシュアは追い詰められて目を逸らす。

そして彼女は二人の間に割って入ると、座って俯くセシルの前にしゃがみ込み下から覗き込んだ。



「あなた、少し前の私と同じ表情をしてるわ、」



セシルは少し顔を上げて覗き込んでいるリリアーナを見た。そしてその美しさに目を丸くする。


『わあ、とってもきれいな方。太陽の陽だまりように温かくて優しい魔力の流れが見える。この方が、陛下の婚約者のリリアーナさま·········』


「セシル嬢?私はあなたとお友達になりたいのだけれど、少しお話できないかしら。」

”そんな顔の貴女は放っておけないの。お願い、頷いて。”

そう耳元で囁かれて、セシルは首を縦に振った。



「いやっ、いくらリリアーナ様でも······陛下とセドリック様に頼まれておりますのでっ、、」

食い下がるジョシュアに鋭い眼差しを向けるとリリアーナは彼の目を真っすぐ見て言葉を放った。

「彼女、お借りしますわね。失礼致します。ジョシュア様、ヴィクトール様とセドリック様には離宮に居るとお伝え下さいませ。」


皇帝陛下の婚約者であるリリアーナにそれ以上強くは反論できず、ジョシュアは一人その場に立ち尽くした。去りゆく三人の背中を見つめ溜め息をつく。


「お疲れさまです。ジョシュア団長?」


そんな彼に後ろからまた別の声がかかる。
この声は、、と憂鬱な気分で振り返った。


「あぁ、シャルロッテ様。リリアーナ様の専属護衛の役目しっかり果たした方が良いんじゃないか?」

「護衛はしていますよ。でも、あの優しい団長が無理矢理か弱い女性を連れて行こうとするなんて、、意外でしたね!人は見かけによらないのでしょうか?」

それとも、皇国の男はみんなそうなのかしら?と戯けた様に首を傾げる彼女をジョシュアはギロりと睨む。別に彼だって無理矢理そうしたかったわけではない。


「では、ごゆっくりお二人にご報告をされて下さい?私はいつでも麗しき女性の味方ですので、」


シャルロッテは美しい青色の髪を靡かせながらリリアーナ達を追って離宮へと走っていく。
本当に。今日はどうしてこうも邪魔ばかりなんだ。


これからセドリックとヴィクトールに報告しなくてはならないことを考えて憂鬱な気分になる。
明らかに、お互いに想い合っているはずのセドリックとセシルが拗らせて自分に被害がきているだけだと言うのに。

本当に憂鬱だ・・・。とジョシュアは城の一角、ヴィクトールの執務室を見つめた。

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